月影邸。紗月は6時になる前から食卓いっぱいに料理を用意し、それからはごく普通の夫婦のように、静かに夫の帰りを待っていた。征士郎は潔癖症で、他人が家に出入りすることを嫌っていたため、使用人を雇っていなかった。そのため、家のことは大小を問わず、すべて紗月が自分でこなしていた。屋敷に置かれたヨーロッパ風の置き時計が時を刻むなか、時間だけが静かに過ぎていった。やがてテーブルに並べた料理はすっかり冷めきり、それにつれて紗月の心まで冷えていった。彼女はソファに横たわり、半分眠りかけたような状態で、うとうとしていた。ここ数日、体にはまるで力が入らず、ひどく眠気を感じるようになっていた。それなのに眠りは浅く、眠るたびに、さまざまな奇妙な夢を見るようになっていた。突然、体にずしりと重みがかかった。胸元を押さえつけられた紗月は、驚いて勢いよく目を覚ました。一瞬、目の前が真っ暗になったものの、ほどなくして視界は元に戻った。すぐ目の前には、男の冷ややかで端正な顔があった。その整った顔立ちの一つひとつを、はっきりと目でなぞれるほどの近さだった。その顔を見つめながら、紗月はふと気づいた。かつて優しく穏やかだったあの青年は、いつの間にか落ち着きをまとった大人の男へと変わっていたのだ。鼻の奥がつんとし、紗月は青ざめた唇をわずかに開いた。「あなた……」男の瞳には何の感情も浮かんでいなかった。征士郎は大きな手で彼女の頬を乱暴につかむと、そのまま熱く荒々しい口づけを押しつけた。「んっ……」彼の口から漂う強烈な酒の匂いに、紗月は激しい吐き気を覚えた。目尻に涙を滲ませながらも、彼を押しのける勇気はなかった。胸の奥には、無数の針で刺されているような痛みが広がり、彼女は掠れた声を絞り出した。「やめて……」他の女に触れたあとで、自分に触れられるのが嫌だった。「やめて、だと?」征士郎は容赦なく大きな手を紗月の服の中へ滑り込ませた。全身から濃い酒の匂いを漂わせながら、冷たく言い放つ。「昔、恥も知らずに俺のベッドに潜り込んできたときは、どうして『やめて』と言わなかった?」その言葉を聞いた途端、紗月は抵抗するのをやめた。澄んでいた瞳から光が消え、まるで淀んだ水のように何の感情も映さなくなった。征士郎は、自分の下で死んだ魚のように微動だ
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