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第343話
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クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第452話
しばらくすると、彼女は勢いよくスマホを床に叩きつけた。「バンッ」という大きな音が鳴り、画面は一瞬にして粉々に砕け散った。「くそ、静雄！私を疑いやがって！」芽衣は震える体でその場に立ち尽くし、胸を激しく上下させた。彼がまさか、こんなに手強く、神経質になるなんて思ってもいなかった。これまでは静雄が自分の言うことを何でも聞き、盲目的に信じてくれると思い込んでいたのだ。だが、今の態度の変化は彼女の計画を根底から覆すものだった。もし静雄が本当に何かを掴んでしまったら、これまで積み上げてきたすべてが水の泡だ。芽衣は必死に冷静さを取り戻そうと深呼吸をした。別のスマホを手に取り、陽翔に電話をかけた。「もしもしどうだった？静雄の様子は？」電話の向こうで陽翔の声がやきもきしている。「まずいわ！」芽衣は声を震わせながら答えた。「静雄が私を疑い始めたの。さっき薬のことを問い詰められて、医者の情報を要求されたのよ！」「えっ、疑われてるのか？」陽翔が急に緊張した。「いつもは言うことを聞くはずなのに、どうして急に？」「わからない、急に別人みたいになったのよ。敏感で用心深い。もし本当に何か見つけたら、もう終わりよ！」芽衣は焦りと恐怖で声が掠れた。「落ち着け。まだ証拠があるわけじゃない、慌てるな」陽翔は必死に冷静を装って言った。「まずは動揺を見せるな。様子を見てから対処しよう」「どうやって落ち着けっていうの？もう調査を始められてるんだわ、通話の履歴や資金の流れを調べられたら終わりよ！」芽衣の声には絶望があった。「通話履歴や資金の流れだって？そんなもの、簡単に見られるはずがないだろ。俺たちは慎重にやってるんだ、心配するな」陽翔は自信たっぷりに返すつもりだったが、言葉に力が籠らない。「万が一があるのよ、陽翔！万が一、ねえ！」芽衣は泣きそうな声で叫んだ。「もし彼が本当に何かを掴んだら、最悪の手段を取ればいい」陽翔の口調が次第に荒っぽくなった。「最悪の手段って？」芽衣は凍りついた。「もう後戻りできないなら、徹底的に抑え込めばいい。静雄を完全にコントロールして、黙らせるんだ！」陽翔は興奮気味に囁いた。「黙らせるって、どうやって？」芽衣は震える声で訊ねた。「薬の量を増やすんだよ。もっと
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第451話
「鈴木先生はもちろん専門家よ！」芽衣の声が一気に強まった。かすかな焦りと苛立ちが混ざっていた。「静雄、変なこと考えないで。鈴木先生は、私の知り合いの紹介なの。精神疾患の治療で評判の先生だって言うから、あなたのためにお願いしたのよ。どうしてそんなふうに人を疑うの？」「俺のために？」静雄はその言葉をゆっくりと繰り返した。声は冷えきっていた。「それともお前自身のためか？」「静雄！」芽衣の声がついに鋭く跳ねた。「どうしてそんなこと言うの！？私があなたにどれだけ尽くしてきたか、わかってるでしょ？私はずっとあなたのそばにいて、支えてきたのに......体調が少し良くなったからって、今度は私を疑うわけ？そんなのひどい......」声が震え、泣き声に変わった。もし以前の静雄なら、その一言で全てを許しただろう。芽衣が泣いているだけで、どんな怒りも消えた。だが今の彼の胸の奥には、同情よりも冷たい空洞が広がっていた。「芽衣、責めたいわけじゃない。ただ、真実を知りたいだけだ」静雄の声は落ち着いていたが、どこか底知れない冷たさがあった。「本当に俺のことを思ってくれているなら、薬の成分と医師の情報を教えてくれ。それだけで安心できる」沈黙。電話の向こうからは、芽衣の呼吸音だけが微かに聞こえた。その沈黙が、何より雄弁だった。静雄の胸の奥が、ずしりと沈んでいく。もうわかってしまった。「......静雄、もう私を信じていないの？」芽衣の声がか細く震えながら戻ってきた。悲しみと絶望が滲んでいる。静雄は短く息を吐いた。「信じたい。だから信じる理由をくれ」言葉は鋭く、容赦がなかった。「......そう。わかったわ」芽衣の声が途切れ途切れになった。「もういいのね。私がどれだけ言っても無駄なんでしょ......だったらもう、いい」通話が途切れた。静雄はしばらく、その音を聞き続けた。やがて、スマホをゆっくり机の上に置いた。広いオフィスに、ただ時計の音だけが響いている。芽衣。お前は俺が暗闇の中で唯一、信じられる存在だった。それが......最初から、幻だったのか？胸の奥から疲労感がこみ上げてきた。静雄は椅子にもたれ、天井を仰いだ。だが、もう迷いはなか
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第450話
これからが本番だ。大介が部屋を出たあと、静雄は深く沈黙したまま、ひとりオフィスの椅子にもたれた。やがて、彼はスマホを手に取り、迷うことなく芽衣に電話した。数回の呼び出し音のあと、柔らかな声が聞こえてきた。「静雄？どうしたの、もう仕事は終わった？」その声はいつも通り穏やかで、優しさに満ちていた。だが、今の静雄には、その温度がどこか嘘くさく感じられた。「芽衣......最近、俺が飲んでる薬は一体何なんだ？名前と成分を教えてくれ」切り込むような声だった。電話の向こうが一瞬、静まり返った。わずかに息を飲む気配。「え......どうしたの、急にそんなこと。お医者さまが説明してくれたでしょ？不安や抑うつを和らげる薬よ」声はいつもの柔らかさを保っていたが、ほんの少しだけ緊張の色が混ざっていた。「不安を和らげる薬って？成分も知らされていない。俺が訊いてるのは、なぜそれを隠す必要があるのかってことだ」芽衣はしばらく黙り込んだ。その沈黙は、まるで時間が止まったかのように長い。「......静雄、そんな言い方しないで。隠すつもりなんてなかったの。ただ、あなたに余計な心配をさせたくなかったのよ。確かに少し副作用はあるけど、医者が問題ないって言ってたの。あなたの症状、前よりずっと落ち着いてきてるじゃない？」「落ち着いてきてる？」静雄は乾いた笑いを漏らした。「頭は割れるように痛むし、夜は眠れない。これが良くなっているということか？」芽衣の声が少し慌ただしくなった。「静雄、お願い、そんなに感情的にならないで。それは薬の量を減らしたせいかもしれないの。お医者さまも言ってたでしょ、少し我慢すれば体が慣れるって。信じて......」「まだ俺のためって言っているのか？」静雄は冷たい声で繰り返した。「本当に、俺のためなのか？」電話の向こうで、再び長い沈黙。「......今日のあなた、少しおかしいわ。どうしてそんなことを言うの？私を疑ってるの？」声には微かな涙の色が混じっていた。静雄の胸が一瞬、痛んだ。疑う。その言葉が、彼自身の喉を刺した。かつて、彼女をこれほどまでに信じていた自分が今はこうして問い詰めている。「芽衣、俺はただ確かめたいだけなんだ。体に入れるものだから、何を飲んでいるの
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第449話
大介は、自分の役目が終わったことを悟っていた。これ以上、余計な言葉を並べる必要はない。あとは社長がどう受け止め、どう動くかだけだ。重苦しい沈黙が、オフィスの空気を押し潰していた。静雄はしばらく無言のまま天井を見上げ、それから低い声で言った。「......東山、もういい。出てくれ。ひとりになりたい」「......承知しました、社長」大介は胸を撫で下ろすように小さく息をつき、静かに部屋を後にした。扉が閉まると同時に、空間は再び静まり返った。時計の秒針の音だけが、妙に大きく響いていた。静雄はゆっくりと椅子にもたれ、長い息を吐いた。顔の表情は刻一刻と変わり、怒りと困惑、そして悲しみが入り混じっていた。匿名メッセージ。大介の警告。自分の体調の悪化。それらすべてが、ひとつの恐ろしい結論を指している。芽衣は俺を、騙していたのか？その思いが胸の奥を貫いた瞬間、鋭い痛みが走った。体の不調ではない、もっと深い場所、心臓の奥からくる痛みだった。彼はずっと彼女を信じていた。何も疑わず、言葉ひとつで行動を変え、彼女の笑顔ひとつで救われてきた。その彼女が、もし最初から嘘をついていたのだとしたら？静雄は両手で顔を覆った。屈辱と怒りが、波のように押し寄せた。愛していた時間すら、汚された気がした。もし、全部芝居だったとしたら？俺はどれだけ滑稽なんだ？机の上の薬瓶を見つめながら、静雄は考えていた。その中身が俺を救ったのか、それとも壊したのか。もう、わからなかった。一方その頃、カフェの一角で、深雪と延浩、そして遥太が静かに報告を待っていた。「......静雄、反応したかな？」遥太は落ち着かない様子でコーヒーをかき混ぜながら尋ねた。深雪は窓の外の街明かりを見つめたまま、穏やかに言った。「大丈夫。あの人の性格なら、もう疑い始めてる」「そうだといいけどな」遥太が溜息をついた。そのとき、深雪のスマホが震えた。画面には、大介からのメッセージ。【社長はすでに精神薬についてネットで調べています。副作用の件でも私に質問してきました】深雪の顔に冷たい笑みが浮かんだ。「ようやく、目が覚め始めたみたいね」延浩も口元を緩めた。「仕掛けは完璧だな」「ここから先は、
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第448話
まさか、本当に何かを隠しているのか？静雄の胸の奥で、疑念が一気に膨れ上がった。頭の中はぐちゃぐちゃで、まとまらない。駄目だ。確かめなければ。いったい何が起きているのか。スマホを掴み、大介に電話をかけた。「......東山、今すぐ俺のオフィスに来てくれ」声は低く、だがどこか焦りが滲んでいた。「はい。ただちに伺います」電話の向こうの大介の声は、いつものように落ち着いていた。数分後、ノックの音が響き、ドアが開いた。「社長、お呼びでしょうか？」静雄はゆっくりと椅子に腰を下ろし、鋭い眼差しを大介に向けた。「東山......精神系の薬について、どれくらい知っている？」唐突な質問に、大介は一瞬まばたきをした。「精神系の薬ですか？」少し考え込み、慎重に答えた。「詳しくはありませんが......副作用が強く、依存性が高い薬が多いと聞きます。長期服用は身体に悪いと」静雄の目が彼を冷たく見つめていた。「副作用......依存性......」低く呟いたその声は、重く沈んでいた。大介は続けた。「はい、以前記事で読みました。悪質なクリニックが患者を金づるにして、必要のない精神薬をどんどん処方すると。そういう薬は長く飲めば体を壊すだけでなく、止めた途端に強い離脱症状が出て、地獄のような苦しみを味わうそうです」大介は言葉を選びながらも、静雄の反応を注意深く観察していた。自分の言葉が彼の心を波立たせていくのがわかる。静雄の顔はどんどん険しくなり、瞳の奥に暗い影が宿っていった。「精神薬の乱用......金儲けのために？」歯の隙間から漏れる声には怒気が滲んでいた。「はい。最近では特に、そういう個人クリニックが増えているそうです。患者のことなんて考えず、薬を出せば出すほど儲かる。治療を口実に、依存状態にしてでも薬を続けさせるんです」静雄の拳が、無意識のうちに握り締められた。芽衣の言葉。あの診療所。鈴木先生。そして、毎日飲まされている名も知らぬ薬。まさか......すべて仕組まれていたのか？芽衣が俺を騙していた？その考えが一度胸に芽生えると、もう止められなかった。雑草のように、心の奥で一気に広がっていく。静雄は勢いよく顔を上げ、大介を見据えた。その目には、怒りと疑念
クズ男が本命の誕生日を盛大に祝ったが、骨壷を抱えた私はすべてをぶち壊した 第447話
「メッセージの内容はこれでいこう」延浩はスマホの画面を見せながら言った。そこにはすでに下書きされた匿名メッセージが映っている。「言葉はあくまで遠回しに。でも、核心を突く。彼自身に考えさせるんだ」深雪は文面を一度丁寧に読み返し、静かに頷いた。「うん、これならいいわ。静雄の性格なら、必ず気にして調べるはず」メッセージの内容はこうだった。【静雄さん、お体の調子はいかがですか？最近、ある薬を服用されていると伺いました。その成分や副作用について、きちんとご存じでしょうか？一部の薬は長期的に服用すると、思わぬ影響を及ぼすことがあります。どうかご自身のために、少し調べてみてください】遥太は感嘆の声を漏らした。「これは見事だな。正面から攻めるより、こうやって裏からじわじわ行くほうが何倍も効果的だ」深雪はかすかに微笑んだ。「静雄、どうか私たちの好意に気づいてほしいものね」「大介の方は？」延浩が確認してみた。「もう話を通してあるわ。彼も段取りを理解してる」「よし、じゃあ後は連絡を待とう」延浩は自信に満ちた笑みを浮かべた。夜の松原商事の社長室で。静雄はソファにもたれ、こめかみを押さえていた。薬の量を減らしてからというもの、頭痛と不安感が日に日に増している。以前のような無気力さは薄れたものの、体の不調はむしろ強まっていた。「くそっ、いったいどうなってる......」低く唸りながら、机の上の薬瓶を手に取った。何度も見慣れたラベル。製薬会社の名と専門的な成分名が並んでいるが、医者でもない彼には意味がわからない。「確かに芽衣は『医者が特別に処方した薬』だって言ってたが、不安と抑うつを抑えるって......なのに、なんでどんどんおかしくなるんだ？」その時、机の上のスマホが小さく震えた。新着メッセージの通知。静雄は手を伸ばし、画面を開いた。差出人不明。「......俺の体を気遣う？」今、自分の体を心配しているのは芽衣だけのはずだ。だが、そのメッセージの文面を読んだ瞬間、胸の奥がざわめいた。“薬の成分と副作用”“長期服用による思わぬ影響”その言葉が、鋭い針のように神経を刺した。最近の頭痛、苛立ち、睡眠障害......それらは本当に治療の過程で起こるものなのか？それとも、当に
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