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2巻〜76話〜

last update تاريخ النشر: 2026-07-26 07:43:06

 時は遡り十二月二十四日、クリスマスイヴ。

 世界が変わった、あの日。

 モンスターの出現も一旦収まった真夜中。

 池袋駅東口は、不気味な静けさに覆われていた。

 聖なる日を祝福するクリスマスツリーは根元からへし折られ、光の象徴たる星は見るも無残に踏み潰され輝きを失っている。

 辺り一面に車が横転し、倒壊した建物の断片が各所に傷を残す。

 そしてまだ掃除屋がいないこの日は、冷風に乗って何処からともなく血の臭いが漂い、充満していた。

 閑寂な宵闇に光を落とす満月。

 一縷の希望も許さない汚濁した球体。

 幻想的なコントラストを映す情景は、一つの終末の完成形だ。

 何者も邪魔となり得るその空間に、

 しかし次の瞬間、それら二つが霞むほどの『白』が生まれ落ちた。

 純白の鱗は、寒月の下、月光を受け淡く煌めく。

 手も足もない三m弱の細長い体は、余計な物の一切を削ぎ落した流麗さを感じさせる。

「……シュルル」

 舌をチロチロと出し入れした後、アメジストの様な瞳が一つの建物を見つめた。

「……シュルルル」

 数秒、目を逸らした白蛇は、ゆっくりと夜の中へ消えて行った。

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  • Real   6話

     「ぶはっ、大丈夫か?ひひっ」「…………」 地面に倒れ伏すノエルを笑いつつも、森の奥から近づいてくる何かを警戒する。 感じる威圧から察するに、今日一番の大物だ。「ボルルルル……」 木々の暗がり現れたそれは、大きな手で死肉を掴み、バリバリと噛み千切り咀嚼する。 四mに届きそうな体躯は筋肉で覆われ、何より特徴的なのが、顔の半分を占める程の単眼だ。 一つ目の巨人は東条の持っている巨肉を瞳に映し、三日月型に牙を覗かせた。「キュクロプスってとこか。すげー迫力だな」 肉を肩に担ぎ、ベヒモスを除いた過去一の威容と向き合う。 東条は、あの象とノエルを理解という枠組みから外している。 そうして作られたランキングの中で、目の前の化物はパッと見の魔力量、肉体能力共に間違いなくトップに君臨するだろう。 因みに現在の東条の位置は、ライノスより上、ヒポポタより下と言ったところだ。 人間の中では、潜った修羅場の数が違いすぎるせいでずば抜けているだけであり、強者の中では特段高いというわけではない。 何度も言うように、強くなればなるほど魔力量は増大するが、一概にそれが全てとは言い切れないのだ。 技量や、それこそcellによって、いくらでも戦況は変わる。 彼がキュクロプスを分析している隣で、ノエルがゆらりと立ち上がった。「……まさは手出さなくていい。持ってて」「んぁ?生きてたんか」 先のお返しと冗談を言うが、ノエルは何も言わず、カメラを投げ渡し歩いていく。(……あちゃ~、怒ってらっしゃる) 確かにあんなことをされれば切れるのも当然だ。 東条は邪魔にならないよう、出来るだけ二人から離れ始めた。「一応気ぃつけろよ。強ぇぞ」「ん」「冷めねぇ内に終わらし」「ん」「ボルァア‼」 肉が去って行くのを見たキュクロプスは、全身のバネを使い突進。前方に立つ小さな邪魔を無視して地を蹴った。 瞬間、「ルっ⁉――ッ」 足元から連続で生える土棘を、巨体からは想像のつかない驚異的な身体能力で躱し、自分を追って迫ってくる分を殴り壊す。「……ルオォ」 睨む先には、一人の少女。邪魔と判断した少女が、此方を見ている。「ノエルを見ろ」 縦に割れた紫眼が、瞬きもせずにキュクロプスを射抜く。「ノエルは怒っている」 風に髪を靡かせ、空気が揺れる程の殺気を滾らせて、「

  • Real   5話

      ――「ふぅ」「できたか?」「ん。そっちは?」「完璧」 ノエルは立ち上がり、土の棒で串刺しにしたコカトリス、だったものを肩に担いだ。 首と尻尾を落とし、逆さに吊るし、羽を毟り、内臓を取り除く。初めての下処理ではあったが、上手くできたのではないだろうか。 その証拠に、見た目はよく見る食用の鶏だ。サイズ感がおかしいだけの……。「よいしょ」 ドスン、と支えに置かれ、東条が用意した巨大な焚き火の上に掲げられる。 チャッカマンでトレントに火をつけるのは、中々骨の折れる作業だったのだろう。 黒い顔に慣れた今、ノエルには漆黒の上からでも精神的な疲労が見て取れる。 しかし準備は終わった。あとは回しながら待つだけだ。「どれくらいかなー?」「結構かかるだろ。火力もまああるし、気長に待とうや」「ん~」 ぐるぐるぐるぐる――「まさの黒いので回せないの?」「無理無理。持ち上げる、とか握る、とか、簡単な操作しかできないのよ」「ん~」 ぐるぐるぐるぐる――「こ~たい~~」「まだ五分だぞ。……たくっ」 寝っ転がってブローチを弄っていた東条は立ち上がり、駄々をこねるノエルと場所を交代する。 あと何分かかるのか……。腹の虫を聞きながら、彼は獣の唸り声をBGMに作業に入った。 ぐるぐるぐるぐる二十分後――「……モンスター襲ってこないな」「あれだけ殺せば身の程を知る」「それもそうか」 パチパチと油の弾ける音を聞きながら、漂ってくる香ばしい香りに二人の涎が湧き出る。 鼻が良く、且つ彼等に襲い掛かるような怖いもの知らずのモンスターが、この香りに引き付けられないわけがない。 しかし準備から今まで、唸り声を上げるだけで一向に飛び掛かってこない。なぜか、 理由は然して単純。 二人の周りを、無造作に積み重ねられた死体が円状に囲っているからだ。 引き裂かれ、撲殺され、原形を留めていない同胞の死体が、壁となり生き残ったモノを阻んでいた。 要するに、見せしめである。 貴様らも近寄ればこうなる、という、弱者への警告。 三大欲求という本能を上回るだけの、恐怖という本能を、新たに刻み込んだのだ。「おなかすいた~~」「うん。そろそろ、できたかなっ」 死体から溢れる膨大な血に囲まれ、濃厚な鉄臭さの中、食事に笑顔を向ける彼等は、はなから常人の感性など持

  • Real   4話

      § 皇居を囲む巨大なトレントの一柱。その頂上付近。 手で丸を作り、森の中へ進んで行く二人を眺める男がいた。 男は焦るように携帯を取り出し、冷汗で湿った手でボタンを押す。 数秒の呼び出し音の後、「何だい?」 気怠そうな女性の声がマイクの奥から響いた。「あ、姉御っ。ヤベェ奴がいる!ヤベェ奴が来た!」『落ち着きな、デカい声出したら食われちまうよ』 男は小声で叫ぶという器用なことをしながら、足りない語彙力でたった今自分が見た非常識な光景を説明する。「あいつらヤベェんす。男は笑いながら銃乱射してたし、小学生くらいの女が装甲車運転してた。一番はあの男、コカトリスを一撃で殺しやがった!」『コカ?……あぁ、あの鶏か』 男は先の衝撃を思い出し、再び戦慄する。驚きすぎて危うく木から落ちるとこだった。『それで?そいつらの目的は分かるかい?』「詳しくは分からないっす。けど、女はビデオカメラ持ってました」『カメラ?……その女、白髪だったか?』「は、はい。恐ろしいくらいの美人でした。何か知ってるんすか?」 数秒の沈黙。『……いや、まだ分からん。ボスには私から言っとく』「わ、分かりました」『そいつらの行動、逐一私に報告しろ。お前なら見えるだろ?』「はい。俺の『望遠』なら、木に隠れなければ皇居全域カバーできます」「ならいい。切るぞ」「はい。お忙しい中失礼しましたっ」「はいはい」 男は切られた携帯をポケットにしまい、一度深呼吸をし、再度手で丸を作った。「――っ」 件の二人は、踊るようにモンスターを殺し続けていた。 §

  • Real   3話

      ――時速百二十㎞「なんか凄い足音する!」「ギア上げろ‼速ぇぞ‼」 ノエルは自分の踏み込める最大までアクセルを押しこむ。片足をピンと伸ばした現状、もうブレーキは掛けられない。 エンジン音を轟かせ、一瞬は引き離すがしかし、「コゲッ‼」「追いつくかよ!」 強靭な脚力で大跳躍した鶏は、そのまま東条に回し蹴りを喰らわした。 腕を武装し防いだ彼は、そのまま掴もうとし、「――ッ⁉」 横から首に迫る影を反射的にしゃがんで躱す。「ケっケっケっコゲェェェ」「シャァァア」 地面に着地した鶏は、涼しい顔をして百㎞越えの車に追走してくる。 そしてその尻から鎌首を擡げる、一匹の大蛇。 牙からは紫色の毒が滴り、瞳孔が彼を映す。「……コカトリスってやつか」 伝説に登場する、雄鶏の怪物。 東条は全身を武装し、臨戦態勢に入った。「来いや」「ゲェェエッ‼」 再び跳躍したコカトリスに狙いを定め、半歩足を引き、構え、「あ⁉」 そのまま頭上を飛び越していく巨体に虚を付かれる。 装甲車の前方に着地したコカトリスは限界まで右脚を引き、「コゲェアッ‼」「「――ッ⁉」」 弾き出す様に全力の前蹴り放った。 轟音を上げひしゃげ吹き飛ぶ鉄塊。宙を舞うそれは、最早車としての原形を留めていない。 蹴られる瞬間全身の武装を解除した東条は、反動でそのままコカトリスに向かって突っ込んでいく。(っぶねぇッ!)「シャァギャっ」 空中で身体を捻り、迫る毒牙を紙一重で躱す。 次いで、カッコいいからと腰に装着しておいたマチェットを抜刀。 振り抜き、大蛇の首を切り飛ばした。 鮮血が飛び散る中、しかしコカトリスは動じず、軸足で一回転。たったそれだけの動きで、東条の顔面に己の蹴りの軌道をドンピシャで合わせた。 風を切り裂き迫る旋風脚に瞠目。 咄嗟に左腕を曲げ頭を庇い、右手でそれを支える。「ゲガァッ‼」「――ッグ、ぉ――ッ―― 衝突。 一瞬の抵抗も許されず、直角の線を描き、東条はトレントをへし折りながら森の中へと消えた。「あいたた……くない?」 大破した装甲車から転がり出るノエルは、自分の身体に傷一つついていないことに驚く。 そして、辛うじてぶら下がっているサイドミラーに映ったモノにさらに驚いた。 そこにはただ一つ、黒い球体が在った。 それも次の瞬間には霧散

  • Real   2話

      ――皇居の中央広場を目指し、比較的綺麗な車道を進んで行く。「鉄砲っ鉄砲っ」「バズーカバズーカ。……お」 途中、横転した装甲車が視界に入った。「よっせぃ」 強引にひっくり返したところに、ノエルが乗り込みエンジンがかかるか確認する。中を漁るも、流石に武器は持ち出されていた。「ノエルが運転する!」 足を目一杯伸ばし、辛うじてアクセルに届いているという体勢で、彼女はふんすと気合を入れる。「別にいいけど、それ前見えてんのか?」「ギリ」 ハンドルに空いた穴から前方確認を行えば、何とかなる……はず。 助手席に座った東条は天井をぶち抜き、上半身を外に出す。「しゅっぱーつ」「進行―」 快活な合図と共に、力強い音を立てて車が動き出した。 ――時速三十㎞ お世辞にも上手いとは言えない軌道を描きつつも、ノエルの操る車は穏やかに進んで行く。「まっすぐ走ってくれ。俺酔いやすいんだよ」「走ってる」「どこがよ」 蛇行する視界に苦情を漏らす東条は、漆黒を伸ばして道中落ちている武器の類を拾っていく。ルーフに漆黒で固定されているのは、彼が集めた銃火器の数々である。「集まった?」「まあまあだな。……ん」 手元の銃の安全バーを外した所で、後ろから何かの気配を感じた。 振り向いた直後、横の林から双頭の黒犬が飛び出す。その数二十以上。吠えながら装甲車に追走してくる。「お出ましだっ。追いつかれんぞっ」「おらおらー」 東条は両手にサブマシンガンを持ち、反転して獰猛に笑う。 ノエルはアクセルを踏み込み、初めての快感にハンドルを握りしめた。 死のカーチェイスの始まりだ。 ――時速六十㎞「ヒャハハハハッ!血祭りじゃァッ‼」「ギャンっ」「キャインっ」 途切れない銃声と共に響く、狂ったような笑い声。四方八方に鉛玉を乱射しまくる東条は、シューティングゲーム感覚で命を刈り取っていく。 しかしやはりしぶとい。ニ、三発ぶち込んだ程度じゃどいつも倒れない。 加えて、「おいおいおいっ、どんどん集まって来たぞ!」「あははははっ」 これだけ騒いで他のモンスターが集まらないわけがない。前からも後ろからも、際限なくわらわらと湧いてくる。 そしてそれを跳ね飛ばし、轢き殺し進んで行く装甲車を操る少女の目は、キマってしまっている。「ハハっ」 東条は全身を外に晒し

  • Real   3巻 1話

     「ノエルはめちゃかわダンスへびー♪ ほらこれみて尻尾をふりふりー♪ スーパーへびーはパンチもすごい♪ 顔面パンチそれめちゃかわパンチ♪ 邪魔する奴は皆殺し♪」「どんな歌だよ……」 穏やかな陽光が枝葉を抜け、薄明りの中に温かな穴を作る。 子気味いい歌詞は風と共に木々の間を吹き抜け、それを追う呆れた足音が地を踏みしめる。 不可思議なダンスを踊る一人の少女を、天然のスポットライトが照らしていた。 東京ドームを出た二人は、現在皇居を目指し南下中。 目的は単純、何か面白い現代兵器が落ちているかもしれないから。 加えて、皇居の近くには主要な建物が多く存在している。彼等が次に訪れたい場所も、その近くにあるのだ。 ――歩いて三十分ほど。彼等は予定通り目的地に到着した。「ここか?」「でか」 東条は、別の場所に来てしまったか?と現在地を確認するが、やはり合っている。 彼が混乱したのもそのはず。目の前に現れたのは、本来あるはずの堀ではなく、十五mを超す木々の壁であった。 マイホーム程の大きさはないが、他のトレントよりも明らかに血を啜っている個体が、見る限り堀であった場所にズラリと並んでいる。「殺したモンスターでも捨ててたのか?」「かも」 一朝一夕で育つデカさではない。経験則から出した推測ではあるが、不正解。 その実は、大量のC4で爆殺されたモンスターの肉片によって、一夜にして出来上がった塀である。 このトレントの成長速度だけで、その日どれだけのモンスターがこの場所を襲ったのかが窺い知れる。 ……と言っても、彼等には大した問題でもない。「んじゃ行くか」 身体強化を施し、脚に力を込める。「おんぶ」「あ?」 そこで繰り出される、ノエルのワガママ。「っどくせぇなっ」「わー」 いちいち付き合ってやるものか。東条は彼女の背負っているリュックを引っ掴み、そのまま樹上に跳躍した。 枝を経由し、頂上に手を掛ける。 眼下を眺めるも、予想とは少々違う景色に目を丸くした。「あんま変わってなくね?」「(バタバタ)ぷはっ」 大規模な戦闘の結果、皇居内はジャングル化しているものだと思っていたのだが……。 元から緑が多かったせいか、変化が分かりづらい。「栄養全部この子達に集まってる」「あぁ、なるほどね」 幹に手を添えるノエルに言われ、

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