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第2話

Author: むつき
紗月は胸を突かれたような衝撃を受け、膝の上に置いていた手をゆっくりと握りしめた。

琴葉が離婚した――?

「どうすればいいか、分かっているだろう」

征士郎は服を着替えて身なりを整えると、彼女の前までやって来て、冷淡な声で言った。

紗月はゆっくりと顔を上げ、彼をじっと見つめた。その瞳に浮かぶ悲しみは、どうしても隠しきれない。「私と……離婚したいの?」

悲痛に満ちたその眼差しが、まるで針のように征士郎の胸へ何度も突き刺さった。

胸の奥に重苦しさを覚えながらも、彼の冷ややかな顔に浮かんだのは苛立ちだった。「俺は琴葉に償わなければならない」

紗月の澄んだ瞳から、すべての光が消えた。

強く握りしめた手のひらには爪が食い込み、ゆっくりと血が滲んでいった。「じゃあ……私は?」

私には、何も償うことはないの?

「離婚するなら、十分な財産分与はする。それ以上のことは望まないほうがいい」

征士郎は冷たく言い捨て、背を向けて立ち去ろうとした。

しかし紗月は、とっさに彼の袖をつかんだ。

「離婚してもいい。その代わり、一つだけお願いを聞いてほしいの。

3か月だけ、私のために芝居をして。私を愛している夫を演じてほしいの。普通の夫婦みたいに手をつないで、抱きしめて……私を愛して」

最後の「愛して」という言葉はあまりにも小さく、ほとんど聞き取れないほどだった。

それでも征士郎の耳には、一言も漏らさず届いていた。途端に胸の奥から激しい嫌悪感が込み上げてきた。

「お前は本当に救いようがないな!

結婚するときにも言ったはずだ。俺は一生、お前を愛することなんてない」

――「俺は一生、お前を愛することなんてない」

征士郎が去ったあと、紗月の胃が激しくせり上がった。体の苦痛と、胸を引き裂かれるような痛みが一気に押し寄せ、彼女は広いリビングで、その場に泣き崩れた。

赤や緑の錠剤をいくつもまとめて飲み込んだ。頭はひどくぼんやりとし、涙で目の前の景色さえ滲んで見えなくなっていった。

……

紗月は雨の日が嫌いだった。

それなのに霞野という街では、ひとたび雨が降り始めると半月近く降り続くことも珍しくない。

オフィスには近藤朔弥(こんどう さくや)がキーボードを叩く音だけが響いていた。

やがてその手が止まり、彼は真剣な表情で尋ねた。「本当に雨宮グループを清野征士郎に任せるつもりなのか?」

紗月は青ざめた顔で答えた。「雨宮グループを任せるなら、彼が一番ふさわしいから」

日に日に痩せ細っていく彼女の体を見つめ、朔弥は表情を曇らせた。「だが、あいつは君にはふさわしくない」

紗月の胸がかすかに震えた。苦い思いが胸の奥いっぱいに広がっていく。

それでも込み上げる悲しみを必死に押し殺した。「……続きをお願い」

朔弥はノートパソコンを閉じた。「遺言書の続きはまた今度だ。病院へ行くぞ。俺も付き添う」

「私は大丈夫だから」

「紗月。二度は言わない」

有無を言わせぬ口調で告げられ、紗月もそれ以上は断れなかった。

朔弥はかなり以前から紗月の実家が経営する雨宮グループの顧問弁護士を務めていた。

雨宮グループが衰退していくなかでも離れることなく支え続けてくれた彼は、紗月にとって兄のような存在だった。

……

市立病院。

検査を終えると、医師は紗月に、病状が進行すれば視覚や聴覚に障害が現れ、さらには中枢神経にも影響が及ぶ可能性があると説明した。最悪の場合、急激に頭蓋内圧が上昇し、突然死する危険さえあるという。

手術のリスクも極めて高く、手術中に命を落とす危険さえある。

朔弥は彼女を安心させるように言った。「心配するな。世界でも指折りの脳腫瘍専門医を探す。必ず治してみせるから」

紗月は力なく頷いた。

生きることへの希望は、もうほとんど抱いていなかった。

ただ、両親には申し訳ないという思いだけが残っている。あの頃、征士郎と結婚すると頑なに言い張ったせいで、両親の最期にさえ立ち会うことができなかった。

そして今、自分の命も残りわずかだというのに、愛した男は、たった3か月だけ自分を愛するふりをすることさえ拒んだ。

二人が病院を出ようとしたそのとき、入口に見覚えのある人影が現れた。

紗月は息を呑んだ。

征士郎が、弱りきった様子の女を腕に抱き、焦燥を露わにしながら病院へ駆け込んできたのだ。

彼も紗月に気づいた。

だが、その視線が彼女に留まったのはほんの一瞬だけで、そのまま何も言わずにすれ違っていった。

「白石蓮司(しらいし れんじ)先生を呼べ。彼女に何かあったら、この病院をただでは済まさないからな!」

背後から響いてきた男の怒声に、紗月の体がかすかに震えた。

白石蓮司――霞野市で最も腕がいいと評判の婦人科医だ。

自分はこれほどの重病を患っているというのに、夫は別の女を腕に抱き、血相を変えて婦人科医を呼んでいるなんて。

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