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第84話

Penulis: またり鈴春
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-08 08:23:53

 その後 Ign:s は画面から消えて、MVが流れる。

 かげろうさんはバラードでもしなやかに踊り、誰も真似できないようなダンスを披露する。レオは歌に専念することで、前よりも格段に上手くなっているように聞こえた。

 そして、皇羽さんも――

「今までレオとして歌を歌っていたんだから、そりゃ上手いよね。はぁ……もうやめよう」

 黒いモヤモヤした感情を持つのは、今日で最後にしよう。

「やっぱり私は、これまで通り Ign:s を嫌っていよう。だって虚しいばかりだし……。皇羽さんが順調にアイドルをしてるなら、純粋に応援したいし」

 これからも皇羽さんはファンを魅了するんだ。

 その顔で声で、全てで。

 そこに私がいちいち嫉妬心を燃やして独占欲を見せたって、何もいいことはない。

「皇羽さん、 Ign:s で頑張ってくださいね。私はあなたと距離を置かないと、どうやら自分が自分でなくなっていくみたいで……

 嫌なんです。

 醜くなりたくない。

 次にあなたに会った時……あなたに幻滅されたくないんです」

 だから、少しの間。さよならです。

 心の距離を、置かせてください――

 最後に、ビジョンに写る皇羽さんをチラリと見る。

 三分を越える歌だというのに、絶え間なく踊りながら、それでも息が切れることなくのびる歌声。新入りという事も忘れさせる圧倒的な存在感。

「皇羽さん……ううん。コウ、またね」

 極力コウを見ないようにと、私は目を閉じた。まるで区切りをつけるみたいに。皇羽さんへの想いに、一時的に蓋をするみたいに。

 だけど、

 聞こえてくるバラードは、私の凍てついた心に静かに降り注ぎ……そして小さな灯(ともしび)を燃やす――

【 Love Letter 】

君がソファで眠る 夜の七時

ご飯を作るのは疲れると言いながら

俺のために作ってくれた

慣れないキッチンで一人

風邪を引いた俺のために

レシピとにらめっこしたあの夜

今俺の隣で眠る君を見て思う

心の底から大好きだと

何度でも何年先でも

君を愛し続けると俺は誓う

君の記憶に俺がいなくても

君の過去に俺が写っていなくても

今の君が俺を見てくれるなら

その瞳に俺が写っているのなら

それだけで幸せだ

これが君に送る手紙

俺の愛を込めた手紙

永遠を誓うLove Letter

「……ん? この歌詞、」

 歌詞を聞いて、ピタリと動きが止まる。

 
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