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神様、願いを叶えて 6

last update Dernière mise à jour: 2025-04-23 13:52:50
 待ち合わせは午後一時に、昔よく遊んだ公園にした。早めに着いてしまい、複雑な想いと緊張感を抱きながら木陰のベンチに座る。 たいして待たないうちに、正面の芝生を歩いてくる彼の姿が見えてきた。 細身のジーンズに、羽織った水色のシャツが爽やかで、今日の私服姿も文句なしにカッコいい。 私を見つけると、律は優しい笑みを浮かべて近づいてくる。一気に緊張が増して、太ももの上に置いていたバッグの持ち手を、両手でぐっと握りしめた。「ごめん、お待たせ」「ううん! 私もついさっき来たところだから」 木漏れ日を浴びる彼は、私の隣に腰を下ろした。 いまだにこれだけでドキッとするなんて。この間は自分から壁ドンしたくせに……。 あの時のことを思い出して今さらながら恥ずかしくなっていると、こちらにじっと向けられている視線に気づく。「今日、雰囲気違うね」 私の服や髪型を見ながら律がそう言うので、ちょっと照れてしまう。「そう?」「ん……ヤバい」 ぼそっと呟いた彼が目を逸らすものだから、私はキョトンとした。なにがヤバいのだろう。 首をかしげるも、もう一度こちらを向いた律は、特に今の発言には触れずに話を変える。「今日はどこかへ行くの?」「あ、うん……! 着くまでのお楽しみ」 今日のプランを任されている私は、にこりと意味深に笑って答えた。そんなに楽しい場所ではないけれど……私は緊張しまくっているし。 まったく予想がついていない様子の律は、「どこだ?」と首をひねっていた。 海までは、駅前から出ているバスを使ったほうが都合が良い。さっそくそこへ向かおうと、私たちは腰を上げた。 だいぶ夏らしくなった日差しの下、ふたりで並んで芝生の周りの道を歩く。暑いせいか、公園内にはあまり人がいない。「……この公園、懐かしいな」 昔から変わらない、古びた遊具を眺めて呟いた。ここで遊んだ幼い頃の記憶が、じわじわと蘇ってくる。 私を見下ろす律に、砂場の向こうにあるブランコを指差してみせる。「あのブランコで、キョウのマネして変な乗り方してたら、私が落ちてケガしちゃって。そしたら、律はすぐに家から絆創膏を持ってきて、手当てしてくれた」 当時、律が住んでいたマンションは、この公園のすぐ裏手にあって、私がケガしたのを見た彼はすぐに駆けていった。 そして、持ってきてくれたのは、可愛いカエルのイラストが描かれた絆創膏。 痛くて泣いていた私は、そ
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     えっちゃんから話を聞いた後、彼が「どうぞ」と言うので、私は律の部屋に入らせてもらった。 顔色はさっきよりも良くなっていて、穏やかに寝息をたてている彼を見て、少し安心する。 夕日でオレンジ色に染まる、シンプルで男らしい部屋をぐるりと見回してみる。 小学生の頃は、サッカーボールやユニフォームが目につくところにあったけれど、今は見当たらない。チームの皆や、私たちと撮った写真ももう飾られていなくて、寂しい気持ちになった。 本棚には律が好きらしい漫画が並んでいて、その一番端に、漫画ではない本が何冊かある。 背表紙には、彼の病名が書かれている。病気についての解説書や、患者さんの闘病記のようだ。 律もこの病気の患者なのだと改めて思うと胸が苦しいけれど、私ももっと詳しく理解したい。 少し目を通してみたくて本を拝借しようとした時、その本の隣に見覚えがある箱を見つけて、私は動きを止めた。「これ……」 思わず小さな声を漏らして、お道具箱みたいなそれにそっと手を伸ばす。 可愛らしい赤いチェック柄のその箱は、律が引っ越す前に私やキョウがあげたものだと、すぐに思い出した。 確かこれにお菓子を詰めて、餞別のつもりであげたのだ。それをとっておいてくれたなんて。 懐かしさが込み上げつつ、今は中になにが入っているのか気になる。ちらりと律を見やるも、まだ起きる気配はない。 ……ちょっとだけ、見てもいい? ちょっとだけだから! 好奇心が勝ってしまった私は、心の中で勝手に律に断りを入れて箱に手を伸ばす。そっとふたを開けてみて、目を見開いた。 中に入っていたのは、これまた見覚えがある封筒の束。私が送った、手紙の数々だった。 全部、大事にとっておいてくれたんだ……。 嬉しさを噛みしめるも、ひとつだけ気になるものがある。たぶん私のものではない、ぐしゃぐしゃに丸められた紙だ。これはなんだろう。 どうにも気になって、また〝ちょっとだけ!〟と心の中で言い、ゆっくり開いてみる。 綴られた文字を見て、驚きで心臓が飛び跳ねた。シンプルな便箋には、【緒方小夜さま】と書かれていたから。 うそ……これ、律が私宛てに書いた手紙!? 信じられない気持ちで文字を追うと、私の名前の下には【十五歳の誕生日、おめでとう】と書かれている。 十五歳って、えっちゃんのふりをして手紙をくれたのと同じ、中学三年の時だ。どうしてそんなものが……と不思議

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