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第2話

Aвтор: 藤永ゆいか
last update Последнее обновление: 2025-04-15 17:05:04

わわ、どうしよう。

慌てふためく私だったけど、交わった視線はすぐに、佐野くんのほうから逸らされてしまった。

だよね、逸らすよね。分かっていたことだけど……。

胸の辺りが少し痛むのを感じながら、私は自分の席へと向かった。

**

「おい、菊池。ちょっと良いか?」

数学の授業のあと、私は教科担当の先生から声をかけられた。

「悪いけどこれ、職員室まで持って行ってくれないか?」

先生が言った“これ”とは、先ほど授業で回収したクラス全員分の課題プリント。

「先生このあと、用があるから。頼んだぞ」

私が返事するよりも早く、先生は強引にプリントの束を私に渡してきた。

こうなったら、持って行かない訳にはいかなくて。私は、3階の教室から1階の職員室まで急いで向かう。

──ガラッ!

ようやく職員室に到着し、私が扉を開けたとき。ちょうど扉の先に立っていた人と、思いきりぶつかってしまった。

「きゃっ……!」

その拍子に足元がふらつき、持っていたプリントが宙を舞う。

「危ない!」

転びかけた私の身体を、目の前のしっかりとした腕が支えてくれた。

だっ、誰……?恐る恐る相手の顔を見上げて、息をのんだ。

私がぶつかった人はなんと、佐野くんだったから。

「ご、ごめんなさいっ!」

慌てて彼から身体を離してどうにか謝るも、私は佐野くんの目を見られず、うつむいてしまう。

別れて2年になる今でも私は、佐野くんと話すときは目を見れないし、緊張してしまうんだよね。

「……はい」

先ほどぶつかった拍子に床に散らばったプリントを、佐野くんが拾って渡してくれる。

「あっ、ありがとう」

私は視線を彼から逸らしたままプリントを受け取り、何とかお礼を告げた。

「……気をつけろよ」

無表情でそれだけ言うと、佐野くんはスタスタと歩いていく。

佐野くん……そっけないけど、プリントを拾ってくれたりして、何だかんだ優しいな。

私は、歩いていく佐野くんの背中を見つめる。

中学の頃、クールな佐野くんが笑顔で楽しそうにバスケするところを見て一目惚れして以来、ずっと彼が好きだった。

未練がましいかもしれないけど。別れた今でも、私は……佐野くんのことが好き。

一度は佐野くんの近くまでいけたのに、今はすごく遠い。また前みたいに、ほんの少しでも彼に近づけたら良いのに……。

私は持っている課題プリントの束を、胸の前でぎゅっと抱きしめる。

でも、2年前と何ひとつ変わらない私が、佐野くんと仲良くなれるなんてことは、きっともうないんだろうな。

だから……こうして学校で佐野くんを見ていられるだけで、今は十分だ。

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