クズ事務所に捨てられましたが、私の絵の才能を信じてくれた最古参ニートの正体は石油王でした

クズ事務所に捨てられましたが、私の絵の才能を信じてくれた最古参ニートの正体は石油王でした

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-09
Oleh:  辻野幸枝Baru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
goodnovel4goodnovel
Belum ada penilaian
36Bab
638Dibaca
Baca
Tambahkan

Share:  

Lapor
Ringkasan
Katalog
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi

元人気子役でYouTuberの相沢ひまりは、事務所から契約を打ち切られ、恋人にも捨てられてしまう。 そんな彼女の前に現れたのは、「働きたくない」が口癖の無職系配信者・神崎蒼。 だが彼の正体は、日本有数の財閥の御曹司だった。 さらに蒼だけが、ひまりの隠された天才的な画力に気付く。 どん底から始まる逆転劇。 ざまぁと恋が交差する、痛快現代ラブストーリー!

Lihat lebih banyak

Bab 1

第一話 「オワコン元子役とニート御曹司?!」

「契約は終了だ」

その一言で、相沢ひまりの人生は大きく動き始めた。

だが、その数日前までは、彼女自身もまだ、自分の未来が大きく変わるなど想像もしていなかった。

***

東京都内の動画スタジオ。

「はい、今日は元子役あるあるをやっていきまーす!」

カメラに向かって笑顔を作るのは、YouTuberの相沢ひまり。

かつて国民的人気子役として活躍した彼女も、今は二十四歳。

登録者数は三十万人。

決して少なくない。

だが伸び悩んでいた。

撮影終了後。

ひまりはスマホを開き、コメント欄を見る。

『また昔話?』

『元子役って肩書しかないじゃん』

『オワコン』

『再生数落ちてて草』

「……はぁ」

思わずため息が漏れる。

慣れているはずだった。

それでも傷つかないわけではない。

かつては違った。

「ひまりちゃん、かわいい!」

「天才子役だ!」

「将来は絶対に大女優になるぞ!」

幼い頃のひまりは、テレビ局へ行けば誰もが笑顔で迎えてくれた。

CM、ドラマ、バラエティ。

毎日のように仕事があり、街を歩けば声を掛けられた。

サインを求められたこともある。

だが成長とともに仕事は減った。

子供だから求められていたものは、大人になれば通用しない。

気付けば「人気子役」ではなく、「元子役」になっていた。

そして今では。

『オワコン』

たった四文字で片付けられてしまう。

スマホを閉じたひまりは、小さく唇を噛んだ。

事務所へ戻ると、マネージャーが神妙な顔をしていた。

「ひまりさん、社長がお呼びです」

嫌な予感がした。

案の定だった。

社長は資料を机に置きながら言う。

「相沢くん。正直に言う」

「はい」

「君との契約を更新しない」

ひまりの顔が固まる。

「え……?」

「最近の数字を見れば分かるだろう?」

淡々と告げられる。

「うちは利益を出さなければならない。君はもう旬を過ぎた」

旬を過ぎた。

その一言が胸に突き刺さった。

***

一方その頃。

 「働きたくない、働きたくない、働きたくないな〜……」

ソファに寝転がった男が、だらしなく天井を見上げながら呟く。

ボサボサの黒髪。

ジャージ姿。

テーブルにはコンビニ弁当の空容器。

どう見てもニートだった。

だが、その男――神崎蒼が、日本有数の財閥の御曹司であることを知る者は誰もいない。

***

収録を終えたひまりが事務所を出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。

夜。さらに追い打ちが来る。

交際中の俳優・桐谷優斗に呼び出された。

高級レストラン。

そこで彼はワインを口にしながら言った。

「別れよう」

ひまりは言葉を失った。

「どうして?」

「俺、今度ゴールデン帯のドラマ決まったんだ」

「本当? おめでとう」

心から祝福した。

だが優斗は笑わなかった。

「だからこそ足を引っ張られたくない」

「……え?」

「SNS見たことある?」

「あるけど」

「君、結構叩かれてるよな」

胸が冷たくなる。

「それが何?」

「俺、これから売れるんだ」

優斗はため息をついた。

「オワコンYouTuberと付き合ってるって知られたらイメージ悪いだろ」

ひまりは何も言えなかった。

この人はもう恋人ではない。

自分自身のことしか見ていない。

「だから私は邪魔なの?」

「そういうことだ」

優斗は席を立った。

「ごめんな」

謝罪の言葉だけを残して。

帰宅後。

ひまりは机に向かった。

涙が止まらない。

悔しい。

悔しい。

悔しい。

子役時代から必死だった。

誰よりも努力してきた。

それなのに最後に残ったのは、

『オワコン』

という四文字だけ。

引き出しを開く。

そこには何冊ものスケッチブック。

誰にも見せたことのない宝物だった。

演技よりも。

動画編集よりも。

本当に好きだったもの。

それが絵だった。

ひまりは無意識にペンを走らせる。

少女の横顔。

夜空。

花。

優しい色彩。

気付けば何時間も描いていた。

そして完成した一枚を、なんとなくスマホで撮る。

「……どうせ誰も見ないよね」

そう呟きながら、サブアカウントへ投稿した。

アカウント名は、

『ひま@お絵描き練習中』

フォロワーはたった一人。

名前は、

『Aoi』

投稿から数秒。

通知が鳴る。

「今回も好き。」

たった五文字。

それだけだった。

でも、その一言だけで少し救われた。

「いつも一番に反応してくれるなぁ……」

誰なのかも知らない。

年齢も性別も知らない。

ただ、絵だけは毎回褒めてくれる。

唯一の最古参だった。

翌日。

事務所最後の仕事。

企画名は、

『底辺YouTuberコラボ企画』

「最後にこれか……」

スタッフが説明する。

「相手は無職系配信者ですね。」

「無職?」

「働きたくないが口癖らしいです。」

なんだその人。

そう思った瞬間。

スタジオの扉が開く。

「働きたくない、働きたくない、働きたくないな〜……」

「あ、ダメだこの人」

思わず吹き出す。

「何なんですか、その挨拶!」

青年は少し笑った。

「初めまして。神崎蒼です」

「相沢ひまりです」

視線が交わる。

その瞬間。

ひまりはまだ知らなかった。

目の前の男が、日本有数の財閥の御曹司であることも。

そして昨夜、

『今回も好き。』

とコメントを書いた、

たった一人の最古参ファンだったことも――。

第一話 完

次回「君、この絵を自分で描いたの?」

神崎蒼だけが、ひまりの秘めた才能に気付き始める――。

Tampilkan Lebih Banyak
Bab Selanjutnya
Unduh

Bab terbaru

Bab Lainnya
Tidak ada komentar
36 Bab
第二話 「君、この絵を自分で描いたの?」
コラボ撮影は思った以上に順調だった。というより、隣にいる神崎蒼という男が予想外だった。撮影中も、「働きたくないな〜」「帰りたいな〜」「ゲームしたいな〜」などと好き勝手なことばかり言っている。スタッフも呆れていた。それなのに、不思議と場の空気は悪くならない。むしろ視聴者受けしそうな天然キャラだった。休憩時間になり、ひまりは控室でペットボトルの水を飲んだ。すると、「あ」蒼がテーブルの端を見つめる。ひまりは嫌な予感がした。そこには昨夜描いていたスケッチブックが置かれていた。慌てて手を伸ばす。だが一歩遅かった。蒼がスケッチブックを開いてしまう。「見ないでください!」ひまりは思わず叫んだ。しかし蒼は真剣な表情のままページを見ている。「……これ」一枚目は女性アイドルのイラスト。二枚目は街並みの風景画。三枚目は少年の横顔。どれも写真と見間違うほど繊細だった。「君が描いたの?」「そうですけど」「本当に?」「だからそうだって言ってるじゃないですか」ひまりは顔を赤くする。絵を見られるのは苦手だった。演技は見られる仕事だったのに、絵だけは違う。誰にも見せたことがない。秘密の世界だった。蒼はさらにページをめくる。幼い頃の落書き。学校帰りに描いた風景。仕事の待ち時間に描いた俳優たち。十年以上積み重ねてきた時間がそこにあった。やがて蒼は静かにスケッチブックを閉じた。「すごいな」「え?」「本気ですごい」ひまりは目を瞬かせた。褒められると思っていなかった。「お世辞なら結構です」「お世辞じゃない」蒼は即答した。その声には迷いがなかった。「少なくとも俺は、こんな絵を描ける人を知らない」ひまりは思わず視線を逸らした。嬉しいはずなのに、素直に受け取れない。今まで何度も否定されてきたからだ。「でも仕事にはなりませんよ」ぽつりと呟く。「どうして?」「絵で食べていける人なんて一握りですから」そう。ずっと言われ続けてきた。子役時代。撮影現場で落書きをしていた時も。事務所で絵を描いていた時も。『そんな暇があったら台本を覚えろ』『絵なんか仕事にならない』『将来の役に立たない』『時間の無駄だ』誰も絵を褒めてくれなかった。だから趣味として続けるしかなかった。蒼はそんなひまりを見つめ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-06-21
Baca selengkapnya
第三話 「オワコンじゃない。君は天才だ」
『イラスト制作についてご相談があります』スマホの画面を見つめたまま、相沢ひまりは固まっていた。何かの間違いではないだろうか。差出人は誰もが知る有名企業の公式アカウントだった。フォロワー数は百万人以上。名前を聞けば、子どもからお年寄りまで知っている大企業である。「……え?」思わず声が漏れる。もう一度画面を見る。だが何度見ても内容は変わらない。『弊社の新規プロジェクトにて、イラスト制作をご依頼できないかと思い、ご連絡いたしました』本物だ。ひまりは慌ててスマホを置いた。いやいやいや。無理無理無理。自分の絵を知っている人なんていない。SNSにも投稿したことがない。仕事として描いたこともない。どう考えてもおかしい。「……ドッキリ?」そう呟いてみる。だが公式認証マークも付いている。偽物ではない。頭を抱えていると、再びスマホが震えた。今度はメッセージアプリだった。送り主は――神崎蒼。『起きてる?』「……何でこのタイミング?」ひまりは恐る恐る返信した。『起きてます』するとすぐに既読が付く。『じゃあ、今から電話していい?』『えっ』返事をする前に着信が鳴った。早い。早すぎる。慌てて通話ボタンを押す。「も、もしもし?」『こんばんは』のんびりした声だった。いつもの蒼だ。ひまりは少しだけ安心した。「どうしたんですか?」『DM来た?』「……え?」ひまりは目を見開く。『有名企業からイラストの依頼』「何で知ってるんですか!?」数秒の沈黙。そして。『俺が紹介したから』「…………はい?」思考が止まった。「え?」『だから、俺が紹介した』「えええええっ!?」思わず立ち上がる。「な、何してるんですか!」『何って、紹介』「何で!?」『君の絵がすごいから』あまりにも当然のように言われた。ひまりは頭を抱える。「いやいやいや! 意味分かりません!」『分からなくていいよ』「よくないです!」蒼が小さく笑った。『でも、あの絵は誰かに見せるべきだと思った』ひまりは言葉に詰まった。『もったいないよ』優しい声だった。責めるでもなく、押し付けるでもない。ただ、当たり前のことを言うように。『君、自分の絵を低く見積もりすぎ』「……そんなこと」『ある』即答だった。『少なくとも俺は、
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-06-21
Baca selengkapnya
第四話「私、本当に描いていいの……?」
翌朝。相沢ひまりは、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。テーブルの上にはスマホ。画面には、有名企業から届いたDMが表示されている。『イラスト制作についてご相談があります』何度見ても消えない。夢ではないらしい。「……どうしよう。」ひまりは頭を抱えた。依頼を受ける。そのたった一歩が、とてつもなく怖かった。もし期待外れだったら。もし「こんなものか」と思われたら。もし自分に本当は才能なんてなかったら。そう考えるだけで胃が痛くなる。すると、スマホが震えた。『働きたくないな〜』神崎蒼からだった。思わず吹き出す。朝から第一声がそれなのか。『おはようございます、ニートさん』送る。数秒後。『まだニートじゃない』『じゃあ何なんですか?』『働きたくない人』『同じです』『ひどい』ひまりは少しだけ笑った。昨日まで、こんなふうに自然と笑えなかった気がする。すると、再びメッセージが届く。『で、依頼は受ける?』笑顔が消える。指が止まった。『まだ迷ってます』『そっか』『……怖いんです』正直に打ち込む。すぐに返信が来た。『じゃあ、今から会おう』『え?』『話したい』『でも……』『大丈夫』それだけだった。不思議だった。その三文字だけで、少し安心する自分がいる。一時間後。ひまりは駅前のカフェにいた。窓際の席。そこへ蒼がやってくる。今日もラフな格好だった。黒いパーカーにジーンズ。やっぱりニートっぽい。「おはようございます」「おはよう」蒼は席に座るなり言った。「眠れてないでしょ」「……何で分かるんですか」「目の下」ひまりは慌てて目元を触る。蒼が小さく笑った。「分かりやすい」何だか悔しい。「それで?」蒼が真面目な顔になる。「どうしたい?」「え?」「受けたい?受けたくない?」ひまりは俯いた。答えは決まっている。「……受けたいです」小さな声だった。「うん」「でも、怖いです」「うん」「失敗したらどうしようって」蒼は少し考えてから言った。「失敗したら、また描けばいい」「え?」「一回駄目だったくらいで終わりじゃない」当たり前のように言う。「でも……」「相沢さん」蒼が真っ直ぐこちらを見る。「君、自分に厳しすぎ」ドキリとした。「百点以外は失敗だと思ってる」「
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-06-26
Baca selengkapnya
第五話「この人、本当にニートなの……?」
翌日の昼。相沢ひまりは、都内にある大手玩具メーカーの本社ビルの前に立っていた。高層ビルを見上げる。ガラス張りの外観。自動ドアを出入りするスーツ姿の人々。場違いだ。どう考えても場違いだった。「帰りたい……。」思わず本音が漏れる。すると隣から声がした。「俺も。」振り向く。黒いパーカー姿の神崎蒼が立っていた。「俺も帰りたい。」「何で来てるんですか。」「心配だから。」あまりにも自然に言われて、ひまりは一瞬言葉を失った。「いや、普通こういうのって一人で来るものですよね?」「そうなの?」「そうです!」「へぇ。」まったく気にしていない。この人は本当にマイペースだ。「でも、一人で不安そうだったし。」「……。」「だから来た。」ひまりは思わず目を逸らした。ずるい。こういうことを平然と言う。「ほら。」蒼がビルを指差す。「行こう。」「……はい。」二人は受付へ向かった。会議室へ案内される。中には三人の社員がいた。ひまりは緊張で背筋が固まる。「本日はありがとうございます。」頭を下げる。「こちらこそ。」社員の一人が笑顔を見せた。「実は、弊社で新しく発売する知育アプリのキャラクターデザインをお願いしたいんです。」「キャラクター……。」「はい。」テーブルに企画書が置かれる。子ども向けのアプリらしい。ひまりはページをめくった。次の瞬間。目が止まる。頭の中にイメージが浮かぶ。森。動物たち。優しい色合い。小さな男の子。一気に世界が広がった。「あ……。」思わず声が漏れる。「何か浮かびましたか?」社員が尋ねる。「え、あ……。」ひまりは慌てた。説明できない。頭の中には完成形があるのに。うまく言葉にならない。すると。「たぶん。」隣から蒼の声がした。全員がそちらを見る。蒼は企画書を指差した。「この企画、勉強させるというより、楽しませたいんですよね?」社員が目を見開く。「ええ、その通りです。」「だから、子どもが親しみやすいデザインがいい。」「……はい。」「かわいいだけじゃ駄目。」「!」「物語を想像できるキャラクターが必要。」会議室が静まり返った。社員たちが顔を見合わせる。ひまりも固まっていた。何で分かるの。企画書を少し見ただけなのに。「その通りです……!
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-06-27
Baca selengkapnya
第六話「初投稿」
「……やっぱり夢じゃないんだ。」帰宅した相沢ひまりは、テーブルの上に置かれた契約書を見つめていた。今日。自分の絵が、初めて仕事として認められた。有名企業のキャラクターデザイン。しかも、その場で採用が決まった。何度思い返しても信じられない。「私の絵が……仕事……。」胸がじんわりと熱くなる。だが同時に、不安もあった。本当にできるのだろうか。期待を裏切らないだろうか。また失敗するのではないだろうか。すると、スマホが震えた。『働きたくないな〜』神崎蒼からだった。「この人は……。」思わず笑ってしまう。『お疲れさまでした』送る。すると、すぐに返信が来た。『お疲れ』『今日はありがとうございました』『うん』相変わらず短い。『でも、まだ信じられません』少しして、返信が来た。『じゃあ、もっと信じられるようにしよう』「……え?」『絵、投稿してみなよ』ひまりの指が止まる。『投稿?』『SNS』『無理です』即答だった。『早い』『絶対に嫌です』『何で』『怖いからです』スマホを握る手に力が入る。ネットの言葉は怖い。ひまりは誰よりも知っていた。子役時代から。YouTuberになってからも。何度も傷つけられてきた。『下手』『期待外れ』『オワコン』たった数文字で、人は簡単に傷つく。『また叩かれたら嫌なんです』送信する。少し沈黙。そして。『じゃあ、一枚だけ』メッセージが届く。『一枚だけなら逃げてもいい』思わず吹き出した。何だ、それ。『逃げていいんですか』『いいよ』『普通、頑張れって言いません?』『無理な時は逃げてもいい』ひまりは画面を見つめた。この人は、どうしてこういう言い方をするのだろう。押し付けない。でも、そっと背中を押してくれる。『一枚だけ』その言葉が、不思議と心に残った。視線を机へ向ける。スケッチブック。そこには昔描いたイラストが何枚もある。その中の一枚を開く。子猫の絵だった。窓辺で眠る、ふわふわの白い子猫。自分でもお気に入りの一枚だった。「……一枚だけ。」小さく呟く。スマホを手に取る。写真を撮る。そして、投稿画面を開いた。指が止まる。怖い。やっぱりやめようか。そう思った時。また通知が鳴った。『まだ?』神崎蒼だった。『見張っ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-06-28
Baca selengkapnya
第七話「オワコン、まさかの大逆転!?」
翌朝。相沢ひまりはスマホの通知音で目を覚ました。ピコン。ピコン。ピコン。「……ん……。」まだ眠い。ぼんやりと画面を見る。通知が二十件。「え?」寝ぼけた頭が一瞬で覚醒した。さらに通知が増える。三十件。四十件。五十件。「な、何……?」慌ててSNSを開く。すると、目を疑った。昨夜投稿した子猫のイラスト。『いいね』の数が――五万を超えていた。「……え?」思考が止まる。何度も見直す。五万。間違いない。コメント欄を開く。『めちゃくちゃ可愛い!』『プロのイラストレーターさん?』『絵本にしてほしい!』『元子役って、この人!?』『絵の才能エグい……』『フォローしました!』「えええええっ!?」思わず叫んだ。何これ。どういうこと。昨日の夜には数百件だった。それが一晩で五万件。理解が追いつかない。すると。ピコン。また通知。フォロワー数が増えていく。一万人。二万人。三万人。みるみる数字が変わる。「嘘でしょ……。」その時。着信が鳴った。神崎蒼だった。「も、もしもし!?」『おはよう』のんびりした声だった。「おはようじゃありません!」『ん?』「何なんですかこれ!?」『ああ。バズったね』「バズったねじゃないです!」ひまりはベッドの上で頭を抱えた。『想像以上だなあ』「他人事みたいに言わないでください!」電話の向こうで笑い声が聞こえる。『でも、よかった』「よかった……?」『ほら、ちゃんと見つかった』「……。」『君の絵。』その一言に、ひまりは黙った。画面を見る。何万もの『いいね』。何千ものコメント。全部、自分の絵に向けられている。じわり、と目頭が熱くなった。『泣いてる?』「……泣いてません」『泣いてるね』「泣いてません!」完全に鼻声だった。また笑われる。『相沢さん』「……はい」『おめでとう』その言葉を聞いた瞬間。涙がぽろりと零れた。「……ありがとうございます」やっとそれだけ言えた。その頃。芸能事務所では。「え?」マネージャーがスマホを二度見した。「うそ……」社長も画面を見る。そこには、『元子役YouTuber・相沢ひまり、イラスト投稿が大反響!』というネット記事。「何だこれは……」社長の顔が引きつる。コメント欄
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-06-29
Baca selengkapnya
第八話「私を捨てた人たち」
翌日。待ち合わせ場所のカフェへ向かう途中、相沢ひまりは何度もスマホを見ていた。昨夜から通知が止まらない。フォロワー数は十万人を突破。子猫のイラストは、ついに十万いいねを超えていた。今でも信じられない。昨日まで、「オワコン」と呼ばれていた自分が、たった一枚の絵で注目されている。「……夢じゃないんだ」ぽつりと呟く。その時だった。「ひまり!」突然、後ろから名前を呼ばれた。振り返る。そして、表情が固まった。「優斗……」桐谷優斗だった。サングラスを掛けているが、間違いない。昨日、自分を捨てた元恋人。彼は人目を気にするように辺りを見回しながら近づいてくる。「やっと会えた」「……何?」ひまりは一歩後ろへ下がった。すると優斗は困ったように笑った。「いや、その……この間はごめん」「……」「俺、少し言い過ぎた」少し?ひまりの眉がぴくりと動く。「君のことをちゃんと考えられてなかった」「……」「だから、やり直せないかな」空気が止まった。ひまりは、しばらく何も言えなかった。やり直す?メリットがないと言って、自分を捨てた人が?「……どうして?」小さく尋ねる。優斗の表情がわずかに固まる。「どうしてって……」「私、昨日までメリットがない女だったよね?」「それは……」「急に何が変わったの?」優斗が言葉に詰まる。答えは分かっていた。イラストだ。バズったから。話題になったから。だから戻ってきた。胸の奥が、すうっと冷えていく。不思議だった。昨日までなら泣いていたかもしれない。でも今は。何も感じなかった。「ひまり」優斗が優しい声を作る。「俺、君の才能を信じてる」その瞬間。ひまりは思わず笑ってしまった。「……え?」優斗が目を瞬く。「ごめん。」ひまりは小さく笑った。「昨日まで知らなかったよね?私が絵を描いてること」「いや、それは……」「知らなかったよ」静かな声だった。「だって、一度も聞かれたことないもん」優斗の顔が引きつる。「私が何を好きなのか」「何をしたいのか」「何を描いていたのか」「一回も聞いてくれなかったよね」何も言えない。ひまりは気付いてしまった。この人は、私を見ていなかったのだ。「……ごめん」優斗が小さく言う。「でも、人は変われる」「そうかもしれ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-06-30
Baca selengkapnya
第九話「あなた、何者なんですか?」
「……本当に大丈夫?」神崎蒼が隣を歩きながら尋ねる。元彼・桐谷優斗と別れてから、五分ほど経っていた。「はい」ひまりは頷く。「さっきも聞いた」「二回目ですよ」「じゃあ、三回目」思わず吹き出してしまう。「心配しすぎです」「そう?」「そうです」蒼は少し考える。「でも、泣くかと思った」「……」図星だった。昨日までの自分なら、きっと泣いていた。謝って。自分を責めて。もう一度やり直せないかと縋っていたかもしれない。でも、今日は違う。「不思議なんです」「何が?」「全然悲しくなくて」蒼が静かに聞いている。「むしろ……」ひまりは少し考える。そして、小さく笑った。「すっきりしました」蒼が目を丸くする。「おお」「何ですか」「強くなった」「そんなことないですよ」「ある」即答だった。「初めて会った時の相沢さんなら、あそこで断れなかったと思う」「……」何も言えない。その通りだった。「だから」蒼が小さく笑う。「すごい」まただ。この人はすぐ褒める。「そんな簡単に褒めないでください」「何で?」「慣れてないんです」「じゃあ、慣れよう」「何ですかそれ」思わず笑ってしまう。その時。スマホが震えた。ひまりが画面を見る。「……」固まった。「どうした?」「これ……」蒼へ画面を見せる。そこには見覚えのある名前が表示されていた。『東都芸能事務所 社長』昨日、自分との契約を切った元所属事務所だった。着信。二人とも無言になる。「……出る?」蒼が尋ねる。「どうしよう」また着信。スマホが震える。そして。「……出ます」ひまりは通話ボタンを押した。「もしもし」『相沢くん!』ものすごく明るい声だった。昨日とは別人である。『いやあ! 連絡したかったんだよ!』「……。」『イラスト、見たよ!』「ありがとうございます。」『素晴らしい! 本当に素晴らしい!』褒め言葉が続く。昨日まで「旬を過ぎた」と言っていた人とは思えない。『実はね、うちとしても君を応援したいと思っていてね!』ひまりが固まる。応援。昨日、契約を切ったばかりなのに。『そこで提案なんだけど、契約の件、もう一度考え直さないかい?』沈黙。ひまりはスマホを見つめた。やっぱり。そういうことか。『相沢くん
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-01
Baca selengkapnya
第十話「私、この人をもっと知りたい」
「じゃあ、ハンバーグ。」「オムライスも好き」「子どもですか」二人で笑いながら駅前を歩く。昼時ということもあり、飲食店には行列ができていた。「どうしましょうか」ひまりが辺りを見回す。すると。「うーん……」蒼が顎に手を当てた。「向こう行く?」「向こう?」「こっち。」そう言って、すたすたと歩き出す。ひまりも慌てて後を追った。五分ほど歩く。たどり着いたのは、高級ホテルだった。「……え」思わず立ち止まる。都内でも有名な五つ星ホテルである。入口にはドアマン。ロビーにはシャンデリア。どう見ても場違いだった。「神崎さん」「うん?」「ここですか?」「うん」「高級ホテルですよ?」「そうだね」「ランチ、高いですよ?」蒼は少し考えた。「そうかも」かも、じゃない。ひまりが呆然としていると、蒼が首を傾げる。「嫌?」「嫌というか……私、こういうところ慣れてなくて」すると。「じゃあ、大丈夫」「え?」「俺も慣れてない」嘘だ。絶対に嘘だ。何となく分かる。この人、全然緊張していない。むしろ、家に帰ってきたみたいな顔をしている。「……本当ですか?」「うん」「怪しい」「ひどい」そんな会話をしながら中へ入る。すると。「お帰りなさいませ」受付の男性が、深々と頭を下げた。ひまりが固まる。蒼も固まった。「……」「……」数秒の沈黙。受付の男性が、はっとした顔になる。「あ……失礼いたしました」「うん」蒼が小さく頷く。それだけだった。だが。ひまりの頭の中には、疑問符が飛び交っていた。今。お帰りなさいませって言った?「……」「……」「神崎さん」「うん」「何で今、お帰りなさいませだったんですか?」「さあ」「さあじゃないです」「顔、覚えられやすいから」「そんな理由あります?」蒼は目を逸らした。怪しい。ものすごく怪しい。案内されたのは、ホテル最上階のレストランだった。窓からは東京の景色が一望できる。「すごい……」思わず声が漏れる。「綺麗」蒼も窓の外を見ている。何だか少し嬉しそうだ。メニューが運ばれてくる。ひまりは値段を見て、危うく声を上げそうになった。ハンバーグランチ。五千円。オムライス。四千五百円。「……」そっとメニューを閉じる。無理だ。
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-07-02
Baca selengkapnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status