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第25話

last update Last Updated: 2025-03-17 09:19:42

どうして二つずつあるのか――不思議に思っていると、玄関に置いた時計が目に入る。もう七時半なの⁉急いで学校の支度をしないと!

朝ごはんを食べている時間はあるかな?と冷蔵庫を漁る。幸いにも昨日買ったパンがあったから急いで口へ詰め込んだ。再び時計を確認。ひぇ十分後には家を出なきゃ!

「そういえば……」

さっき皇羽さんは「体温計と薬を買って来る」って言った。でもこんなに朝早く開店するお店ってあるの?まだ七時だよ?それに皇羽さんはまだ?いくらなんでも遅い気がする。

「……まさか!」

どこかで倒れているかも。さっきフラフラだったし!

「もう皇羽さんってば手がかかるんだから!」

昨日勝手にマンションを出た自分を棚に上げて、皇羽さんに文句を言う。でも本当、学校に行くどころの騒ぎじゃないよ。もしも倒れているなら助けなきゃ!

とりあえず制服とコートに着替え、皇羽さんを探索するため玄関へ急ぐ。

「待っていてくださいね皇羽さん!」

靴を履いてヤル気いっぱいで立ち上がった、その時。

ガチャ

玄関の扉が開く。皇羽さんが帰って来たんだ!履いたばかりの靴を脱ぎ、再び玄関へ上がる。

「皇羽さんおかえりなさい!遅いから心配しました。今から探しに行こうとしていたんですよ?どうでしたか。体温計と風邪薬はありましたか?」

「え?」

「ん?」

「えぇ……?」

目の前には、全部の髪が隠れるくらい深くニット帽をかぶった皇羽さん。なぜか両目を開いて私を凝視している。あ、私が制服を着ているからかな?皇羽さんの前で初めて着るもんね。

だけど皇羽さんに違和感を覚える。例えば帽子。いま皇羽さんがつけているニット帽を初めて見る。それにさっき出かける時は、いつもの帽子を被ってなかった?あと皇羽さんの表情がいつもと違う気がする。獰猛な野獣のオーラから、可愛い小動物へ変わっているというか。

この人、本当に皇羽さんだよね?

一瞬だけ警戒したけど、顔を見れば一目瞭然。こんなにカッコイイ人は、皇羽さん以外いない。外の風に当たってスッキリしたのかな?赤い顔じゃなくて、いつもの顔色に戻っている。

「ちょっと熱も下がったんじゃないですか?さっきより楽な表情になっていますし」

「……」

「皇羽さん?」

「わ!そうか俺か……。ごめん何?」

え?〝ごめん〟⁉

信じられなくて耳を疑う。だって皇羽さんが私に謝ったよ⁉〝あの皇羽さんが〟だよ⁉

さっき覚
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