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第16話

Author: 空念
「ごめんね、若い頃は自分で仕掛けて自分で演じて、自分の名前を売るのが好きだったの。

でもね、あの写真は全部本物よ!内容も写真に撮られた本人たちが書いたもの。でも、投稿したのは全部私のサブアカウントなの。

あなたたちが見たあの投稿だって全部私が立てたの。彼女たちの文章、本当に感動的よね。死にそうになったり、泣きながら自殺を考えたりしている様子を思うと……笑っちゃう。

執事が教えてくれたわ……二つのアクティブなアカウントが必死に投稿を読んでるって。やっぱりあなたちだったのね。

がっかりさせてごめんなさい。

でもね、司、これもあなたのせいよ。私を甘やかしすぎたから。伊織ちゃん、きっと面白くないわよね」

彼女の口元には嘲笑が浮かび、顔中に優位に立った、勝ちを確信した得意げな表情が広がっていた。

伊織は呆然とした。思わず司の方を向いてしまう。

数秒後、彼女はゆっくりと視線を床に移した。

危うく忘れるところだった。自分は獲物なんだってことを。

獲物である以上、司から何かを取ろうだなんて、そんなこと望めるわけがない。

航平は腹立たしげに机を叩いた。

「北村真理子!被害者に逆に感想の言葉まで書かせておいて、それで面白いと思うのか!

人の命を何だと思ってるんだ?そんな気持ち悪い快感のために、他人をここまで苦しめる必要があるのか?

本当に、誰もお前に手出しできないと思ってるのか?」

北村家の権勢は確かに並大抵ではなかったが、噂以上だと、彼は圧倒的な狂気を肌で感じ、同時に伊織の無力さも痛感していた。

彼は大学では新聞部の編集長として、痩せ細った野良猫のために声を上げ、正義を自認していた。

彼はよく伊織に猫の保護に関する記事を書かせた。

無実にもかかわらず狩られ、息も絶え絶えの子猫たちを見ながら、彼女は書きながら涙をこぼすこともあった。

「……ただ生きたいだけなのに。

自分たちの理屈や、自分たちの気持ちのために、平然と一つの命を奪い取るなんて」

昔はわからなかったが、今はわかった。

司は涼しい顔でコーヒーカップを持ち、そっと一口、また一口と味わっていた。

真理子は口をへの字に結び、顎をしゃくって二人を見下ろす。

「大声でわめくこと以外に、何かできることでもあるの?

だって司は永遠に私のものだもん。私がどんなに悪くても、彼は私を愛してくれる。
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