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さよなら、お父さん
さよなら、お父さん
Auteur: トマト卵炒め

第1話

Auteur: トマト卵炒め
私が死んだのは、十八歳の誕生日の日。

その日は、空はよく晴れてて、風も気持ちよく吹いてた。廃ビルの屋上までよじ登って、私は両腕を広げて、風の力を感じていた。

微笑みが自然とこぼれて、心がやっと解放されたみたいだった。

病気でずっと苦しんで、もうこれ以上耐えられないって思ってたから、死んで楽になれるならそれでいいって、やっと思えたんだ。

熱い陽射しが目に飛び込んできて、ふいに涙がこぼれた。もう決めたのに、ここまで来て、少しだけ未練が残ってるなんて、我ながら笑っちゃう。

お父さん、私が死んだら......ほんの少しは悲しんでくれるかな?

自分で自分をからかうように、そっと笑ってみる。いや、きっと悲しまない。お父さんは私のことが嫌いでたまらないんだから、むしろ喜ぶんじゃないかな?

そう思ったら、心が針で刺されるみたいにチクリと痛んで、私も迷いを振り払って、目の前に広がるビルの下の暗闇を見つめた。

両手を大きく広げて、風に身をゆだねた。

......ああ、自由だなあ。来世では、何の心配もない小鳥にでもなれたらいいのに。

思った通りの痛みを感じた後、私は確かに死んだ......はずだった。でも、魂は消え去ることなく、どういうわけか、お父さんのそばに留まっていた。

あれから三日が経ったけど、お父さんは私がいなくなったことすら知らない。

ひと気のない廃ビルを選んだから当然かもしれない。でも、まさかその撮影場所があの廃ビルだったなんて。

そう、お父さんとその仲間たちは、撮影中に私の遺体を発見したんだ。神様が最後にもう一度、私を見つけてもらうようにしてくれたのかな......なんて、どこかで期待してしまった。

だけど、皆が私の無残な姿を見て、ざわめく中で、お父さんの冷哉は傍にいた美羽の手を取って、眉をしかめながら言ったのだ。

「汚らしいな......お前は近づくなよ、縁起でもない」

その瞬間、私の心が凍りついた。ほんの数メートル先に横たわる私を一瞥もせず、別の子の手を取り、「縁起でもない」だなんて。

「お父さん、それ、私だよ!あなたの娘だよ!せめて最後くらい、顔を見てよ、お願いだから......!」

空中に浮かぶ私は大声で叫んだ。涙が顔中を濡らす。でも、この世の誰にも私の声は届かない。

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