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第2話

Auteur: 紗々
私は重い頭を持ち上げて茂樹の瞳をじっと見つめ、すっかり掠れてしまった声で言った。

「茂樹、あなたは5年前、私に約束してくれたはずよね。

彼女とはもう縁を切るって」

茂樹は小さくため息をつくと、困ったように私の涙をそっと拭った。

「あの時は、本当にそのつもりだったんだ。

だけど、その後、萌衣が妊娠したんだ。

俺はあの子の父親だから、彼らに対して、責任を取る必要があるんだ」

私が黙っているのを見て、茂樹はまた私の肩に手を置いた。

「いい子だから。お前も一度流産しているから、そのつらさはわかるだろう?そんな彼女を、放っておけるわけないじゃないか」

その言葉を聞いた瞬間、冷え切っていた体が、また細かく震え出した。

5年前、お腹の赤ちゃんを失ったとき、茂樹は申し訳なさそうにベッドの前に膝をつき、自分の頬を何度も何度も強く叩いていた。

自分が最低な人間だ、死んでお詫びをしたいと言う。

男のくせに、医者から流産の手術についての説明を聞いただけで、息が詰まるほど激しく泣き崩れたのだ。

「あの時、すごく痛かったか?」

彼は震える手で私の手を握り締め、誓ってくれた。

「美晴、これからは絶対にお前を大切にする。もう悲しい思いはさせないよ」

だけど、それから5年が経った今、「流産」という言葉を聞くだけで青ざめていたあの人は、すっかり変わってしまい、平気な顔をして、こんな冷酷なことを口にできる。

涙がますます溢れてきて、私は絶望に引き裂かれながら彼に問いかけた。

「そんなに彼女のことが心配なら、どうして私と一緒にいるの?」

重苦しい沈黙が流れた後、茂樹はため息を漏らした。

「それはもちろん、お前のことも愛しているからだよ」

パシッ!

横を向いた茂樹の顔を睨みつけ、私は震える声で叫んだ。

「茂樹、あなたなんて最低よ!」

茂樹は口をもごもごとさせ、ふっと笑った。

「少しは気が済んだか?

気が済んだなら、家に帰ろう」

彼は強引に私を車へ連れて行き、シートベルトを無理やり締めた。

車は急発進してスピードを上げた。

道中、私は彼に向けてたくさんの暴言を吐いた。

茂樹はただ黙って、反応も見せずにそれを聞き流していた。

だが、そこに電話の呼び出し音が鳴り響いた。

萌衣の泣き出しそうな声がスピーカーからこぼれる。

「茂樹、はやとがパパに会いたいって泣き止まないの。車にも乗ってくれなくて、どうしたらいいの……」

急ブレーキが乱暴にかかり、シートベルトが食い込んで吐きそうになった。

茂樹は突然こちらのドアを開けると、焦るように私を外へ押し出した。

「美晴、ちょっと急用ができた。お前は先に一人で帰っていて、ね。いい子だから」

押し出された場所は、よりによって汚れた水たまりだった。

私はそこへ倒れ込み、跳ねた汚水で服が台無しになった。

次の瞬間、車は目の前から激しい音を立てて走り去っていった。

地面に打ちつけられたせいで、少し膨らんでいたお腹に強い痛みが走る。

周りの通りすがりの人たちが、怪訝な顔をしたり、同情したりしながら、こそこそと囁き合っていた。

冷たい路上で丸まりながら、私は最初の子を失ったあの最悪な時期を思い出していた。

毎晩のように眠れず、目を閉じるたびに、「どうして僕を殺したの?」とあの子に問い詰められる悪夢を見た。

私は家の中で泣き崩れ、どうにかなってしまいそうだった。

茂樹もまた同じように苦しんでいたのだ。

私に会うのを拒まれても、私が疲れ果てて眠るまで密かに外で待ち、寝室に忍び込んでは私の手を握っていた。

真夜中にふと目覚めると、彼は私の手をぎゅっと包みながら、もう片方の手を平らな私のお腹の上にそっと重ねていた。

真っ赤になった目元から大粒の涙を流し、うつむいていた。

何を呟いているのかよく聴けば、何度も、「ごめんね」と謝り続けていたのだ。

あの子をそれだけ大切に想ってくれた姿と、8年も育んできた愛があるから、私は、もう一度彼にやり直す機会を与えたのに。

だが結果はどうだ。私たちの子が死んでわずか1年後に、彼は萌衣との子を作ったのだ。

下腹部のズキズキとした激痛がそんな雑念を打ち消し、私は激しい痛みに堪えながら必死に立ち上がった。

衝撃で液晶にヒビが入ったスマホを拾い上げると、そこにちょうどインスタの画面が表示された。

萌衣が一枚の写真を投稿していたが、コメントは添えられていなかった。

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