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紫音の冒険④

last update Last Updated: 2025-05-29 17:00:39

魔族の町に辿り着いた紫音達は真っ直ぐリヴァルの屋敷へと向かう。

町に住まう魔族らはリヴァルを見かけると頭を下げたがその横にいる人間の姿が視界に入るとギョッとした反応を見せる。

「なんだかお偉い人になったみたい!」

紫音はジロジロと見られて嫌な気はしないどころか、今の状況を楽しんでいた。

「変わっているなお前」

「そう?でもこんなに注目される事今までなかったからなぁ」

紫音は道中の会話もあってかリヴァル相手に敬語など使わず普通に喋るようになっていた。

「あれが俺の家だ」

リヴァルが指差したのは町の中でも一際大きな屋敷。

紫音はそれを見て目を輝かせた。

「えー!凄い凄い!豪邸じゃない!」

「フッ。これでも一応爵位を持っているのでな」

リヴァルの態度や口の悪さは褒められたものではないが、実力は高く一つの町を任せられる程度には魔族国での評価は高い。

屋敷の前まで来ると執事と思われる魔族が門を開ける。

その魔族も紫音を一目見て少し驚いていたが、あまり表情には出さなかった。

「お帰りなさいませリヴァル様。そちらの方は?」

「コイツは拾った。ちなみに人間だ」

「人間を拾った……ですか」

「ああ、コイツは匿う。面白い奴だからな」

「畏まりました。それではお部屋にご案内させて頂きます」

執事は紫音を連れ立って屋敷の中へと入っていく。

リヴァルはそれを見届けると町の広場へと赴いた。

領主が広場にやって来る、それは何かしら重要な話があるという事。

住人がゾロゾロと集まってくるとリヴァルは徐ろに口を開いた。

「知っている者もいるかもしれんが、今俺の屋敷に人間の女がいる。手を出すなよ」

要は人間の女がいるからといってちょっかいを掛ける事を許さないという意味を込めている。

でなければ魔族からしてみれば人間の戦闘能力の持たない者など赤子の手をひねるくらい簡単に殺せてしまう。

領主であるリヴァルが厳命すれば住民は従わなければならず、わざわざ紫音の身の安全の
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