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キキョウは言えず、南風がそっと抱く
キキョウは言えず、南風がそっと抱く
مؤلف: 花宿り

第1話

مؤلف: 花宿り
「早く結婚しよう」

夕食の席、婚約者の今村勝明(いまむら かつあき)が唐突にそう切り出した。

私は箸を止めた。この三年間で、私の方から七回も結婚の話を持ち出してきた。けれどそのたびに、彼は何かしら理由をつけて先延ばしにしてきたのだ。

勝明は目を逸らした。

「俺の秘書、洞沢心美(ほらさわ ここみ)が妊娠した。もうすぐお腹も目立ち始める時期なんだ」

私は箸を置き、まっすぐに彼を見据えた。

「あなたの秘書が妊娠したことと、私たちの結婚に何の関係があるの?」

彼の喉仏がひくりと動き、頑張って口を開いた。

「それは……俺の子だ。あの夜、酔ってて、お前と間違えたんだ。

医者に言われた。もし堕ろせば、彼女は二度と子供を望めなくなるかもしれないって。彼女はまだ22歳で、卒業したばかりなんだ……

結婚したらすぐに、お前が妊娠したことにしよう。生まれてくる子は、俺たちの子だと言えばいい。

彼女は海外に送る。二度と戻ってこないよう手配するから」

七年間愛し続けてきた男の顔が、この時初めて、赤の他人のように感じられた。

「勝明……私、婚約を破棄したいの」

勝明の顔色が、一瞬で変わった。

「そんなこと、できるわけがないだろ!お前だって、この婚約がどれだけ意味を持つか分かってるはずだ」

私は手のひらに爪を立て、目の奥にこみ上げる熱さを必死にこらえながら、冷静に彼を見返した。

「いいわよ。どっちがいいか、選んで。

まずは、私たちの婚約を破棄して、彼女と結婚すること。その場合、婚約証書に基づき、私には相応の賠償金を支払ってもらうわ。

それとも、彼女に子を堕ろさせて、すべてをきれいに始末するか。婚約は破棄しないけれど、婚約証書は書き直させてもらうわよ」

勝明は絶句した。

まるで、目の前にいるのが知らない誰かであるかのような目だ。

「高塚千絵子(たかつか ちえこ)、何を言ってるんだ?」

低く抑えられた声には、信じられないという怒りが滲んでいる。

「そこまで冷たい人間なのか?

心美は体が弱いんだぞ。お前は彼女に堕ろせと言えるのか?この先、彼女はどうやって生きていけばいいと思ってるんだ!」

私は失望の色を浮かべて彼を見つめた。

「勝明。あなたは私に、他人の子を自分の子として育てろと強いてるのよ。それを拒んだら、私が冷たい人間だと言うの?」

彼は歩み寄り、私の手を取ろうとした。

「千絵子、俺が愛してるのはお前だけだ。それは分かってるだろう。彼女とのことは、ただの過ちだ。責任は感じてるが、愛なんて欠片もない」

差し伸べられた手を、私は避けた。

宙に止まった彼の手が震え、声はさらに低くなった。これまで何度も私の心を揺さぶってきた、あの疲れ切ったような声で。

「七年だぞ。たったこれだけのことで、お前は婚約を破棄するっていうのか?」

私が椅子の背もたれに身を預けると、突如として激しい疲労感が押し寄せてきた。

「……覚えてる?婚約証書にはこう記されてるわ。私たちの第一子は、男女を問わず、今村家と高塚家の両方の相続権を持つ、と。

今、あなたは私に洞沢さんの子を自分の子として認めさせようとしてる。その子が大人になった時、相続権はどうなるの?あるの、ないの?」

その言葉は、勝明にとって重い一撃となった。

彼の顔から、完全に血の気が引いた。

彼はなおも説得を諦めていない。

「合意書を書く。あの子には相続権を放棄させる。そうすれば、将来俺たちの間に生まれる子供には何の影響も……」

「信じられない」

その言葉は短く、大声ではないが、揺るぎない。

勝明は黙り込んだ。

まさか、私からそんな言葉が飛び出すとは、夢にも思わなかったのだろう。

この七年間、私は彼を疑ったことなど一度もなかった。今夜までは。

彼の瞳をじっと見つめている。そこにはかつて、私の青春のすべてが映っていた。

18歳の婚約式の日。緊張で汗ばんだ私の手を握り、「怖がるな。俺がついてる」と勝明は笑った。

大学の四年間、一緒に図書館にこもり、一緒にレポートを書き、夜遅くには彼が差し入れを持ってきてくれた。

海外留学の二年間、慣れない異国の小さなアパートで一緒に暮らし、彼が不器用ながら作ってくれた料理を二人で味わった。

帰国すれば、すべてが当然のように進むと私が思っていた。初めて結婚の話をした時、彼はこう言った。

「会社を継いだばかりだ。まずは仕事に全力を尽くしたい」

二度目は、「担当してるプロジェクトが落ち着くまで待ってくれ」と。

三度目、四度目、五度目……その理由は、回を重ねるごとにいい加減になっていった。

七度目は昨年の私の誕生日で、「もう少しだけ待ってくれ。お前には最高の結婚式を挙げてあげたいんだ」と言われた。

「最高の結婚式」の代わりに届いたのは、彼と秘書の間に子供ができたという知らせだ。

勝明が急に低い声で言った。

「一週間だけ時間をくれ。彼女と子供のことはちゃんと始末する。だから……もう一度だけチャンスをくれないか?」

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