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第5話

Autor: 瑠子
自分の荷物を抱え、ふらつく足取りで会社を出た。

行く当てもないまま、潮見野市の街を歩く。

2年間の練習生生活。

8年間の恋愛。

10年かけて積み重ねてきたものが、今日ですべてなくなった。

それでも、これ以上悪くなることなんてない。

そう自分に言い聞かせた、その直後だった。

突然、目の前が真っ暗になった。

鼻を刺すような強い匂いがして、そこで意識が途切れた。

次に目を覚ましたとき、いたのは人気のない廃工場だった。

両手も両足も縛られている。

目の前には、まだ高校生くらいにしか見えない4人の女の子がいた。

そのうち1人がスマホの画面と私の顔を見比べる。

「間違いない。こいつだ!」

その声を合図に、ほかの女の子たちも一斉に近づいてきた。

「ねえ、立場を利用して凌生くんに迫ったの、あんたでしょ?」

「ババアのくせに、凌生くんに近づくとか身の程知らず!」

「髪切っちゃおうよ。もう人前に出られないようにしてやればいいじゃん」

恐怖で思わず後ずさる。

そこでようやく分かった。

この子たちは、凌生のファンだ。

1人がハサミを手に近づいてくるのを見て、たまらず声を張り上げた。

「違う!無理やり迫ったりしてない!凌生とはちゃんと付き合ってるの!」

4人の動きが止まった。

真っ先に我に返った1人が、疑うように眉を寄せる。

「証拠あるの?」

バッグを目で示した。

「本人に電話する。今ここで確認して!」

半信半疑のまま、バッグを私の手元に置いた。

縛られた手をどうにか動かし、震える指でスマホを取り出して凌生の番号を押した。

1分近く呼び出し音が続き、ようやくつながる。

「もしもし?」

凌生の声が聞こえた。

向こうは静かだったが、かすかに女の笑い声が混じっている。

声が震えた。

「凌生。ファンの子たちにちゃんと説明して。私たちがどういう関係なのか」

2秒ほど、返事がなかった。

私が今どんな状況にいるのか、考えているような間だった。

やがて、凌生は笑った。

「今度は何なんだよ。俺たちに特別な関係なんてないだろ。

そこまで言わせたいのか?俺の仕事を何本か取ってきたくらいで、彼女になれると思った?

何年も俺を追いかけ回して、何回断られたと思ってるんだよ。いい加減、つきまとうのやめてくれない?」

頭の中が真っ白になった。

「凌生、何言って……!」

凌生は私の言葉を遮った。

「もういいって。今、お前の芝居に付き合ってる暇ないんだよ。

これ以上しつこくするなら、警察に相談するからな」

そのとき、ひまりの甘い声が聞こえてきた。

「凌生さん、あんまり香月さんを怒らせないでよ。私、これからも曲を書いてもらわなきゃいけないんだから」

「あいつの機嫌なんて気にする必要ないだろ」

そう言い残して、電話は切れた。

画面には通話終了の文字が出ている。

私はその場で固まったまま、何も言えなかった。

辺りが2秒ほど静まり返る。

次の瞬間、女の子たちが一斉に騒ぎ出した。

「最悪。やっぱりこいつが凌生くんに付きまとってたんじゃん!」

「キモすぎ!付き合ってるとか嘘ついて、マジでありえない!」

「新人いじめまでしてたんでしょ?ほんと許せない!」

反応する間もなかった。

髪を乱暴につかまれ、そのまま後ろへ引っ張られる。

後頭部がコンクリートの床にぶつかり、目の前が暗くなった。

続けて、拳や足が肩や腰、脚に次々と飛んでくる。

1人がしゃがみ込み、私の頬を叩いた。

左右の頬を7、8回続けて叩かれ、耳鳴りが止まらなくなった。

口の中には血の味が広がった。

「凌生くんにつきまとった罰だから!」

「ほんと恥知らず!」

罵声と一緒に、また頬を打たれる。

ハサミを持っていた子は髪をつかみ、めちゃくちゃに切り始めた。

身を守りたくても、抵抗したくても、手足を縛られていて動けない。

泣きながら、ただ訴えるしかなかった。

「本当に違うの。凌生が……あの人が……」

最後まで言わせてもらえず、また頬を打たれた。

「まだ凌生くんの悪口言う気?」

凌生に電話なんてしなければよかった。

最初は、髪を切るだけのつもりだったのに。

どれくらい殴られていたのか分からない。

ただ、痛かった。

体のどこもかしこも、痛くてたまらなかった。

ようやく誰かが言った。

「もう行こう。これ以上やったらマジでやばいって」

足音が少しずつ遠ざかっていった。

床に散らばった小石が背中に食い込む。

立ち上がろうとしたが、少し体を起こしただけで、また床に崩れ落ちた。

仕方なく、少しずつ這ってスマホへ手を伸ばす。

画面は割れていた。

それでも、どうにか動いている。

連絡先を一番下までたどり、そこにある名前を押した。

伊佐見郁人(いさみ いくと)。

今度は3秒もしないうちに電話がつながった。

「詩乃さん?」

咳き込むと、口から血がにじんだ。かすかに声を絞り出す。

「伊佐見さん……前に約束してくれたこと、まだお願いしてもいいですか?」

返事はすぐに返ってきた。

「もちろんです!」

息をするのも苦しかった。

「じゃあ……まず、助けに来てください」

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