INICIAR SESIÓN「久しぶりじゃねえか、彩花。まさかこんなところで会えるとは思わなかった」
驚きよりも、明らかに自分を蔑むような反応を見せる拓也に、彩花はどのように言葉を返して良いか分からなかった。
彩花にとって辛く思い出したくない記憶が、目の前に現れた拓也によって鮮明に思い出される。仲良く接してくれた兄は、自らの結婚式で本性を見せた。以来家族とは縁を切っていただけに、この場でよりにもよって一番会いたくない相手に会ってしまった。彩花と拓也のちょっとした小さな騒動に、周囲の人々も様子を見るように振り向いていた。
「お前みたいな女が来るようなところじゃないだろ。俺たち家族を捨てた裏切り者が」
どう答えようかとためらっている彩花。その場にいる出席者たちは、嘲笑うように彩花を見ている。継父や義兄によって、自分が北城家を捨てた娘だということが、今日出席している参加者の間にも噂として広まっているということを彩花は察した。
泣きそうになって今すぐにでも逃げ出したい気持ちだったが、そこへ隼人の声がした。
「神宮寺家の夫人に、妙な口を聞くのはどこのどいつだ」
参加者との談笑を終えた隼人が、騒ぎを聞きつけて彩花のもとに戻ってきた。
「神宮寺社長……」
隼人の姿を見て、拓也は凍り付いたように唖然となった。
「改めて紹介する。俺の婚約者の、彩花だ」
そう隼人が言った途端、彩花は肩を抱かれた。
――こんな公の場で、はっきり言っちゃうんだ。
彩花はどんな言葉を発して良いのか分からず、軽く会釈をすることしかできなかった。
「バカな……彩花が、神宮寺社長の婚約者だなんて……」
拓也は苛立ちを隠せない顔を見せたが、明らかに動揺をしていた。
「それともう一つ。彩花が経営しているスタートアップ企業に、我が『神宮寺ホールディングス』は出資することにした」
歓喜とも驚愕とも言える声が、そこかしこから漏れた。
「彩花、お前が神宮寺社長に取り入ったか? 自分の会社のために、お前は平気で自分を売るんだな。そんな奴、北城家には必要ねえ。やっぱり、家飛び出して正解だったな」
拓也が鼻で笑い、さげすむように彩花を見ると、隼人はいきなり拓也に殴りかかった。出席者の女性たちの悲鳴が会場に響き渡る。
「北城専務。俺や彩花に恥かかせるようなことしたら、次はパンチじゃ済まねえぞ」
「……」
「これ以上、俺の目の前にその汚ねえ面見せんな。とっとと、失せろ」
隼人の圧に負け、拓也は逃げるように去っていった。彩花はそんな義兄の姿を、やりきれないように見つめていた。
「騒がせて申し訳ない。ああいう、俺のビジネスや私生活を邪魔する奴は、どんな相手だろうと許さん。そのつもりで」
一度頭を下げた隼人だが、その目の奥から感じる圧は、その場にいた参加者が反論できないほどだった。彩花は気まずそうな思いのまま、隼人と一緒に頭を下げた。
会も後半にあり、参加者たちは酒が回って饒舌に話している様子が会場のあちらこちらで見受けられた。始まって間もなく起きたトラブルに疲れた彩花は、会場の突き当りにある小さなバルコニーで外の空気を吸っていた。
――婚約者は、あくまでフリだよね。フリなんだから……。
自分にそう言い聞かせているが、拓也を殴ったことと、いきなり肩を抱かれたことで、彩花はふと隼人のことを考えてしまっていることに気がついた。
「
後ろから聞こえる声に、彩花はふと振り返った。赤いチェックのスーツ姿に、青い眼をしている彼を見て、彩花は優しい笑みを浮かべた。
「もしかして、ジュリアン?」
それは間違いなく、小学校が一緒だった同級生であり、近所に住んでいた彩花の幼馴染、
「ジュリアン、私は唯花じゃなくて、彩花だよ」
亡くなった双子の姉の名前を口に出したのは、何年ぶりだろうか。その名前から、彩花にとってまた辛く苦い出来事が蘇ろうとしている。
「ああ、彩花ちゃんだったか。ごめん、双子だから、つい」
「しょうがないよ、私たちそっくりだから、よく間違えられたし」
「唯花ちゃんは、元気なの?」
ジュリアンに尋ねられ、彩花はうつむいてしまった。唯花の死をジュリアンは知らない。そして唯花が亡くなった原因を、彩花は自らの口で伝えることができなかった。それでも昔の自分を知るジュリアンには話さなければいけないと思っていた。
「あのね、唯花は……」
彩花が口を開いた時、バルコニーに隼人がやってきた。
「おい、何してる」
「神宮……隼人さん」
「ちょっと来い」
彩花は隼人に腕を掴まれ、そのまま会場を後にした。
「痛いですよ、神宮寺社長……」
ホテル裏の駐車場まで連れ出された彩花は、腕を振りほどいた。
「いきなり何ですか。そんな強く引っ張らなくても良いじゃないですか?」
「あのハーフは、何者だ」
明らかに隼人が不機嫌になっていることが、一目瞭然だった。
「松島ジュリアン。私の幼馴染です」
「俺の前で、他の男を想うな」
「は? 想うって、彼は同じ小学校に通った同級生ですよ。恋愛感情なんてありません」
ムッとした彩花は、きっぱりと否定した。
「さっき、唯花って言ったよな。誰のことだ?」
「え? そんなこと、どうして社長に……」
「誰なんだ?」
詰め寄ってくる隼人に気圧され、彩花は重い口を開いた。
「……私の、亡くなった双子の姉です」
「亡くなった?」
「もう……十年になります」
彩花の脳裏に、瓜二つの姉唯花の死に顔が浮かび上がった。拭い去れない唯花の死という出来事を思い出すと、自然と鼻の奥がツンとして、彩花の目からはいつの間にか涙がこぼれていた。
「お前……」
涙を流す彩花の姿に、思わず隼人も言葉を失っていた。
「どうして、そんなこと聞くんですか? 神宮寺社長、あなたは一体……」
「泣くな……。悪い、嫌なこと思い出させちまったな……」
彩花の涙は止まらない。唯花のこととなると、仕事の時のような冷静さを失ってしまう。すると彩花はいきなり隼人に抱き寄せられ、唇を奪われた。
「じゃあ、行ってきます」 この日、健太は出張のためスーツケースを引きずって会社に顔を出し、必要な書類だけ取りに来た。「ごめんね。本当は、私が行かなきゃいけないのに」 申し訳なさそうに、彩花が言った。「良いんだよ。もし出張先で何かあったら大変だし、何より彩花が今できることをすれば良いんだから」「うん……」「健太がいない間、私が彩花のフォロー入るから」「よろしく。新幹線の時間もあるから、そろそろ行くわ」 去っていく健太を、彩花とさくらは見送った。「ねえ、何かあった?」 健太の姿が見えなくなると、いきなりさくらが尋ねてきた。「え?」「考え事してるような気がする」「実はね……昨日、神宮寺社長がここにいらっしゃったの」 彩花は昨晩に起きた出来事を、さくらに告げた。「は?」 不快感を示すように、さくらは彩花を見た。「私も、びっくりした」「何しにみえたの?」「本気で婚約者になってほしいって、言われて……」「それで、彩花は何て言ったの?」「もちろん、断ったよ。病気のことだって、言ってない」 彩花は溜息をつきながら、自分のデスクの椅子に座り込んだ。さくらは椅子を移動させて、彩花の間近までやってきた。「ねえ彩花。もしかして、神宮寺社長のこと、本気で好きになってる?」「え……」 思わず彩花は言葉に詰まった。「病気のことが言えないのは、神宮寺社長を傷つけちゃうからって考えてるんでしょ」「さくらには、全部お見通しなんだね」 彩花は苦笑した。「婚約者のフリを解消して、ビジネスだけの付き合いをしようだなんて上手い理由つけて神宮寺社長のことを避けてる理由も、その辺りでしょ」「うん……」 口をつぐみ、彩花は小さく頷く。「最初は婚約者のフリでも、一緒にいたら、情が移っちゃうんだろうね。付き合ってるカップルでもさ、特にこれといったきっかけもなくて、気がついたら好きになってましたってパターンあるじゃん。それと一緒でしょ?」「……ちょっと、違うかも」「え、何かきっかけでもあった?」 事細かには伝えなかったが、彩花はさくらに、五年前の拓也の結婚式の夜に、浮浪者のような状態になっていた隼人と出会っていたことだけを伝えた。「そんなことがあったの?」 さくらは目を見開いた。「あの時はお互いに連絡先なんて交換しなかったら、どこの誰か分からなか
彩花は、目の前で隼人が発した言葉を聞いて、口が開いたままだった。「今、何ておっしゃいました?」「二度も言わせるな、こんなこと」 確かに彩花は、隼人の言った『本気で、俺の婚約者になってくれ!』という言葉が耳に残っていたが、にわかに信じられないことだった。「本気ですか?」「だから言ってるだろ、本気で婚約者になってくれって」 これ以上、彩花は隼人にどのような言葉をかけて良いか分からず、迷っていた。このままの関係が続けば、間違いなく病気のことを話さなければいけない。しかし彩花の中で、自分の病気を知った時に隼人がどんなリアクションをするかは容易に予想がつき、悲しい思いをさせたくないという考えがあった。「……お気持ちは嬉しいですが、やはり神宮寺社長には、もっとふさわしい方がいらっしゃると思いますよ」 彩花の中で、せめてもの隼人に対する断りの言葉だった。あまり深く話し過ぎたり、変に断ると、逆に隼人はしつこく言ってくるだろうと予想していたからだ。「ふさわしい相手なんて、いるわけないだろ……」 隼人は小さく呟いた。「俺はな、結局家族の呪縛から逃れられないんだよ。『神宮寺ホールディングス』の会長の息子である以上、親の選んだ相手としか結婚できない。それに、会社を守る責任もあるからな」「会社のために、ご自身を犠牲にしなければいけないんですね。経営者の家族には、よくある話じゃありませんか」 現に、血の繋がらない兄である拓也も、会社のために社長令嬢と結婚した。兄がどんな口説き文句を言ったかは分からないが、拓也夫婦は円満な関係であることは、五年前の結婚式直前から分かりきっていた。「お前も、同じような家庭環境で育ったんだよな……」「ええ……。でも私は、家族と縁を切りました。それに、会社は兄が継いでますから、父が同じような経営者の息子と私を結婚させるつもりはないでしょう」「北城社長は、お元気か?」「父をご存知なんですか?」「何度か、経営者の会でお会いしたことがある。温厚ながら、経営の方では鋭い洞察力をお持ちの方だ」 隼人の言う通り、継父は優しいイメージだった。幼少期から家をよく空けることが多かっただけに、たまの休みになるとしっかりと家族との時間を大切にしてくれている人だった。「お前が家族と縁を切るなんて、きっと何かあったんだろ」「……父というより、兄が……
余命宣告の件を伝えてからというもの、彩花はさくらと健太に支えながら、何とか日々の業務に従事していた。 体調は日に日に悪化していく一方だったが、それでも彩花は仕事をしている間こそが自分らしくいられると思い、少しの体の不調で休みたくはないと思っていた。彩花の中では、むしろここで音を上げると、自分自身に負けることを意味すると考えていた。「彩花、大丈夫?」 さくらが声をかけてきた。「うん。これぐらいなら、何とかね」 ずっとパソコンの画面を見続けていると、時折めまいや立ち眩みが酷くなる時がある。しかし、パソコンの画面も見れないようでは仕事にはならなかったので、彩花は視界がぼやけると一旦目を閉じて、少しの休憩を取るようにしていた。「中間報告書の書類、俺が作ろうか?」 健太が名乗りを上げてきた。彩花は、隼人を始め『神宮寺ホールディングス』の役員たちに、出資を経てから現在までの中間報告をまとめた報告書を作成している最中だった。細かい数字や報告内容を考えると、それだけで大きな負担になっていた。「もう少しで終わるから、大丈夫」 少し息が荒くなっていたが、彩花は何とか笑ってごまかした。「中間報告会、私が代わりに行ってこようか?」「さくら……」「今の彩花には、中間報告会でプレゼンするのは負担が大きすぎる。かえって、向こうの人たちに余計な心配かけさせるだけだよ」「そうだよね……」「体調不良のため欠席、急遽私が代役で報告をするってことで、当日向こうの人に話せば分かってもらえるでしょ。それに、神宮寺社長だって出席するんだから」 彩花は黙ってしまった。建前上『ビジネスとしての付き合い』と言って、隼人の婚約者のフリを断ってからというもの、ほとんど連絡は取っていない。それは、仕事に関してもそうだった。また、どこかで自分の病気のことを隼人に気づかれてしまうのではないかという怖さもあった。「あの社長のことよ。彩花が体調不良だなんて聞いたら、顔色変えてお見舞いに来るかもしれないよ」 苦笑してさくらは言ったが、健太は怪訝な顔になる。「いや、その神宮寺社長も今は難しい立場にいるかもよ」 ビジネスに関する時事的な出来事に過敏な健太は、噂レベルではあるものの、隼人の両親が行おうとしている新規事業のことを把握していた。「じゃあ、共同で事業をスタートさせたら、そのもう一つの会社
ひなたとの小さな諍いがあったその日、隼人は何とか平常心を保ちながら、一日の業務を終えようとしていた。「失礼します」 ドアのノック音がして、千晴が入ってきた。「社長、明日のスケジュールの確認です」 千晴がタブレットを見せてきた。明日のスケジュールも、びっしりと埋め尽くされている。「明日も、ミーティング続きだな」「ええ」「それにしても、よくここまで無駄のないスケジュールが組めるな」 千晴が作成したスケジュールは、移動時間を含めた綿密なものだった。車での移動時間、しかも交通状況も加味したうえで作成したもののため、一つの会議が終わって、その次の会議へ移動する時も遅刻しないようになっていた。「これでも、結構考えてるんですよ。いかに、社長の時間を無駄にしないかと」「そうか……」「……社長。今朝の件、まだ気にしていらっしゃるんですか?」 思わず隼人は、千晴を見た。「社長が考えていらっしゃることは、何となく分かります。結婚のこと、焦っていらっしゃるのでしょう」 隼人は千晴に何も言い返せなかった。「しかし、こういうことは焦るほど良いことはないと思いますよ」「……お前は、誰と結婚することが良いと思う?」 隼人はふと尋ねた。すると千晴はタブレットの画面を切り、「その中に、私は含まれていませんか?」「その考えは、なかったな」 苦笑して隼人が答えた。隼人の中で、千晴は仕事において重要な存在であることは確かだったが、結婚について考えたことはなかった。「あの頃から、お前は俺のビジネスにおいて欠かせない存在だった。それに嘘はない」 ふと千晴を傷つけてしまったのではないかと思い、隼人は何とかフォローした。「ありがとうございます。社長にそう言っていただけて、十分です」 だが千晴の顔はわずかに寂しい表情をしていることを、隼人は見逃さなかった。「悪い。不快にさせたなら、謝る」「いえ、良いんです。私はこの五年、社長の苦労を見てきました。今でもこうして、社長のもとで働けること自体、ありがたいと思わなければ」 共に一から事業を立ち上げた時のことを、隼人は思い出した。小さい事務所だったが、それでも千晴が一生懸命に働いてくれて、自分をフォローしてくれていたことは、今でもはっきりと覚えている。「私が秘書の立場でこんなこと言うのはなんですが、社長には幸せになって
「私、そんな結婚許さないからね」 甲高い声で詰め寄るひなたを、隼人は半ば呆れ顔で見ていた。「お前、どこでそんな情報知ったんだよ」「園崎麗菜がイメージキャラクターを務める新規事業は、隼人兄ちゃんの両親と、うちのパパがやり始めようとしてることなんだよ。私にだって、いろんな情報入ってくるの」 自分たち親子とは違い、ひなたが父親と良好な関係を築いていることにも、隼人は腹を立てていた。「言っとくけど、隼人兄ちゃんの結婚相手にふさわしいのは、私だからね」「は?」 隼人はひなたを睨みつけたが、それでもひなたは続けていく。「だってそうでしょ。園崎麗菜っていうのは、たかがイメージキャラクターじゃない。契約期間が過ぎれば、また違うタレントを起用する可能性だってある。でも、事業をずっと続けていくんだったら、付き合いは半永久的に続くじゃない」 隼人は動じなかった。どっしりと、そのままソファーに深く座り込んで足を組むと、ひなたの反応を楽しむように覗き込む。「だが、その事業だって必ずしも上手く行くとは限らないだろ」「え……?」 ひなたは動揺するように、隼人のほうを慌てて振り向いた。「それ、どういうこと?」「お前、忘れたわけじゃないだろ。五年前、うちの会社で起きたこと」 五年前の神宮寺家のお家騒動は、当然ひなたも周知の事実だった。「まあ、それは……」「あの時だって、親父たちは俺を追い出して、意気揚々と南米への事業拡大に着手しやがった。だが、一年も過ぎればその事業が明らかに失敗だってことは明白だったんだ。今回だって、五年前の二の舞を踏むことだってある。いくらお前の父親と手を組んだ事業とはいえ、それが必ず成功するとは限らないだろ」「でも……」「事業に失敗して、お互いの親同士の中が険悪になったら、どうする? お前、耐えられるか?」 ひなたがビジネスの世界の厳しさを知らないことを把握している隼人は、逆
一週間後のある晩、『神宮寺ホールディングス』の裏口に一台のワンボックスカーが駐車された。後部座席のドアから降りてきたのは、つい先ほどまで出演中のドラマの撮影を終えたばかりの麗菜だった。運転席からは、マネージャーの野崎が降りて来た。 「園崎様、お待ちしておりました。こちらへ」 迎えのために待っていた千晴が対応し、そのまま麗菜と野崎が中へ入っていく。 「さすがは『神宮寺ホールディングス』さんですね。本社ビルも立派な造りで」 何とか会話をしようと、野崎が千晴に声をかけて来た。 「ありがとうございます。先日連絡しましたように、本日社長とお会いになるのは一時間しか時間が作れませんので、ご了承ください」 「ええ。麗菜も、明朝からまたドラマの撮影が入っておりますので、長居できないのはお互い様ということで」 「周囲の目もありましたので、裏口に停めていただくことになり申し訳ありませんでした。しかしこれも、社長のお考えがあってのことです」 「当然ですよ。堂々と表から入って、週刊誌にありもしないでまかせな記事を書かれては、麗菜のイメージダウンですからね」 隼人のいる社長室に向かう間、千晴と野崎が会話をするだけで、一緒に歩いている麗菜はただスマホを触るだけで、一言も発さなかった。 ――一言ぐらい、何か言えば良いのに。 普段テレビで見ている明るいイメージとは違っていただけに、千晴にとっては、麗菜の第一印象は良いものではなかった。 社長室の応接用のソファーで、隼人は落ち着かない様子で貧乏ゆすりをしていた。 ――一時間……一時間で終わる。 とにかく隼人は、麗菜との対面を早く終わらせたかった。 ノック音がして、麗菜と野崎を従えた千晴がやってきたのは、その時だった。 「社長。園崎麗菜様が、お越しになりました」 「初めまして神宮寺社長。麗菜のマネージャーをしております、野崎と申します」 どっしりとした体形で、今にもボタンが取れそうなカッターシャツを着ている野崎が、先に名刺を渡してきた。 「神宮寺だ」 隼人は立ち上がると一言、野崎に呟いた。ふと麗菜を見るが、一向にこちらと目を合わせる様子がなく、隼人は訝しい顔になった。 「二人だけで話がしたい。席を外してくれ」 「承知しました」 「かしこまりました、ではごゆっく







