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第233話
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クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第236話
「芽衣様は私のことを犬呼ばわりしました。なのに社長は止めもせず、逆に私を叱りつけたのです」大介は話せば話すほど悔しさが募った。大介は名門大学を出て、何年も静雄の側近として尽くしてきた。それなのに受けるのは屈辱ばかりで、挙げ句の果てには庇ってももらえない。「......何それ？」深雪は思わず呆気に取られた。想像の埒外だったからだ。静雄は芽衣に心を奪われ、理性を失っている。自分の最も近い部下を平気で踏みつけるようになったのだ。あの男の頭はもうおかしくなっている。「安心して。この借りは必ず返すから。それより、会社の過去五年分の核心データが必要なんだけど。入手できるの？」すでに協力関係を結んだ以上、遠慮する必要はない。「できます。少し時間がいりますが、明日の夜には必ず......」大介は即答した。そして立ち上がり、しばらく逡巡してから口を開いた。「深雪様に付くということは、社長を裏切るということです。裏切り者は誰からも軽蔑されますので、最終的には私を切り捨てるでしょう。だから、逃げるための金を用意していただきたいのですが......」深雪はこうして正直に欲を口にする人間のほうが、裏でこそこそする人間よりずっと好感が持てた。「20億円。全て片付いたら渡すわ。遠くに行って、二度と苦労しないで暮らせる額よ」「ありがとうございます！」大介の目が輝いた。まさかいきなり数十億円を提示されるとは思わなかった。こんなことなら、もっと早く彼女に付いていればよかった。静雄の下で過ごした年月は、遠回りに過ぎなかった。大介を見送り、深雪の顔に笑みが浮かんだ。そしてすぐに延浩へ電話をかけた。延浩はちょうど会議中で、彼女の名前を画面に見てわざと出なかった。まだ怒っていたからだ。だが通話が切れると、逆に胸の奥がざわざわして落ち着かない。結局、我慢できずに折り返した。「......何の用だ？」わざと高飛車に出た。「前作ってくれた酢豚が食べたいの」柔らかな声が耳に届いた瞬間、延浩の苛立ちは半分以上消え失せた。「そうか......今夜、持っていくよ」嬉しさを隠せず、情けないほどすぐに笑ってしまった。その様子を目の当たりにした星男は、信じられない思いで目を剥いた。この人がこんなに早く態度を変えるなんて！
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第235話
芽衣は馬鹿ではない。大介の皮肉を聞き取れないはずがなかった。彼女は勢いよく立ち上がり、奥歯を噛みしめて言い放った。「お前なんか静雄のそばにいる犬にすぎないくせに！よくも私に牙を剥けるわね。クビになりたいの！？」「失礼ですが、芽衣様。私は社長の犬ではありません。ただの助手です」大介は表情ひとつ変えず、冷静に言い返した。芽衣は今や彼が自分にここまで口答えするようになったことに衝撃を受けた。怒りにまかせて立ち上がり、そのまま平手打ちをしようと手を振り上げるが、すぐさま大介が彼女の手首を掴み取り、冷たく言った。「芽衣様、お元気で」ちょうどそこへ静雄が駆けつけ、この場面を目撃した。「何をしている！」彼は大股で近づき、大介の前に立ちはだかり、不快をあらわに睨みつけた。「社長、芽衣様が私を叩こうとしたのですが......」大介は淡々と答え、芽衣の手首を放した。「私は身を守っただけで、攻撃する意図はありません」芽衣はその言葉にさらに逆上し、すぐに静雄に抱きついてわんわん泣き出した。「静雄、ごめんなさい！私、叩くつもりじゃなかったの。でもこの人、ずっと私を悪者扱いして......静雄、どうして皆して私を責めるの？」大介はそんな芽衣の泣く、喚く、騒ぐ演技にはすっかり慣れていた。だからこそ淡々と告げた。「病院の監視カメラは音声も拾います。映像を確認すればすぐに分かりますよ」その一言に芽衣の口はぴたりと閉じられ、あとは静雄の胸に顔を埋めてしゃくり上げるだけだった。静雄は愚かではない。事の真相を理解していた。だが、相手は幼なじみ、もう一方は長年支えてきた助手だ。どちらも失いたくはない。「もういい。芽衣は今、気が立っている。多少のことは大目に見ろ。東山、先に会社へ戻れ」「......はい」大介はそれ以上逆らわず会社へ帰った。社長は芽衣のために冷静さを失い、公私の判断を誤り始めている。そう見えた瞬間、大介は心中で決意を固めた。会社に戻る代わりに、彼は足を転じて深雪の病室へ向かった。彼女は驚いたように顔を上げた。「どうしてこの時間に？静雄に頼まれて来たの？また何か仕掛けるつもり？」「社長はいま芽衣様のそばにいます......何も仕掛けはしていませんので。社長はもう狂っています....
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第234話
「どけ！」静雄が怒声を上げた。もはや完全に逆上しているのが明らかだった。年配の看護師は彼を知らず、その地位もわからない。だから毅然と声を上げた。「私は患者さんを守る義務があります。今すぐ出てください。さもなければ警察を呼びますよ」「田中さん、下がっていいわ。彼は......私の夫だから」深雪は夫という言葉を吐き出すとき、皮肉をたっぷり込めていた。その言葉に看護師の田中千恵子（たなか ちえこ）は驚き、目を丸くした。彼女はここでずっと深雪の世話をしてきたが、よく見かけたのは延浩だけで、この男が夫だとは知らなかったのだ。こんな乱暴な夫が世の中にいるなんて。千恵子は不安そうに深雪を見た。「本当に、通報しなくて大丈夫なの？」「大丈夫。行ってちょうだい」深雪はやさしく笑みを浮かべ、彼女の手をそっと握って安心させた。千恵子は鼻を鳴らし、振り返って静雄を睨んだ。「私は廊下に控えています。もし手を出したら即座に通報しますよ。いい歳をした男が妻を殴るなんて。ふん！」そう吐き捨てると、彼女は静雄の肩を乱暴に押しのけ、足早に外へ出て行った。黒い怒気をまとった静雄の顔を見て、深雪は思わず笑いがこみ上げた。この男、人生で初めてオバサンに罵倒されたんじゃない？「静雄、あんたは狂人そのものよ。何がしたいの？」深雪は身をずらし、彼との距離を取った。「一つだけ聞く。お前は遥太を知っているのか？」静雄は奥歯を噛み締め、深雪の顔を凝視した。わずかな表情の揺らぎも見逃すまいと。二人は長く夫婦であったが、彼がこれほど真剣に深雪を見つめたのは初めてだった。だが視線を返した深雪が感じたのは、熱ではなく嫌悪だった。「知らない。聞いたこともない」淡々と首を横に振った。彼女は馬鹿ではない。どうして認める必要がある？深雪にはわかっていた。静雄がこうして激昂しているのは、血まみれの陽翔を見たからだ。つまり彼は自分がやったと心の底で分かっている。次に血に塗れるのは自分かもしれないと怯えている。そう悟った深雪は確信した。遥太のことは本当で、静雄が彼の家族を破滅させてきた張本人だ。「深雪、遥太はろくな奴じゃない。もしあいつと手を組むならお前は自分の命を削ることになる！」「勝手にしろ！」これ以上は無駄
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第233話
「深雪が陽翔の仕業だと言っている。お前に関係があるのか？あいつは昔から素行が悪い。常軌を逸したことをしても不思議じゃない」静雄は理性的に分析した。だが芽衣はその言葉の裏にある事実をすでに悟っていた。自分が静雄の心の中で占める位置は、以前とは比べ物にならないほど低くなっているのだ。かつてはどうだった？彼はいつだって、芽衣のことになると理屈など挟まず、感情のままに振る舞っていた。それが今では冷静に分析している。つまり、それだけ彼女を気にしなくなったということ。「あなた、もう......私を愛してないの？」芽衣は涙をぼろぼろと零し、肩を震わせた。「分かってる、私が今こんなふうになっているのはよくないって。ごめんなさい......でもどうにもできないの。だって、私はあなたを愛しすぎてる。あなたなしじゃ生きられないの！」そう言いながら、助手席で小さく丸まり、震え続けた。その姿に静雄の心はまた揺らぎ、口調を和らげた。「責めてるわけじゃない。俺はお前を見捨てたりしない。安心しろ」「本当に安心していいの？あなた、本当に私を置いていかない？」芽衣は潤んだ瞳で縋るように問いかけた。その目に抗えず、静雄は即座に頷いた。「もちろんだ。馬鹿だな、俺がお前を置いていくはずがない」長い年月、彼の中で彼女は特別な存在として根を下ろしてきた。簡単に切り捨てられるものではなかった。二人は黙ったまま、海辺の別荘へと辿り着いた。ドアを開けた瞬間、芽衣は悲鳴を上げ、静雄にしがみついた。静雄の視線は、吊り下げられ血まみれになった陽翔に釘付けになり、怒りが込み上げる。「すぐに下ろせ！」震える手で召使いたちが陽翔を下ろすと、芽衣は駆け寄り、泣き叫んだ。「どうして......どうしてこんなことに？誰が！誰がこんな酷いことを！」早く病院へ！」彼女の声は震え、弟の体温がゆっくりと失われていくのをはっきり感じていた。静雄は陽翔の足元に落ちていた、血に染まった小さな紙片を拾い上げた。【ささやかな驚き。心ばかりの贈り物。】この筆跡を、静雄が見間違えるはずがなかった。顔が一瞬で険しくなり、奥歯を噛みしめた。すぐに大介に電話をかけ、病院の手配を指示した。その後、遥太に電話をかけた。「お前、戻ってきたのか？」
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第232話
痛みが強ければ強いほど、深雪は自分が生きていると実感できた。静雄は病室を出るとすぐに芽衣の腕を掴み、そのまま車へと引きずった。険しい顔で彼女を睨みつけた。「陽翔に電話しろ」「静雄？」芽衣は信じられないという顔をした。「本当に深雪さんの言葉を信じてるの？まさか、弟がやったって思ってるの？」「電話しろ！」静雄は彼女の言葉を無視し、命令を繰り返した。今度は妥協ではなく、絶対的な強制だった。芽衣は逆らえず、涙ぐみながらもスマホを取り出し、陽翔に電話をかけ始めた。その頃。陽翔は吊るされ、無残に鞭で打たれていた。「ぎゃあああっ！」まるで屠殺される豚のような叫びをあげ、必死にもがいた。その時、ポケットの中で着信音が鳴り響き、陽翔にはまるで天の声のように聞こえた。「金ならある！電話に出させてくれ、頼む！」泣きながら必死に命乞いをした。だが三郎は腕の疲れを振り払い、唾を吐き捨てた。「女ばかり狙う腰抜けが、命乞いとはな！そんな汚れた金なんて、誰が気にするものか！」そう吐き捨てると、再び鞭を振り下ろした。「やめてくれ！本当に金はあるんだ！21億円の小切手を持ってる！全部やる、命だけは助けてくれ！」この言葉に、さすがの三郎も動きを止めた。まさかこの間抜けにそんな大金があるとは想像もしなかったのだ。奴の身体を探ると、本当にその小切手を見つけた。じっくり確認したあと、部下に渡す。「へぇ......見直したぜ、小僧。なかなかやるじゃねえか！どうせあの女の金を吸い上げたんだろ？どこまでクズなんだよ！」怒りが再燃した三郎は、さらに容赦なく鞭を振り下ろした。そのとき、遥太が部屋に入ってきた。血の匂いに顔をしかめ、懐からハンカチを取り出して口元を覆った。「こいつもう気絶しました。根性なしですよ」三郎はへらへら笑い、宝物でも差し出すかのように小切手を遥太に渡した。「遥太様、こんなのが出てきましたよ」小切手を受け取った遥太は、一瞬で深雪がそれを無効にした時のことを思い出し、思わず笑みを漏らした。「その小切手はもう使えない。あの女は抜け目がないからな」「そうですか！」三郎は鼻をこすり、小声でつぶやいた。「やっぱりあの女、手強いな......」「もういい。こいつを静雄の海辺の別
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第231話
「深雪、俺はもうお前と揉めたくない。いったいどうしたいんだ？はっきり言ってくれ」静雄は疲れたように眉間を揉んだ。会社はいま転換期の真っ只中で、しかも家庭でも波風が立ち、心身ともに限界に近かった。そんな彼の疲弊した様子を見て、深雪は思わず笑みをこぼし、うつむいたまま静かに言った。「私、離婚したい。それに、私に渡すべきものは全部渡して」何だ？静雄はあらゆる可能性を考えていた。もう一人子どもを作る覚悟すらしていた。だが、彼女が望んでいたのが金を持って出ていくことだったとは、夢にも思わなかった。一瞬にして、これまでの辛抱も優しさも消え去った。静雄は大股で歩み寄り、深雪の首をがっちりと掴み上げた。「そんなに急いで離婚して、俺の財産を分けてもらって......結局は江口家の小僧に貢ぐつもりなんだろ！この女め！いつからあいつと通じてた！」目の前で怒りに震える男を見据えながら、深雪は冷ややかに笑い、軽蔑の目で吐き捨てた。「結婚を裏切ったのはあんたよ。よくそんな口で人を責められるわね」「深雪、俺の逆鱗に触れるな！」静雄の指先がさらに強く食い込み、彼女の呼吸は苦しくなった。顔は赤くなり、必死の抵抗で傷口を刺激してしまい、涙がにじみ出た。その涙が静雄の手にぽとりと落ちた。冷たいはずの水滴が、なぜか彼には焼け付くように熱く感じられ、思わず手を引いてしまった。彼は背筋を伸ばし、泣き崩れる深雪を見下ろした。気持ちは複雑だった。長年連れ添った妻の顔は八方美人で、彼が最も嫌悪する姿だった。だが今目の前にいるのは、壊れそうなほど脆い彼女だった。なぜか、その涙は自分の心にまで落ちてきた。「深雪......寧々のことがあったから、こんなふうになってしまったんだろう。安心しろ。俺は必ずもう一人子どもを作る。今度は健康な子を......俺たちは夫婦なんだから、ちゃんとやり直すべきなんだ」静雄は深いため息をつき、大きく譲歩したかのような顔をした。だがそんな言葉は、深雪にはもう響かない。あまりにも何度も繰り返された台詞に、心はとっくに麻痺していた。彼女は顔を背け、無言で拒絶を示した。彼女の態度に静雄は迷い、ためらいながら再び聞いた。「お前をこんな目に遭わせたのは、本当に陽翔なのか？」「わざわざあいつを陥れる必要がある？」深雪
