로그인祖父の死をきっかけに、山間の村に戻った冬馬は、そこで“何か”に触れてしまった。 夜の森に響く低い唸り声、皮膚に残る熱、腹の奥で疼くような感覚―― そして、現れた謎の男・朔夜。 「お前を噛んだら、もう手放せない」 耳元で囁かれたその声に、冬馬は抗えない恐怖と、知らず滲む期待を感じてしまう。 誰にも語られない村の禁忌、獣神の末裔の存在。 「噛まれたら終いだ」という言葉の意味を知る時、冬馬はもう、戻れない場所に足を踏み入れていた。 抗う心と裏腹に疼く身体。 それは愛か、呪いか。 彼はなぜ“選ばれた”のか―― 逃れられない運命の中で、二人の関係が、じわじわと絡み合っていく。
더 보기冬馬《とうま》は山を覆う霧が、薄い紗のように枝葉の隙間を滑り落ちていくのが見えた。
霧は風に流されるでもなく、重たく澱んだ空気の中で、ただそこに留まり、森の奥へと溶け込んでいくようだった。 葉の縁に溜まった雫が、ぽたり、と落ち、石の上で小さな音を立てた。 か細く消え入りそうなその音は、しかし冬馬の耳の奥に、残響のように微かに残った。 灰色の空は低く垂れ込み、雲の輪郭は滲んで、空と山の境目が曖昧だった。 視界の奥で、細い枝が風に揺れ、かさりと葉擦れの音が微かに聞こえる。 その音に、冬馬は無意識に目を向けたが、そこには何もいなかった。 けれど、その「何もいない」が、余計に胸の奥をざわつかせる。風が頬をひやりと撫で、通り過ぎていった。
車の窓をほんの少しだけ下ろすと、冷えた空気が指先に触れた。
思った以上に冷たく、一瞬、指を引き込めそうになったが、冬馬はそのままじっとしていた。 湿った木の匂いが、風の中に混じって流れ込んできた。 苔、濡れた土、落ち葉の発酵しかけた匂い。 それらが薄い靄の中で溶け合い、鼻腔をくすぐり、胸の奥にじんわりと染み込んでいく。 冬馬は深く息を吸い込んだが、喉の奥に鈍い痛みが広がり、思わず細く息を吐き出した。――こんな場所だったか。
だが、そもそも冬馬はこの場所を、ちゃんと覚えてなんていなかった。
祖父の葬儀で耳にした『山奥の村』という響きと、幼い頃の曖昧な記憶が頭の奥で擦れ合っているだけで、景色としての輪郭は残っていない。 幼い頃に一度だけ来たことがあったはずなのに、それも夢の中で見たものだったのか、あるいは作り上げた記憶だったのか、自分でも確信が持てないでいた。 目の前に広がる鬱蒼とした山道。 雨に濡れて黒ずんだ石段。 枝葉の合間から覗く、苔むした岩肌。 それらはどれも見覚えがないはずなのに、なぜか冬馬の皮膚の裏側がじわりと冷たくなる。 じっとりとした視線を浴びているような感覚が、背中の中心に触れるような錯覚を呼び、呼吸が浅くなった。 無意識に肩を竦め、首筋をすくめたところに、冷たい風が入り込み、ひやりとした冷気が背中を這った。 車のタイヤが石を踏み、ぐり、と小さな音を立てる。その音が無性に耳障りで、冬馬は思わず息を止めた。 ハンドルを握る指先には、じわじわと汗が滲んでいた。 ぬめりとした感触が掌に広がり、嫌な汗だ、と心の中で呟く。 拭おうとしたが、ハンドルから手を離すのがためらわれ、そのまま強く握りしめた。 ゴムの匂いがふっと立ち上り、鼻の奥に刺さり、息を浅く吸い込み、もう一度深く、ゆっくりと長く吐いた。 喉の奥で、かすれるような音が漏れた。 白い息にはならなかった。季節のせいだろうか。 それとも、自分の体温がまだ正常だからだろうか。 そんなことを考えながら、車のフロントガラスに散った霧の粒を指先でなぞると、指の跡が残り、じんわりと曇りが広がった。 見上げた空は、ますます重たく、低く、今にも崩れてきそうな気配を孕んでいた。 遠くで小さな鳥の声が一声だけ響き、またすぐに静寂が戻る。 その静けさは、むしろ耳に圧し掛かり、喉の奥が詰まるような感覚を残した。――なんだ、この感じは。
誰もいないはずなのに、誰かがいる。そんな空気が、指先から背骨の奥へとじわじわと這い上がってくる。
無意識に車の外へ視線を送ると、石段の脇に佇む狼の彫像が、霧に霞んで輪郭をぼやかせていた。 まるでじっと、こちらを見ているように感じられた。 目が合ったような気がして、冬馬の心臓がひとつ、強く脈打つ音を立てた。 車を停め、外に出た瞬間、空気がひどく重たく感じられた。 湿気を帯びた冷たい空気が肌にまとわりつき、呼吸するたび、喉の奥にぬるりとした感触が広がり、肺の奥まで満たされるのは、乾いた都会の空気とは違う、どこか湿った、深い森の匂いだった。 その匂いは土の匂いであり、草いきれであり、遠くで流れる水の音がかすかに混じり合った、山の呼吸そのもののようだった。 鼻腔をくすぐるその匂いは、何年も前の記憶の底をかすめるようで、けれど何を思い出すのかは、うまく形にならず、ただ胸の奥がじんわりと疼いた。 耳の奥で心臓の鼓動がひとつ、強く響く。 血が脈打つ音が、いつもよりも大きく、くぐもって聞こえた気がして、冬馬は思わず喉の奥をきゅっと詰まらせた。 肩がわずかに震える――理由のわからないざわめきが、背中の中心から這い上がり、首筋に冷たいものを落とす。 足元に目を落とすと、苔に覆われた石段がゆるやかに森の奥へと続いていた。 雨に濡れたその緑は色濃く、触れたらぬるりとした感触がしそうで、靴の裏が自然と躊躇した。だが、ほんの少し重心を移しただけで、靴底が石の上でわずかに滑り、ぬめりとした感触が足裏から伝わってきた。
思わず息を呑み、足元を確かめると、小さな石が転がり落ち、足元でカラン、と鈍い音を立てた。
その音が、やけに遠くまで響いた気がして、耳の奥がじんと痺れた。 振り返ると、車の後ろに冬馬の足跡がくっきりと残っていた。 しっとりとした土に、靴底の模様が細かく刻まれ、その奥に深い黒い土が滲んでいる。 誰もいないはずの道が、ただそこにあるだけなのに、その空間が、何かを待っていたような、何かを孕んでいたような、そんな息苦しさを纏って見えた。 喉を鳴らし、唾を飲み込むと、ぬるりとした感触が喉を滑り落ちていく。 深く息をつこうとしても、肺の奥まで冷たい空気が満ちていくばかりで、浅い呼吸しかできなかった。 石段を上がった先に、祖父の家がある。 だが、そこにはもう誰も住んでいない。 木造の、古びていて、少し傾いだ家。瓦屋根の隅は苔で黒ずみ、ひび割れた軒先が雨水を含んで重たげに沈んでいるように見える。 軒先の柱には、黒ずんだ木彫りの像がひとつ、ぽつりと置かれていた。 それは狼のようでいて、けれど正確には狼と断言できない、不確かな獣の姿をしていた。 口を閉じたその顔は、笑っているのか、怒っているのか、判別できない曖昧な表情で、けれどその目だけが、何かを静かに見据えているようで、冬馬の胸の奥がきゅうっと締めつけられた。 目が合った、と思った瞬間、背中のあたりがざわりと粟立ち、反射的に肩をすくめた。心臓がひとつ、大きく鳴った。「……じいちゃん、ほんとに、ここに住んでたんだな」
小さく漏れた冬馬の声は、湿った空気に吸い込まれて消えていった。
残ったのは、自分の呼吸の音と、森の奥でかすかに揺れる葉擦れの音だけだった。
震える指先で玄関の引き戸に手をかけると、木が軋む低い音が響き、奥の方から、古びた家の中が呼吸するような気配が立ち上がった。
古い木の匂いが鼻腔の奥にゆっくりと広がる。 畳の匂い、埃の匂い、そして、どこか湿った獣のような匂い――何かが潜んでいるような、そんな匂いがわずかに混じっていた。 その匂いに、喉の奥がざらつき、微かにむせそうになったが、冬馬は咳を飲み込んだ。靴を脱ぐと、足裏に畳の感触がじわりと染みてきた。 冷たく、少し湿り気を帯びたその感触が、じんわりと体の奥にまで広がっていく。胸の奥が、重くなる。
息をするたび、胸の中で何かがずしりと沈んでいくような感覚があった。薄暗い居間には、祖父が使っていたであろう座布団がひとつ、少しだけ傾いて置かれていた。
手を伸ばせば、まだ誰かの体温が残っているのではないかと思わせるような、そんな気配が、空気の隙間に漂っていた。 その奥――柱の影に隠れるように、小さな祠がぽつりと置かれていた。 紙垂が結ばれた注連縄がゆるく垂れ、その足元には、白く乾いた骨のようなものがいくつか散らばっており、それが何の骨なのかは分からなかった。 だが、視界の端でそれがわずかに揺れたような気がして、冬馬は思わず息を呑んだ。 喉の奥で何かがせり上がる感覚があったが、声にはならなかった。 背後から、誰かの気配がじっとこちらを見つめているような錯覚が、背中に張り付いて離れなかった。 振り返ろうと思ったが、体は動かなかった。 ただ、指先がじわりと冷たくなり、足元の畳が湿気を含んで少し沈む感触だけが、やけに鮮明に残っていた。ここは、祖父の家だったはずなのに。
なのに、今、この空気の中で呼吸をしている冬馬は、まるで――誰かの巣に、無断で足を踏み入れてしまったような気がしてならなかった。
――雪解け水が、山の小川をさらさらと流れている。 凍てつく冬の終わりを告げるように、透明な水音が谷に響き、湿った空気が土をほどいていく。 梅の蕾がふくらみはじめ、朝の光が少しずつ長くなっていく。 陽だまりにはやわらかなぬくもりがあり、湿った土の匂いが春の到来を告げていた。 囲炉裏の火が、ぱちり、と小さく弾ける。 そのそばで、冬馬は静かに茶を淹れていた。 鉄瓶から立ち上る湯気が天井へと昇っていく。蒸気の白さが朝の光に溶け込み、ゆらゆらと家の中にやさしく揺れていた。 隣の布団には、まだ朔夜の気配が残っている。 わずかに乱れた寝具と、温もりを帯びた空気。 そこに彼がいた証が、確かに息づいている。 冬馬はふと立ち上がり、障子を開けた。 外には朝靄がまだわずかに残っていて、庭先の石畳に水滴がきらめいていた。 小さな春草が、土の隙間から顔をのぞかせている。 その色は淡く、けれど強く、何もなかった場所にしっかりと命を刻んでいた。 一羽の小鳥が、いつの間にか軒先に止まっていた。 細い声で、ひとこと囁くように鳴く。 ――ああ、春が来たんだ。 冬馬はその場にしゃがみこみ、小鳥と同じ目線で空を見上げた。 風が、枝を撫でる音がする。 何もかもが、すべてが、やさしくなっていた。 茶碗を手に取り、縁側に腰を下ろす。 吸い込む空気には、もうあの冷たい刺すような冷気はなかった。 代わりにあったのは、どこか甘さを含んだ春の匂い。「……起きてたのか」 背後から声がした。 低く、落ち着いた、けれどどこか眠たげな朔夜の声。 冬馬が振り返ると、彼は寝癖のついた髪を無造作にかき上げながら、まだ少し緩んだ着物のまま、縁側にやってきた。 その体温が近づくだけで、心の底まであたたかくなる。「起きたばかり。茶、飲む?」「……ああ」 茶碗を手渡すと、朔夜は静かにそれを受け取り
風の音が変わった。 かつては冷たさを運んでいた山の風が、いまはただ、やわらかく頬を撫でるだけだった。 冬馬は、村の奥にある古びた家の縁側に腰を下ろし、庭に舞い散った落ち葉をじっと見つめていた。 あの祭りの夜から、いくつの朝を迎えただろう。もはや数えるのもやめていた。「ここ、思ってたよりも……悪くないな」 ぽつりとこぼれた独り言に、背後から静かな気配が重なる。 振り返ると、朔夜が土のついた手で鍋を運んでいた。 肩には湯気がふわりとかかっていて、ほんのりと味噌の匂いがする。「少しずつ、住めるようになってきた」 そう言って、朔夜は座敷の上に鍋を置き、冬馬の隣に腰を下ろした。 湯気がふたりの間をやわらかく揺れ、冬の名残の冷気をやさしく溶かしていく。「……俺さ、外に出なきゃって、ずっと思ってた」 冬馬の声は低く、どこか遠くを思い出すようだった。 「……」 朔夜は黙ったまま、隣でじっと耳を傾ける。「でも今は……なんかもう、いいかなって」 素直な本音だった。誰に向けるでもなく、ただ心から零れた声。 朔夜は、言葉の代わりにそっと冬馬の手を握った。 指先から伝わるぬくもりが、まるで静かな誓いのようにじんわりと沁みていく。 村人たちは、もはや冬馬を避けることはなかった。 ときおり誰かが玄関先に山菜を置いていき、子どもが遠巻きに笑いながら手を振っていく。 ――神の伴侶。 誰も口に出さない。だが確かに、そう『扱われている』ことを、冬馬は知っていた。 けれど、それでもう構わなかった。 朔夜が隣にいて、自分を必要としてくれて――この場所で共に生きている。 それだけで、もう十分だった。「朔夜……お前が、何者でもいい。俺は……お前といたい」 静かに言った言葉に、朔夜が応える。「……その言葉だけで、俺はここに在ることができる」 言葉の代わりに、指が優しく絡み合う。 火の入った鍋の中で、ぱちりと音が弾けた。 小さな音が、ふたりの空間にやさしく染み渡っていく。 冬馬は、そっと肩を寄せた。 そのぬくもりは、これまでに感じたどんな温もりよりも、確かだった。 夕暮れが近づいていた。 山の稜線が、ゆるやかに黄金色へと染まりはじめる。 陽は傾き、空の色が少しずつ赤みを帯びていく。 鳥たちの声も、いつの間にか遠のいていた。 夜の帳が、静
熱に浮かされたような夜だった。 外は、まだ深い夜の帳に包まれているというのに――冬馬の身体は、まるで火照りに飲み込まれるように、じんわりと熱を帯びていた。 薄い寝巻き一枚では、とても足りない。 だが、熱いのは肌ではない。 もっと奥――胸の真ん中から、焦げつくようにゆっくりと広がっていく、そんな熱だった。 「……朔夜……」 名前を呼ぶ声は、意識の底から滲み出たように微かだった。 ただひたすらに、求めるように。懇願するように――喉の奥で震えながら絞り出された。 その瞬間だった。 ――ふ、と。 閉ざされたままの戸が、音もなく開いた。 軋みひとつなく、まるで風が押したわけでもないのに。 部屋の空気が、かすかに揺れる。 そして、闇の中から、じんわりと沁み出すように、懐かしい『気配』が忍び寄ってきた。 朔夜――。そう思ったときには、冬馬の膝が床に落ちる。。 意思ではなく、身体が、自然と動いていた。 視線を上げる。 夜の影の奥、静かにそこに立つ男の姿が目に映った。「……どうして……来なかったんだ」 喉が震えた。 怒りでもない、責めるでもない。 ただ――寂しさが焼けるように胸を焦がしていた。 朔夜は、答えない。 ただ静かに、音もなく歩み寄ってくる。 その歩みは、まるで夜の帳をまとった影のようだった。 光に溶けることも、闇に沈むこともなく――ただ、滑らかに近づいてくる。 やがて冬馬の目の前で、彼はそっと膝をつく。 そして、言葉もなく、顔を寄せ、額と額をそっと重ね合わせた。「……悪かった」 それだけだった。 けれど、その一言で――冬馬の中に溜まっていたすべてが、崩れていった。 凍っていた想いが、ひとつ、またひとつと、静かに溶けてゆく。「あんたがいないと……俺、どうにかなりそうだった……」 声は震え、指先が朔夜の衣を掴む。 胸元に顔を埋めると、そこには――確かに、朔夜の体温があった。 熱い――けれど、それは自分を焦がす炎ではなく、帰る場所のような暖かさだった。「……怖かったんだ。お前が壊れるのが」 囁くような声が、耳元に落ちる。 朔夜の手が背中をやさしく撫でるたび、心がほどけてゆく。「けれど――もう、離さない。お前が望まなくても、縛りつける」 その低い声に、冬馬の心臓が跳ねた。 次の瞬間、強く、腰を抱き
祭りが終わった村には、奇妙な安堵が漂っていた。 子供たちは再び表を駆け回り、老婆たちは縁側で茶を啜っている。 男たちは畑に戻り、女たちは水を汲みに行く――一見、何も変わらぬ日常が戻ってきたかのようだった。 けれど、冬馬にはそれが『静かすぎる』ことに気づいていた。 鳥の声すら、妙に遠い。 風が吹いているのに、木々が揺れていないように見える。 足を止め、耳を澄ませても、何かが足りない。空気の層が一枚、ぴたりと自分だけに張りついているような、そんな感覚があった。「……誰も、俺を見ていない」 いや――そうではない。 村人たちは、確かに視線を向けている。 ただ、それは人を見る目ではなかった。 まるで、もう『人』ではない何かに対する、敬いと畏れが入り混じった視線。 以前のような拒絶でも嫌悪でもない。だが、それ以上に遠くて、触れられない。 『穢れ』の扱いから、今や『神の伴侶』のように。 それは、身を清められ、選ばれしものとして神に捧げられたという意味だった。 祭りの夜に『選ばれた』者として、冬馬の立場は変わった。 老婆たちは誰も口に出さぬが、その目は言っていた。 ――あの子はもう人ではない。神の隣にいる者だ、と。 冬馬は、ふと視線を落とした。 自分の手が、自分のものではないように思えた。 皮膚の下に、別のものが流れている気がする。 体温が変わったのではない。自分の“重心”が、どこか別の場所へ移動してしまったような感覚だった。 『村を出よう』と思っていた気持ちが、いつのまにか霧のように薄れていることに気づき、ぞっとした。 どこかへ行きたいわけではない。ただ、ここにいることが――妙に『自然』に感じてしまう。 「……まずいな」 自分でもその感覚の異常さに、舌打ちしたくなる。 そして、もうひとつ気づいたことがあった。 ――朔夜が、現れない。 あれから、何度夜を迎えても、戸が開く音はなかった。 耳を澄ませても、あの匂いは流れてこない。 まるで、朔夜という存在が、この村から『抜け落ちた』かのように。 けれど、冬馬は知っていた。 朔夜は『いる』。 確かにこの村のどこかに。 ただ、それが人の姿である必要は、もうないのだ。 ――神は姿を持たぬもの。 今、朔夜は『村の外』に姿を隠したのではない。 『村そのもの』に溶けている