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第10話

Auteur: 詩理
場面は深い悲しみに包まれていた。そのとき、澪のスマホが突然鳴り響く。

最初は営業か何かかと思ったが、数秒後、怜司たちは慌ててスピーカーに切り替えた。

「鷹野澪様でしょうか?先日ご予約いただいたお墓ですが、5%のご入金で引き続きご用意できます。鷹野様、鷹野様?」

「お墓」という言葉に、怜司の息が詰まった。

「……やっぱりあの日、聞き間違いじゃなかった。澪は離婚の申請に行った日に、自分の墓の手配までしてたんだ……」

怜司の声は震えていた。

「澪が目の前で墓の話をした時、俺は……縁起でもないなんて叱りつけた」

義人と綾子は肩を寄せ合い、立っているのがやっとだった。

ようやく気づいた、澪は一度も嘘なんてついていなかった。本当に、死ぬ覚悟で最後の助けを求めていた。

けれど自分たちは、その声を何度も拒み続けた。

綾子は泣きながらスマホを奪い取り、強い声で言う。

「お墓、お願いします。澪に一番いい場所、一番高い棺を用意してください。私たちは……澪にあまりにも多くを背負わせてしまった。せめて、最後くらいは報いたいんです」

怜司も涙を拭いながら言った。

「金はいくらでも出す。澪
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