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第8話

Auteur: 静香
彼女は、自分の家を取り戻したかった。

何しろそこは、僕と彼女が三年暮らした家だったからだ。

もう僕の物は何ひとつ残っていなかったとしても、そこにはかつての幸せな記憶だけは、まだ残っているはずだった。

「母さん、あと何日かしたら、文香を説得して別荘を俺の名義に変えさせるよ。

自分の夫も子どもも放って、俺と、しかもよその子どもの世話ばかりしてるんだからさ。あんな間抜けな金づる、もう二度と見つからないかもしれない。

だったら今のうちに、少しでも多く搾り取っておかないとな」

別荘に入る前から、文香の耳には、恒一とその両親のそんな会話が届いていた。

結局、すべては彼女の金目当てだったのだ。

「弟のことも忘れるんじゃないよ。あの子にも家を一軒用意してやらなきゃ。それが無理なら、この別荘をあの子の新居にしたっていいわ」

文香が幼いころから恒一を特別扱いしてきたのは、彼の家がずっと弟ばかりを優先していたと知っていたからだった。だから彼女は彼に優しくした。

十数年にわたる縁があったからこそ、親から与えられなかった愛情を、せめて自分が倍にして返してやりたいと思っていた。

残念なことに
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  • これが、妻が選んだ家族か   第8話

    彼女は、自分の家を取り戻したかった。何しろそこは、僕と彼女が三年暮らした家だったからだ。もう僕の物は何ひとつ残っていなかったとしても、そこにはかつての幸せな記憶だけは、まだ残っているはずだった。「母さん、あと何日かしたら、文香を説得して別荘を俺の名義に変えさせるよ。自分の夫も子どもも放って、俺と、しかもよその子どもの世話ばかりしてるんだからさ。あんな間抜けな金づる、もう二度と見つからないかもしれない。だったら今のうちに、少しでも多く搾り取っておかないとな」別荘に入る前から、文香の耳には、恒一とその両親のそんな会話が届いていた。結局、すべては彼女の金目当てだったのだ。「弟のことも忘れるんじゃないよ。あの子にも家を一軒用意してやらなきゃ。それが無理なら、この別荘をあの子の新居にしたっていいわ」文香が幼いころから恒一を特別扱いしてきたのは、彼の家がずっと弟ばかりを優先していたと知っていたからだった。だから彼女は彼に優しくした。十数年にわたる縁があったからこそ、親から与えられなかった愛情を、せめて自分が倍にして返してやりたいと思っていた。残念なことに、人は一度何かを捧げようと決めてしまうと、その先に待っているのは、終わりのない一方的な奉仕だったりするものだ。根深く染みついた思い込みと、恒一に向けるほとんど執着に近い甘さが、いつの間にか彼とその家族を結託させ、彼女の情も金も食い物にするところまで増長させていた。「心配いらないよ、母さん。あの気の弱いやつはもう出て行ったし、子どもだって置いていかなかった。子どもが彼女の実の子じゃなかろうと関係ない。あの女の夫になるのは俺だ。この先、彼女の金は全部俺のものになる」文香は目を真っ赤にし、勢いよく扉を押し開けた。それは、彼女が初めて恒一と激しく言い争った日だった。そして同時に、この男と最後に決着をつけると決めた日でもあった。三人を家から追い出したあと、彼女はすっかり無残な姿になった家を前に立ち尽くした。何ひとつ変わっていないはずなのに、そこにはもう、僕の気配だけがどこにも残っていなかった。「直哉……私が悪かったわ。戻ってきて……お願い……」彼女は壁にもたれるように床へ座り込み、ひとりきりのまま、気づかぬうちに涙を流していた。いまの彼女には、本当にもう何

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    「外でできた私生児まで連れてきて、そのうえでまだ文香の夫の座に居座るつもりなの。親の顔が見てみたいわ。一体どんな人間なら、これほど恥知らずな息子を育てられるのか」傍らでは、恒一の父親も、軽蔑を隠そうともせず僕を見ていた。「もういい。こんな奴に何を言ったところで無駄だ。顔を見るだけで汚らわしい」そう吐き捨てると、二人は大きなスーツケースをいくつも抱え、そのまま二階へ運び上げていった。階段を上がっていく背中を見送り、僕は何も言わなかった。リビングに残ったのが自分ひとりになると、恒一は子どもを抱いたまま、口元に嘲るような笑みを浮かべて近づいてきた。「お前たちが結婚していようが

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