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◇メールの意味 136

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-05-16 13:18:07

136

 最初に変にお互い恋愛感情挟まないで仕事に邁進しようなんて

盛り上がったために、今更付き合ってほしいなんてことは言いにくい。

 非常に言いにくい。

 つくづく世の中はままならないと身に染みた。

 正式に交際しているかどうかは分からないが早く手を打たないと

手遅れになるかもしれない。

 今月は後1週間でクリスマスがあるんだよなぁー。

 考えろよ、俺の頭。

 何のために付いてんだよ~。

 こういう時のために付いてるんだろ、考えるんだ俺の頭~。

 そう言うと相馬は頭を掻きむしった。

          ◇ ◇ ◇ ◇

 クリスマスイブが日曜日でクリスマスが月曜。

 週末誘えそうな日は金曜になる。

 相原はクリスマス月の週末の金曜は掛居と一緒に食事ができれば、

と考えていた。

 凛を夜間保育に預ければ帰りに声を掛けられるが、凛がいては

食事に誘えない。

 それで今週の金曜は凛を姉に預けることにしたのだが、今度はそれだと

社内にいる間に直接声を掛けるのが難しいという問題が出てくる。

 そのため、メールでそれとなく掛居に探りを入れてみることにした。

『明日は残業入りそうですか?』

『確か明日は凛ちゃん夜間保育を利用しないんでしたよね。

 芦田さんから他には明日夜間保育の利用者がいないので保育所のほうの

残業はないと聞いてます。

 相馬さんのほうの仕事でもたぶん残業はないんじゃないかと

思いますが当日予定が変更になったりっていうのはたまにあるので

確実ではないですが……定時で帰るつもりにはしてます。

 凛ちゃんはお姉さんに預けるんですか?』

『うん、凛は姉にみてもらうつもりなんだ……』

『じゃあ明日は相原さん、久しぶりに定時上りできそうなんですね』

『俺の方も確実じゃないけどね、じゃあおやすみ』

 私の明日の予定を気にしているふうなメールを相原さんからもらって、

ちょっと期待しちゃったけど結局残業はお互いになさそうだという話で

終わった。

 これってどういう意味のメールだったのだろう。

 しばらくメールの内容に頭を悩ませたけれど、お誘いはなかったのだから

変な期待をするのは止めようと思うことにした。

 今週は会えなくて寂しいけれど、また次の夜間保育のある日に

会えるのだし。
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  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇会えなくて寂しい 137

    137 そして明けて金曜日の朝、相馬さんと仕事の打ち合わせをする。「相馬さん、私、今日は保育所のほうの夜間保育には入らなくてよくなりましたので、急な仕事がなければ久しぶりに定時帰りしたいと思います」「そうなんだ。んっと……、大丈夫だと思う」『よしっ、久し振りに早く帰れそう、やったー』 ここのところ金曜は定時で帰れたことがなかったのでうれしい。 凛ちゃんと相原さんに会えないのは寂しいけど。 果たして……。 勤務を終えて1階まで降り、1歩外に踏み出すと晴れてはいるものの薄暗く寒風が刺すように肌が痛い。『ぎゃあ~、さぶっ』 言葉に乗せて口からつい出てしまう。 ふと見ると視線の先に相原の姿が……。 少し離れたところに立っているのが見えた。 今日はもう夜間保育もなくて会えないのだろうなという思いと、そう思う一方でメールをもらっていたので少しだけ会えるかもという期待もないわけではなく……みたいな、さまざまな感情に揺さぶられたあとのこと、うれしくなって彼に一声掛けて帰ろうとそちらに向かうと相原が顔を上げたので手を振ろうとした……のだが。  花が手を振ることは叶わなかった。 振るはずの腕を何者かに掴まれたからだ。『えっ』 見ると誰かの手が自分の腕を掴んでいるではないか。 視線を手、腕、肩、そして顔へと辿るとそれは相馬の顔だった。「びっくりしたぁ~、どうしたの?」「いゃぁ~、驚かせてごめん。 実は急ぎの仕事があったのをすっかり忘れていてね。 申し訳ないけど少し手伝ってもらえないかな」「いいですよ。早く片してしまいましょう」 この前向きな言葉を聞き、改めて掛居に対する好感度が更にアップする相馬だった。『あ……そういえば』 驚き過ぎて一瞬相原のことを忘れていた花は相原のいた方を見るも、もはや誰もそこにはいなかった。『声くらい掛けたかったなぁ~、残念』 ほんの少しだけ相馬のことを恨めしく思ってしまう花だった。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇メールの意味 136

    136   最初に変にお互い恋愛感情挟まないで仕事に邁進しようなんて盛り上がったために、今更付き合ってほしいなんてことは言いにくい。 非常に言いにくい。 つくづく世の中はままならないと身に染みた。 正式に交際しているかどうかは分からないが早く手を打たないと手遅れになるかもしれない。 今月は後1週間でクリスマスがあるんだよなぁー。 考えろよ、俺の頭。 何のために付いてんだよ~。 こういう時のために付いてるんだろ、考えるんだ俺の頭~。 そう言うと相馬は頭を掻きむしった。           ◇ ◇ ◇ ◇ クリスマスイブが日曜日でクリスマスが月曜。 週末誘えそうな日は金曜になる。 相原はクリスマス月の週末の金曜は掛居と一緒に食事ができれば、と考えていた。 凛を夜間保育に預ければ帰りに声を掛けられるが、凛がいては食事に誘えない。 それで今週の金曜は凛を姉に預けることにしたのだが、今度はそれだと社内にいる間に直接声を掛けるのが難しいという問題が出てくる。 そのため、メールでそれとなく掛居に探りを入れてみることにした。『明日は残業入りそうですか?』『確か明日は凛ちゃん夜間保育を利用しないんでしたよね。 芦田さんから他には明日夜間保育の利用者がいないので保育所のほうの残業はないと聞いてます。 相馬さんのほうの仕事でもたぶん残業はないんじゃないかと思いますが当日予定が変更になったりっていうのはたまにあるので確実ではないですが……定時で帰るつもりにはしてます。 凛ちゃんはお姉さんに預けるんですか?』『うん、凛は姉にみてもらうつもりなんだ……』『じゃあ明日は相原さん、久しぶりに定時上りできそうなんですね』『俺の方も確実じゃないけどね、じゃあおやすみ』 私の明日の予定を気にしているふうなメールを相原さんからもらって、ちょっと期待しちゃったけど結局残業はお互いになさそうだという話で終わった。 これってどういう意味のメールだったのだろう。 しばらくメールの内容に頭を悩ませたけれど、お誘いはなかったのだから変な期待をするのは止めようと思うことにした。 今週は会えなくて寂しいけれど、また次の夜間保育のある日に会えるのだし。

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    133「たぶん、私が子持ちの相原さんを狙っているなんて微塵も想像してなかったんじゃないかな。 それと裏技使ったから油断したんじゃないのかしら」「裏技って?」 小暮さんの問い掛けに何故か遠野さんは私の顔を窺う。『なんで、私?』 そう思っていたら、とんでもないことを言い出した。「次の休日に休日のサポーター保育員として凛ちゃんを預かることになっていて、一度保育所の上司から住所を教えてもらったけれど、行き方に自信がないから教えてほしいって頼んだの」『きゃあ~、なんて恐ろしい人なの。 呆れるやら、呆れるやら、もっとドンピシャな言い得て妙的な言葉を口に出したいけど、言葉が出てこない。そんな自分が恨めしい』「うっわぁ~、それってバレるとヤバイ案件よ」「落ち着いて! 大丈夫よ。 突撃したから相原さんにはどこかで情報取ってることはバレてるけど訴えられてないしぃ」「う~ん、そういう問題じゃないと思うけど」「そういうのはひとまず置いといて、肝心なのはこの先の話なのよ。聞いて、2人共」「分かったわ。どうぞ」「突撃したら……なんと、女の人がいたのよ。がっかり……奥さんがいたのよ。 あぁ、違うかも、元が付くのかもしれないけど、家に出入りしているみたいだから復縁するのも時間の問題かもね。いやんなっちゃった」「へぇ~、残念だったわね」「だ・か・らぁ~、あなたたちも万が一にも彼を狙っても駄目だからね。 これを教えてあげようと思って招集かけたの」「そっか。私も掛居さんも気を付けるわ」 おだてにも取れるような無難で耳障りのよい言葉をかけると遠野さんは満足顔でブースから出て行った。 呆れ顔で小暮さんが言う。「何か、疲れましたね。 私たちに気を付けてって訳わからんことを話してる自覚なしで。 今後、私は遠野さんとはなるべく距離を置くことにします。 昼食もなるべく一緒にならないようにするつもりです」「うん、そうね。 変なことに巻き込まれそうで一抹の不安を私も感じたわ。 もう放っておきましょう」  私たちの変に濃ゆい昼休みが疲れを伴ってようやく終わりを告げた。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇マシンガントーク 132

    132 休み明け出勤するとあの人《遠野さん》から招集がかかった。 招集をかけられたのは私と小暮さん。  私だけじゃなくてよかったわ。 社食を急いで終えるとせかされるようにして私たちは仕事で使う ブースのうちの一つに席を取り、各々チョイスして購入した飲み物を テーブルに乗せて彼女の話を聞く態勢を整えた。  じき、遠野さんのマシンガントークが始まる。「掛居さん、小暮さん、私……大変なことを知ってしまったの。  あぁ~、知りたくなかったわぁ~。 アタックもせずに私の恋は散ってしまったのよ」私と小暮さんは顔を見合わせた。 私も、そして多分小暮さんも理由は違うけれども、遠野さんの散った 恋の話なんて聞きたくなかった。 耳に耳栓したい気分……っていったら酷過ぎるだろうか。 小暮さんも多少恋バナの件は話を聞かされていたようで、うんざり顔だ。 それでも彼女か私のどちらかがその先を促して遠野さんに話をさせないと 解放してくれそうにもなく、小暮さんが先陣を切ってくれた。 「相原さんのことよね? 何があったの?」「私、土曜日思い切って彼の家へ行ってきたの」「えぇー!」と小暮さんが驚きを隠せないパフォーマンスをしたので、 私も遅ればせながら便乗して驚く振りをした。 相原さん本人から話を聞いていなければ確実に私も驚いたろう話だし。 「ちゃんとアポ取ってから行ったの? 遠野さん」  小暮さんからチェックを入れられた遠野さんは首を振る。 「それと普通なら知らないはずの住所へ突撃したわけで、そんな個人情報 よく手に入ったわよね」 そう言った小暮さんからの非難をもろともせず遠野さんは自分の成果を 得意げに語り出した。 「相原さんとちょくちょく一緒に仕事することのある藤井さんを飲みに 誘ったら、簡単に聞き出せたのよね~」「藤井さんって、そんな簡単に他人《人》の住所を教えるような人には 見えないんだけど……」 小暮さんが疑問を呈《てい》した。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇ルームツアーDay終了 131

    131「そうでしたか。 昨日はそんなことがあったんですね、ちっとも知らなくて。 ほっとしました?」「うーん、ほっとした。ストーキングはメンタルやられるよ」「相原さんてモテそうだから……。今回で何人目ですか? ストーキングされたの」「いやいやいやぁ~、今回のようなのは過去に一度も……」と言いながらハッとした様子の相原さん。 何かを思い出して困っているようだ。「過去に一度や二度はやっぱりあるんですねー」「いやっ、そんなこともないけど」「そういう掛居さんはどうなんだよ」 やだっ、私に火の粉飛ばさないでぇ~。「私ですかぁ~。えっと……」 私は右手の親指から薬指まで順に折り曲げていった。 相原さんの表情を見てるとおかしくなっちゃった。 小指も折り曲げてやろうかと思ったけど、くだらないパフォーマンスをしている自覚はあるので止めた。「私は生憎一度もありませんよー。 大体言い寄られたりしたことないですもん。寂しいもんですよ」「じゃあさ、実際のところ相馬綺世とはどうなってんの?」「気になります?」「ちょっとだけ」 彼は親指と人差し指でつまむような形にしてそう言った。「じゃあ世間には公表してないけど相原さんだけに教えますね。 いいですか」「いいよ、心の準備はできてる。心おきなくどうぞ!」「仕事のパートナーとしては仲良くさせてもらってますけど、個人的には付き合ってません」「ほんとに?」「ほんとにほんと、本当ですよー」『それにもし私が相馬さんと付き合ってる恋人同士だったら、凛ちゃんと2人といえども、部屋にあなたを招いたりしませんよ』と言いたかったが、それは言わないでおいた。 凛ちゃんがひとり遊びに飽きて相原さんに抱っこをおねだりしてきたのを機に、私は昼食の支度に取り掛かった。 凛ちゃんにおうどんを短く切って出すと、喜んでたくさん食べてくれた。「ご馳走さま。美味しかったよ。いいよなぁ~、寒い時に暖かい食事」「そうですよね。喜んでいただけて良かったです」 さてと、では肝心の各部屋を案内するとしますか。 私はルームツアーを始めた。 どの部屋を見ても『へぇ~、いいね~』と感心してくれるので招待した甲斐があったというもの。 こんなふうにして、私たちのルームツアーDayは無事終了したのだった。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇ルームツアー 130

    130   「ようこそ、いらっしゃいませ。 凛ちゃぁ~ん、さっ花ちゃんにおいで」 私は相原さんから凛ちゃんを受け取る。『う~ん、愛しい重みに心が和むぅ~』「おじゃまするよ」「どうぞどうぞ。すぐにお茶淹れますね」 20帖の広いリビングにはフローリングの上に絨毯を敷いてある。 実は凛ちゃんのために買ったもの。 自分ひとりだとフローリングに座ることなんてないから。 相原さんが凛ちゃんのために小さなボールや絵本、積み木なんかを持ってきてくれていたので、絨毯の上を凛ちゃんコーナーとして使ってくださいと案内した。 私たちがいる側で凛ちゃんはすぐに積み木でひとり遊びを始めた。 めちゃくちゃ大人しくていい子。 ルームツアーが目的で来てもらったけど、ひとまず大人の私たちは珈琲で寛ぎTimeに入った。「やはりすごいよなー、ロビーからしてホテル並みじゃないか。 圧巻だったね~」「そうですね、住んでる人間が言うのもなんですけど」「家《うち》から結構近いんで吃驚した」「道に迷いませんでした?  あぁ、それとストーカーに付けられたりしてませんよね? 大丈夫ですか、ふふっ」 私はまさかそこまではないだろうと思っていて、ただの軽いノリで言ったんだけど、まさか相原さんが昨日まさしくストーカーに遭っていたとは……。 その後の、遠野さんが昨日相原さんの家に訪ねて来たという話を聞いて仰け反りそうになった。「遠野さん、とうとう家まで押しかけて行ったんですね。それは大変でしたね」『むちゃくちゃ好かれてるじゃないですかー』なんて、軽口言えない雰囲気なので冷やかしてその場を盛り上げるのは違うような気がして、今回の一連のことを私はどう言えばいいのか次の言葉が見つからない。「でもさ、吃驚はしたけどアレだな。 『禍を転じて福と為す』っていう結果になったから、終わり良ければ全て良し、ってとこかな」「……と言いますと?」「遠野さんが来た時、俺はベランダに出てたから、遊びに来てた姉が対応したんだけど……。 ま、遠野さんが上手い具合に姉のことを俺の元奥さん? たぶんだけど、そういう関係の人だと勘違いして帰ってくれたみたいで、もう今後ストーカーの心配はないかな。 そう思うと突撃してくれてよかったよ」

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇メールをした 129

    129   時計の時刻を見るとすでに9時を回っている。 どうしようか……。 迷った末、花は相原にメールを送った。「こんばんは。 こんなに遅い時間になってからの申し出なので都合がつけづらいかもしれませんけど、明日よろしかったら凛ちゃんと一緒に我が家のルームツアーにいらっしゃいませんか?  まだ片付けが完璧ではありませんが完璧を目指していたらきっと、いつまで経ってもお誘いできないと思うので見苦しいところは目を瞑《つぶ》っていただけたらと思います」 もう寝てるかもしれないな……。 ちょっと悲観的予測をしていたところへ、返信が届いた。「ぜひ、行きたいなぁー。凛、連れて行くね。何時頃がいいのかな」「11時頃如何ですか? お昼は天ぷらうどん作りますのでお楽しみに~」「期待してるー。じゃあ、おやすみ」「お待ちしてまーす。おやすみなさい」 きゃあ~、やったぁ~ 明日は2人に会えるぅ~。 さてと、早起きしないと……早く寝よっ。                    ◇ ◇ ◇ ◇ 公私共に充実している掛居花の夜は静かに更けていった。 街路樹も葉を落とすようになったとはいえ、迎えた朝は気持ちの良いお天気で、寒くはあるけれど凍えるほどではなくカラッとしていた。  穏やかでよいお天気だけど、それでもやっぱり肌寒くって7時に起きようと思っていたのにウダウダしちゃって布団から出た時は8時になってた。 ここからは少し頑張って動いた。 身だしなみを整えると昼食の下準備をし、それから部屋の中を再チェックっと。 相原さんと凛ちゃんが自分の家に来るなんて不思議な感じがする。 ドキドキしながら2人を待っていると『ピンポーン~ピンポーン~』下からのインターホンが鳴った。『どうぞ』 私はそう声を掛けた後、玄関に向かいドアを大きく開け放ちすぐに室内に戻り2人を待つ。 ドキドキ……。 ほどなくして相原さんがにこやかに顔を覗かせた。「やぁ、遠慮なく来させてもらったよ」 そう言いながら凛ちゃんを抱いたままドアを器用に閉めた。

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