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九十九の願い事⑯

Author: 佐藤紗良
last update Last Updated: 2025-05-14 20:00:49

「えぇぇぇ! 鬼君が射精しなかった?!」

「桐生さん、声大きいです!」

大宜都比売神の店は、黄色いテントが目印。

四六時中、酒が飲めるのが売りで、店内はがやがやと賑わっていた。緑色した液体が入った泡が溢れるジョッキを持った大宜都比売神は、ふくよかな気のいいおばちゃんで、客からは『モッチー』の愛称で親しまれている。前の大通りまで真っ赤なテーブルと椅子が置かれ、桐生が言うには、あやかしの世界では流行りのデートスポットらしい。

「ちょっと待ってよ。佐加江君、色っぽくなってるし抱かれたんでしょ? 発情してたのに、鬼君にはフェロモンが効かないってこと!?」

「初めての発情が遅過ぎて、フェロモンが足りなかったとか……。抱かれたって言うか、気持ち良くして頂いただけというか」

「中出ししなかった、ってだけの話だよね?」

「いいえ」

「まさか、鬼君が挿入しなかったとか言わないよね?」

「……ナシだった、と思います」

「詰んだ」

「詰みました」

唖然とする桐生に、佐加江は顔を真っ赤にしながら口をへの字にしている。外の席で、風もないのにユラユラと揺れる提灯を佐加江はぼんやり眺めていた。

「ありえない、ありえないよ! あやかしにとって人のオメガのフェロモンって絶対だもん。……少なくともうちの天狐にとっては。注文しちゃったし詳しく話聞きたいから、とりあえずお面つけておこうか」

「お面ですか?」

「うん。そのお面、うちの子たちの子守する為に鬼君が彫ったやつなの。うまく化けられるように天狐が念を込めてるから、霊力が強いもの身につけておいた方がいいわ」

沈黙が流れ、桐生おすすめの栄養ドリンクが酒の肴と共に運ばれてきた。

「とりあえず発情期、お疲れ!」

「お、お疲れ様です」

「シケた顔しないの、佐加江君。チームオメガにかんぱ~い!!」

カツーンとジョッキを合わせると、真っ赤な液体がプシュ
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  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑲

    「全部いたしましょう、佐加江」 難しい顔ばかりしている青藍が腰を屈め、花がほころぶようにふわっと微笑んだ。 その笑顔に見とれていた佐加江に、青藍が顔を近づけてくる。 キスをされるのかと思い、目をギュッとつむると佐加江の小指に小指を絡め、青藍は歩き出した。妙に構えてしまった佐加江は、恥ずかしくて顔を上げられずにいる。 「ねぇ、青藍。この指」 「指切りです。佐加江の願い事をひとつでも叶えなかったら、私は針を千本飲んで見せましょう」 「嫌だ、変なこと言わないで。そんなつもりで書いたわけでは……ッ、わぁぁ」 小指を繋がれたまま門をくぐると、そこは地獄ではなく色とりどりの花が咲き乱れていた。 「こぼれ種で増えた者もあれば、地下茎が伸びた者もいます。これくらいは、ささやかな幸せとして赦されたかった。まさか大きくなった佐加江に、この庭の花々を見せる日がくるなど、思ってもいませんでしたよ」 季節感はなく、どういうわけか桜も曼珠沙華も一緒に咲いていた。ふと見れば稲は頭を垂れ、天狐とそっくりな真っ白な仔狐が戯れているタンポポの綿毛が、ふわっと佐加江の前を漂っている。 「素敵なお庭」 「すべて『佐加江』です」 「え?」 「今朝、こやつらの水やりをずっと忘れていたことを思い出したゆえ、失礼したのです」 「えっと」 「佐加江は、私の事など忘れてしまうと思っていました。せめて私だけは忘れぬよう、すべての花に『佐加江』と名付けました。元は幼きお前が祠に供えた花ですよ」 「うそ……」 子供の頃、鬼治稲荷の境内の桜の木によじ登り、枝を折った覚えはある。銀木犀は家の庭に咲いていたものだ。山で拾ったどんぐり

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑱

    ただ、この仔狐ーー。 途中の昆虫屋で足を止め、居眠りをする店主の目を盗んでミミズをペロリ。驚愕の店構えに、佐加江はただ呆然としていただけなのに狐の面を付けていたせいで、目を覚ました店主に親狐と勘違いされ、ひたすら頭を下げる始末。 そして、道の両端にある小さな水路へ降り、渇いた喉を潤すように天狐の真似をして美味そうに水を啜っていたかと思うと、泳いでいる鯉に鼻を吸われ「キュゥゥ」と泣き出した。青藍への土産の生肉を放り出して助けたものの、佐加江だけが水路に落っこちてしまった。 道行くあやかしに笑われながら、びしょ濡れのパーカーの裾を絞る。そんな佐加江を知らんぷりした仔狐は、近くにいたろくろ首姐さんの元へ走って、その豊満な胸元へ飛び込んで目を細めていた。 提灯がぶら下がる真っ直ぐな道がどこまでも続き、いくら歩いても同じ風景だった。 まだ、少ししか進んでないかと背後を振り返れば、桐生といた店は見えなくなっていた。空を見上げれば、逢魔が時の色。寒い暑いも感覚がなく、早く家へ帰らねばと焦る気持ちだけが大きくなっていた。「青藍……」 いつの間にか仔狐を見失い、いま自分がいる場所が来た道か行く道かわからなくなってしまった。面を外し、濡れた顔をパーカーの袖で拭う。道端に所々おかれた長椅子に腰掛け、佐加江はふうっと大きく息を吐きだした。「おや、人の匂いがするねぇ」 「本当だ。これは番を持たぬ……、しかも生身の甲の匂いだ」「珍しや、珍しや」「鬼に唾をつけられておきながら、番にしてもらえなかったのだろう」「ウヒヒヒ……、行かず後家」 どこから声がするのかと辺りをキョロキョロと見回していると、長椅子についた佐加江の手がどす黒く変化していた。「え?」 そばに置いた油紙に包まれた生肉には何も起こっていないのに、あっと言うまに肘あたりまでどどめ色に変わって行く。それは指先から何かが這い上がってくるような感覚で、手を引き剥がせない上に、長椅子と接していた佐加江の腰がズンと重くな

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑰

    「それ以上ツルツルになったら、ゆで卵になっちゃうじゃんか。佐加江君、もっと自信を持ちなって」 「でも……。桐生さん、青藍の好みって知ってます? 僕、なんにも知らなくて」 桐生の子供たちは皆、真っ白な仔狐なのだが、よく見るとずいぶんと性格が違うようだ。そわそわと忙しない子もいれば、それを気にせず桐生が座る椅子の下で眠っている子もいる。桐生の膝にいる仔狐は他の四匹と比べ、ひと回りもふた回りも小さく、生まれて間もないようだった。「俺も知らないよ。鬼君んち、うちの隣なんだけどね。真面目っていうか純情っていうか……。いつも死神しか訪ねて来ないから、浮いた話も出てきやしない」「シニガミさんとデキてるんですか?」「デキてない。仕事のパートナー」 「パートナーいるんだ」しょぼくれる佐加江に、桐生は棗椰子の実を勧めた。甘くねっとりとしていて、餡子のよう味わいだった。「ねぇ、佐加江君って天然?」「天然に気づいてたら、天然じゃないですよ。僕は違います」「ぷは! 確かに。この子、このあいだ熱があったじゃない? 佐加江君に言われた通り、冷たい川の水で濡らした手拭い首に巻いて、脇の下ひやしたら熱が下がったんだ。うちの子で熱が出たの初めてだったから天狐もうろたえて、俺を探し回ってたってわけ。だからすごいんだよ、佐加江君は」桐生に褒められ、お面の下の佐加江の頬がポッと熱くなった。「ーー保育士なんです」「保育士? 佐加江君、保育園の先生なの?!」「はい。子供が大好きで、憧れの仕事だったんです」「憧れの仕事に就けるなんて、すごい! こっちの世界にも保育園できたらいいのにな。そうしたら、天狐とたっくさんデートできる」 ネズの実を食べながら、桐生が懐かしそうに笑っていた。「俺が村にいた頃にさ、佐加江君と同じ名前のお姉さんが近所にいて、その人もすごく優しい人だったな」「僕と

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑯

    「えぇぇぇ! 鬼君が射精しなかった?!」 「桐生さん、声大きいです!」 大宜都比売神の店は、黄色いテントが目印。四六時中、酒が飲めるのが売りで、店内はがやがやと賑わっていた。緑色した液体が入った泡が溢れるジョッキを持った大宜都比売神は、ふくよかな気のいいおばちゃんで、客からは『モッチー』の愛称で親しまれている。前の大通りまで真っ赤なテーブルと椅子が置かれ、桐生が言うには、あやかしの世界では流行りのデートスポットらしい。「ちょっと待ってよ。佐加江君、色っぽくなってるし抱かれたんでしょ? 発情してたのに、鬼君にはフェロモンが効かないってこと!?」「初めての発情が遅過ぎて、フェロモンが足りなかったとか……。抱かれたって言うか、気持ち良くして頂いただけというか」「中出ししなかった、ってだけの話だよね?」 「いいえ」 「まさか、鬼君が挿入しなかったとか言わないよね?」「……ナシだった、と思います」「詰んだ」 「詰みました」 唖然とする桐生に、佐加江は顔を真っ赤にしながら口をへの字にしている。外の席で、風もないのにユラユラと揺れる提灯を佐加江はぼんやり眺めていた。「ありえない、ありえないよ! あやかしにとって人のオメガのフェロモンって絶対だもん。……少なくともうちの天狐にとっては。注文しちゃったし詳しく話聞きたいから、とりあえずお面つけておこうか」 「お面ですか?」「うん。そのお面、うちの子たちの子守する為に鬼君が彫ったやつなの。うまく化けられるように天狐が念を込めてるから、霊力が強いもの身につけておいた方がいいわ」 沈黙が流れ、桐生おすすめの栄養ドリンクが酒の肴と共に運ばれてきた。「とりあえず発情期、お疲れ!」 「お、お疲れ様です」「シケた顔しないの、佐加江君。チームオメガにかんぱ~い!!」 カツーンとジョッキを合わせると、真っ赤な液体がプシュ

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑮

    「桐生さん?!」 佐加江が鬼治稲荷へ行くと、境内で仔狐を遊ばせてる桐生がいた。丈の長いダボっとしたTシャツ一枚にビーチサンダルが、なんとも季節外れで寒そうだった。 「佐加江君、俺のこと見えるの?」 「見えますよ。それ、青藍にも言われました」 「はは、佐加江君は見えちゃう人なんだ。ここは天狐の結界が強いから、フツウの人には見えないはずなんだけどな」 「桐生さんって、幽霊なんですか?」 「生身だよ。もうずっと昔に、この村から姿を消した失踪者。この子らも半分人間だから、たまにこうやってこっちの世界で遊ばせないと、ぐずりだして大変なの」 ガハハと笑って、伸びた髪を箸で留めているうなじを見せてくれた。そこにはグジグジと生々しく血の滲む、癒えていない噛み跡が残っていた。 「桐生さんもオメガなんですね」 「うん。俺は、天狐の番なんだ。ああ……。天狐ってのは、このあいだのでっかい白狐ね。人の暦だともう十七年になるかな。あやかしの世界にいるから若く見えるけど結構おっさんなんだ、俺」 桐生のことをてっきり、同じくらいの年齢かと思っていた佐加江は驚いていた。 「天狐様は、ここの神様なんですか」 「みんなはそう呼ぶけど、俺にとってはただのスケベオヤジだね。そう言えば鬼君、伝えてくれた? 熱冷ましの方法、教えてくれて助かったって」 「いや、それどころじゃなくて……」 口ごもる佐加江の様子に、桐生は何度も頷いていた。 「分かる。鬼君もげっそりして帰ってきたしね。うちの天狐は慣れてるから、張り切って朝ごはん作ってくれたけど。ねぇ、こんなところで立ち話もなんだから、あっちへ行かない?」 「あっちって?」 「大宜都比売神がやってる店のドリンク飲む

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑭

    「そういえば、村長。セイランという人物をご存知ですか。苗字か名前かは、はっきりしないのですが」「珍しい名前だな。そんな名前は、隣村にもいないなぞ。そいつがどうした」「佐加江が発情中に、その人に世話になったと」 「危ないじゃないか。薬は持たせていたんだろ?これだから、オメガはーー。まさか妊娠なんてことは、ないだろうな」「はい。うなじに噛み跡がないので、排卵は起こらなかったと思います。それとなく、誰なのか確認してみますが」 オメガはアルファに噛まれることで排卵を誘発される、と言うのが越乃の推論だった。今、まさにそれが証明されようとしていることに武者震いした越乃は、それを隠すように両手を握り合わせた。「たとえ姦通したとしても、妊娠していなければ神子として問題ないだろう。しかし、おかしなもんだな。お前さんが東京へ行ってから、村へ入る一本道は閉鎖して、よそ者は誰も入って来なかったぞ。それに、見かけない者がうろついていたら、誰かしら気付くだろう」「ええ。佐加江は、鬼治稲荷を見てたのですが」シャワーを浴び終えた佐加江が、やつれた顔をして玄関から出てきた。「おじさん」「佐加江、家から一歩も出るなと言っただろ!」「浩ジイ、こんにちは。おじさん、あの……。少しだけ稲荷様へ行って来てはダメ?」 それさえも引き止めようとした越乃の腕を浩志が掴んだ。「佐加江。今、おじさんと大事な話をしてるから行っておいで。すぐ帰ってくるんだよ」「はい」 発情が終わったばかりのわりに、佐加江の足取りは軽い。そんな姿を浩志がニヤニヤしながら眺め、火のついた煙草を地面に投げ捨てていた。「まだ残り香がするな。腰つきだって、妙に色っぽくなってる。これだから、オメガは困ったものだよ」 もう爺さんだと言うのに、服の上からでもわかるくらい浩志は勃起している。フェロモンに当てられているのは

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑬

    廊下を歩く足音が聞こえる。 雨戸を閉め切ったまま何日も過ごした自室の布団の中で、佐加江は目を覚ました。「佐加江!」「……おじさん」「とうとう来たのか」 家中に充満した精液とフェロモンの残り香。越乃がハンカチで鼻と口を覆い、眉間にしわを寄せながら雨戸を開けていた。佐加江は久しぶりに浴びた陽射しに目を細める。「……うん」 「薬は飲まなかったのか」 「わけが分からなくなっちゃって」「そうか。……心配した。何度も電話したんだ、携帯にも保育園にも。村長も尋ねて来ただろう。一人で心細かったな、大丈夫だったのか」「青藍が、いてくれたから」 越乃は妙な胸騒ぎを覚えた。この村に、そんな名前の男はいない。それに抑制剤を飲まなかったとなると、フェロモンの匂いで様子を見に来たアルファである村長が気付くはずだ。取り乱した越乃が、佐加江のうなじを見たが噛み跡はなかった。「セイランというのは、……誰だ」 窓から見える鬼治稲荷神社の赤い鳥居を、佐加江が見つめている。「佐加江、よく聞きなさい。仕事は辞めていい。連絡はしておくから、もう行くな」「おじさん、何を言ってるの?」「無断欠勤を一週間もして、ご迷惑をおかけしたんだ。家にしばらくいなさい」 「でも」 「家から一歩も出ては駄目だ」 それだけ言い残し、越乃は急いで診療所へ向かった。「学長、とうとう来たようです」 診察室にある備え付けの電話で、越乃は佐加江に聞こえないよう小さな声で藤堂へ連絡を入れた。「ええ。いろいろあったようですが、噛み跡はついてません。今日から一歩も外へは出さないつもりですが、……もしもし?」 電話が切れてしまった。途中、ノイズが入ってよく聞き取れなかったが、内容は伝わっただろう、と越乃は受話器を置いた。

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑫

    「初めてなの」「綺麗な色をしています」「暗くて見えないくせ……、に」「鬼は夜目が利くのですよ。暗くても真昼のように見える」 その言葉にハッとした。佐加江はパジャマの裾を伸ばし、勃起してしまっている性器を隠そうとする。道理で青藍の目が暗がりでもはっきりと見えたわけだ。今も海中の夜光虫のように、青白く二双の瞳が闇に浮かんでいる。 膝に割り込まれ股を広げる姿も、頬を高揚させている顔も青藍に見えてしまっているかと思うと堪らなかった。「……んふ」「随分と苦しそうですね」 青藍の目を見つめながら、佐加江は小さく頷く。体内で軋む子宮が、何か別の生き物のように身体の底で、番を迎えることを待ちわびている。「人の丙の前でこんな顔をされたらと思うと、嫌なものです」 「あ……っ」「大丈夫ですよ。爪はしまいましたから」 独り言のように呟いた青藍の言葉の意味を理解するよりも先に、指先がニュルっと後孔へと入り込んだ。が、初めてという事もありそこは狭く、押しだそうとしている。 声というよりは、喉から空気が抜けたような気のない音が漏れる。押し広げられる感覚に内腿が震え、背中は畳の上をずりあがろうしていた。 ゆっくりと繰り返される抽送。鼻にかかったような甘ったるい喘ぎに、佐加江は必死に手の甲を噛んでいた。臍の辺りに落ちた髪にしゃらしゃらとくすぐられ、その毛先は胸を通り過ぎ、頬をなでる。 外の雷雨は激しさを増すばかりで、一瞬の稲光が雨戸の隙間を縫って二人の距離を白日の下へ晒した。息遣いが触れ合う距離。すぐそこに落ちたような雷鳴におののき、佐加江は青藍にしがみついた。「昔から、お前は怖がりです」 「ち、違う」 みぞおち辺りがヒクヒクして、嗚咽が止まらない。「……オメガで良かったなって。こんな風に発情が起こらなかったら、青藍に相手にしてもらえなかったと思うと」「発情が起こらな

  • あやかし百鬼夜行   九十九の願い事⑪

    「……青藍」 佐加江は、何度か瞬きを繰り返す。 外便所へ行った事を思い出したが、そのあとのことは青藍の仕業かと彼を軽く睨みつけた。 「そうやって人のことからかって、面白い?!」 「いや、あの」 「僕のことなんか、放っておいて。あんな風に脅かされて、怖かったんだからね。すごく怒ってるんだから」 「ーー申し訳ありません」 「そう!悪いことしたら、謝るの。良くできました!」 腹の虫が収まらない佐加江は、つい幼い頃の癖で青藍の角を片手で掴んでガシガシと撫でた。すると、彼はうっとりと表情を弛める。なんとも甘やかな表情に佐加江は赤面し、肌に吸い付く濡れたパジャマに怒りの矛先を向けた。 部屋へ着替えに行こうとしたが、立ち上がると同時に佐加江の下腹部辺りでドクンと何かが脈打つ。 「……に、これ」 臍の下あたりに、経験した事のない痛みが走った。呼吸が止まるほどの激痛だ。 男の子宮が目覚めるとき、腹痛があると越乃から教えられた。男性器を受け入れやすくするために内蔵の位置が大きく変わるのだ、と。そして、落胆する佐加江に夢を見させようとしたのか、越乃はこんなことも言っていた。 ーーアルファとオメガには、運命の相手がいる。 その相手の側で発情を迎えると、より妊娠しやすくなるよう身体が準備をするため、下腹部の痛みは酷いものになるらしい。が、これがそうなのか佐加江には分からなかった。 「痛……ッ」 腹を押さえ、うずくまった佐加江に駆け寄ろ

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