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第2話

Autor: ぷくぷく魚
入籍の手続きで必要になった際に、マイナンバーカードがまだ湊と一緒に住んでいた家に置いたままだったことに気づいた。

家に行き、玄関の暗証番号を私の誕生日で何回か試したのだが、開かなかった。しかし、梨花の誕生日を入れたら……

ドアが開いた。

中に入ってきた私を見て気まずそうに目をそらした湊だったが、声はなんだか嬉しそうに弾んでいる。

「どうしてここに来たんだ?」

梨花の靴が玄関に置いてあるのが目に入ったが、私は淡々と用件だけを告げた。

「マイナンバーカードを取りに来ただけだから」

「そんなもの、何に使うんだ?」

私は湊とこれ以上話したくなかった。早くマイナンバーカードを取って、この家から出たかった。

昔、私が使っていた部屋のドアを開けると、そこには湊のワイシャツ一枚をはおった梨花がいた。床には、使ったばかりのゴムがいくつか転がっている。

「きゃあっ!」

私の顔を見るなり、彼女は甲高い悲鳴をあげて駆け寄ってきた。そして、いきなり私の頬を強く叩く。

「誰が入っていいって言ったのよ!さっさと出ていって!」

叩かれた頬が、じんと熱を持って赤く腫れていく。それを見た湊が、私の前に割って入った。

「梨花、やめろよ。ここはもともと葵の部屋なんだから」

しかし梨花はまるで何かが壊れたみたいに、「出ていって!早くこの女を追い出してよ!」と狂ったように叫び続けている。

しかも、梨花の手にはさみが握られていて、それを私の治りかけの右足にぐさりと突き刺してきた。私は痛みに呻き声をあげる。

しかし、梨花の目に浮かんだ嘲るような笑みを見て分かった。わざとやったのだと……

だから、私は足からハサミを勢いよく引き抜くと、梨花に突きかかった。でも、湊が彼女を庇うように立ちはだかる。

「何すんだよ!」

湊は私を床に強く叩きつけると、ボディーガードを呼んで、私を物置部屋に閉じ込めた。

「葵、本当にお前にはがっかりしたよ。自分が悪いって認めて梨花に謝るまで、ここから出すつもりはないから」

ドアが閉められた。私はまだ血が流れている自分の足を見つめると、服を破いて応急手当をした。そして、携帯の最後の充電で、助けを求めるメッセージを送る。

夜中になると、隣の部屋からどんどん激しくなる二人の喘ぎ声が聞こえてきた。そのせいで何度も目が覚める。

どれくらいたっただろうか。やっと声が聞こえなくなったので、疲れきっていた私はすぐに眠りに落ちた。

しかし、その数分後。ドアを激しく叩く音で起こされ、そこには上半身裸の湊が立っていた。

「葵、体はどんな感じだ?大丈夫か?」

彼が何を考えているのか分からなくて、私は眉を顰める。

「ここから出して」

私がまだ話せるのを見た湊は、ぱっと顔を輝かせ、後ろにいた屈強な男たちに私を指さして言った。

「こいつを縛って、病院に連れていけ」

彼らの話を聞いて、大体の事情が分かった。梨花が大量出血して、すぐに輸血が必要らしい。

「この患者さんは右足の怪我でとても衰弱しています。だから、この状態で無理やり輸血をすれば、命に関わりますよ」

病院のベッドで横になっている私を見て、医師が湊にそう忠告した。

しかし湊は、少しも躊躇わずに言った。

「すぐに輸血してください!」

深い闇に落ちていった私は、いろんな夢を見た。

夢の中のまだ若い私は、湊と愛し合っていて、彼は一生愛すると、私に約束してくれた。

しかし、梨花がうつ病になってから、全てが変わってしまった。

全てに絶望した私は、自ら命を絶とうとした。

そんな私をどん底から救い出してくれたのは、あの男だった。

彼は言う。

「どんなことがあっても、生きろ!葵!

死ぬなんて許さない!葵!

葵!」

はっとして夢から覚めると、誰かが本当に私の名前を呼んでいた。どうやら、夢ではなかったようだ。

ベッドの側にはあの男がいて、ずっと看病してくれていたみたいだった。目を覚ました私を見て、彼の心配そうな顔がぱっと明るくなった。

「今すぐあいつらを警察に突き出して、君の仇をとってやるからな!」

男は親指と人差し指をこすり合わせていた。それは、彼がすごく怒っている時の癖。

しかし、私は咄嗟に男の言葉を遮った。

「待って。捕まえないで」

「分かった。じゃあ、やめておこう」

「あの人たちのためにあなたが手を汚す必要はないよ。やるなら、湊の会社を潰して。だって、あの人が一番好きなのはお金だから。全てを奪う方が、殺すよりずっとつらい復讐になるはず」

……

退院してからも1週間、ずっと寝て休んでいたし、湊の会社からももう辞めていたので、毎日がすごく退屈だった。

何かできることはないかと思い、自分で結婚式の準備を始めようとしたのだが、体にさわるからと言って、男は全く賛成してくれなかった。

それでも私がお願いし続けたら、最後には折れてくれた。

ネットで結婚式の準備について調べている時、ニュース速報が目に飛び込んできた。それは、梨花と湊の交際宣言の記事だった。

それに、湊の事業は最近すごく上手くいっているようで、ニュースでよく彼の名前を見かける。

記事には、仲睦まじそうに手を繋ぐ二人や観覧車でキスをしている写真が載っていて、こんな見出しが添えられていた。【これからの人生、君以外ありえない】

一瞬、息が止まった。

私と湊は5年も付き合ってたのに、彼はいつも仕事に影響が出るからと言って、私のことは公にしてくれなかった。

もし前の私だったら、嫉妬で狂いそうになり、湊と大喧嘩してただろう。

でも今の私は、この記事を見ても何も思わなかった。しかし、ページをスクロールしようとした時に、間違って、この記事を湊に共有してしまった。

その直後、湊から電話がかかってきた。

「あれは梨花が勝手に新聞社に送りつけたんだ。俺の彼女は、今でもお前だけだから」

もうとっくに別れていることを言おうとした時、電話の向こうから、はしゃいだ声が聞こえてきた。

「湊さん!先生に妊娠してるって言われたの!双子だって!」

「ほ……本当か?」

電話越しの梨花の声は、興奮を隠しきれていない。

「ねえ、私たち結婚しようよ。生まれてくる赤ちゃんに、父親がいないなんてかわいそうだもん!」

……

私はそのまま電話を切ると、湊の連絡先を削除し、ブロックした。

湊の会社への攻撃に集中してくれているのか、男は毎日夜遅くまで忙しそうだった。

一緒にウェディングドレスを見に行こうと男が誘ってくれたのだが、私は断った。

「一人で大丈夫。せっかくだから、何軒かまわってゆっくり選んでみるよ。暇つぶしにもなるしね」

なのに、運命のいたずらなのだろうか。最初に入ったドレスショップで、腕を組んで歩く湊と梨花にばったり会ってしまった。おそらく、二人もウェディングドレスを選びに来たのだろう。

私に気づいた湊は、まるで悪戯が見つかった子供のように慌て、梨花の手を振り払った。

「葵、これは……」

しかし、梨花は私を敵意むきだしの目で睨みつけてきた。

「私たちのことつけて来たの?」

湊は気まずそうに目をそらす。

「葵。違うんだ、話を聞いて……」

私は左手の薬指にはめた指輪をわざと彼らに見せつけるように、指をそっと揺らす。

「違うよ。私もウェディングドレスを試着しに来たの」

湊が眉を顰める。

「ウェディングドレスの試着?お前がまだ俺のことを忘れられないのは分かる。でも、今はお前と結婚できないんだ。俺には、もっと大事な責任があるから……」

しかし彼の言葉は、けたたましく鳴り響いた電話の音に遮られた。

「どういうことだよ?話が違うじゃないか!うまく進んでたはずなのに、なんで今さら提携しないなんて言い出すんだ?

会社の資金繰りが急にショートするなんてありえない。分かった、今すぐそっちへ行くから」
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