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◇腑に落ちた瞬間 38

Penulis: 設樂理沙
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-28 07:26:33

38

「お姉ちゃんの知ってる人だよ」

「そんな人いる?」

 私は誰よぉ~と頭の中で年頃の男子を思い浮かべたけれど

自分の恋人しか出てこなかった。

 従兄たちを思い浮かべてもそもそも皆遠方だし、ご近所さんを探しても

付き合うような人は見当たらない。

「高校か大学の友だち?」とは口にしたものの、私は妹の女友だちの

2人くらいなら見知ってるけど、男友だちがいるのかどうかも

知らないのだから……違うでしょ。

 いろいろ考えて一周して私は恐ろしいことに気が付いてしまった。

 両親が纏うドヨンとした空気、結婚もしていないのにあっけらかんとして

妊娠しているかもしれないと話す妹の空気感。

「お姉ちゃん、信也さんは私のだからね。

 このお腹の中の子の父親は彼だから。

 お姉ちゃんがどんなに頑張っても信也さんはお姉ちゃんのものには

ならないの。分かった?」

 自分の言いたいことだけを話すと、妹は部屋を出て行った。

 あまりのことに私は頭の中が真っ白でしばらく思考停止してしまった。

 何がなにやら訳が分からない。

 だって信也を自宅に招いたのは2回しかなくて、どこでどうやったら

あの子が妊娠するっていうの!

「まだ蘭子も若いし、それからいくらでも出会いあるわよ。

 ねぇ、あなた」

「そうだな、子供ができちゃったならどうにもならんしな」

 ねぇ、私の親たちは何を言ってるの?

 玲子を叱ることもせず私の恋人を妹に譲るのが当たり前のように

言ったりしておかしくない?

 しようがない?

 しようがないで済ますつもりなんだ。

 最近あまりデートに誘われなくなって距離が……距離感が遠くなったように

感じてたんだけども、こういうことだったのね。

腑に落ちた瞬間だった。

「お父さん、お母さん、今の私の気持ちが分かる?

って訊いても無駄だよね。

 分かってるなら絶対私にそんな発言できないよね。

 一言では語りつくせない言いたいことはたくさんあるけどひと言だけ……。

 玲子は勿論だけど、あなたたちには失望した。

 同じ血を分けた娘なのに妹には寛容で私には随分と無慈悲なことを

言うんだね。

 もしかして私って橋の下で拾われた子だったりして」
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    105「お待たせしました、掛居です」「休日でお休みのところ、ごめんなさいね」「いえ、大丈夫です。自宅訪問の件ですが行けます。 伺う時間とサポート内容、場所、それから滞在時間の目安など教えていただけますか」「有難いわ、助かります。 詳細は後からメールで送るわね。 掛居さんに担当してもらうのは相原さんなの。 場所は……」 私は『相原』という名前を聞いた途端、頭やら耳の機能が停止してしまったようで、芦田さんの話してる言葉が何も入ってこなかった。 いゃあ~、人を差別するというか、この場合自分の好き嫌いで選別してはいけないこととは分かっているものの、先月の彼とのエレベーターでの出来事を思えば、どんな顔をしてサポートに入れるというのだ。「もしもし?」「あの、芦田さん、できれば他の人と……つまり芦田さんが訪問する予定のお宅と替わっていただけないでしょうか」「……」「掛居さんは私が受け持つ人とは面識がないし、というのもあるし、ちょっと恥ずかしいんだけど言っちゃうわね。 私、独身でしょ、だから男性のお宅へ伺ってサポートっていうのは恥ずかしくて」 それを言うなら私も独身、しかも花も恥じらう? まだ20代ですってば。「あ、掛居さんも独身だけど相馬さんとも親しくしているって聞いてるし、男性に耐性あるんじゃないかと思って」 そんなこと誰に聞いたんですかぁ~、保育所勤務なのにぃ~、噂って怖いぃ~。「付き合ってるのよね?」「いえ、付き合ってません」 えっ、私ってばそんなことになってるの、知らなかったー。 相馬さんは知ってるのかしら。「でも親しくしてるのはほんとよね?」「個人的に親しくしてないつもりですが……。 そうですね、彼の仕事を手伝ってるので職場では親しくさせてもらってます」

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇突然の嵐 104

    104    夜間保育に係わるようになって3ヶ月目、秋も一段と深まり時に寒さが身に染みる季節になってきた。 あぁ、仕方がない、重い腰を上げる時がやってきたのだ。 本格的に冬物の衣類を収納ケースから取り出し、クローゼットに吊るさないとなぁ~などと花が休日の予定をぼぉ~っと考えながらまったりと寝起きのミルクティーで身体を暖めているところへ、芦田からの1通のメールが届く。 三居建設(株)の子育て支援はほんとに手厚い支援体制になっていて、子たちの親が病気になった時には保育士の手を必要としている場合、自宅訪問をしてサポートしてくれるのだとか。 芦田さんからの連絡はうちの会社ではそのような環境が整っていることの説明と今回正規雇用の保育士2人に対してHelp要請が3件入ってしまい、大変申し訳ないが可能な限り3人目のサポートに入ってほしいというものだった。 メールを読んだなら芦田さんまで電話してほしいと書かれてある。 サポート支援のことなんて今初めて聞いた。 おじいちゃんは知っているだろうか。 誰がこんなすごい制度を提案し作ったのだろう。 素晴らし過ぎるぅ~。 だけどしばし待たれよ。 私って元々保育所にいない人材でしょ。 今までは今回のようなシチュエーションはなく、無事上手く仕事が回っていたのかしら。 自分がサポーターとして社員のお宅へ出張って行けるのか行けないのか……迫られているというのにそんなふうな今まではどうしていたのだろう、なんてことばかり考えが過るのだった。 気が付くと15分ほど経過していた。 いけないっ……私は急いで芦田さんに電話を掛けた。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇遠くどこまでも遠い距離感 103

    103 目の前の女は俺の問い掛けには答えず、涙をためた目を見開いて穴の開くほどじっと俺を見ている。 ここで俺は大人げないことをしている自分の所業に気が付き、恥ずかしくなった。 そうだ、なんでこんなに彼女のことを構うんだ。 相馬の彼女だというのに。 自分の愚行にどっと疲れを覚えた。 ボタンから俺の指が離れ扉が開いた途端、スルリと彼女は俺の前からすり抜けて行った。相原清史郎《あいはらせいしろう》は周りから見られているイメージとは180℃違っていてウブで自分に自信のない人間だった。 そんな彼は女性に対しては中身重視。 好きになった相手とは絶対遊びで付き合えない。 相原は当初、相馬付のサポーターとして担当に着任した若くてそこそこ可愛い女子社員を見るにつけ、ご多分に洩れず多少の羨ましさを感じていた。 しかし、来る派遣社員、派遣社員、二人共長続きせずあれよあれよという間に辞めてしまい、女子社員と一緒に仕事をするというのは予想以上に難しいものなのだという認識を強くした。 彼女たちが辞めていった理由として周囲から漏れ伝わってきたのはモテ男相馬に恋心を抱いて玉砕したから、というものだった。 それ故、おばさん《おじさん》気質で周囲と同じようについ3番目に着任した掛居花の言動、つまり様子をそれとなく気にするようになっていた。 そんなふうに野次馬根性で気にかけていた女性《ひと》が娘の保育所に現れたものだからつい、興味を覚えたのだ。全く繋がりのなかった立場から細い糸で彼女と繋がれたのだから多少気持ちが浮ついてもしようがないだろう。  これは日常会話くらい話せるようにならなくてはと声を掛けるも、滑ってばかりのようで掛居から余り良い反応を得られず、普通に話せる間柄になるのには万里の長城(北海道から沖縄まで日本列島をぐるりと囲む距離)ほどもの距離があるのを感じ、寂しく思った。 そしてスマートに成り切れない自分に対して臍《ほぞ》を嚙む思いだった。

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