逢坂 越さま えっちゃん、お元気ですか? 私は相変わらず平凡な高校生活を続けています。もう春からは二年生だよ。 えっちゃんは今年から社会人になるんだよね。どんな仕事に就くのかわからないけど、人のいいえっちゃんだから、どこへ行ってもうまくやっていけるんだろうな。 それと、律は元気ですか? 大好きなサッカーは今も続けていますか? 私はいまだに、あなたの弟のことを想わない日はありません。 ねえ、えっちゃん。どうして『律のことは忘れてほしい』だなんて言ったの? そんなこと、地球が逆回転するくらい、私にとっては不可能なことなんだよ。 律との約束は、今もずっと、私の中で生き続けているんだから。 * * * 都会に比べ、このあたりでは桜が咲くのが遅い。二階の私の部屋から見える桜並木も蕾が開き始めているものの、満開になるにはまだ一週間ほどかかりそうだ。 今日は始業式、明日は入学式が行われ、私も高校生活二年目に突入する。 私、緒方 小夜(おがた さよ)が通う公立高校では、クラス替えがない。だから変わったことは教室が二階に移ったことくらいで、変わらない仲間といつもと同じように過ごす。と、いうことは。「小夜……ちょっと見ない間に太った?」 この失礼発言を淡々と口にする幼なじみ、古畑 恭哉(ふるはた きょうや)とも離れられないわけだ。 休み明けの朝はただでさえ気分が上がらないっていうのに、登校中に会ってすぐこんなふうに言われたら軽くキレますよ。まあ保育園から一緒だから、もうこんなのは日常茶飯事なのだけれど。 百七十センチ後半の長身に短めの黒髪、あまり表情が変わらないキリッとした顔立ち。見た目はクールなイケメンであるくされ縁の彼を、私はじとっと睨みつける。「キョウ、眼科行ったほうがいいんじゃない? あいにく五百グラムも増えてませんので」「いや、もう少し肉ついたほうが美味そうに見えるなと思ってたから」「なにげなく変態発言するな!」 顎に手をあてて品定めするように見る彼の脇腹に、パンチを繰り出した。 この男、ボケているのか天然なのか……。こういう発見をしなさそうに見えて、実はさらっと口にしちゃう人だから危ないのなんの。 私のしょぼいパンチなんてまったく効いていない様子で、キョウは平然と歩いている。「次変なこと言ったら本気で殴るからね」「強気だな。お前、俺の腹筋割れてるって知らないの
Last Updated : 2025-04-21 Read more