紫音が別の世界から来た話をすると、男はやっぱりと言いそうな顔で紫音をジッと見つめた。
「そんな気はしていたが……リンドール様がこの世界に戻って来たのは知っている」
「リンドール様?それってあの魔神とかいう奴ですか?」
「なに?知っているのか?」
知ってるも何も弟であるカナタが異世界に行く事になった要員である。
魔神に対しては憎しみしかない紫音は嫌々ながらも頷いた。
「その様子ではリンドール様に対してあまりいい感情を持っていないようだな」
「当然でしょ!あんな奴さっさと死ねばいいのに!」
紫音が毒づくと男は若干引いたような表情になった。
まさか綺麗な女性の口から出てくる言葉とは思わなかったのだろう。
「……とにかくここから離れるぞ。着いてこい」
「え?助けてくれるの?」
「死にたいのなら置いていくが」
「いくいく!行きます!」
男が立ち去ろうとした為紫音は急いで服の汚れを手で払い落とし男に着いていく。
「そういえば自己紹介してなかったですよね?私城ヶ崎紫音って言います」
「……リヴァルだ」
「へー!リヴァルさんって名前カッコイイですね!」
さっきまで襲われかけていたのに既にそんな事どうでもいいと言わんばかりのテンションで話し掛けてくる紫音にリヴァルは少しだけ驚いていた。
リヴァルの常識では人間は弱くおどおどしているイメージだった。
しかし今横にいる女性は違う。
「紫音、先に言っておくが俺は魔族だ」
「あーやっぱり!そんな気はしてましたよ。だって小さいツノ生えてるし」
そう言いながら紫音の目線はリヴァルの頭へと向けられる。
リヴァルの頭には二本のツノが生えてい
リヴァルが屋敷に戻ってくると紫音は風呂に入っていたらしく、髪の毛がしっとりとしていた。「あ、おかえりー」「……ああ」「何してたの?」「領主の義務だ」正直に答えるのも気恥ずかしくリヴァルは適当に誤魔化す。紫音も深く聞くことはせず、ふーんと相槌を打つとまた話題を変える。「そういえば領主だったね。じゃあリヴァルの治めてる町を見てみたいなぁ」「なんだと?」先程住民には厳命したばかりであり、今町を出歩けば何となく気恥ずかしいリヴァルは眉を顰める。「だって魔族しか住んでないんでしょ?私のいた世界では魔族なんて居なかったから」「……む、よかろう。着いてこい」リヴァルも断る理由を見つけられず仕方なく紫音を連れて出る事にした。町に出ると案の定住民達の注目を浴びた。紫音はというと何とも思っていないのか辺りを見渡しながら楽しそうに笑顔を浮かべている。ある程度町を見回った所で紫音がボソッと呟く。「案外普通なんだね」「普通とはなんだ。何を想像していたのか知らんが魔族国も人間の国と大差ない」「もっと殺伐としているのかと思ってたよ」空は確かに陰鬱とした雲が広がっているが暮らしている魔族も全部が全部好戦的な事はない。紫音の中で魔界は殺伐としているというイメージだけが一人歩きしていた。「あ!何あれ?」紫音が指差したのは屋台だ。果物を売っている屋台であり、見たこともない果物の陳列に興味が湧いたようだった。「すみませーん、これっていくらなんですか?」「リヴァル様の知り合いだろ?なら持っていきな嬢ちゃん!」屋台を営む
魔族の町に辿り着いた紫音達は真っ直ぐリヴァルの屋敷へと向かう。町に住まう魔族らはリヴァルを見かけると頭を下げたがその横にいる人間の姿が視界に入るとギョッとした反応を見せる。「なんだかお偉い人になったみたい!」紫音はジロジロと見られて嫌な気はしないどころか、今の状況を楽しんでいた。「変わっているなお前」「そう?でもこんなに注目される事今までなかったからなぁ」紫音は道中の会話もあってかリヴァル相手に敬語など使わず普通に喋るようになっていた。「あれが俺の家だ」リヴァルが指差したのは町の中でも一際大きな屋敷。紫音はそれを見て目を輝かせた。「えー!凄い凄い!豪邸じゃない!」「フッ。これでも一応爵位を持っているのでな」リヴァルの態度や口の悪さは褒められたものではないが、実力は高く一つの町を任せられる程度には魔族国での評価は高い。屋敷の前まで来ると執事と思われる魔族が門を開ける。その魔族も紫音を一目見て少し驚いていたが、あまり表情には出さなかった。「お帰りなさいませリヴァル様。そちらの方は?」「コイツは拾った。ちなみに人間だ」「人間を拾った……ですか」「ああ、コイツは匿う。面白い奴だからな」「畏まりました。それではお部屋にご案内させて頂きます」執事は紫音を連れ立って屋敷の中へと入っていく。リヴァルはそれを見届けると町の広場へと赴いた。領主が広場にやって来る、それは何かしら重要な話があるという事。住人がゾロゾロと集まってくるとリヴァルは徐ろに口を開いた。「知っている者もいるかもしれんが、今俺の屋敷に人間の女がいる。手を出すなよ」要は人間の女がいるからといってちょっかいを掛ける事を許さないという意味を込めている。でなければ魔族からしてみれば人間の戦闘能力の持たない者など赤子の手をひねるくらい簡単に殺せてしまう。領主であるリヴァルが厳命すれば住民は従わなければならず、わざわざ紫音の身の安全の
紫音が別の世界から来た話をすると、男はやっぱりと言いそうな顔で紫音をジッと見つめた。「そんな気はしていたが……リンドール様がこの世界に戻って来たのは知っている」「リンドール様?それってあの魔神とかいう奴ですか?」「なに?知っているのか?」知ってるも何も弟であるカナタが異世界に行く事になった要員である。魔神に対しては憎しみしかない紫音は嫌々ながらも頷いた。「その様子ではリンドール様に対してあまりいい感情を持っていないようだな」「当然でしょ!あんな奴さっさと死ねばいいのに!」紫音が毒づくと男は若干引いたような表情になった。まさか綺麗な女性の口から出てくる言葉とは思わなかったのだろう。「……とにかくここから離れるぞ。着いてこい」「え?助けてくれるの?」「死にたいのなら置いていくが」「いくいく!行きます!」男が立ち去ろうとした為紫音は急いで服の汚れを手で払い落とし男に着いていく。「そういえば自己紹介してなかったですよね?私城ヶ崎紫音って言います」「……リヴァルだ」「へー!リヴァルさんって名前カッコイイですね!」さっきまで襲われかけていたのに既にそんな事どうでもいいと言わんばかりのテンションで話し掛けてくる紫音にリヴァルは少しだけ驚いていた。リヴァルの常識では人間は弱くおどおどしているイメージだった。しかし今横にいる女性は違う。「紫音、先に言っておくが俺は魔族だ」「あーやっぱり!そんな気はしてましたよ。だって小さいツノ生えてるし」そう言いながら紫音の目線はリヴァルの頭へと向けられる。リヴァルの頭には二本のツノが生えてい
「な、な、何!?気持ち悪い!」あまりにストレートな悪口を緑色の化け物にぶつけるが、言葉が分からないのか化け物はニタニタと気色悪い表情を浮かべてジッと紫音を見つめる。手に薄汚れた棍棒を持ち、背丈は紫音の腰にかかるかどうかという程度。しかしながらあまりの気持ち悪さに紫音はその場から動けなかった。「来ないで!気持ち悪い!」「ギギギ……」紫音の気持ちなどどこ吹く風か、化け物は一歩、また一歩とゆっくり紫音へと近づいていく。明らかにワザとであるのは紫音も理解していた。そして化け物が自分を害そうとしているという事も。手を伸ばせば届く、そんな距離まで近付いた化け物はニタニタ笑いながら棍棒を持った腕を高く上げる。――殺される。そう思うと同時に紫音は両目を強く瞑った。数秒目を瞑ったまま震えていると棍棒が振り下ろされなかったのか、身体に痛みを感じなかった紫音はゆっくりと目を開いた。そこには緑色の血を撒き散らしバラバラになった化け物と思われる残骸が転がっていた。「ヒッ――」声にならない悲鳴を上げた紫音はすぐそばに人の気配を感じそちらへと視線を向ける。そこには紫色のコートを着た男が佇んでいた。「え……?」何が起きたかも分からない紫音の頭の中は混乱していた。ただその男の片手が緑色に汚れており、自分を助けてくれたのだとそれだけは分かった。「あの……助けて、くれてありがとうございます」「…………
紫音が遂に起爆スイッチを押した。異世界ゲートが爆破される瞬間、紫音は突如ゲートに向かって駆け出した。「おい!何を考えている!!!」紅蓮が呼び掛けるが紫音は止まらない。「やっぱり私、カナタと離れたくない!!私も!着いていく!!!」そんな言葉を発しながら、紫音は壊れかけのゲートへと飛び込んだ。――――――飛び込む瞬間、恐怖心から目を瞑っていた紫音だったが、何の痛みも感じず恐る恐る目を開くとそこは陰気な空が広がっていた。「何ここ……?」誰に聞かれるでもなく紫音は小さく呟きを漏らす。辺りを見回しても枯れ木や岩肌が目立つ光景であり、紫音はここが明らかに普通の場所ではないだろう事は一目で理解した。このままここでジッとしていても始まらない、弟の彼方を探さなければと一歩踏み出した。歩く事数分、前方に見たこともない動物が数匹いるのが見えた。ここが異世界であると仮定するのならばどう考えても魔物と呼ばれるような見た目である。ウサギの身体で頭にはツノが生えており八重歯は剥き出しになっていたからだ。「近付くとやばそ~、迂回しよ」紫音は近付く事を避け、別の方角へと歩き始める。どこを目指せばいいのか、土地勘のない紫音は当てもなく歩き続けた。数時間は歩いただろうか。岩場に腰掛けて溜息をつく。「はぁ……カナタどこにいるんだろう?なんか薄暗いし思ってた異世界と違うなぁ」紫音の言葉は当然である。現在彼女がいる場所は魔族国内であり、俗にいう魔界と呼ばれている場所であった
魔族に連れられて僕らはある一軒の屋敷へと入った。他の家に比べて姉さんを匿っているらしい魔族の家は屋敷と呼べるくらいには大きかった。大きな観音扉が開くと庭も相応に広く、爵位を持つ魔族である事は明白であった。「こっちだ」大きな屋敷に入ると無駄に長い廊下を歩き一枚のドアの前で立ち止まった。「この中にいる」「えっと……入っても、いいんですか?」「身内なのだろう?」それはそうだが、ノックした方が良いのかとか入ろうとした瞬間背後からバッサリと斬られないだろうかとか色々と考えてしまう。数秒扉の前で固まった後、僕はソッと三回ノックをした。『はいー何ですかー?』聞き覚えのある声が扉越しに聞こえてくると僕は勢いよく扉を開け放った。「姉さん!」「えっ!?」部屋の中には白いワンピースを着た姉さんがいた。その顔は驚愕で染まっていた。姉さんは勢いよく立ち上がると僕の方へと駆け出す。「彼方……」「姉さん……色々聞きたいことはあるけど、今は無事でいてくれて良かった」お互いに抱き締め合うとそのまま一分ほど姉さんの温もりを感じていた。「紫音、久し振り」僕の背後から聞こえてくるアカリの声にハッとなった姉さんはアカリを見つめ走り寄るとまたハグをする。「アカリちゃんも無事で良かったよ〜!」「紫音もね」懐かしい友人に会えたような表情を見ているとそれだけでこっちまで心が暖かくなった。「紫音さん、まずは話を聞かせてもらえますか?」いつまで経っても抱き合っているのを見てか