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006話

last update publish date: 2026-10-04 16:51:41

 私はドアを開けながら、思わず凌さんの背中に視線を送っていた。

 ドアが閉まった瞬間、健くんが「ふぅ」と大きく息を吐き出す。

「凌さん、すごく格好いいね。優しそうだし、なんだか圧倒されちゃった」

「ふふ、でしょ? 自慢のお兄ちゃんなんだから」

 大好きな凌さんのことを褒められて、私は嬉しくてくすくすと笑った。

 ※

 私の部屋。

 ベッドの上には、引っ越し祝いに凌さんからもらった大きなクマのぬいぐるみが、壁に背中を預けるようにしてちょこんと座っている。

 私と健くんは勉強はそっちのけで、ベッドに並んで腰掛け、私の高校の卒業アルバムを開いた。

「うわ、この頃の君もすっごく可愛い。今より少し幼いね」

「やだ、やめてよ。全然垢抜けてないもん」

 三つ編みと眼鏡、化粧っ気がない顔。

 それを「可愛い」と言われて、顔を赤くしたままページを捲った。

 体育祭、文化祭、修学旅行の写真を二人で見ながら、会話をする――不意に、会話が途切れた。

 至近距離で見つめ合ってしまい、鼓動がうるさく跳ね上がる。健くんの手が私の頬に触れ、そのまま、優しく唇が重ねられた。

 お互いに肩を震わせながらの、拙くて、甘いキス。

「……いい、かな……?」

 健くんの潤んだ瞳が、私に問いかける。

「わ、私……初めてなの」

「ぼくも……。だから、優しくするから」

 お互いのウブな告白に、私たちは小さく笑い合った。

 緊張で震える手で、ゆっくりと服を脱がせ合う。

 健くんの手が私の胸を包み込んだ。けれど、緊張しているせいか、その力は思ったよりもずっと強くて、少し指が食い込む。痛い、と言えずに身を固くしていると、今度は先端を指先でなぞられた。少し擽ったくて、やっぱりちょっと痛い。

 けれど、健くんが一生懸命にそこを舌で舐めはじめると、熱が躰に回り、少しずつ、じんわりとした気持ちよさに変わっていった。

「いい?」

 健くんの声に、私は小さく頷いた。

 彼は不器用な手つきで、何度も手元を狂わせながら、どうにかコンドームを装着する。

 そして、ゆっくりと私の中に、彼自身を押し進めてきた。

「……っ、痛い……っ」

 初めて知る、躰を引き裂かれるような痛み。

 けれど、目の前で愛おしそうに私を見つめる健くんのために、私は必死に痛みを堪えて彼を受け入れた。

 奥まで、入った。

 痛いけれど、大好きな人と一つになれた喜びで、胸がいっぱいになる。

 ――ドンッ!!

 その時、どこからか激しい衝撃音が響いた。

 すぐ隣の壁の奥から聞こえたような気がして、私はビクリと体を強張らせる。

(え……? 今の音……隣から?)

 お兄ちゃんはお仕事でいないはず。じゃあ、今の音はどこから?

 不思議に思っていたら、頭上から健くんの掠れた声が降ってきた。

「……っ、君のなか、すごくあったかい……きもち、いいっ」

 音に気を取られかけた私を繋ぎ止めるように、健くんが蕩けた声を漏らした。

「うんっ……。わたしも、健くん……っ」

 健くんの声に、不穏な音のことなんて私の頭から綺麗に消え去ってしまった。

 ベッドがギシギシと小刻みに揺れ、優しい愛の熱が部屋を満たしていく。

 その様子を――。

 ベッドの壁際に座るクマのぬいぐるみが、二人の様子をじっと見下ろしていた。

 ※

 健くんが帰り、静まり返った部屋。

 私はベッドに仰向けに倒れ、ぼんやりと天井を見つめていた。

 初めての行為は痛かったけれど、大好きな人と結ばれたという幸福感が、胸の奥をじんわりと満たしている。

 不意に、玄関の鍵が開く音がした。

「……え?」

 足音の主は、聞き慣れた足取りで迷いなく私の寝室へと入ってきた。

「お兄ちゃん……? お仕事は……?」

「思ったより早く片付いてね。お前の様子を見に来たんだ」

 凌さんはそう言って、私のベッドの端に腰掛けた。私も慌てて起き上がり、彼の隣に並んで座る。

「大学はどうだ? ちゃんと馴染めているか」

「うん、今ね、こういう講義をしていて……。あ、でも、無理はしてないよ?」

 あの日助けてもらった感謝を込めて一生懸命に話す私に、凌さんは静かに視線を向けた。

「そうか。……ところで、健、といったか。あれはどういう奴なんだ?」

 突然の質問に、私は少し頬を染めながら、健くんの顔を思い浮かべた。

「えっと……優しくて、いつも私のことを一生懸命気にかけてくれて……。あっ」

 話していて、ふと気づく。

「お兄ちゃんに、すごく雰囲気が似てるの! だから、私、健くんのこと好きになったのかな……」

 無邪気に笑った、その瞬間だった。

「……くっ、くくっ……」

 凌さんが低く、肩を揺らして笑い始めた。それはいつもの優しい微笑みではなく、喉の奥から這い出るような、不気味な笑い声だった。

「あはははは! そうか、俺に似ているからか……!」

 大声で笑いだした凌さんに、私は目を瞬かせた。

 彼が、どうして突然笑い出したのか私には分からなかった。

 笑い声が止んだ瞬間、凌さんの大きな掌が、私のシャツの裾から覗く生足に触れた。

「ちょっ……お兄ちゃん、何を――」

 仰け反って逃げようとしたけれど、掴まれた足首がみしりと鳴るほどの力で固定される。

「初セックスは気持ちよかったか?」

「な、どうしてっ、それをっ……!」

 頭が真っ白になって赤面する私に、凌さんは視線を部屋の隅へと向けた。

「ゴムがゴミ箱に捨ててある。……で、どうだったんだ?」

「どうしてそんなこと聞くの!? やめて、お兄ちゃん――」

「お前を満足させられたか?」

 凌さんの手が、太腿を這って一気に上へと滑り込んでくる。

 男の力には、どう逆立ちしても勝てない。

「……随分と、童貞っぽかったもんなぁ」

 凌さんの低く濁った声が耳元で響く。

「こんなことになるくらいなら――」

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