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戯れ1〜3

last update Last Updated: 2025-05-19 13:15:31

君が結婚した事を聞いた。胸がズキンとしたのは一瞬で不思議な事に心の中で『おめでとう』と『幸せになって』の二つの言葉が溢れてきた。君は当時スポーツマンで皆の憧れ的存在だった。私は逆に皆を笑わす担当だった。一匹狼の私の周りには人は来ない、そう思っていたが。女性も男性も『何してんの?』と興味深そうに近づいてくる。別に何もしてないのにどうしてだろうと感じていた。

唯はいつも一人でいようとするけど、皆唯の事を心配しているし、頼りにしているんだよ。親友にその一言を言われ『そうなの?』と聞き返すと『にぶい……天然なんだから』と溜息を吐きながらも、微笑んでいた。その光景を君が見つめていた事に気付かずにいた。私とは生きる次元が違う人だと勝手にそう思い込んでいたから。

キンコンカンコーンと始業のチャイムがなると教卓に担任の女教師が立ちながら今日は席替えをすると言うのだ。皆急に言われたからガヤガヤ、ざわついていて落ち着きがない。自分の席が誰の隣になろうが私には関係のない行事だと思いながらも、参加した記憶がある。強制的に参加だよね。拒否権ないからさ。学生ってそういうもんじゃん。さぼりたいけど、さぼれない。相当なジレンマだよ。

そんなこんなで簡単に時間は進みながら徐々に皆の新しい席が開示されていく。ふうん。私教卓がある真ん中の列の三番目なんだ。そうボンヤリと黒板を見つめながら、肘をついていた。

「つまらなそうだね、ゆっちゃん」

「……え」

「今日から隣だね、よろしくね」

私の顔を覗き込みながら、微笑む表情が瞳に映る。そうそれは君の姿だった。ううあ、眩しい。なんて笑顔なんだろうと思いながらも、心臓はドキドキ、緊張している。その感情を隠す為に、おどけながら話すと、また微笑みが返ってきたんだ。君は成績も優秀で、学級委員をいつもしていた。皆信頼し、尊敬し、陸上でトロフィーと賞状をもらっていたね。自慢の君。私の幼い頃からの友人の『一人』の君。あくまで友人の……ね。

仲が良すぎる関係じゃない、あくまで仲間であり、程よい距離の関係性の私達はなんだかんだ、よく話していた。君が教科書を忘れた時、急に机をくっつけてきて、一緒に見させて?いい?と子犬みたいな可愛い顔で近づいてくる。その表情、本当反則だよ。表情に恋なんて出さないようにして『いいよー。一緒に見よ』と言うと嬉しそうに『ありがとう』と囁いてくる。耳元に息が掛かりながら、サラサラの黒髪が綺麗に輝いていた。

「たっちゃんてモテるよね」

「そんな事ないよ。普通だって」

「いやいや」

「本命に好かれないと意味ないから」

「ほほう」

君は私の愛用のシャーペンをいつも貸してと言っていたね。書きやすいしゆっちゃんのシャーペンだから使いたいなんて。そんな事言われても、どう返答していいのか分からない。無言になりそうになるけど。私のスキルの『茶化し』が発動しながらお互い笑い合っていた。

「あげようか?それ」

「ほしいけど、悪いよ」

「今日誕生日でしょ?そんなもんでいいならだけど」

「マジ?めっちゃ嬉しいんだけど」

嬉しがるなんて思わなかった。どこでもあるシャーペンだもん。ただの簡単なプレゼントのつもりだったけど。君の場合はそれで終わる訳がなかった。

「はい、じゃあ俺のあげる」

「へ」

「交換の方がよくない?それとも嫌?」

「ううん……嬉しいよ」

「じゃあさ、俺の愛用の使ってよ」

そうやって波のように寄せては返す。君との距離感それでいいと思っていたんだ。

2

ガシャーンと筆入れを叩きつけた。心の中では涙で沢山で感情を押さえつけるのに必死だった。

「唯どうしたの?」

「あはは。落としちゃった」

「もーう。唯どんくさいんだから」

私は特殊で複数の女子グループを渡り歩いていた。普通ならはぶられるかもしれないが、昔から色々事情を知っている友人は笑いながら私の事を『旅人』って呼んでたっけ。心の叫びは誰にも届かない。これが日常だったから余計に。ただ一人の人物を除いては、誰も私の心情に気付く人なんていなかった。女の子達が私から去った時に一人の人が近づいてきた。そう『たっちゃん』だ。

「何かあった?」

「え……何もないよ?」

「不安定だよね……ゆっちゃん、まさか」

「何?」

「ううん」

心臓がドクンと跳ねた。冷や汗と共に。私の環境を知っているからこそ、続きの言葉を言えなかったんだと思う。今思えば優しさでもあるし、つい口がすべりそうになったのかもしれないね。私の目を見つめながら『大丈夫?』なんて言ってくれる君は私の支えだったのかもしれない。君は無意識なのかもしれないけど、その優しさがつらく思ってしまった。頬が腫れている事に気付かれたのかもしれない。瞳が赤い事がばれたのかもしれない。きちんとファンデーションで隠して、泣き顔もばれないようにしてたのに、すぐ君は見抜いたよね。

「ゆっちゃんはゆっちゃんのままでいいよ。無理しないで」

そう悲しそうに呟きながら、少し距離を置く君とはまた教室で会った。そう隣の席だから避ける事なんて無理なのにね。このまま嫌われるんじゃないかと怯えてた私がいたの。そんな不安と悲しみはすぐに君に届く。放課後になって家庭科の課題が残っていた私は一人で作業をしていた。幼い子供達に『布絵本』をプレゼントする為に、裁縫道具を持って、一人で……。ガランとした空間の中で取り残された私の瞳からは涙が毀れていたんだ。

その時だった。家庭科室のドアがガランと音を立て、誰かの足音がした。毀れた涙を拭いながら、友人だろうと思いながらとびっきりの笑顔で『忘れ物でもしたの?』と言いながら振り向くとたっちゃんがいた。

「どうし……て?」

「一人にさせれないよ。俺も手伝う」

「大丈夫だよ」

「いいから頼って……唯」

いつも私の事をゆっちゃんと呼んでいるたっちゃんが初めて呼び捨てで私を呼ぶ。そのいつもと違う行動に驚きながら、真っ赤になった目を隠す事が出来ずにいた。友人ならすぐ帰るだろうし、じっくり見られる事ないと思っていたから、驚きの連続だった。

「一人で抱え込みすぎ。なんでもかんでも」

「……」

チラリと私の目を見て、全てを察したような表情で、傍にいた。支えてくれるように。

「たっちゃんは、優しいね。さすが皆に慕われてる」

「そんなんじゃないよ。誰にでもこんな事しないから」

「え」

「何でもない、気にしないで」

言葉を隠すように、続きの作業をしよっかと終わるまで手伝ってくれる君の背中が温かく、眩しかった。

私には眩しすぎたの。

3

君の心は何処にあるの?

あたしの近くに存在してるの?

ここにいるよ?この七年間、君をずっと待っていたの。

臆病者のあたしがいる。いつもは『ゆっちゃん』と呼ぶ君が初めて呼び捨てで『唯』と囁く。君の優しさに包まれながら眠る夜は、いつもいつも遠くて近い。泣きながら外を見上げると夜空が広がっている。

「綺麗……」

見上げると三日月と散りばめられた星屑が視界を制する。涙を零していたあたしの雫をそっと拭いながら、綺麗で純粋なあたしに戻してくれる。

「あの時は……もう戻らない」

目を瞑りながら、色々考え込むと凹んでしまうけど、君の笑顔で素敵な写真を見つけたあたしは懐かしく思い出に浸りながら、再び涙を零す。

まるで思い出を捨てるかのように、心の奥底の愛を鎮めるように。

あれは体育の授業の時だった。さぼり癖のあるあたしを見かねた君はこう呟く。

「ゆっちゃん。今日はおんぶリレーだってさ。俺と組まない?」

「あたしはいいよ。さぼるし」

本当は、心の中でのあたしは頷きながら、君の誘いを嬉しく思っていた。だけど君には、もうパートナーがいる。あたしは別に参加するつもりなんて、なかったんだ。

「ダメ!俺と組むの。分かった?」

強引に事を進める君は、駄々っ子そのものだった。あたしは内心微笑みながら、表面ではクールを務めてる。

「たっちゃん、相手いるでしょ?悪いよ」

そう口を開いた瞬間、言葉を遮るように、君の言葉が鼓膜を振動させる。

「断ったし、大丈夫。俺じゃなくてもいいだろ」

「……はぁ」

あのね。あの子はたっちゃんが好きなのよ。何で気付かないの?何処までお人よしで朗らかで馬鹿なんだから。頭いいのに、どうしてこういう所『鈍感』なんだろう。頭を抱えそうになる自分がいる反面、右手で顔を隠し困るそぶりをしながら、微笑んでいる自分がいた。

「俺じゃダメ?」

君はいつもそうやって女性の心をいつの間にかさらっていく。どんだけの子がたっちゃんに告白したか分かってるの?姑みたいにグチグチと言いたいけど、こんなチャンスはないし、何より一番嬉しいのは『声』をかけてくれた事。

「あたしでよければ」

「よし!じゃあ行こうか。皆もう準備終わっているみたいだし」

「……うん」

男の人は少し苦手。少し怖い。それでも、繋がれた手を振り払う事なんて出来ない。

だって『たっちゃん』だから。特別だから、離したくないの。

たっちゃんはしゃがみながら「ほら、乗って」とあたしに指示する。恥ずかしいのと不安が入り混じりながら、君の背中に乗る。

温かい鼓動の音が全身を伝って、あたしの心臓と同じ音を奏でてる。このままでいたい。少しだけ甘えさせてほしい。そんな心、君に伝える事はなかった。

「ねぇ、なんでそんな体離してるの?ちゃんとしがみ付いてくれないと危ないよ?」

「……だって」

密着しちゃうじゃない。発達している身体が触れてしまう事への羞恥感。理解してる?

「ほら」

「……わかった」

そうやってあたしの全身を君に任せながら、胸を高鳴らした記憶を覚えてる?

君にはもう『過去』かもしれないけれど、あたしにとっては幸せだった。

「幸せになって」

君に言いたいこの言葉。月に語りながら、君に伝わるといいな。

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