『俺、菊池さんのことが好きなんだ』中学2年生の1月。初雪が降った日の放課後。誰もいない教室で私・菊池陽菜(きくちひな)は、ずっと好きだった同級生の佐野伊月(さのいつき)くんに告白された。『菊池さんが良ければ、俺と付き合ってくれないか?』『……っ、はい。よろしくお願いします』私の返事は、もちろんOK。憧れの佐野くんと両想いだなんて、泣きそうなくらいに嬉しかった。だけど……幸せは、長くは続かなかった。『……俺たち、別れようか』3月、校庭の桜の蕾が膨らみつつある頃。中学2年生が終わるのと同時に、私たちのお付き合いも終わりを迎えた。あれから2年。高校1年生になった今でも私は、密かに佐野くんのことを想い続けている。**3月中旬の、ある日の朝。「やばい。もう時間だ」高校の制服姿の私はスクールバッグを肩にかけ、慌てて自宅の玄関へと向かう。菊池陽菜、16歳。肩下までの黒髪ストレートヘア。身長150cmと小柄で童顔のせいか、実年齢よりも下に見られることが多い。「それじゃあ、お母さん。いってきま……」「あっ。ちょっと待って、陽菜」言いかけた『いってきます』は、お母さんに途中で遮られてしまった。「何?」「あのね、陽菜。今日、あなたに大事な話があるから。学校が終わったら、なるべく早く帰ってきてくれる?」「……?うん、分かった。それじゃあ、行ってきます」大事な話って何だろう?と首を傾げながら、私は走って家を出た。私が通う高校は、家から徒歩20分ほどのところにある。「はぁ、はぁ……っ」どこまでも晴れ渡る空の下を、私は全速力で駆け抜ける。時折ふわりと頬を掠める風は温かく、近くの土手に咲く濃いピンク色に染まる河津桜は、ちょうど見頃を迎えた。冬が終わってやって来た春を、全身で堪能したいところだけど。学校に遅刻しそうな私は、ただひたすら通学路を走り続けた。**ふう……いつもよりも家を出るのが少し遅くなったけど、何とか予鈴までに間に合った。「佐野くん、おはよぉ」1年4組の教室に入ると、可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。そちらに目をやると、窓際の佐野くんの席が女の子たちで賑わっている。佐野くん、ほんとよくモテるなぁ……。「ねえねえ、伊月くん。昨日のドラマ見たー?」「……見てない」女の子に話しかけられるも、窓の外に顔を向けたままそっけな
Last Updated : 2025-04-15 Read more