Masuk技術革新により、超長距離ワープが可能となった日本では、別の世界に行けるようになっていた。 ワープの際に肉体が変質し、スキルと呼ばれる特殊能力に目覚めることが判明した。 別世界での冒険を配信する異世界配信が流行し、 若者達は有名配信者を目指した。 ―――――――――――――――――――――――――― 勇太のセリフは、滑舌が悪いため※で翻訳しています。
Lihat lebih banyakベッドで横になればすぐに眠れると思った。 目を瞑れば楽になれると考えていた。 部屋に戻ってきた時は、頭の中が真っ白だったのに。 その白は、白い文字の塊だった。 少しずつ脳が冷えてくると、パズルが崩れるように今日の会話が蘇ってくる。 言葉のピースが溢れてくる。 どれだけ試しても、決して完成しないパズルだ。 途端に思考の渦に飲み込まれた。 ナタリアの友達は、魔王ディアブラ・サイクスだった。 魔王は、ナタリアと結婚する為に誓を立てた。 俺が魔王と戦うまで、この世界は平和である。 そこに、新しいピースが加わる。 この世界に来てからの会話、見た景色、食べ物、色々な思い出が混ざりあって、頭の中がぐちゃぐちゃになる。 もう眠りたいのに。 俺の頭はそう言っている。 でも、心がそれを許してくれない。 パズルを完成させろと急かしてくる。 王様と出会い、ランデルと冒険に出た。 初めて見た魔法はとても美しかった。 ミノタウロスに殺されかけた。 四天王の一人、狂乱の一角獣ライトニングビーストを倒し、世界が平和に近づいた。 そして、アルに出会った。 優しさ、怖さ、愛らしさ、アルという最愛の人を知った。 そして、ナタリアという天使が産まれた。 ネフィスアルバが死に、闇皇帝が消えた。 魔王さえ倒せば、この世界は平和になる。 もう分かっている。 あと一つピースをはめればパズルは完成する。 公園で魔王が契約をした時点で気付いていた。 ただ、考えたくなかっただけだ。 早く眠らせて欲しい。 この苦しみを和らげたいだけなのに。「ただいまー!」 ナタリアが帰ってきた。 目に入れても痛くない、俺の天使。「にゃちゃりあ、きょっちにおいぢぇ?」 ※ナタリア、こっちにおいで?「どうしたの?」 首を傾げたナタリアが、不思議そうに歩
「あたし! あ、あたしは……ディーは初めて出来た友達だし、その……あたしも好きだけど……でも、まだ結婚とかは違うと思う。それに、あたしはダディより強い人がいいなって」「ふむ、そんな簡単な事でよいのか。勇者よ、お手並み拝見だのう?」 ディーが右の口角を歪め、邪悪な笑みを浮かべる。 小さな体から漆黒のオーラが解き放たれた。 それは渦を巻き、龍がうねるかのように立ち昇っていく。 膨大な闇が衝撃波を発生させ、大地が砕け散る。 ナタリアは咄嗟に後ろに飛んで回避したようだが、俺はそうはいかない。 竜巻に巻き込まれたかのように吹き飛ばされ、錐揉み状に捻れた全身の骨がメキメキと音を立てて折れていくのが分かった。 空に投げ出された俺は、痛みと共に目の前が暗くなっていくのを感じた。 終わった……。 そう思った時、後頭部に感じたポヨンと柔らかな感触が意識を繋ぎ止めた。 誰かに抱き留められたようだが、どうやら俺は死ぬ寸前らしい。 目を開けることすら出来ない。 抱き上げられたまま地上に着地すると、口に何かが入ってくる。 カレーのようなスパイシーな香りだ。 その臭いで脳が覚醒した。 何かを思い出したかのように喉が動き、その液体を飲み込もうとする。 あまりの不味さに体が拒否反応を起こし、吐き出したくなるが、そんな力すら残されていなかった。 ただゆっくりと、俺の体に染み込んでいくのが分かった。 なんだか体の調子が良くなった気がして目を開けると、涙を浮かべて俺の顔を覗き込むアルがいた。 俺はアルに助けられたらしい。 「私もナタリアちゃんのお友達が気になっちゃいましたっ。ナタリアちゃんを探してたら、パパが飛んで来てびっくりしたんですよっ! えへへっ」「ありゅ……」 ※アル…… 胸が締め付けられるような気持ちになり、俺はアルを抱きしめた。 アルの柔らかさが、体温が、生きている事を実感させてくれた。 すぐにナタリア
「にゃちゃりあしゅみゃにゃい! おりぇは……」 ※ナタリアすまない! 俺は……「ダディ、何してるの? あ、ディーを紹介するね! この子、あたしがダディやママと一緒に居ると、恥ずかしくて会いに来れないみたいだから!」 コメントから散々脅されていたので全力の謝罪をしようと思ったのだが、ナタリアは気にしていない様子だ。 それどころか、ディーと話す機会をくれるらしい。 ナタリアに話しかけられたディーは、表情に不満を浮かべて嫌がっている。 ナタリアに腕を掴まれたディーは、観念した様子で俺の前にやって来た。「ひゃじみぇみゃしちぇ。にゃちゃりあにょぴゃぴゃぢぇしゅ」 ※初めまして。ナタリアのパパです「うむ、話には聞いている」 ……それだけ? この少年は、挨拶をしたら挨拶を返すという礼儀を知らないのだろうか。 自己紹介をされたら自分も返すという当然の事が出来ないのだろうか。 ナタリアがディーを紹介するという事は、俺やアルと一緒の時にも会いに来て欲しいという表れでもある。 それほどに、ナタリアは初めて出来た友人を大切に思っているのだろう。 握りしめた俺の右手がプルプルと震えている。勇太:さて、一発くれてやりますかね。 コメ:ナタリアちゃんより強いディーに? コメ:一発貰うのはお前だけどなwww コメ:尾行がバレた上に、ガキにボコボコにされる情けない父親の姿を見せたいのか?w コメ:とりあえず会話を広げようぜ?「じーきゅんは、きょにょちきゃきゅにしゅんぢぇりゅにょ?」 ※ディー君は、この近くに住んでるの?「さあな」 ……さあな? 俺は、「はい」か「いいえ」で答えられる簡単な質問をしたはずなんだけど。 まさか斜め上の回答を貰うとは思わなかった。 二人で楽しく遊んでいた所を邪魔してしまったのは、俺が悪いと思う。 ディーが機嫌を損ねても仕方ないだろう。 でも、今後ナタリアと友達として付き合っていくのなら
ついに街に入った。 建物の影に隠れたり、塀に張り付いたりしてナタリアの後をついて行く。「おじさんおはよう! 後で買いに来るかも!」「おっ、ナタリアちゃん! お出掛けかい? 今日はサンドリザードのいい肉が入ったから楽しみにしてな!」 ナタリアと屋台のおじさんが親しげに会話している。 おそらく頻繁に買い物をする店なのだろう。 対象の行動パターンを把握するのに重要な情報を手に入れた。勇太:こちらアルファー、サンドリザードの串焼きが食べてみたい。 コメ:ブラボー了解。腹ペコ名探偵は任務を続けろ。 コメ:デルタ、ナタリアたんが可愛い!【一万円】 勇太:デルタありがとう! コメ:もういいってそれ!w 城から街の外まで続く真っ直ぐな大通りを、遮蔽に隠れつつ慎重に尾行を続けていく。 すると、何かに気づいたナタリアが建物の角を曲がって路地裏に入った。 俺は、その建物の壁に背中をつけ、片目だけ出して様子を確認した。 そこには、手を振ってナタリアを呼ぶ少年の姿があった。 おそらく、アレがディーという俺の娘についた虫だろう。 ナタリアと同じく中学生くらいの年齢に見える。 センター分けの短い銀髪は清潔感を感じさせ、大きなライムグリーンの瞳が美しい。 闇皇帝に匹敵する整った容姿をしている。 少し吊り上げた口角がニヒルな笑みを作り上げ、白いシャツに白いパンツが王子様のような雰囲気を出している。コメ:イケメンやんけ! コメ:美男美女のカップルだね。 勇太:みんなには、あの男がまともに見えるんですか? 名探偵ユートルディスしか気付いてないのか? コメ:どういうこと? コメ:爽やかな好青年て感じだが。 勇太:シャツのボタンを二つも外して胸元を曝け出してる。アレは不良だ! コメ:勇太くんて、すげえ馬鹿なんだねw コメ:言い掛かりで草 ディーの元にナタリアが駆け寄る。 ディーは、ナタリアが上から手を乗
魔王の調査が始まってから三週間が経過した。 ダメ元でやってみた商品紹介は大不評だったし、城下町探索ツアーも二日で飽きられた。 特にイベントが起きない城での配信は、企画力の無い俺にとって厳しいものであった。 アルとナタリアのファンだけが残り続けてくれている。 あの二人がキャスターだったら、花のある配信になるのだろうが。 以前アルは、産まれてから一カ月で大人の姿になったと言っていたが、ナタリアは少し背が伸びたくらいでそんなに変わっていない。 愛らしい少女のままだ。 俺とアルの子供なので、ここからは人
四時間くらい空の旅を楽しんでいたら、空が暗くなる頃にジャックス王国に到着した。 明日の朝、今後についての会議をするらしい。 俺達家族にはベッドが四台ある城の客室が割り振られていたようで、部屋に入るとアルとナタリアが笑顔で抱きついてきた。「パパっ! お帰りなさいっ!」「ダディお帰り!」 愛しい家族の頭を撫でまわし、俺は鎧を脱いだ。 その動作が、物語に出てくる一仕事終えて家に帰った騎士のように思えた。 自分とはかけ離れた別の人間になった気がして、少し歯痒かった。
戦闘が終わると、兵士達が街道に散らばる緑の死体を一箇所に集め始めた。 ゴブリンの死体は食べる訳にもいかず、放置しては腐敗による悪臭や他のモンスターを呼び寄せる原因にもなる為燃やすしかないらしい。 魔法使いが火を放つと、肉の焼ける嫌な臭いが広がった。 立ち昇る黒い煙がどこか怨念を含んでいるようで、背筋に寒気を覚えた俺は、その光景を見続ける事が出来なかった。「わっ……私は、パパの顔って可愛い? ……と思いますけどねっ!」 アルが気を遣って俺を励ましてくれたが、あんまり頭に入ってこなかった。
中に入ると広場になっており、赤い絨毯が敷き詰めてられていた。 もしかすると、この世界の城は全てこのスタイルなのかもしれない。 壁沿いに黒い騎士が立っており、壁には光を取り入れる為の窓が無い。 入り口と反対側に一段高くなった場所があり、骸骨が集められたかのような意匠を施された禍々しい石の玉座が配置されていた。「ジャックス王ヨ、久しいナ! また少し老けたのではないカ? 死が恐ろしければいつでも眷属にしてやるのだゾ?」 広場全体に響き渡る声。 石の玉座に無数の蝙蝠が集まると、蠢く黒い塊は人になった。