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第5話

Auteur: みずちゃん
玲司の命令を聞くや否や、ボディーガードの男たちが一斉に動いた。千歌の腕を乱暴に掴み上げ、そのまま壁へ押しつける。

千歌は必死に顔を上げる。悔しさと悲しみで滲んだ目を玲司へ向け、声を振り絞った。「違う!俊太くんが真人を傷つけた!私がいない間に、点滴の針で真人の手を何度も刺して……!お願いだから見て!真人の手を見れば――」

パシンと、乾いた音が千歌の言葉を遮った。男の平手が千歌の頬を打ち据えたのだ。

頬は瞬く間に腫れ上がり、切れた唇の端から血が滲んだ。

だが、それで終わりではない。容赦のない平手打ちが左の頬にも当たる。焼けつくような痛みが頬から頭へ広がり、容赦なく神経を掻き乱した。

ようやく男の手が離れた頃には、千歌の視界はぐらぐらと揺れていた。立っていることもできず、そのまま床へ崩れ落ちる。

痛みのせいで、呼吸をするだけで苦しい。それでも彼女は這うように真人のもとへ向かった。騒ぎに怯えきった真人は、声を上げて泣いている。千歌は震える手で息子の指を握った。

「大丈夫……」掠れた声が漏れる。「怖がらないで……ママがいるから、絶対守るから……」

玲司は、その光景をただ冷ややかに見下ろしているだけだった。そして奈帆へ視線を向けた瞬間、表情は驚くほど柔らかくなる。

玲司は奈帆の涙を指先で拭い、まだ泣きじゃくる俊太を抱き上げ、優しく宥めた。

「もう大丈夫だ。俺がいる。誰にも嫌な思いはさせないから」

奈帆は玲司の腕にそっと手を添える。そして千歌を見下ろしながら、わざと悲しげな表情を浮かべた。

「私たちなら少しくらい嫌な思いをしても構わないのよ。でも真人くんが本当に可哀想。ただでさえ目が見えなくなってしまったのに、千歌さんがちゃんと導いてあげないなんて……これから、あの子がもっと苦しむことになるだけだわ。私も母親だから、彼のことが本当に心配なの」

そして玲司へ視線を向けた。「あなたはお父さんなんだから、きちんと教えてあげるべきよ。親の言動は子どもにそのまま伝わるものだから」

奈帆の言葉を聞いて、玲司の目つきが鋭くなった。ここ数日の出来事を思い返したのだろう。

そして、彼は真人を抱きしめたまま離そうとしない千歌を見つめ、冷たく言い放った。

「奈帆の言う通りだ。お前みたいな母親のもとにいたら、真人は駄目になる。母親としての役目を果たせないなら、しばらく真人から離れろ。今日から真人は俺が預かる。お前は家へ戻って反省するんだ。自分の過ちを理解してから解放してやる」

言い終えると、玲司はボディーガードへ顎をしゃくった。真人を連れて行けと合図する。

その瞬間、朦朧としていた千歌の意識が一気に覚醒した。

血走った目を見開き、真人を強く抱き寄せる。

体も精神も限界になった彼女は、何もかもを投げ捨てるような覚悟で叫んだ。

「だめ!真人は渡さない!この子は私の息子よ!あなたは一度だって父親らしいことをした?パパと呼ぶことすら許さなかったくせに!真人だってあなたを父親だと思ってないはずよ。そんなあなたに、この子を連れて行く権利なんてないわ!」

玲司の顔色がみるみる険しくなった。怒りを押し殺した声が響く。「権利がない?真人は桜井家の子だ。身体には俺の血が流れている。それでも俺に資格がないと言うのか?千歌、お前は嫉妬で正常な判断もできなくなったらしいな」

彼は吐き捨てるように言い、そしてボディーガードたちへ目配せした。

力ずくで引き離せ、と。

千歌の腕がねじ上げられ、折れてしまいそうなほど痛い。全身のあざも裂けるように疼く。それでも彼女は手を離さない。

その執念に気圧されたのか、ボディーガードたちは顔を見合わせた。次の瞬間、狙いを変え、真人の身体へ手を伸ばした。

真人は泣き叫ぶ。目が見えないまま、小さな腕を振り回して抵抗する。「いや、ママと一緒がいい!」

だが五歳の子どもが、大人と張り合えるわけがない。無理やり腕を掴まれ、その身体は簡単に引き剥がされた。

息子が男たちに拘束される光景を見た瞬間、千歌の心は引き裂かれた。胸の奥を刃で削られるように痛い。

涙が溢れ、頬を伝って傷口へ落ちる。それでも彼女は必死に玲司へ縋った。

「私が悪かった、全部私が悪かったから!お願い……真人を返して!真人は私の命なの……!真人がいなかったら生きていけない!お願いだから……返して……!」

だが玲司は振り返らなかった。千歌に視線すら向かないまま、泣き叫ぶ真人を連れて病室を後にする。

ボディーガードたちも泣き崩れる千歌を車へ押し込み、自宅へ連れ戻した。

その後、彼女は地下室に閉じ込められた。

鍵のかかる扉を見つめ、千歌は薄暗い部屋の中で膝を抱えて座り込む。いつもなら腕の中にいるはずの真人はいない。

彼女の絶望に満ちた嗚咽だけが、光の届かない地下室にいつまでも響き続けていた。

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