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紫音の冒険⑥

last update Huling Na-update: 2025-05-31 17:00:58

屋敷に戻った紫音は今リヴァルの執務室にいた。

真面目な雰囲気から紫音もふざけるのはやめて、真顔でソファへと腰掛ける。

「さて、お前がこの世界に来た経緯は聞いたが、どうしてこの世界に来たのかは聞いていない」

「弟を探す為にこの世界に来たの。私がいた元の世界では――」

そこから三十分ほどかけて紫音は日本での出来事を話した。

魔神のせいで何人もの犠牲者が出たこと、助けてくれたこっちの世界の冒険者も戦死したこと、そして現状を打破する為に弟がこの世界へと来てしまった事。

リヴァルはそれを黙って目を瞑り聞いていた。

「――というわけで私は弟に会いたい。協力してくれる?」

「……不可能だ」

リヴァルからの返答は意外なものだった。

自分の命を救ってくれてここまで良くしてくれた彼なら手を貸してくれると思っていた紫音は唖然とする。

「何度も言うが俺は魔族だぞ?人間を探そうと思えば必然的に人間の国へと行かねばならん。そんな事をしてみろ、それこそ人間共は魔族が攻めてきたと騒ぎ立てるぞ」

「そっか……ここ魔族国って言ってたもんね」

紫音が悲しそうな表情になるとリヴァルは続けて話をする。

「……だが手はないこともない」

「ほんとに!?」

「ああ。だがこれはあくまで運だよりだ」

リヴァルは紫音にいずれ人間は魔族国へと入ってくると伝えた。

確実に魔神を倒そうと人間は徒党を組む。

魔神がいるのは何処かはリヴァルには分からなかったが、恐らく魔界だろうと予想していた。

そうなると魔神討伐の為に人間達は必ず魔族国へ攻め入る。

そこで自分の存在を知らしめて、人間達に別世界から来た自分が魔族国にいるぞと教える、というのがリヴァルの考えであった。

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