LOGIN元人気子役でYouTuberの相沢ひまりは、事務所から契約を打ち切られ、恋人にも捨てられてしまう。 そんな彼女の前に現れたのは、「働きたくない」が口癖の無職系配信者・神崎蒼。 だが彼の正体は、日本有数の財閥の御曹司だった。 さらに蒼だけが、ひまりの隠された天才的な画力に気付く。 どん底から始まる逆転劇。 ざまぁと恋が交差する、痛快現代ラブストーリー!
View More発売から二週間が過ぎたある日の朝。相沢ひまりは、コーヒーカップを両手で包み込みながら、窓の外を眺めていた。スマートフォンには、毎日のように読者から感想が届いている。『子どもが寝る前に毎日読んでいます』『親子で笑顔になれる絵本でした』『続編を楽しみにしています』一つひとつの言葉を読むたびに、胸が温かくなった。その時、スマートフォンが震える。神崎蒼からだった。『今日は時間ある?』ひまりはすぐに返信する。『あります』『出かけよう』『どこへですか?』少し間が空き、返事が届く。『着いてからのお楽しみ』ひまりは思わず笑った。「珍しいですね」***午後。待ち合わせ場所で合流した二人は、ゆっくりと街を歩いていた。「神崎さん」「うん」「どこへ行くんですか?」「もう少し」「秘密ですか?」「うん」相変わらず短い返事だった。それでも、不思議と安心できる。しばらく歩くと、大きな商業施設が見えてきた。中へ入り、エスカレーターで上の階へ向かう。到着したのは、大型書店だった。「本屋さん?」「うん」「何か探すんですか?」蒼は何も答えず、児童書コーナーの方へ歩いていく。ひまりも後をついていった。そして、その瞬間だった。「あ……」思わず足が止まる。目の前には、大きな特設コーナーが設けられていた。色とりどりの絵本が並ぶ中、一番目立つ場所には、自分の絵本が何冊も積まれている。手書きのポップには、大きくこう書かれていた。『大人気! 発売後すぐ重版決定!』『親子で読みたい、心温まる一冊』『スタッフおすすめ!』さらに棚の横には、小さな子どもたちが描いたイラストまで飾られていた。「すごい……」ひまりは小さく呟く。夢を見ているようだった。店内には親子連れが次々とやって来る。「これ、この前読んだ本だ!」男の子が嬉しそうに指を差す。「もう一回読んで!」母親は笑顔で本を手に取った。別の場所では、小さな女の子が表紙を見つめていた。「このうさぎさん、かわいい!」父親がページをめくる。「読んでみようか」そんな何気ない会話が、ひまりの耳に届く。「神崎さん……」声が少し震える。「うん」「本当に読んでもらえているんですね」蒼は静かに頷いた。「届いてる」その一言だけで十分だった。***ひまりは、少し離
発売から一週間。朝早くから、出版社の編集部は慌ただしい空気に包まれていた。「三浦さん!」営業部の若手社員が、資料を片手に編集部へ駆け込んでくる。「各書店から、また追加注文です!」「また?」担当編集者の三浦は驚いた表情で資料を受け取る。発売初日から好調だった相沢ひまりの絵本は、一週間経った今も勢いが衰えるどころか、さらに注文が増え続けていた。全国の大型書店。街の小さな書店。オンライン書店。どこでも売れ行きは好調だった。「在庫が足りません!」営業担当が声を上げる。「このままだと来週には初版がなくなります!」編集長も資料を見つめながら大きく頷いた。「これは予想以上だな」会議室には次々と関係者が集まってくる。印刷会社への確認。流通会社との調整。書店への連絡。編集部全体が慌ただしく動き始めた。その様子を見ながら、三浦は思わず笑みを浮かべる。「やっぱり届いたんだ」誰よりも信じていた作品だった。その思いが形になり始めていた。***午後。緊急の編集会議が開かれる。編集長が資料を机へ置いた。「結論から言います」部屋の空気が引き締まる。「重版を決定します」その一言と同時に、編集部から拍手が起こった。「おめでとうございます!」「これはすごい!」「発売一週間ですよ!」「ここまで早い重版は久しぶりです!」三浦も思わず立ち上がる。「ありがとうございます!」編集長は笑顔で頷いた。「作者にも早く知らせてあげてください」「はい!」三浦は急いでスマートフォンを取り出した。***その頃。ひまりは自宅で次回作のラフスケッチを描いていた。以前のような焦りはない。好きだから描く。その気持ちを忘れないように、一筆ずつ丁寧に線を重ねていた。スマートフォンが震える。画面には三浦の名前が表示されていた。「こんにちは、三浦です!」電話の向こうの声は、いつも以上に弾んでいた。「こんにちは」「おめでとうございます!」「え?」「重版が決まりました!」「……え?」ひまりは言葉を失う。「今、何とおっしゃいましたか?」「重版です!」「発売一週間で重版が決定しました!」しばらく沈黙が続く。「相沢さん?」「……本当ですか?」「もちろんです!」「書店さんから追加注文が相次いでいます!」「たくさんのお子
朝。相沢ひまりは、目覚まし時計が鳴るより少し早く目を覚ました。今日は、ずっと待ち続けてきた日だった。机の上には、一冊の絵本が置かれている。表紙には、優しく微笑む子猫と、小さなうさぎ。その下には、はっきりと自分の名前が印刷されていた。作・絵 相沢ひまり何度見ても実感が湧かない。「今日から、この子たちが全国の本屋さんに並ぶんだ……」小さく呟き、そっと表紙を撫でる。発売日。夢だった日が、ついにやってきた。***午前中。出版社では朝から慌ただしく電話が鳴っていた。担当編集者の三浦は、営業担当からの連絡を受けて目を丸くする。「えっ、本当ですか?」受話器の向こうから、明るい声が聞こえる。「はい。各書店さんから追加注文の問い合わせが入っています」「もうですか?」「発売初日とは思えない勢いです」電話を切った三浦は、大きく息を吐いた。「これは予想以上だ……」すぐにひまりへ電話をかける。「おはようございます、三浦です」「おはようございます」「おめでとうございます!」「ありがとうございます」「実は、発売初日から追加発注が続いています」「えっ?」ひまりは思わず聞き返した。「本当ですか?」「はい。予想を上回る反響です」「まだ午前中なのに……」「書店さんから『もっと送ってください』という連絡が何件も来ています」ひまりはしばらく言葉を失った。「そんなことって……」「あります」三浦は笑った。「良い本だからです」その言葉に、ひまりの胸が熱くなる。***午後。ひまりは帽子を深くかぶり、神崎蒼と一緒に大型書店を訪れていた。今日は読者として、本屋へ来ただけ。誰にも気づかれないように店内へ入る。児童書コーナーへ向かうと、一番目立つ平台に、自分の絵本が積まれていた。「……あった」ひまりは立ち止まる。「本当に並んでる」夢ではなかった。子どもたちが次々と絵本を手に取っていく。「ママ、この絵かわいい!」「読んで!」小さな女の子が嬉しそうに抱きしめる。母親はページをめくりながら微笑んだ。「優しい絵だね」その言葉を聞いただけで、涙が込み上げそうになる。さらに少し離れた場所では、店員が新しい本を平台へ補充していた。「あれ?」ひまりは首をかしげる。「もう減ってる……」蒼も平台を見る。確かに、積まれ
午前十時過ぎ。インターホンの音が静かな部屋に響いた。「はい」玄関を開けると、宅配業者が大きな段ボール箱を抱えて立っていた。「お届け物です」「ありがとうございます」ひまりは両手で受け取る。思っていたよりも重い。送り状を見ると、差出人には「YouTube」と記されていた。「……え?」思わず目を丸くする。胸がどきりと高鳴った。急いで箱を部屋へ運び、テーブルの上へ置く。「もしかして……」思い当たるものは一つしかなかった。スマートフォンを手に取り、神崎蒼へメッセージを送る。『神崎さん、お時間ありますか』数分後。『ある』『大きな荷物が届きました』『今から行く』短いやり取りに、ひまりは思わず笑みを浮かべた。***しばらくして蒼が部屋を訪れる。「こんにちは」「こんにちは」蒼はテーブルの段ボールを見るなり、小さく頷いた。「届いたね」「やっぱり、これですよね?」「たぶん」ひまりは緊張した面持ちでカッターを手に取る。「開けます」ゆっくりと封を切る。|緩衝材《かんしょうざい》を取り除くと、一枚の手紙が入っていた。「手紙?」そっと取り出し、読み始める。『チャンネル登録者数十万人達成、おめでとうございます。あなたの努力と創造性が、多くの人へ笑顔と感動を届けています。その功績を称え、このクリエイターアワードを贈ります。』ひまりは何度もその文章を読み返した。「私に……?」声が震える。蒼は静かに微笑んだ。「相沢さんに」その下には、丁寧に包まれた銀色のプレートがあった。ひまりは両手で持ち上げる。「わあ……」思わず息をのむ。鏡のように輝く表面。中央には再生ボタンのマーク。そして、その下には。**Aizawa Himari**チャンネル名が美しく刻まれていた。「本当に……私の名前」目頭が熱くなる。子役を辞めた日。芸能事務所を追われた日。自分には何も残っていないと思っていた。そんな自分の名前が、今こうして世界に一枚だけの盾へ刻まれている。「夢みたい……」涙が一筋、頬を伝った。***蒼は銀の盾を静かに見つめる。「重い?」「はい」ひまりは少し笑った。「思っていたより重いです」「努力の重さ」蒼らしい一言だった。ひまりは思わず吹き出す。「そうかもしれませんね」しばらく二人で銀の