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第281話
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クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第282話
紗雪がビルの一階に降りた瞬間、思わず目の前が真っ暗になった。なるほど。さっきまで秘書が何度も言いかけては口をつぐんだ理由が、今になってようやく分かった。加津也、この男......なんて派手好きなんだ。「控えめ」という言葉を辞書から消し去ったかのような振る舞いだ。その場にはなんと記者まで来ていて、それぞれ長いレンズやカメラを肩に担ぎ、二川グループの正面玄関に向かっていた。加津也は、紗雪の等身大パネルと横断幕まで用意していた。横断幕にはこう書かれていた、「二川グループ会長・二川紗雪、君を一生愛する。自分の一生を君と二人で歩みたい」さらに、風船に花束、大音量のスピーカーからは告白ソングが流れていた。正直に言えば、もしこれが真剣な告白であったなら、こういう演出は確かに胸を打つものがあるだろう。だが、今日の相手は紗雪だ。加津也のやったことは、紗雪にとってただのセクシャルハラスメントにしか思えなかった。嫌悪感と寒気しか湧いてこない。彼女の中で、加津也への偏見はすでに根深くなっていた。彼の行動一つ一つが、もう見ているだけで吐き気がする。「これは何の真似？」低く鋭い声で問いかけると、加津也の目がぱっと輝き、すぐに記者に目配せした。記者たちはそれを合図にすぐ動き出し、装備を抱えて紗雪のあとを追った。紗雪が姿を現した瞬間、現場にいた記者の多くはすぐにピンときた。加津也の合図など必要ないほどに、瞬時にシャッターを切り始める。そんな中、加津也は柔らかな声で紗雪に語りかける。「紗雪、これはささやかな気持ちなんだ。あの三年間、ずっと君のほうが俺をアプローチしたじゃないか」「君はいつも俺のことを『ロマンチックが足りない』って言ってた。だから今日は、君にロマンチックを見せようと思って」「俺の気持ちを伝えたいんだ！」その言葉に、周囲に集まっていた人たちが一斉に拍手し、歓声をあげた。まるでドラマのクライマックスのような盛り上がりだった。だが、紗雪の頭の中では耳鳴りのような音が響いていた。何とか感情を抑えていたが、これ以上の騒ぎは見過ごせない。彼女の目の奥がすっと冷えていく。一方で、加津也はこっそりと口角を上げていた。計画通り。いや、それ以上にうまくいっている。世間の注目と
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第281話
西山母はすでに心の中で、今後どうやって紗雪をしっかりと調教するかを思い描いていた。一方、紗雪はオフィスで仕事をしていたが、突然くしゃみをし、不安げな気持ちが心に広がった。胸の奥にざわつくものを感じる。何かが起こりそうな気がしてならない。紗雪は軽く頭を振り、その雑念を追い払おうとする。これ以上、くだらないことで気分を乱されたくなかった。今の彼女にとって、頭の中は二川グループの事業拡大と強化のことでいっぱいだった。それ以外のことは、もう考えたくもない。気持ちを落ち着かせた紗雪は、再び視線を目の前のプロジェクト資料に向けた。だが、読み始めて間もなく、眉間がピクピクと痙攣し始める。胸の奥に広がる不安感が、どんどん膨れ上がっていく。いったい、どういうこと？もう資料に集中できず、紗雪は立ち上がって、全面ガラスの窓際に歩み寄り、外の喧騒を見下ろした。車の流れ、人の往来――この時になってようやく、心が少しだけ落ち着いた気がした。やっぱり、考えすぎだったのかもしれない......紗雪は椅子に戻って仕事を続けようとした。だがその時、ドアをノックする音が鳴り響いた。彼女の心臓がぎくりと跳ねる。嫌な予感がますます強まる。「入って」入ってきたのは焦りの表情を浮かべた秘書だった。紗雪を見ても、なかなか言葉を発しようとしない。眉をひそめ、手に持っていたペンを置きながら彼女は言う。「大丈夫よ、何かあったなら早く言って」その言葉を受けて、ようやく秘書は覚悟を決めたように報告し始めた。「......会長、下に男の人が来てまして、横断幕を広げて、バンドまで連れてきて、あなたに大声で告白してます......」紗雪の美しい目に、信じられないという色が浮かんだ。「......私に？」秘書はうなずく。「はい、横断幕にはあなたの役職と名前がはっきり書いてありました。最初は同姓同名だと思ったんですが......違いました」紗雪の眉が深く寄る。不安が再び胸に押し寄せる。まさか、また加津也......？そうだとしたら、いったい何を考えてるの？あれだけのことがあって、まだ懲りていないというの？「わかった。私が見に行くわ」そう言って立ち上がろうとしたその時、秘書が慌てて彼女を止めた
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第280話
「お父さんと約束したの。家でちゃんとあんたを見張ってろって。出かけるなんて許さないからね」「母さん、俺、本当に用事があるんだよ」加津也は少し焦った様子で説明を始めた。ここ数日、父親の監視が厳しくなっていたが、このまま外に出られなければ、あの女が外でいくら稼いでも、自分の手元に一銭も入ってこない。それだけならまだしも、もし他の男が紗雪に言い寄っていたら......その想像だけで、胸がムカムカしてたまらなかった。だが、西山母は落ち着き払ったまま問い返した。「出かけて、何するつもり？」「お父さんが、ちゃんと見張っておけって言ったのよ。素直に言うこと聞いてなさい」母親の言葉に、加津也はますます悩ましくなった。でも、さっきの緒莉からの電話の内容が、まだ耳に残っている。加津也は拳を握りしめ、今日だけはどうしても外に出なければならないと決意する。やむを得ず、手に入れた情報を母親に話すことにした。「母さん、二川紗雪って知ってる？」加津也はスマホで二川グループの情報を検索し、母親に見せた。「これだよ。二川グループの、最近話題になった次女、今は二川グループの会長に就任したばかりなんだ」ネットで見つけた写真を次々と見せる。西山母は軽く目を通しただけで、特に関心を示す様子もなかった。どうせ自分に関係のない世界の話だからだ。「それがどうしたの？」加津也は懇切丁寧に言葉を選んで説得を続けた。「母さんも知ってるだろ、二川グループの価値。うちなんかよりよっぽど上だよ」「で、その次女は、俺の元カノだったんだ」「本当なの？」西山母は体を起こし、信じられないという表情で息子を見つめた。彼は真剣な表情で頷いた。「もちろん本当。でも今ちょっとしたケンカ中でさ、だからこそ、俺が努力して彼女を取り戻さなきゃいけないんだ」「じゃあ、初芽はどうするの？」息子の性格をよく知っている西山母は、初芽という女についても噂程度には知っていた。加津也は母の意図を察し、話を合わせて答えた。「あいつはただの遊び相手だよ。本当に利益をもたらしてくれるのは紗雪だよ。だから、俺が選ぶのは当然後者だろ？」西山母は頷き、それで息子の外出を了承した。「じゃあ、行ってきなさい。あの子の気持ちを裏切っちゃダメよ」もちろん、西山母
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第279話
緒莉はくすっと笑い声を漏らした。「さすが西山さん、話が早くて助かるわ」「大したことじゃないの。ただね、最近紗雪の事業が順調で、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでお金を稼いでるのよ」「......どういう意味だ？」ベッドにだらしなく寝転がっていた加津也は、その一言を聞いた瞬間、勢いよく身を起こし、目を光らせた。「そのままの意味よ」と緒莉はおかしそうに言った。「え？西山さんの元カノがそんなに稼げるって、知らなかった？」「まさか、西山さんの前ではずっと隠してたのかしら？自分の正体も、実力も、全部？」「......ふふっ」緒莉はわざとらしく一語一語ゆっくりと喋った。言葉の刃が加津也の心にじわじわと突き刺さっていく。彼の拳は知らず知らずのうちに握り締められ、胸が大きく上下する。あの女......やはり自分に対して、色々と隠していたのか。なぜ別れてから、こんなにも才能を発揮できるのか？加津也の荒い呼吸音が、電話越しにもはっきりと聞こえる。緒莉は内心で勝ちを確信していた。黙っていても、彼の反応がすべてを物語っている。しっかり聞いてるわね。長い沈黙の後、ようやく彼が口を開いた。「俺に何をしろって？」緒莉は満足そうに口角を上げた。ほら、やっぱりこの男も我慢できなかった。紳士ぶってるだけで、中身なんてみんな似たようなものよ。機嫌の良くなった緒莉は、ゆっくりと話し始めた。「簡単なことよ。こんなに有能な女、手放すなんてもったいないでしょ？家に戻して大事にすればいいのよ......もう一度アプローチしてみたら？」その言葉を聞いた瞬間、加津也の顔に迷いが浮かんだ。過去に一度、紗雪を追いかけたことがある。しかしその結果、警察に突き出された。あの時の気まずさは今も忘れていない。「それならもう試した。意味なかった」言いながら、彼の声には苦味がにじんでいた。だが緒莉は自信たっぷりだった。「西山さんのやり方が悪かったのよ」「私は同じ女として、女が何を求めているか分かってる。私の言う通りに動けばいいだけ......」緒莉は、自分が考えた計画を余すことなく語った。最後まで聞いた加津也は、やや不安げな声で尋ねた。「......本当に、うまくいくのか？」「大丈夫。女ってのはね、みんな目
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第278話
ある人物が紗雪に耳打ちするように言った。このプロジェクトがうまくいけば、今後の提携についても上層部が前向きに検討してくれるかもしれないと。その言葉を聞いて、紗雪の瞳がぱっと輝きを放った。「山下さん、それって本当ですか？」相手は自信満々にうなずき、紗雪の実力を十分に認めている様子だった。「チャンスは、準備のできている人間にしか訪れないものさ。もし他の人間だったら、こんなこと絶対に言わないよ」その一言で、紗雪はすぐに彼の意図を察した。このプロジェクトがどれほど重要か、わかっているな？それは明らかにそう言っているのだった。紗雪は頷いた。「分かりました。このプロジェクト、絶対に手放しません」周囲の人々も紗雪の能力を高く評価しており、それ以上は特に口を挟まなかった。彼女のキャリアはまさに順風満帆だった。しかし陰で様子を窺っていた緒莉は、それを黙って見ているような人間ではない。彼女の頭をよぎったのは、以前ロビーの入り口で紗雪を呼び止めていた加津也の姿だった。あの男、使えるかも。緒莉は唇の端をわずかに吊り上げた。「紗雪......あんたの親愛なる元カレが、あんたのビジネスがこんなに順調なことを知ったら......また舞い戻ってくるかしら？」「ふふ、だって以前はあんなにラブラブだったじゃない。私はただ、元サヤに戻る手助けをしてあげるだけよ。感謝はいらないわ」そう独り言のように呟きながら、緒莉は加津也の連絡先を引っ張り出した。そして、なんの迷いもなく電話をかけた。その頃、加津也はというと、西山父に監禁されるように家に閉じ込められていた。先日の警察沙汰が西山家の株価にまで影響したせいで、西山父は激怒し、息子を外に出させなかったのだ。初芽はというと、加津也が外に持っていたマンションにまだ滞在しており、二人はもっぱら携帯で連絡を取り合っていた。だが西山父は初芽のことを全く認めていなかった。家柄も背景もない女が、西山家にもたらす利益など皆無。そんな女は加津也にはふさわしくない。初芽もそれは承知していたが、どうしようもなかった。口では加津也に「離れたくない」と甘えながら、裏では新しい成金を探していたのだった。そんな中、緒莉からの着信がスマホに表示された。意外に思いつつも、加津
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第277話
紗雪が無礼だと、美月も一瞬で感じ取った。美月は緒莉をなだめるように言った。「気にしなくていいのよ。あの子にはあの子なりの考えがあるの」その言葉を聞いて、紗雪は思わず目を白黒させそうになった。もう何も説明する気にもならなかった。どうせ緒莉とは目指すものも目的も全然違うのだから。「会長、私は椎名グループの管理者たちをお見送りしてきます」紗雪はそう言って美月に一礼した。顔に特別な感情の起伏はなく、緒莉を見る視線も、まるで騒がしいだけの道化を見ているかのようだった。「椎名グループ」という名前を耳にした途端、美月の表情がまた少し和らいだ。「いってらっしゃい。二川グループのことは気にしなくていい、自分の役割だけきちんと果たせばそれで十分」その一言で、緒莉はすぐに悟った。母が言外に自分を責めているのだと。ゆっくりと拳を握りしめる。やっぱり、何もしなければこの家に自分の居場所なんてない。紗雪にとって、美月の言葉は想定内だった。ただ静かに頷き、それ以上何も言わずにその場を去った。二人の会話に巻き込まれる気は毛頭なかったし、そんなことに時間を使うのも無駄だと思っていた。紗雪が立ち去った後、美月はようやく緒莉に口を開いた。「あなたが紗雪に不満を持っていることは、分かっているわ......」「お母さん、私はそんなこと......」緒莉は目を見開き、慌てて否定しようとした。だが、美月は手を軽く振り、穏やかな口調で言った。「取り繕わなくていいわ。私の言いたいことは分かってるでしょう？あなたの考えてること、私にはちゃんとわかってるから」その言葉に、緒莉は何も言えなくなった。見透かされていたとして、だから何？今の会社で、自分は何の得もしていない。ならば、すべてを母の目の前にさらけ出してやればいい。一体誰のせいでこうなっているのかを、知らせてやる。緒莉は震える声で尋ねた。「お母さん......」「私たちはどちらもお母さんの娘でしょ？お母さんは本当に平等に見てくれてるの？」美月は一瞬、瞳孔がすっと縮まり、驚いたような目で緒莉を見た。「自分が何を言ってるのか、分かってるの？」「分かってるよ、お母さん。私は今、とても冷静よ」緒莉は、まるですべてを捨てたような覚悟を帯びていた。美月
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第276話
大勢の称賛を浴びる中、美月の笑顔は片時も消えることがなかった。紗雪が椎名グループの人々から褒められることは、彼女にとっても大きな誇りだった。なにしろ自分の娘であり、それはすなわち自分の教育と育て方が良かったという証でもある。そう思えば思うほど、美月は一つ一つの称賛に丁寧に返していった。「まあ、ありがとうございます」「まだ若い子ですから、これからもっと経験を積ませないと」「いえいえ、そんなに良く言っていただけるような子では......」「ええ、やっぱり本人にやる気があるからこそですよ。野心もあるし、そうじゃなければ、いくら周りが後押ししても前には進めませんから」美月の返答には一切の被りがなく、どれも紗雪への称賛に応じるための言葉だった。すべては、将来のために、二川家をさらに大きくするための土台作りだった。その場には緒莉も会社に顔を出しており、傍らでこの光景を無言で見つめていた。だが、手に持ったワニ皮のバッグを握り締める手には、徐々に力が込められていた。もしネイルをしたばかりでなければ、爪が折れていたかもしれない。奥歯を強く噛み締めながら、緒莉はその様子を鋭く見つめ続けていた。どうして紗雪ばかりが、皆の注目と愛情を受けられるの？母親の関心さえ、彼女にばかり向いている。じゃあ、自分は？同じく母親の娘であるはずなのに、この差は何？母はなぜ、自分に健康な身体を与えてくれなかったのか。そんなことなら、最初から子どもなんか産まなきゃよかったのに......美月は緒莉の内心の動揺には気づかず、称賛の嵐にすっかり心を奪われていた。緒莉にも一応は褒め言葉が飛んできたが、それはどこか形式的なものだった。「この子が長女さんですか？」「大きくなったですね。時が経つのは早い」「こんなに綺麗に成長するなんて、見てるだけで嬉しくなりますよ」美月はにこやかに頷きながら、「二人とも私の自慢の娘たちです」と答えた。その場の皆は、美月は本当に幸せ者だ、娘二人とも親孝行だと口を揃えていた。美月は笑みを浮かべたまま、それ以上は何も言わなかった。なぜなら、緒莉については容姿を褒められただけで、これ以上話を広げる材料がなかったのだ。緒莉にはその美月の様子が手に取るようにわかった。母は明らかに自分
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第275話
先ほどまで少し陰っていた表情が、紗雪を見た瞬間、ぱっと晴れやかに変わった。よく見ると、男の口元にはうっすらと微笑が浮かんでいるのが分かる。京弥はベッドの傍らに立ち、女性の穏やかな横顔を見つめながら、心の奥に温かな感情が広がるのを感じていた。「さっちゃん、俺から離れないで......」彼は手を伸ばし、彼女の耳元にかかる乱れた髪をそっと耳にかける。その可憐な顔立ちが、はっきりと露わになる。そして、男の瞳の奥には、彼女への想いがじわりと浮かび上がっていく。その瞬間、二人はしっかりと寄り添い合っていた......翌朝。紗雪はゆっくりと瞳を開け、伸びをしながらのんびりと身体を起こした。右腕を伸ばしかけたところで、何かにぶつかる感覚がした。不思議に思って顔を向けると、目の前には、完璧なイケメンフェイスが急接近してきていて、思わず心臓が跳ねた。京弥は目を開けていないものの、正確に彼女の右手を掴み、それを唇に近づけてキスを落とす。「おはよう」低くてセクシーな声を耳にした紗雪は、ようやく状況を理解する。勢いよく京弥を押しのけ、怯んだように目を見開いた。「いつ来たの！？」京弥はどこか満ち足りたような目をしながら答える。「もちろん昨夜だよ」彼女を抱いて眠ったその一晩は、とても安らかな時間だった。おかげで今日の気分も、すこぶる良い。紗雪は自分の服に視線を落とし、それが昨夜のままの寝間着であることを確認して、ようやくほっと息をついた。その様子を見た京弥の目に、ふっと悪戯っぽい光が宿る。「なにを気にしてるの？もう夫婦なんだし、仮に何かあったとしても、全然おかしくないんだよ？」紗雪はしばらく言い返す言葉が見つからず、悔しそうに右手を引っ込めた。「もう、ふざけないでよ！また調子に乗って......仕事行くから！」京弥はやれやれといった様子で言った。「はいはい、いってらっしゃい」紗雪は素早くベッドを降りて服を着替える。それは、耳の裏がほんのり赤くなっているのを隠すためでもあった。京弥の顔、何度見ても、やっぱり心が揺れてしまう。まさに彼女の好みにど真ん中。好きにならない方が無理というものだ。紗雪は大きく息を吸い込み、気持ちを整えてから会社へと向かった。会社に着いた
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第274話
京弥は低く問いかけた。「それで、紗雪は？」「俺が来たときは、彼女が出ていくのは見てない。もう一度よく考えて、彼女どこに行ったのか思い出せ」清那は小声でぼやいた。「......兄さんがここにいるからだよ。だから紗雪は出てくるわけないでしょ」その一言に、京弥の表情がさらに沈んだ。「俺を避けてるのか？」清那は目を逸らした。「分かんないよ。それはあなたたちの問題だし、自分で聞いてよ」そう言い捨てて、清那はそのまま立ち去ろうとした。今回は京弥もそれ以上引き止めることはなかった。ただ一言、警告を残す。「また紗雪をこういう場所に連れてきたら......次からは容赦しない」清那の背中がビクリと震え、心の中では泣きそうになっていた。誰が誰を連れてきたって？自分のせいじゃないのに......ただの付き添いだったのに、なんで怒られなきゃいけないの。そう思うと、清那は本当に落ち込んだ。でも、「親友第一」の精神で、彼女は文句を飲み込み、「もう二度と紗雪を連れてこない」と心の中で誓った。それを聞いてようやく京弥は満足げに頷き、清那を見送った。彼女が去った後、匠が控えめに声をかける。「社長、これからどうしましょう？奥様を探しに行きますか？」ここまで時間が経っていて、果たして紗雪を見つけられるかどうかも分からない。それに、どこへ行ったのかも見当がつかない。京弥はゆっくりと首を振った。「いい。後にしよう」どうせ紗雪が出て行ったとしても、行き先なんてたかが知れてる。きっと家に帰っただけだ。行く場所なんて、他にはない。長い時間の中で、京弥はもうそれを理解していた。そして、紗雪もまた、まさにその通りの行動をとった。もともと清那と軽く一杯飲もうと出てきただけだった。まさかあの子が酔った勢いで京弥にメッセージを送るとは思ってもいなかった。最初は止めようとした。でも、清那の手が早すぎた。気づいたときにはすでに送信済みで、しかも取り消そうとして間違えて削除を押してしまった。その瞬間、紗雪の心はすっかり冷え切った。彼女は静かに席を立ち、その場を離れる決意をした。清那は呆気に取られた。まさか紗雪がこんなに薄情な子だったとは。だが、紗雪の説明は筋が通っていた。京弥は彼女の従
