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第87話

last update Dernière mise à jour: 2025-06-11 09:40:59

『お前に芸能界に入ってほしい。そして探してもらいたい子がいるんだ。そして見つけた時は……会わせてほしい』

『……どういうこと?』

『名前は、役の名前かもしれねーけどモモって言う。中学生くらいの可愛い子だ』

『ちょ、ちょっと待って! 今がネット社会って知ってる? 探せばいくらでも見つかるでしょ』

『埋もれてるかもしれないだろ』

『……はぁ』

 もしも、こんな話を俺が聞けば「何言ってんだコイツ」ってスルーするに決まってる。それくらい訳の分からない思いつきで、無茶ぶりな提案。

 だけど、玲央は違った。

 しょうがないなぁと言った玲央の顔は――ちょっとウキウキしていた。

『俺もちょうど暇してたし。もしもアイドルになったら忙しく出来そうだしね。いい暇つぶしを提案してくれてありがとう』

『……やってくれんの? マジ?』

『兄弟のよしみでね』

『……っ』

 ありがとう――と心の底から玲央にお礼を言ったのは、この時が初めてだった。

 だけど、そんな俺たちの会話を耳にしていた母親が「未成年同士で随分大きな話をしてるけど」と口を挟む。

『レオは喘息もちなのよ? その問題はどうするの?

 アイドルになっても、この先絶対、その問題で躓くわよ?』

『……っ』

 悔しい顔をしたのは玲央だった。

 母親のいう事はもちろんで……正論だったからだ。

 だけど、玲央は既にアイドルに興味を持ち始めている。自分ならできるかもと、自分にしかないやりがいに一筋の光がさしているのは間違いない。

 だから玲央のためにも――この計画は遂行したい。何としてでも。

 だから俺は、交換条件を提案した。

『玲央がもしも発作が出たら、その時は俺が代わりにアイドルをする。元々そっくりな俺たちなんだ。少々入れ替わったところでバレる事じゃない』

『……簡単に言うけど、道は険しいわよ?』

『やってみせる』

『玲央は?』

『……っ』

 最初は口を閉じていた玲央。

 だけど何かを決心したのか、拳をギュッと握り母親を見た。

『……俺もやってみたい。学校にはなかった俺の居場所が、見つかるかもしれないじゃん』

『……』

 俺たちの言葉を聞いて全ての言葉を呑み込んだ母親。少し無言になった後に浅く息を吐き「わかったわ」と頷いた。

 そして信号が赤になったタイミングを見計らって、その場ですぐに父親に電話をする。

 子供たちがあなたが帰って話したい
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