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last updateLast Updated : 2026-08-17
By:  美味いもん食いてぇUpdated just now
Language: Japanese
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12月24日。色とりどりにライトアップされた東京都池袋。 独り身のオタクには、少しばかり肌寒い夜。 周りのカップルを横目に、口元をうずめた彼は気づく。……クリスマスツリーの天辺に現れた、不可思議な球体の存在に。 指を指す者、カメラを向ける者、ざわめくその中心に、 ーー何かが落ちた。 舞う鮮血。響きわたる悲鳴。その日を境に、世界は変わった。 これは一人のオタクが、変わってしまった現代を死に物狂いで冒険する 『Real』 である。

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Chapter 1

~Beginning of the unreal〜

 鼻孔を撫でるのは雨に濡れた土の香り。

 耳を通り抜けるのは吹き抜ける風の音色。

 舌に薫るのは深緑の若葉が紡ぐ優しさ。

 肌を刺激するのは穏やかな朝の静けさ。

 目に映るのは、眼下に満ちる破壊の痕跡と、建物から不規則に顔を出す木々の歪さ。

 ここは東京都にある池袋駅周辺、つい先日までは人で溢れかえり、喧騒に満ちていた場所である。

 §

「は~、」

 夜空に昇る白い息を見届けてから、周りを見渡し、

「……は~」

 もう一度吐く。本人とて、そこに落胆が混じっていることに気付いている。

 彼の名前は東条 桐将とうじょう きりまさ。どこにでもいるオタクの大学3年生である。

 今日は、得も言われぬ敗北感を白く染める作業が捗る。なぜかって、本日の日付は十二月二十四日、クリスマスイヴだ。

 目に入るのは、カップルカップルカップル鳩たまにホームレス。池袋駅東口を出た前には、豪華とは言い難いがしょぼくはないイルミネーションが飾られている。

 この中では一番力を入れられたのであろうクリスマスツリーを見上げる人達を横目に、彼は駅に向かって歩いてゆく。

 赤信号を前に、ポケットに手を突っ込み、ジャケットに口元までうずめて待っていると、不意に後方から呟く声が聞こえた。

「……なんだあれ?」

 誰が発したのかも分からないその声は、喧騒の中で不思議とよく通った。

 彼は首を回し、

 ――原因の物を見つけるのに時間はかからなかった。

 周りの人間の全てが、『それ』を注視していたから。

『それ』はクリスマスツリーのちょうど星の部分に現れていた。

 紫がかったドブ色の球体で、絶えず波打っている。

 数秒ほど見ていると、周りが段々と騒さわがしくなりシャッターを切る音も目立ってきた。

(……キモイな)

 本来無かった物が無理矢理そこに収まろうとしてるような、言い知れない違和感と悍ましさを感じる。

 さっさと立ち去ろうと、東条が青になった信号を渡るために足を踏み出

 そうとした時

                     どさっ

 何かが落ちた。

 と同時に一人の女性がフラッシュをたく。

 直後、女性の首から鮮血が舞い、辺りに飛び散った。

 ……ほんの一瞬だけ、時が白くなる。

「「「きゃあああああああッッッ‼」」」「どけっ‼」 「――っ‼」

 そこからの行動に大した違いはなかった。一人の者は我先に、二人以上の者達は互いに焦りながら、もしくは弱い者を守りながら、たった今、人ごみの中に突如として出来た最も危険な場所から離れようとする。

 しかし、

 彼等は見ていなかった。

 背を向けていた。

 もしまだ前を向いていたら、もっと必死に逃げただろうに。

           ……それでも結果は変わらなかっただろうけど。

「あ?」

 突然の背後からの喧騒に、東条は再度振り向く。

 落下音がしたと思ったら、数秒後悲鳴と共に大量の人間が押し寄せてきた。

 意味が分からない。いや、意味は何となく分かる、おそらく中心地で何か起きたのだろう。普通は起こってはいけない事が。

 そんなことを考え、自分もその場を離れよと脚に力を込めた瞬間に、それは起こった。

 ぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼとぼと

 ドブ紫色の玉が爆発的に膨張し、そして濁流の如く溢れ出した。

 溢れ出したそれらは人の形をしていなかった。

 人の形をしていないそれらは大小様々色も形もばらばらだった。

 ――そして、むせ返るほどの血の臭いをさせていた。

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~Beginning of the unreal〜
 鼻孔を撫でるのは雨に濡れた土の香り。 耳を通り抜けるのは吹き抜ける風の音色。 舌に薫るのは深緑の若葉が紡ぐ優しさ。 肌を刺激するのは穏やかな朝の静けさ。 目に映るのは、眼下に満ちる破壊の痕跡と、建物から不規則に顔を出す木々の歪さ。  ここは東京都にある池袋駅周辺、つい先日までは人で溢れかえり、喧騒に満ちていた場所である。 §「は~、」 夜空に昇る白い息を見届けてから、周りを見渡し、「……は~」 もう一度吐く。本人とて、そこに落胆が混じっていることに気付いている。 彼の名前は東条 桐将。どこにでもいるオタクの大学3年生である。 今日は、得も言われぬ敗北感を白く染める作業が捗る。なぜかって、本日の日付は十二月二十四日、クリスマスイヴだ。 目に入るのは、カップルカップルカップル鳩たまにホームレス。池袋駅東口を出た前には、豪華とは言い難いがしょぼくはないイルミネーションが飾られている。 この中では一番力を入れられたのであろうクリスマスツリーを見上げる人達を横目に、彼は駅に向かって歩いてゆく。 赤信号を前に、ポケットに手を突っ込み、ジャケットに口元までうずめて待っていると、不意に後方から呟く声が聞こえた。「……なんだあれ?」 誰が発したのかも分からないその声は、喧騒の中で不思議とよく通った。 彼は首を回し、 ――原因の物を見つけるのに時間はかからなかった。  周りの人間の全てが、『それ』を注視していたから。 『それ』はクリスマスツリーのちょうど星の部分に現れていた。 紫がかったドブ色の球体で、絶えず波打っている。 数秒ほど見ていると、周りが段々と騒さわがしくなりシャッターを切る音も目立ってきた。(……キモイな) 本来無かった物が無理矢理そこに収まろうとしてるような、言い知れない違和感と悍ましさを感じる。 さっさと立ち去ろうと、東条が青になった信号を渡るために足を踏み出 そうとした時                     どさっ 何かが落ちた。 と同時に一人の女性がフラッシュをたく。 直後、女性の首から鮮血が舞い、辺りに飛び散った。  ……ほんの一瞬だけ、時が白くなる。 「「「きゃあああああああッッッ‼」」」「どけっ‼」 「――っ‼」  そこからの行動に大した違いはなかった。一人
last updateLast Updated : 2026-07-01
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2話
   「――ッ!?」 東条は流れてくる獣の臭いと血の臭いで、一瞬硬直した脚を無理やり叩き起こす。即座に反転し、未だビビろうとする筋肉に発破をかけ全力で前に突っ走った。 幸い信号は青のまま、走り出してすぐ車に跳ね飛ばされることはない。 横断歩道の対岸の人達はまだまともに動けていない。 異形が生まれ落ちている光景は現在進行形で見えているはずだが、悲鳴が聞こえずらかった人もいるのか、「なんだあれ?」と非現実的な光景を処理しきれていない人の方が多い。「おいっ」 対岸についた際人にぶつかり文句を言われるが、彼は構わず突っ込みまっすぐ進む。 ここで些細なことを気にしたら必ず死ぬ。それだけは分かっていた。 現に対岸についた直後から、「グルㇽㇽぁぁあアアッ」「どちゅぅ」「ゲッゲッゲッ」「オオオォォォォオオ」「きゃあああぁぁぁあ」「ギィイィィィィ」「バシュッ」「ガアァァァァン‼」「ズッ」「ドちゃあッ」「ヒュルルルルル」「たすkッ」「ダァンッッ‼」「あっ」 後ろから咆哮やら悲鳴やら爆発音やら、その他の聞きたくない音が迫ってきている。(止まったら、死ぬッ‼) 東条は駅の入口に入り、下り階段を十数段飛ばしで二回連続飛び降りる。そして半分転びながらも地下についた。 地下では、地上で何かが起こっているのは分かるが、確認をするのはおっかないから、と留まって様子を見てる人が多かった。「っつー」   彼は痺れる足首に顔を顰める。少々痛むが、問題はない。  すぐに起き上がり、踏み込んだ。 視界の端には、外から追いやられて階段を下ってくる大群が見える。その中に紛れて人を襲っている四足獣らしきモノも。 鬼気迫る勢いで逃げてくる人間の波を見て、地下にいた者達も一斉に動き出した。 数メートル進んだところで不意に、 タタンッ と軽い音が東条の耳を打った。 構わず進もうとした矢先、階段で見た四足獣が飛び出してくる。  ……狼。体長は一メートル前後、体毛は灰色、目は黄土色で血走っている、そして何人殺してきたのか、牙と爪は血に濡れていた。 狼は鼻をひくつかせ周りを見回してから、近くの女性に襲いかかる。が、隣にいた男性が殴り飛ばし、そのまま取っ組み合いになった。 狼が出てきた場所は立ち入り禁止の外に繋がる上り階段だ。それを証明するかのように、たった今同じ所から新しい
last updateLast Updated : 2026-07-01
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3話
  ――(…………これからどしよ) 東条は丸まりながら一人考える。 数秒考えてから、別段纏まるはずもなくごそごそと携帯を取り出した。 SNSやネットニュースは、どこも謎のドブ球と溢れ出てきた化け物の話題で持ちきりだ。 あのドブ球は全国各地に現れていた。一部では既に自衛隊が派遣され、戦闘が行われているようだ。 親から着信があったことを思い出し、生存のメールを送る。 『隠れてる電話できないしてくるな』 返信はすぐに来た。 『あんた今どこにいるの』 『池袋』 『そっちはどう?安全?』 『安全ではない』『私たちの区域は何も起きなかったみたいだから大丈夫だけどニュース見たら大変なことになってるよ。連絡つかないからお父さんが車で飛び出していった (――っ) けど区ごとに厳戒態勢が引かれてるらしくて追い返されてきたところ。 (――) 余裕ができたら連絡しなさい、自衛隊も出てるみたいだから助けが来るまでなるべく動かないで、あと、 絶対に死ぬなよ』 親からの心配とエールに、万感の意を込めて返信をする。『うぃ』 一息ついて、携帯をポケットにしまう。「…………死ぬかよ」 彼は誰にも聞こえないように、されど決意を込めて、己に言い聞かせた。 ――隠れてから三十分が経過した。 未だ外から物音は聞こえてこない。そろそろ来てもおかしくないはずだが……、 そう思うが、一つ考え得ることがあった。この階の途中にある八階はレストラン街だ。化物どもがそこで食料を貪り食ってても不思議はない。 東条は大した情報もない画面を、自堕落にスクロールする。確証のない推測も、無駄に使うスマホも、余計なエネルギーを浪費するだけだ。 小さな住処にも慣れてきた。彼は再びスマホの電源を落とし、真っ暗の中目を瞑った。 ――――あれから何分経ったのか、ふ、と自分のものではない、微かな呼吸音で目が覚める。「?……っ」 理解するのに一拍を要したが、東条は自分の置かれた状況を思い出す。そして、焦らず、耳を澄ます。「はぁッはぁッはぁッ……っんぐっはあっ……はぁっはあっ――」 押し殺すように浅い呼吸を繰り返している。 (……人?……男か?) どうやら声の主は人間のようだ。 東条か緊張に強張った身体を弛緩させようとした、その時、奇声と激しい足音が緩んだ意識の隙間を
last updateLast Updated : 2026-07-02
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4話
  ――得物を刺し、殴り、殺した三匹のゴブリンは、王に献上する為男を引き摺っていた。 そこで、ふ、と一匹が鼻をひくつかせる。「ゲギャギャ」「……ゲェ」 ナイフを持った一匹が、勝手にしろと顎をしゃくる。 何かに気付いたゴブリンは運搬を二匹に任せ、再びトイレへと走って行った。(……行ったか?) 長く続いた緊張からの解放に、東条が身体を弛緩させた、直後、「ギゲァッ!!」「――っ!?」 唐突に鼓膜を叩いた奇声にビクリと固まる。 手当たり次第に殴りつけ、陶器が壊れる音がする。しかし音には間隔があり、複数匹いるようには感じない。(バレてるな、これ……) 彼は一度深く息を吸い込み、覚悟なんてできていないまま、思いっきり蓋を開いた。 ゴブリンが此方を向くのが見え、東条は急いで個室の中に飛び降りる。途中棍棒が飛んできたが、運良く扉に当たって防がれた。 地面に降りた彼はすぐさま扉を閉める。 しかし扉は先ほどの男を狩る経過でグラグラ。バリケードにはならない。 ゴブリンは棍棒を拾い、新しい得物に歓喜し、扉に殴りかかっーー「好、都合ッ!」「グべっ!?」 た矢先、鼻っ面に扉が衝突し押し飛ばされる。 東条に最早隠れる気などない。内側から扉を蹴り飛ばしたのだ。「ギッ、ゲアッ!!」 ゴブリンは自分にのしかかる扉を苛立たし気に退け、得物を探す、が、 「ゲッばッ!?ゴひゅっ!!かひゅっ――」 反応が遅れるゴブリンの顔面にフライパンの縁を叩き込んだ東条が、間髪入れず馬乗りになり喉を横から刺し貫いた。すぐさま引き抜きゴブリンから離れる。 うるさい心臓を押さえつけ、耳を澄まし、顔を少し出し外の様子を窺う。 こちらに走ってくるゴブリンと目が合うと、彼は迷わずトイレを飛び出した。「フッフッフッ――はッはははっ……」 走っている途中も、刺した感触が熱を帯び体中から冷や汗が噴き出している。 何より、気を抜くと乾いた笑い声が腹から止めどなく溢れてくる。様々な情動がごちゃ混ぜになり、色々な感情を駄々洩れにしながら、走る、走る、走る――「ギャッ!!ゲギャァッ!!」「グゲッ!!グゲァッ!!」「チィッ」 東条は舌打ちし、進行方向を右にずらす。 今までいた場所はフロアの角、追い詰められれば秒で詰む。やり過ごすも迎え撃つも、四方を囲まれてないフロアの中央だ。
last updateLast Updated : 2026-07-03
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5話
 「~~~首いって」 大きなあくびを一つ。慣れない態勢で寝たつけを支払わされる。 東条が首の付け根をさすさすしていると、背中に違和感を感じた。異様に軽い気がするのだ。 リュックを下ろし中を見てみると、服一式と飴玉全部がなくなっていた。 落としたのかと思い下を見てみるが、何もない。 ……気味が悪い。 彼は武器を持ち、辺りを警戒する。 が、よく考えたらここまで近づいても、私物を取っただけで傷一つ負わされていない。周りにモンスターがいないのを確認して下に降りると、……またもや何か違和感を感じる。(……なんだ?――) 近くを見渡し、探る。 綺麗なタイル、エスカレーター、倒壊した棚――(棚?……この棚……) もう一度同じ場所を見て、気付いた。 場所だ。場所が違う。自分が木に登った場所と、降りた場所があっていない。 東条は理解する。ここは自分がゴブリンと戦った場所だ。何故か死体どころか、血の一滴も残っていないから気付かなかったのだ。(……何なんだこいつ) 彼はこのミステリーを作り出したであろう犯人を見上げる。 木なのかモンスターなのかはっきりしてほしい。 観察していると、木の幹に何か張り付いてるのに気付いた。 近づき、よくよく見てみると、(……ゴブリンの腰布?) 布らしき物が二着、木にめり込んでいた。 まるで内側から染み出てきたように、木と一体化している。 その隣に同じ状態のカラフルなゴミをを見つけ、嫌な予感がし、木の裏に回ってみると―― ジャンパーTシャツ肌着ジーパンベルト、自分の服一式がめり込んでいた。 それとは別に、女物の服もめりこんでいる。謎すぎて謎。 東条はフロアの真ん中で突っ立っているのもどうかと考え、再び木の上に登り、この木が安全かどうかを考える。 順番が逆な気もするが、この世は既にファンタジー、ゲイボルグ的理論もまかり通る。 東条は今までの経験から、木の生態の憶測を立てた。 ・この木はおそらく雑食。飴と死体の偏食家でなければ、食えるものなら何でも食いそうだ。 ・食い物を求めて歩くことができる。移動の跡がないのは知らん。 ・餌と一緒に取り込んだ異物を幹に排出する。服がとられたのは大量の血が付着していたからだと思われる。 ・生きた生物は襲わない。身をもって実験済み。「安全っと」 引き続きここを住
last updateLast Updated : 2026-07-03
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6話
 ――東条は漆黒を弄びながら、十一階フロア、家庭用品・インテリア・バラエティ雑貨の階を散策する。 その足取りはどこか軽いようにも見える。 仕方がないといえば、仕方がないのかもしれない。 今まで妄想の中に留まっていた力が自らの手元にあるのだ。能力は全く分からないが、興奮しないわけがない。 ――一時間ほど経ち、彼はTシャツに腕を通しながら出来上がったツリーハウスを見上げる。 ハンモック、ハンガー、水筒、武器を入れたリュックは、できるだけ高い位置の、それも太い枝を支えにして吊るされている。 葉量が多いため、ハンモックやリュックなど、先から入れなければいけない物には苦労させられた。 しかしそのかいあって、簡素ながらもどこかロマンを感じる夢のマイホームが出来上がった。 東条は出来立てのベッドに寝転がり、採れたてのグミを口に放り込みながら、モバイルバッテリーに繋いだスマホを弄る。 自分が戦っている間に、日本全国も、いや世界も、なかなか大変なことになっていた。 例のドブ球は東京を始めとした都会を中心に、日本全国に現れていた。 ドブ球の大きさは地域によって違うようだが、その中でも特に山手線エリアに出現したドブ球は危険指定されていた。 そしてここ池袋が、日本で群を抜いてやばい場所だという表記もある。   自衛隊の掃討作戦は順調に進んでいるらしい。 現時点で、大量に出現している敵性生物単体の戦闘力は大して高くなく、銃火器で充分対抗できていた。 中には効きずらい者や、全く効かない者もいるらしく、対策が急がれているようだ。 ……順調、そう言われても……。 彼は自衛隊の派遣先と、交戦地帯の大雑把なマップと名前を見る。 ここ近辺の地区の名前は一つもない。 皇居周辺に大量派遣されているようだが、守っているものがものだ。この隊がこちらに動く事はないと考える。 そしてそんな彼の予想は、残念なことに当たっていた。 厳密には、池袋周辺にも自衛隊は来ていた。しかし壊滅速度があまりにも早く、情報規制が敷かれているのだ。 山手線エリア内にある数々の重要施設、要人護衛の為、人員を無暗に死地に送ることはできなかった。 市民の知らぬ場所で、非情な決断がされているのが事実なのだ。 命に優先順位をつけなければならない、それが権力者の宿命であり業だ。 特別危険区域指定、
last updateLast Updated : 2026-07-03
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7話
 ――東条は漆黒を弄びながら、十一階フロア、家庭用品・インテリア・バラエティ雑貨の階を散策する。 その足取りはどこか軽いようにも見える。 仕方がないといえば、仕方がないのかもしれない。 今まで妄想の中に留まっていた力が自らの手元にあるのだ。能力は全く分からないが、興奮しないわけがない。 ――一時間ほど経ち、彼はTシャツに腕を通しながら出来上がったツリーハウスを見上げる。 ハンモック、ハンガー、水筒、武器を入れたリュックは、できるだけ高い位置の、それも太い枝を支えにして吊るされている。 葉量が多いため、ハンモックやリュックなど、先から入れなければいけない物には苦労させられた。 しかしそのかいあって、簡素ながらもどこかロマンを感じる夢のマイホームが出来上がった。 東条は出来立てのベッドに寝転がり、採れたてのグミを口に放り込みながら、モバイルバッテリーに繋いだスマホを弄る。 自分が戦っている間に、日本全国も、いや世界も、なかなか大変なことになっていた。 例のドブ球は東京を始めとした都会を中心に、日本全国に現れていた。 ドブ球の大きさは地域によって違うようだが、その中でも特に山手線エリアに出現したドブ球は危険指定されていた。 そしてここ池袋が、日本で群を抜いてやばい場所だという表記もある。   自衛隊の掃討作戦は順調に進んでいるらしい。 現時点で、大量に出現している敵性生物単体の戦闘力は大して高くなく、銃火器で充分対抗できていた。 中には効きずらい者や、全く効かない者もいるらしく、対策が急がれているようだ。 ……順調、そう言われても……。 彼は自衛隊の派遣先と、交戦地帯の大雑把なマップと名前を見る。 ここ近辺の地区の名前は一つもない。 皇居周辺に大量派遣されているようだが、守っているものがものだ。この隊がこちらに動く事はないと考える。 そしてそんな彼の予想は、残念なことに当たっていた。 厳密には、池袋周辺にも自衛隊は来ていた。しかし壊滅速度があまりにも早く、情報規制が敷かれているのだ。 山手線エリア内にある数々の重要施設、要人護衛の為、人員を無暗に死地に送ることはできなかった。 市民の知らぬ場所で、非情な決断がされているのが事実なのだ。 命に優先順位をつけなければならない、それが権力者の宿命であり業だ。 特別危険区域指定、
last updateLast Updated : 2026-07-06
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8話
 中には魔法を扱っているシーンを撮った動画もある。東条は迷わず再生した。 ――「……ははっ」 彼は夢見心地だった。 動画を見ているだけで、それだけで彼の心は満たされていった。 派手ではない、まだまだ未熟。しかしその動画は、ファンタジーがこの世に生まれた証明に他ならなかった。 ――誕生日の蝋燭程度の【火】、 百均の【水】鉄砲、 幼稚園児が作った泥団子の方がまだ殺傷力がありそうな【土】塊、 美人がいたら絵になりそうなそよ【風】、【光】量豆電球、 ほぼ静【電気】―― 人類が焦がれに焦がれた空想の産物。 多くの人が成長するにつれその気持ちに蓋をし、諦めきれぬ者でも、次元を一つ落とすことでしか可能にできなかった夢の塊。 ファンタジーの権化が、この現代に降り立った。 ――「ふぅ~……」 未だ冷めやらぬ興奮に侵されながら、東条は身体の外に熱を逃がす。 そんな彼の中で、一つの覚悟が決まった。 オタク街道を現在爆進中の彼にとって、魔法という存在はとても大きかった。 大きかったからこそ、逃げ道を塞ぐ言い訳に使うことができた。 明確な殺意に追い回され、目と鼻の先で人を撲殺され、気付かないわけがない。 このままずっと安全を取り閉じ籠り続ければ、自分の意思を見失い、外の恐怖に怯え、助けを待つだけの最悪の結果が待ち受けている。 それだけは避けなければならない。 停滞の、孤独と退屈と恐怖に勝るものはなく、無謀に思える行動こそが活路を見出す。 彼はそれを重々分かっていた。 勿論、恐怖も不安もある。 しかし東条の中に、これからの道のりに興奮してやまない自分がいるのもまた事実だった。 今まで、何度異世界に行けたらと考えてきたことか。 人類を問答無用で襲ってくる都合のいい【モンスター】に、その都合の良さで成り立っている職業【冒険者】、そして非現実の代名詞【魔法】。 こんな世界が、向こうに行かずともこちらにやってきてくれた。 彼は隠れてからずっと覗いてきたネットの中を思い出す。 あそこでは、現実で数えるのも嫌になるだろう数の人間が死んでいるのに、終始乱痴気騒ぎだった。 世界なんてそんなものだ、自分のあずかり知らぬ場所で、赤の他人が死んでも、表面上悲しむだけで後は今日の夕食の方が大事になる。 それが悪いことだとは全く思わない。むしろ普通だ。
last updateLast Updated : 2026-07-06
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9話
 「さて」 東条はハンモックの上に座り、それっぽいポーズをとる。 魔法が発現したと聞かされて、黙っている事など出来るものか。 彼は書き込みに書かれている先人達のアドバイスに従い、存在も分からない漠然とした何かを感じ取ろうとする。「………………お?ぅおお?」 今まで何度も同じことをやってきた。そしてその度に、何をやっているんだ俺は……、という虚しさが残るだけだった。 しかし今回は違う。 身体の中にハッキリと、微量ながらも不思議な流体を知覚できる。 興奮に自然と口角が上がってしまう。「ふぅ…………っ」 呼吸を整え、流れを意識し、掌に収束させ、【火】へと変換する。 主の意思を受けた透明な力は、色を付けこの世に現界しようとし、 ……霧散した。「……ん?」 東条は疑問に思い一抹の不安を感じるが、そこで魔法にはそれぞれ適性があることを思い出す。 気を取り直し、力に意識を向ける。【水】、【土】、【風】、【光】、【電気】、 全てが霧散した。「ぁっれぇー……」 いよいよ焦りが雫となって肌を伝い、嫌な現実が鎌首をもたげる。 それから三回ずつ各属性で試すも、全て結果は同じ。 魔法を使える人間は、時間の差はあれどもれなく一発で成功している。 どれだけやっても使えなかったのは、スレに集まった一割の人間だけだった。と書かれていたのを読んだ。「うそやん……」 絶望に目頭が熱くなる。「別にいいし……(ボソッ)俺皆が使えない力使えるし……(ボソッ)別にいいし……(ボソッ)」 東条は再び寝っ転がり不貞寝の体勢に入る。 嫌なことなど寝れば大体忘れてしまうものだ。 久方ぶりのまともな寝床は、夢破れた男の涙をそっと受け止めてくれた。
last updateLast Updated : 2026-07-06
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10話
  ――温かさの欠片もない白い光が、開けかけた目の隙間から切り込んでくる。 その容赦の無さに眉を顰めながら、東条は張り詰める下腹部に意識を引っ張られた。(……便所) 彼はのそのそと起き上がり、武器を持ってトイレへ向かう。 トイレまでは結構距離があるため、嫌でも警戒に覚醒を強制させられた。 ――(……) 一本の木が、自分が椅子取りゲームの勝者であると言わんばかりの堂々さでもって、入り口に居座っている。 東条はそれを半眼で睨み、きっと最初に殺したゴブリンを食うために動いたのだろうと当たりを付けた。 証拠に一枚の腰布が幹に張り付いている。 邪魔ではある。が、これはこれで壁になって良い。 東条は用を足した後、顔を洗い、入れっぱなしだったコンタクトレンズを水で流して付け直す。 汗でべたついた身体を適当に洗い、(タオル忘れてたな……) 失念していた物資を帰り際に持って帰ろうと決めた。その時、 タタッ、 何かがタイルを駆る音がした瞬間、「グルㇽァアッ‼」 衝撃に木が揺れた。 いきなりのことに東条の身体が若干跳ね、急いで武器を持つ。 木と壁の間から無理やり入ってこようとしている犬特有の二つの鼻先を見て、敵の正体が想像できた。 姿を確認する前にとりあえず彼はフライパンを両手で持ち、ご丁寧に縦一列になっている鼻先へ狙いを定める。「――ッッ‼」 大上段に振りかぶり、全体重を乗せて真下へ振り下ろす。 調理器具から必殺の鈍器に変貌した鉄塊は、鈍い音を立て寸分違わず敵の鼻っ面をへし折った。 キャィンッ‼と情けない声を出し上にあった鼻が逃げていく。 見ると、下にあった鼻が今の衝撃で狭い隙間に捻じ込まれ必死に藻掻いている。 東条は冷静に、鉄塊をもう一度大上段に構えた。「フンッ‼フンッ‼フンッ‼――」 逃がさない為にこれでもかと餅をつく。 三度目でやっと動きが止まり、 血混じりの荒い鼻息と、荒いが静かな鼻息が互いにぶつかり合う。 ……呼吸を整え、鉄塊を縦に持つ。東条は一歩右足を後ろに引き、半身になって血に濡れた凶器を天高く構えた。 空気の変化を感じ取った鼻先が今まで以上に暴れだす。 その瞳には隠し切れない焦りが張り付いている。 身をよじり何とか抜け出そうとし、……中にいた者と目が合った。 東条は目を逸らさず、黄土色の瞳を見つめ
last updateLast Updated : 2026-07-06
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