LOGIN幼い頃、近所で仲の良かった女の子と結婚の約束をした葩御(はなお) 稜(りょう)はモデルを経て、俳優として自分を使ってもらうべく、仕事の関係者と闇の交渉で役をもらい、徐々に人気をあげた。 幼馴染の事を探偵に調べてもらい、自分のCMが放映されるタイミングでふたりの前に現れた陵。圧倒的な存在感を放ちながら幼馴染鈴木理子の許婚と称して意表を突き、彼女の手首を強引に掴み寄せ、痛みを感じさせるキスをしてその場を去る。 計画的に彼女に近づきつつ、すべてを手に入れようと画策する陵の思惑を超えたなにかが、彼を翻弄することになる。
View More「玄関前でなんて、克巳さんらしい。目の前に自宅があるのに、そこでヤっちゃうんでしょ?」「どうなるかは、陵次第。そうやって俺を煽り続けたら、寒空の下で裸体を晒すことになるが、それでいいのかい?」「克巳さんにくっつけば、寒くないもんね! と言いたいところだけど、寒がりな俺には無理な話だわ。キスは、自宅に帰ってからでいい?」 今が冬場でよかった。夏場だったなら、素直に自宅にあがってもらえなかったであろう交渉がうまくいき、安堵のため息をつく。「わかった。それにプラスして冷えた躰を温めるのに、お風呂で乾杯するのはどうだろうか。陵の好きなビールの銘柄は、そろえてあるよ」 陵の腕に自分の腕を絡めてから、ゆっくりと階段を上りはじめた。すると俺を引っ張る勢いで、リズミカルに階段を上って行く。「さすがは俺の有能な秘書さん。仕事終わりのビールほど、美味しいものはないからね。しかも克巳さんと一緒に乾杯できるなんて、マジでしあわせだ~!」「飲むのとヤるの、どっちが先だろうか?」「それ、俺に聞くまでもない話でしょ♪」「いつも通りということか。承りましたよ、将来有望な新人議員殿」 陵に引っ張られながら上って行くこの感じは、きっと俺たちの未来の姿なのかもしれない。ときには揉めたり不安になったりしながらも、結局はこうして仲良く歩むことができる。「陵、将来のために少しだけでいいから、早漏の治療をしなければね」「え~……。将来のためってその言い方。もっとマシな頼み方があるでしょ」「俺と同じタイミングで一緒にイケたら、もっともっと気持ちよくなれるよ。どうだい?」 途端に重くなった足取りの陵を、今度は俺が引っ張る番になった。「……だったらがんばってみようかな」 引っ張った立場になったはずなのに、すぐさま陵が俺を引っ張る。 無理するよりも、こうして尻に敷かれているほうが、もしかしたら性に合っているのかもしれないと思ったのだが、その後の行為により熱くて甘い夜になったのだった。 おしまい
無意識なんだろうが、掴んでいる陵の指先に力が入り、スーツの上からでもわかるくらいに、爪が突き刺さる。「克巳さんのおかげで、今の俺がいるんだよ。リコちゃんに手をかけようとした事件を起こして、メディアに叩かれまくったあのとき。どん底まで落ち込んだ俺を見捨てずに、付きっきりで励ましてくれたから、立ち直ることができた。どんな困難が立ち塞がってもめげずに、負けない気持ちでいられたのは、貴方の優しさがあったからなんだ」「陵……」 街頭演説をしたときのような、必死に訴えかける感じではなく、もの悲しさを漂わせた声が、心の奥底までじんと染み入った。 俳優としての顔を持つ彼。あえて演技じみてない、ひとりの男としての姿を目の当たりにして、二の句が継げられなかった。「ときどき、怖くなることがあってね。ワガママばかり言う俺に、克巳さんが愛想を尽かして、どこか遠くに行ってしまうんじゃないかって」 胸の内に抱える不安を聞いた瞬間、陵に向かってほほ笑みかける。少しでもいいから、暗く陰った心を明るくしたいと思った。「愛想を尽かされるのは、俺かと思っていたよ。見た目も良くない上に、仕事だってそこまで万能じゃない。そのくせ独占欲は人一倍ある俺を、いつかは嫌いになるかもしれないってね」 掴まれている腕をそのままに、稜の躰を引き寄せた。片腕で抱きしめることになるが密着させるべく、ぎゅっと強く抱きしめる。(君に出逢うまで知らなかった。頭も心もその人でいっぱいになるほどに、誰かに恋焦がれることを――嫉妬で狂いそうになる、胸の痛みを……)「克巳さんってば、無自覚にもほどがある。党本部に行ったときにあちこちから、これでもかというくらいに熱視線が、ばんばん送られてるんだよ」「それは俺宛じゃなくて、稜にだろう?」「絶対に違うよ、克巳さんを見つめてる。顎に手を当てながら、整った髪をなびかせて颯爽と歩く姿とか、たまに笑いかけるところなんて、女の子たちがほわーんとしてるんだからね」「キツネ目で人相が悪い俺と、見目麗しい陵を比べてるだけかと思う。というか、物好きは陵だけでいっぱいいっぱいだ」 肩を揺らしながらクスクス笑ったら、陵は掴んでる腕を放して、俺の両頬をぐにゃぐにゃと抓った。 容赦なく抓りまくる陵を見下ろしながら、痛いことを示すために、眉間に皺を寄せてみせる。「克巳さんはわかってないよ
*** ――俺が愛する綺麗な華、葩御 稜。 彼の傍で成り行きを見守り、この身をかけて愛していく。尽きることのない愛を注ぎ続けるから、どうか君の夢を叶えてほしい。 その一心で彼に尽くしてきた。だがその一方で、俺の中にある不安の種がなくなることはない。 芸能界から政界へ華麗な転身を成し遂げた彼を、メディアはこぞって追いかけた。 ハードなスケジュールをこなしているところに向けられる、たくさんのカメラのファインダー。その中に納まる笑顔の彼に注意すべく、「ほどほどにしないと」なんていう言葉をかけたかった。 どんなに疲れていてもほほ笑みを絶やさず、にこやかに対応する姿を見て、少しでも休憩がとれるようなスケジュール調整を、秘書として考えさせられる。 その他にも、厄介な問題があって――。『芸能界で枕やってたんだって? こっちではやらないの?』 なんていうお誘いを陵の腰に手を回しながらしてくる輩がいるのを、目の当たりにした。しかも相手は、名のある某有名議員――恋人の俺がでしゃばり、ぶっ飛ばしていい相手ではない。『僕のときのようにいちいち目くじらを立てていたら、稜さんが気を遣います。秘書さんは恋人なんですから、どんと構えていればいいだけですよ。あしらうことに長けている、彼に全部まかせるべきです!』 入念とも言えるアドバイスを二階堂からなされていたので、両手に拳を作ってその場をやり過ごすしかなかった。そりゃあもう、歯痒いったらありゃしない!「ふふっ、貴方と寝てあげてもいいけど、現在進行形で俺にテレビカメラがついて回ってるんですよ。もしかしたら先ほどのことを、どこからか撮られているかもしれませんね。議員生命をかける覚悟は、おありなのでしょうか?」 腰に回された手をそのままに、両腕を組んで言い放つ稜の姿が、カッコイイのなんの。 声をかけた某議員は、慌てて周囲を見渡したのちに、脱兎のごとく逃げて行った。 ちなみに、こんなふうに誘ってくる議員の方々が結構いらっしゃって、俺の忍耐力が試されている気がしてならないのが現状だった。 そんな毎日を送りながら稜に翻弄されるせいで、散々苦労しているというのに――。「克巳さんはことある事に、俺の早漏をどうにかしようとして、いきなり困らせるんだから。毎度毎度、困惑しまくりなんだからね!」 マンションのエレベーターを使えば、も
思いっきり慌てふためく俺を尻目に、克巳さんは声を立てて笑う。はしゃぐようなその笑い声は、隣の部屋まで聞こえているんじゃないのかな。「あのぅ克巳さん?」 普段どんなにおかしなことがあっても、こんなふうに屈託なく笑うことがない彼を目の当たりにして、俺は困り果てた。(俺としては克巳さんを、ここまで笑わせるつもりはないのに――)「将来総理大臣を目指そうという君が、早漏の治療に怯えながら俺にあれこれ訴えるところが、どうにも笑いを誘ってね。いやおかしい!」 俺の肩をバシバシ叩きながら、目にうっすら涙を溜めて笑う克巳さんに、ぷーっと怒ってみせた。「酷いよ、その態度! アレはマジでつらいんだからね!」「済まない……。陵があまりに必死な顔して、俺に交渉するものだから。ぷぷっ」「んもう、克巳さんってば」 両手で克巳さんの胸を押して、強引に距離をとった。「悪かった。君の言うことを聞くから。ね?」「本当に?」「本当だよ。なんでも言ってごらん、叶えてあげるから」 遠のかせた距離をそのままに腰を曲げて姿勢を低くし、座ったまま固まる俺を上目遣いで射竦める。その表情からは、なにを考えているのかわからない。「俺の叶えて欲しいこと、は……。克巳さんと――」 たどたどしく言いかけた瞬間、近づけられていた顔が元の位置に戻り、さっと背を向けられた。克巳さんの背中を首を傾げて見つめていると、傍にあったキャビネットを開けてなにかのファイルを取り出し、パラパラめくりながら俺の横に立つ。「陵、卑猥なお願いは、ベッドの中だけにしてくれ。今は仕事中だろう?」「うわぁ、まんまと俺を引っかけるなんて、すっごく悪い恋人!」 すると左手を腰に当てて、なにを言ってるんだという顔で俺を睨む。「少しでも陵の仕事が早く終わるように、秘書としてやれることをしておいた。これを見てくれ」 持っていたファイルをデスクの上に置き、とある文面に指を差す。「あ、これって――」 ファイルと克巳さんの顔を交互に眺めたら、睨んでいた目が優しげに細められた。「早く議員の仕事を終えてほしい。できそうかい?」 克巳さんが見せてくれたファイルには、要望書で調べなければならない資料が掲載されていた。しかも年代や地域別にいろいろ色分けして載っているおかげで、見やすいことこの上ない。「ありがとう。予定している以上に
多いときは、1日に5~6件ほど出席することも。週で平均を出すなら、連日3件の会合をこなすことになる。 そんな平日が終われば、金曜日の夜には地元に帰郷する。今度は地元の方々との会合が、土曜の“朝10時”からセッティングされていることがデフォだった。 土日は朝・昼・晩・晩・晩とだいたい2時間ずつ、お酒を飲みながらの会合に参加しなければならない。 芸能界で活動した経験上、ドラマや地方ロケのせわしない忙しさを経験しているゆえに、多忙を極める業務をそれなりにこなせると思っていた。しかしそれは、子どもの頃から慣れ親しんでいる芸能活動だからこなせていたというのを、現在進行形で思い知らされている。
モデルから芸能界に入り、お偉いさんと枕営業を重ねて、うまいこと仕事を獲得しつつ、幼なじみのリコちゃんを手に入れようとした。ひとえに、自分の片想いを成就させるために――。 だけど彼女には彼氏がいた。ふたりを別れさせる作戦を実行するために、俺は彼氏を誘惑した。 途中までは、思惑通りだった。ただひとつだけ計算外だったのは、彼氏が俺を好きになってしまったこと。そのせいで、すべての歯車が狂いはじめ、結果的に俺は痛い目を見た。 自分がやらかした事件と一緒に、ゲイだということが世間にバレた。必然的に芸能界を引退しなきゃいけないレベルにまで、追い込まれてしまった。 リコちゃんも手に入らない上に、世
俺が決意の色をその表情で悟った瞬間、陵がその場で腰を屈めるなり左手に持っていたマイクを足元に置く。目の前で行われる彼の奇行に、ギャラリーがざわつきはじめた。 そんなことを気にせずに姿勢を正してから、数秒間きちんと頭を下げて、ふたたび顔を上げる。 盛大に息を吸った形のいい唇が、吸いとった空気を全部吐き出すように大きく動いた。俺の目には、それらの行動がスローモーションのように見えてしまったのは、どうしてだろう。「革新党公認候補の葩御稜です」 張りのあるテノールが、大勢がざわつく声を一瞬でかき消した。芸能人のときにおこなっていたボイストレーニングの効果が、未だに有効なことを思い知らされる
***(克巳さんや二階堂のお蔭で、起死回生のチャンスが巡ってきたのかもしれない――) 未成年者だったときにおこなった悪さが原因で、選挙戦後半の大事なときに実の母親が仕掛けた罠に足を引っ張られ、心の底から肝が冷えた。 だけどそんな自分の感情を、必死になって抑え込んだ。今まで献身的に支えてくれたスタッフや有権者を裏切ることをしたくなかったので変に誤魔化さず、素直な気持ちを言葉に変換して、大勢の人に伝えることができた。 謝罪したその日の夕方と次の日のワイドショーは、そろってその映像をもとに放映された。 今回の騒ぎで迷惑をかけたこともあり、選挙日まで遊説など外出をせずに事務所で謹慎していた