author-banner
美木 猫助
美木 猫助
Author

Novels by 美木 猫助

好きじゃないです、と言ったら王命で結婚させられました~恋を知らない魔術師は執着騎士に囚われる~

好きじゃないです、と言ったら王命で結婚させられました~恋を知らない魔術師は執着騎士に囚われる~

溺愛TLラブコメ年の差結婚してから恋愛独占欲
「あなたのこと、好きじゃないです」 ――そう言われたのに、なぜか王命で結婚させられた。 相手は恋を知らない魔術師ミラ。 無表情・無自覚・研究最優先。好意も執着もまったく通じない。 挨拶は通り過ぎられ、 誘えば別の女をあてがわれ、 贈り物は研究対象として処理される。 なのに。 彼女は時折、何でもない顔で笑う。 ――その一瞬のために、すべてがどうでもよくなった。 恋を知らない妻と、執着をやめられない夫。 これは「好きじゃない」から始まる、すれ違いだらけの溺愛(未成立)ラブストーリー。
Read
Chapter: 第1章:前線の魔術師【008】
※ ※ ※ 朝日が照らす石畳の小径の上を、今日もミラは迷いなく進む。彼女の視線は、研究室に注がれていた。 彼女の前に、太陽の光のような男――ヴィクトルが姿を現した。 ミラは珍しく、足を止めた。 ヴィクトルは今日もまた、女性達が見惚れる笑みをミラに送り、挨拶を告げようとする前に……先に口を開いたのはミラだった。 「おはようございます、ヴィクトル副団長殿」 ヴィクトルは口を押さえた。 (名前を、呼ばれた……?) 初めてでは? 「昨日、レオンからヴィクトル副団長殿のお名前を教えてもらいました」 「今まで知らずにいたことをお詫びします」とミラは頭を下げた。 その勢いで、頭を上げた時には眼鏡はずれ、フードを被ってしまっていた。やはり、ミラは気にしない。 「は、ふっ、うっ、あっ」 「今日もまた、お元気そうですね」 ヴィクトルは口元を抑え、感動のあまり言葉が出ず、小刻みに震えている。しかも涙目だ。彼は、ミラが今まで自分の名前を知らなかったことなんぞ、どうでも良かった。自分の名前を初めて呼んでもらったことの方が重要だった。『ヴィクトル』という名に、初めて意味があるのだと思わされた。 そんな感動に震えているヴィクトルを、ミラは不思議そうに見つめてこてんと首を傾げて見せる。 (この仕草、癖だろうか) 小動物のようで、可愛い過ぎないか。 「あ」と、首を傾げたまま、ミラが声を上げた。 「身分が高い方をお名前で呼ぶのは失礼でしたね。申し訳ございません、マナーに疎いもので」 ヴィクトルの熱が、スーッと下がっていく。 ミラはずれた眼鏡を直し、フードを下ろした。ヴィクトルから笑みが消えたことに気付いてはいない。 「エルンスト副団長殿、おはようございます」 ヴィクトルの右手が、ゆっくりと上がった。 「名前で呼んでくれ。王位継承権は捨てた身だ。今は一騎士として兄に仕えているだけだ」 「そこまで親しくないので名前では呼びません」 間髪入れなかった。 「ということは、副団長殿も私を名前で呼んでいるのはおかしいことになりますよね?親しくないですし」 「いや、名を呼ぶことを許してくれると嬉しいのだが」 ヴィクトルの眉が、情けなく下がった。 「そうですか。許します」 ヴィクトルは少し黙った。 (これで良かったのか) 「ありがとう」 (良かっ
Last Updated: 2026-05-27
Chapter: 第1章:前線の魔術師【007】
※ 食事を終えた二人は、連れたって食堂を後にした。 「ミラさん、食事をしたばっかりなんですから速足で歩くのではなく、ゆっくり歩きましょう。消化に悪いです」 「研究の続きが」 「研究は逃げません」 ミラは渋々、歩く速度を緩めた――その時だった。 「ミラ!」 ミラは振り返らなかった。 足を止めず、研究室への道を、そのまま歩き続けようとした。 レオンがミラの肩を掴んだ。「……副団長殿が呼んでいます」 「あ」 ミラはようやく振り返った。 「こんにちは、副団長殿」 「やぁ、ミラ。昼間に会うのは初めてだね」 息を切らしながら前髪を掻き上げる姿は、やけに眩しいなとミラは目を細めた。太陽の光が金髪に反射しているから、だろうか。 ヴィクトルはちらりとレオンを見た。 レオンと目が合った。 レオンは無言で会釈した。 (この人、絶対俺のこと邪魔だと思ってる) レオンはそう思ったが、何も言わなかった。 レオンは毎朝欠かさずミラに話しかけるヴィクトルの努力を知っていた。ミラの背中を追うように、石畳の小径の上を彼も歩いて研究室へ向かっているからだ。 (副団長の忍耐力は、尊敬に値する) レオンはミラから一歩下がった。 二人にしてやろう、という彼なりの気遣いだった。ミラは気付いていないが……。 「そんなに急いで、どうされたんですか?」 「ミラが食堂にいると聞いて、急いで追いかけたんだが、もう既に出て行った後だった」 「そうですか。何か忘れ物でもありましたか?」 ミラは眼鏡に触れた――集中し過ぎて良く忘れるアイテムの一つだ。 「私、何を忘れたんでしょうか」 「いや、何もない……」 「何もないのに追いかけてきたんですか?」 こてん、とミラは首を傾げて見せた。息を切らしてまで追いかけてきたから、それほど重要な何かを忘れたのだと思ったのだが……どうやら違ったようだ。 「レオン、何か忘れ物しましたか?」 肩越しに振り返ると、どうしてか彼は両眉を八の字に下げて悲しそうな表情を浮かべたまま、首を左右に振った。 「レオンも忘れていないみたいです。その忘れ物というものは他の方の物のようです。持ち主が分からないようでしたら、魔法で」 「いや、だれも、何もないんだ」 ヴィクトルがミラを遮った。彼女は「そうですか」と小さく頷いた。 「追いかけた
Last Updated: 2026-05-24
Chapter: 第1章:前線の魔術師【006】
※ ※ ※ 魔術塔と騎士舎がある広い敷地内の丁度中央に食堂が存在する。そこは、騎士と魔術師が自由に食事をする場所であり、談笑もできる憩いの場であった。もっとも、騎士率の方が高いのは、魔術師達は研究室の近くでしか食事を摂らない。食堂に行く距離でさえ惜しいのだ。 長い机が並ぶ食堂は、今日も騎士達の声で満ちていた。 その中に、黒が二つ混じっていた。 ミラと彼女の同僚魔術師レオンが、長テーブルに並んで座っている。黒いローブに細身の長身、茶髪の青年だ。レオンはトレーに料理を並べているのに対し、ミラは右手に一口も齧られていないサンドイッチ、左手に書類。ミラの目線は書類に注がれていた。 「あれ、黒髪の魔術師じゃないか」 「珍しいな。食堂に来るなんて」 「……生きてたんだな」 「失礼なこと言うな」 ざわ、と周囲が揺れた。ミラは気付いていない。書類を読んでいるからだ。 レオンは小さく息を吐いた。 「ミラさん。食事中くらい書類を置いてください」 「読み終わったら置きます」 「その“読み終わる”が来ないんですよ。長に人の顔を見て食事をするように、と言われてここにいるんです。書類を置いて下さい。このまま食事を摂らなかったら、夜も食堂で食べさせられますからね」 まるで、幼い子供に言い聞かせるようなレオンの口調に、ミラは不服そうに書類をテーブルに置いた。 レオンはやれやれと肩を竦めて、スープを口に運んだ。 隣では、ミラがサンドイッチを両手で持って、ちまちまと齧りついていた。 小動物のようだ、とレオンは思った。 「付け合わせの芋も食べてくださいね」 返事がなかった。一生懸命、サンドイッチを齧っている。食事がゆっくりなのは、頭の中で魔術式でも考えているのだろう――長年の付き合いだから、分かる。 レオンは溜息をついて、ミラのフォークを取った。芋を一つ刺して、ミラの手元に置いた。 「はい」 「ありがとうございます」 ミラは言われるがまま、芋を口に運んだ。 ゆっくりと、丁寧に噛んでいる。 レオンは自分のカップを置いて、ミラの分のお茶を手渡した。 「はい」 「ありがとうございます」 ミラはお茶を両手で受け取って、一口飲んだ。 それを遠巻きに見ていた騎士達が、ひそひそと囁き合った。 「なんか、介護みたいだな」 「育児では?」 「懐いてるな」
Last Updated: 2026-05-24
Chapter: 第1章:前線の魔術師【005】
※ ※ ※ 数日後。 ヴィクトルは左腕に血が滲んだ包帯を巻いて、魔術塔に隣接する治癒室へ向かった。 訓練中に少し切った――といっても、なかなかの深さだったのだが。 フィンが青褪めている姿は可哀想だったが、ヴィクトルは彼の顔なんぞ目もくれなかった。 いつもは速攻で弾き返す剣先を、ワンテンポ遅れて弾き返したのだが――わざとだった。それも全て、 (治癒室に行く口実が出来た!) このためである。 ミラは今日、治癒室当番なのだ。 ヴィクトルは把握していた。三ヶ月間、ミラの動向を観察し続けた成果である。 訓練場を喜々と立ち去るヴィクトルの背中を、部下たちが唖然と目で追っていた。彼は知る由もない。 (完璧な作戦だ) そのまま迷いなく、治癒室の扉の前に立った。 扉を叩いた。 返事がない。 もう一度叩いた。 「…………」 やはり、返事がない。 ヴィクトルは返事を諦めて、治癒室の扉を開けた。 丸椅子に腰かけてデスクにかじりついているミラの背中が視界に飛び込んできた。デスクの上は書類だらけだ。いつもの整理整頓された治癒室とは違うこの空間――ヴィクトルはミラらしい、と思った。彼女とまともに会話したことはない彼だが、魔術以外のことに無頓着だということは三ヶ月のスト――ではなく観察したことで仕入れた情報だ。 椅子に座ったまま、ミラは長い髪を靡かせながらくるりと回転させた。その勢いで丸眼鏡が鼻の上でずれたのを直しもしなかった。 彼女の黒い瞳に、ヴィクトルが映り込む。 「これは副団長殿。今朝ぶりですね」 ミラが覚えていてくれたことに、ヴィクトルは怪我人ではあるまじき満面の笑みを彼女に向けた。 破壊力がある顔を見せられても、ミラは揺るがなかった。 「今日は、どうされましたか?」 ヴィクトルは丸椅子に座り、ミラの正面に座った。 「少し怪我をしたんだが、治してもらえるか?」 「これは」とミラは眼鏡をかけなおし、ヴィクトルの包帯を凝視した。そして、ヴィクトルを見た。「私には無理ですね」 「え」 「はい。無理です」 ――今日は、当番では? 「今日は、当番では?」 疑問を心中に抱いたままにできず、思わず声に出していた。 「当番ですが」 「ならば」 「私は魔術の研究専門です。治癒は専門外なので」 「しかし当番に」 「師匠……アルバ
Last Updated: 2026-05-24
Chapter: 第1章:前線の魔術師【004】
※ ※ ※一週間後。ヴィクトルはついに本題を切り出した。「騎士団の近くに、女性に人気のカフェがあるんですが、一緒に行きませんか。男一人だと気が引けて」ミラは少し考えた――なんと、歩く足を止めて。しかし、少し、というのは本当に少しで、三秒も経たなかった。「研究で忙しいです」やはりそうか、とヴィクトルが思った瞬間、ミラが続けた。「あそこの令嬢が時間が空いているようです。私から誘いましょうか」ミラの視線が、回廊の向こうへ向いた。確かに、木に隠れて、こちらをチラチラと見ている貴族の令嬢がいた。「あちらの令嬢は、騎士団の殿方に贈り物を届けにいらっしゃった一人です。確か、副団長の親衛隊だと仰っているのを私は聞きました」悪意がないのは分かるのだが……ヴィクトルの頑丈のはずのハートがグサグサと抉られた。「伯爵令嬢!」「あっ」止めるより早く、ミラは動いていた。――速い。戻ってくるのも、速かった。「副団長、一緒に行ってくれるそうです」「良かったですね」とミラ。「では、私はこれで失礼します」ローブを翻し、ミラは速足でヴィクトルの元を去った。残されたのはヴィクトルと名前も知らない伯爵令嬢――。ヴィクトルは口元をぎゅうっと引き結んだ。※ 結論から言うと、伯爵令嬢はとても良い人だった。「|私《わたくし》、ヘタレな男性は嫌いですの」――と言われてはしまったが……。「女性へのアプローチが下手ですわ」「今までアプローチしなくても近寄ってきたから、どうすればいいか分からないんだ」|金色《こんじき》の睫毛に縁どられた青い瞳を伏せ気味で呟くその姿は、一枚の絵画のように美しく。伯爵令嬢は一瞬見惚れてしまうものの、玉砕している姿を思い出し、憧れは霧のように消え去った。「……その言い方、ちょっと腹が立ちますわね」伯爵令嬢は眉間に皺を寄せたまま、紅茶に口をつけた。「まあ、いいですわ。私からアドバイスを差し上げます」「ぜひ頼む」伯爵令嬢はティーカップを置いた。ヴィクトルの目を見る。「女性には花を贈るといいですわ。気持ちが伝わります」「花」「ええ。花束を抱えて現れた殿方を、無下にできる女性はそうそういませんもの」ヴィクトルは真剣に頷いた。※ ※ ※翌日。ヴィクトルは花束を抱えて石畳の小径に立った。いつもはミラが歩く隣を追いかけるよ
Last Updated: 2026-05-24
Chapter: 第1章:前線の魔術師【003】
※ ※ ※ 一週間後。 ヴィクトルはついに本題を切り出した。 「騎士団の近くに、女性に人気のカフェがあるんですが、一緒に行きませんか。男一人だと気が引けて」 ミラは少し考えた――なんと、歩く足を止めて。 しかし、少し、というのは本当に少しで、三秒も経たなかった。 「研究で忙しいです」 やはりそうか、とヴィクトルが思った瞬間、ミラが続けた。 「あそこの令嬢が時間が空いているようです。私から誘いましょうか」 ミラの視線が、回廊の向こうへ向いた。確かに、木に隠れて、こちらをチラチラと見ている貴族の令嬢がいた。 「あちらの令嬢は、騎士団の殿方に贈り物を届けにいらっしゃった一人です。確か、副団長の親衛隊だと仰っているのを私は聞きました」 悪意がないのは分かるのだが……ヴィクトルの頑丈のはずのハートがグサグサと抉られた。 「伯爵令嬢!」 「あっ」 止めるより早く、ミラは動いていた。 ――速い。 戻ってくるのも、速かった。 「副団長、一緒に行ってくれるそうです」 「良かったですね」とミラ。 「では、私はこれで失礼します」 ローブを翻し、ミラは速足でヴィクトルの元を去った。 残されたのはヴィクトルと名前も知らない伯爵令嬢――。 ヴィクトルは口元をぎゅうっと引き結んだ。 ※   結論から言うと、伯爵令嬢はとても良い人だった。「|私《わたくし》、ヘタレな男性は嫌いですの」 ――と言われてはしまったが……。 「女性へのアプローチが下手ですわ」 「今までアプローチしなくても近寄ってきたから、どうすればいいか分からないんだ」 |金色《こんじき》の睫毛に縁どられた青い瞳を伏せ気味で呟くその姿は、一枚の絵画のように美しく。 伯爵令嬢は一瞬見惚れてしまうものの、玉砕している姿を思い出し、憧れは霧のように消え去った。 「……その言い方、ちょっと腹が立ちますわね」 伯爵令嬢は眉間に皺を寄せたまま、紅茶に口をつけた。 「まあ、いいですわ。私からアドバイスを差し上げます」 「ぜひ頼む」 伯爵令嬢はティーカップを置いた。ヴィクトルの目を見る。 「女性には花を贈るといいですわ。気持ちが伝わります」 「花」 「ええ。花束を抱えて現れた殿方を、無下にできる女性はそうそういませんもの」 ヴィクトルは真剣に頷いた。 ※ ※ ※ 翌
Last Updated: 2026-05-24
壊したいほど好きだから、

壊したいほど好きだから、

歪んだ愛現代ハッピーエンド初恋浮気・不倫独占欲
保育園からずっと好きだった。 ただ、それだけだった。 宮原玲は誰にでも優しい。 怒らない。乱れない。嫌われない。 渚といるときは特に、壊れ物を扱うように丁寧に触れる。 でも本当は――閉じ込めたい。めちゃくちゃにしたい。自分以外の誰にも渡したくない。 その衝動を、玲はずっと別のところで発散してきた。 相良渚には過去がある。 男性が怖い。でも玲だけは怖くなかった。 事件が起きる前の、まだ綺麗だった頃の自分を知っている人だから。 同棲が決まった夜、渚は初めて打ち明ける。 怖くなくなりたい。玲のために、自分のために。 そして同棲初日、すべてが崩れた。 優しい彼と、動画の中の彼。 ――どっちが本物?
Read
Chapter: 第1章:014
※ 自宅のマンションとは違う玄関ドア。黒いカードキーをタッチすると解錠音が鳴る。玲は勢いよく玄関ドアを開けた。 玄関に入ってすぐ、鞄と上着を投げ捨てる。靴は脱ぎ捨て、向かった先はシャワー音がする風呂場だった。 浴室のドアを勢いよく開けた。シャワーの音が、一気に大きくなる。 真央が振り返った。驚きで目が見開く。 玲は何も言わず、服のまま、風呂場へ踏み込んだ。シャワーの飛沫が、スーツを濡らした。 ベルトの金具を外しスラックスの前を寛げる。真央が言葉を発しようとしているのが視界に映ったが、玲はその声を聞きたくなかった。 真央の肩を掴んで、壁に押しつける。 「ちょっ――」 声を遮るように、玲は真央を前から貫いた。 真央の息が、詰まった。 シャワーの熱で温まったタイルと、真央の肌の熱。その境界線で、玲は荒い呼吸を繰り返しながら腰を叩きつけた。 真央の両手が玲の背中に回ってきた。落ちないように、必死にしがみ付かれ、耳元で真央の淫声が叫ばれる。 肉体同士が衝突する野卑な音と嬌声が、狭い室内にワンワンと反響する。 「……っ、ふ、あ……っ! 玲、っ……あぁぁっ!」真央の声が、濡れた壁に反射して玲の鼓膜を刺した。その艶めいた声は、玲が今最も拒絶したい渚以外の不純物だった。 「黙れっ」玲は真央の喉元を片手で抑え込み、逃げ場を奪うように壁へと押し付ける。だが、真央は挑発するように口角を上げ、更に高く、甘い声を張り上げた。 「……嫌。もっと、聴いてよ……っ、玲のっ、こんなに……っ、あぁぁ!」腹の底から湧き上がる苛立ちが、玲の理性を焼き切った。 彼は真央の腰を強引に抱え上げ、自身の剛柱を、更に深く、容赦なく突き立てた。 「っ、ひ、が……っ!!」言葉が悲鳴に変わる。玲はわざと速度を速め、最奥にある子宮口を亀頭で執拗に叩き始めた。 一突きごとにゴツリと鈍い衝撃が真央の身体を貫き、内側から強制的に声を奪っていく。 「あ、っ、ご……っ、あ、っ……!」叩きつけられるたびに、真央の視界は白く火花が散った。 声を出す余裕など、もうどこにもない。 子宮口をダイレクトに抉り抜かれる衝撃は、苦痛を通り越して脳を麻痺させるほどの快楽となり、彼女の身体を激しく痙攣させた。 「……そうだ。そのまま、何も喋るな」玲は冷徹な瞳で、絶頂のあまり白目を剥きかける真央
Last Updated: 2026-05-28
Chapter: 第1章:013
※ 電話を切った直後、玲の頭の中は渚でいっぱいだった。 グラタン。土曜日のパスタ。渚の「ふふっ」という笑い声。 それだけで、今日一日乗り越えられる気がした。 エレベーターのドアが開く。玲はスマートフォンを内ポケットにしまい、フロアに踏み出した。 玲は自分のデスクに戻り、椅子に座った。 モニターに映るのは、仕事のデータ。 (渚、ちゃんと食べてるかな) そこまで考えて、すぐに別の考えが割り込んでくる。 (金曜日……どこに行っているんだ) 残業はない、と守衛は言った。毎週金曜日、渚は嘘をついている。理由が分からない。他の男と会っているのか。そんなはずはない。でも、そんなはずはないと思いながら、頭の中は最悪の想像で埋まっていく。 玲は引き出しを開けた。 二台目の携帯を取り出す。 マッチングアプリを開いた。 (渚が嘘をついている理由が分からない) 画面をスクロールしながら、玲はそれだけを考えていた。 自分が嘘にまみれた人間だということは、分かっている。それでも――渚の嘘だけは、耐えられなかった。 プロフィールが流れていく。顔。年齢。一言コメント。 どれも、見ていなかった。 「宮原さん、お時間よろしいですか」 声がして、玲は携帯を引き出しにしまった。 振り返ると、後輩の田中が書類を手に立っていた。 「あ、はい。どうぞ」 柔らかい笑顔。穏やかな声。 頭の中に残っていた渚の笑い声が、遠退いていく。 「先方からの修正依頼が三点ありまして」 「うん、見せて」 書類を受け取る。目を通す。的確にコメントを返す。 誰も、気付かない。 渚のことを考えながら、マッチングアプリでセックスの相手を探していたことも。この胸の奥に、誰にも見せない場所があることも。(俺の表面しか見ていない) 渚には、この裏面を知られてはいけないのだ。 「助かりました。宮原さん、いつも対応早いですね」 「そう? 田中さんがまとめてくれてるから助かってるよ」後輩が嬉しそうに頭を下げて去っていく。 玲は顔に笑みを貼り付けたまま、モニターに向かった。誰もいなくなった瞬間、笑みが消えた。 引き出しを開ける。二台目の携帯を取り出して、画面を見つめた。 暫く見つめた後、玲は携帯を中に戻し無言のまま引き出しを閉めた。 立ち上がり、上着を手に取る。 「外回り
Last Updated: 2026-05-27
Chapter: 第1章:012
※ 渚は携帯を手に取ると、オフィスを出て非常階段の踊り場へ向かった。 重いドアを押し開けると、冷たい空気が流れ込んでくる。渚はコンクリートの壁に背中を預けて、通話ボタンを押した。 「もしもし、渚。お昼中にごめんね」 低く、穏やかな声。 それだけで、さっきまで胸の奥に這い上がってきていたものが、すうっと引いていった。呼吸が、少しだけ楽になる。肩の力が抜けていく。 玲の声は、いつもそうだった。どんな時でも、この声を聞くと渚の中の何かが静かになる。 「ううん、大丈夫だよ」 自分でも驚くくらい、普通の声が出た。 「ちゃんと食べてる?」 「食べてる。玲こそ、お昼は?」 「俺は後で食べるよ。渚の声が聞きたくて」渚は笑った。 玲が自分を好いていてくれることが、嬉しくて。 優しくて、頼りがいがあって、思いやりがあって。 私にはもったいない最高の彼氏。 (本当に、私でいいの?) 「……玲」 「ん?」 「なんでもない」 何を言おうとしたのか、分からなかった。本当に私でいいのか訊こうとしたのか。 それとも、ありがとう、好きだよ、と伝えたかったのか。 名前を呼びたかっただけだったのか。 「渚?」 「うん」 「今日、仕事終わったら連絡して」 「うん」 「今週の金曜日、何が食べたい?」 「ふふっ。もう金曜日の話?」 「渚と会える金曜日が好きなんだ。毎日が金曜日だと嬉しい」 渚は笑った。 「玲のグラタンが毎日食べたい」 「ははっ」 嬉しそうな声だった。 渚も、つられて微笑む。 踊り場の冷たい空気が、少しだけ温かく感じた。 「今週の土曜日、外に食べに行かない? 美味しいパスタのお店教えてもらったんだ」 「うん、行きたい」 渚の返事を聞いて、玲の嬉しそうな声が渚の耳を擽った。 「渚、また後で。電話して」 「うん。後でね」 電話が切れた。 踊り場に、渚一人が残された。コンクリートの壁に背を預けたまま、暫く動けなかった。 玲から未来の話をされると安心する。私は一緒に居ていいと許されている気がするから。 ずっと、ずっと渚は考えていることがある。 本当に自分でいいのか。玲にはもっと相応しい人がいるのではないか。 高校三年生の夏、玲に告白をされた時に一度は振った。それで終わりにすべきだった。その後、彼に連絡をしてし
Last Updated: 2026-05-27
Chapter: 第1章:011
※シーツの海に沈んだまま、玲は隣で微睡む渚の、不揃いな毛先を指で弄んだ。確かめなければ、死んでしまいそうだった。言葉という、形のない、けれど今の玲にとっては唯一の命綱を。「……俺のこと、好き?」暗闇に、玲の掠れた声が落ちる。渚は瞳を閉じたまま、夢の淵から戻ってくるように小さく答えた。「うん」「……好き?」もう一度、念を押すように。縋り付くように。渚は玲の不安を打ち消そうとするかのように、熱を持った声で微笑んだ。「大好き」「俺は、愛してる」それは、告白というよりも独占の宣言だった。「うん」「俺のこと、愛してる?」玲の指先が、僅かに震える。渚は玲の首筋にそっと手を回し、引き寄せるように答えた。「愛してる」その言葉を聞いて、玲はやっと、肺に溜まっていた熱い空気を吐き出した。嘘でもいい、と一瞬思った。彼女の「残業」が偽りであっても、今この瞬間に自分を「愛している」と言ってくれるなら、それでいいはずだった。玲は愛おしさを抑えきれず、彼女の柔らかな頭を何度も、何度も撫でる。「……シャワー、浴びてくる?」先ほど、自分が強引に止めてしまったことを思い出し、優しく促した。だが、渚は玲の瞳をじっと見つめ返すと、子供のように首を横に振った。「……くっついていたい」そう言って、彼女は玲の胸元に顔を埋め、子猫のように甘えて擦り寄ってきた。玲はその細い肩を抱き寄せながら、充足感に包まれる。彼女は今、俺の胸の中にいる。俺の匂いを嗅ぎ、俺の体温を求めている。――けれど、どうして。こんなに密着しているのに、彼女が腕の間から擦り抜けて、どこか遠い場所へ消えてしまいそうな予感が、影のように玲を追いかけてくるのか。(俺に、言えないことがあるの
Last Updated: 2026-05-26
Chapter: 第1章:010
「……っ、」 小さく息を呑んで、渚が指を引こうとする。玲はそれを逃さなかった。 指先を軽く唇で挟んで、それから離した。 渚の耳まで赤くなっている。そのあどけない反応が、さっきまで胸の奥に沈んでいた冷たいものを、じわりと溶かしていく。 (……やっぱり、渚だけだ) 玲は渚の顔をじっと見た。 「いい?」 渚は答えなかった。ただ、ゆっくりと、小さく頷いた。 顔が赤いまま、視線だけが玲を見ている。 玲は渚の顎に手を添えて、ゆっくりと顔を近付けた。 触れるか触れないかの距離で、一度止まった。 渚が目を閉じた。 それを確認してから、玲はそっと唇を重ねた。 柔らかい唇をゆっくりと喰む。さっきのプリンの甘さと、渚が塗っているリップクリームの香りが混ざって、舌先に滲んだ。 彼女の甘さを味わってから、玲はゆっくりと名残惜しそうに唇を離した。 渚の額に己の額を軽く当てて、瞳を真っ直ぐに見つめた。軽く触れるだけのキスで、渚の瞳が潤む。その顔を見る度に――もし深くしてしまえば、渚はどのように乱れてくれるのだろう。 「……いい?」呼吸を整えようと、渚は肩を小さく上下させていた。 「……シャワー、まだ浴びてないから……」 それは拒絶ではなく、彼女なりの照れや躊躇いだった。玲もそれは分かっている。いつもなら「いいよ、待ってるね」と、穏やかに彼女の髪を撫でて送り出すはずだった。けれど、今の玲にその余裕はなかった。 (渚は、どこにいた) 誰と。何をしていた。自分の知らない時間の中で、渚は笑っていたのか。 一秒でも早く、彼女を自分の一部にしたい。彼女の肌に刻まれた、自分の知らない一日の痕跡をすべて塗り潰したい。 「終わっても入るから、同じだよ」玲はそう囁き、渚の唇を再び塞いだ。浅く、角度を変えながら、何度も。渚の吐息が乱れていく。 「……あっ、」 玲はソファに座る渚の膝裏に腕を差し入れ、軽々とその身体を持ち上げた。 突然の浮遊感に、渚が驚いて玲の首に腕を回す。その腕の力が、玲の独占欲を激しく刺激した。(このまま、離さないでくれ)玲は渚を抱き上げたまま、寝室へと歩を進める。 一歩踏み出すたびに、腕の中の温もりが自分のものだという実感が強まっていく。 ベッドに横たえられた渚は、不揃いなミディアムストレートの髪をシーツに散らし、恥ずかしそうに視線
Last Updated: 2026-05-25
Chapter: 第1章:009
※ ※ ※ 金曜日の夕暮れ、玲は渚の好きな焼き菓子を手に提げて、渚の会社近くの駐車場に向かった。 渚がいつも停めている区画に目をやるも、白い軽自動車がなかった。 (……?) もう一度、確認する。間違いない――渚の車が、ない。 残業中なら、車はここにある筈だ。 玲は近くのコインパーキングに車を止めると、迷いのない足取りで渚の会社の入口へ向かった。ビルのエントランスから、退社する従業員達が出てくる。女性ばかり。 玲は入口で立ち塞がる守衛に、玲はビジネスマンらしい、隙のない微笑を向けた。 「すみません、営業の者なんですが、今から中に入ることはできますか?」 守衛が時計を一瞥した。 「この時間はちょっと難しいですね。それと、弊社は働き方改革で残業は基本的にないので、ご用件があれば明るい時間帯にいらしていただいた方がいいですよ」 「……そうですか。失礼しました」 玲は頭を下げ、その場を離れた。 夜風が冷たかった。 手の中の焼き菓子の袋が、やけに重かった。 渚のために用意したそれが、急に意味のないものに変わった。 (残業は、基本的にない) 渚が言っていた。毎週金曜日、残業が入ると。 (嘘だった) それだけだった。それだけのことだった。 なのに。 玲は歩きながら、その言葉を何度も頭の中で繰り返した。繰り返す度に、胸の奥で何かがゆっくりと形を変えていく。 (どこに行った?) 誰と? 何をしている? 玲は答えを出すことなく、夜の中を歩き続けた。どこへ向かうのかも決めないまま。 ※ 玲の部屋のドアが開く音がして、玲はいつものように穏やかな微笑みで渚を迎え入れた。だが、その胸中には、数時間前に自分の目で確かめてしまった「事実」が、冷たい|澱《おり》のように沈んでいる。 駐車場に渚の車はなく、守衛からは「残業などない」と告げられた。 それなのに、渚は少し疲れたような顔をして、玲のために買ってきたというコンビニの袋を差し出した。 「玲、お疲れ様。……これ、プリン。帰りにコンビニで買ってきたの」 玲は「ありがとう」と礼を言い、その黄色いパッケージを受け取った。 夕食は、もはや砂を噛んでいるようだった。ここは自分の家で、目の前には愛する女がいて、彼女は自分のためにプリンを買
Last Updated: 2026-05-25
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status