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第303話

Author: レイシ大好き
時にはビジネスの場で使う手段まで持ち出して、容赦なく攻め立てていた。

辰琉は瞳孔を収縮させながら、紗雪のスマホをじっと見つめた。

「この......クズ女が!やり口が卑劣すぎる!」

まさか今回も録画されていたとは夢にも思っていなかった。

どうして毎回、こうも防ぎきれないんだ?

こんな手口には慣れているつもりだったが、それでも再び体験するとなると、内心ではやはりムカつく。

紗雪は軽く眉を上げて言った。

「兵は詭道なり、って聞いたことない?」

「それに......あんたみたいな人間に、正攻法で挑む必要があると思う?」

冷ややかな視線で辰琉を上から下まで見下ろす。

あれだけ面子を気にしていたはずの男が、緒莉の目の前で、しかもこんな人前でこんな暴言を吐くなんて。

体面はどうした?もういらないのか?

辰琉は拳を握りしめ、低く唸るように言った。

「......死にたいのか?」

一歩、二歩と前に出たその時だった。

「もうやめてよ!」

緒莉の怒声が響き渡った。

紗雪と辰琉は同時に彼女の方を見た。

緒莉は顔をしかめ、不機嫌そうに言い放つ。

「人が見てるのよ。恥ずかしいと思わないの?」

それだけ言って、彼女は有紀を引き連れてその場を後にした。

確かに、酔仙の中には大勢の人がいた。

これ以上ここで騒いだら、明日のニュースの見出しになるのは確実だった。

紗雪もそれは同じだった。

彼女は辰琉に軽蔑の眼差しを残し、くるりと踵を返して立ち去った。

明日の見出しに自分の名前が載るとしても、この男と並ぶのはごめんだ。

そう思った瞬間、紗雪は強い不快感に襲われた。

皆が去っていくのを見て、辰琉もさすがにその場に居づらくなり、周囲を見回した。

どこも好奇の視線だらけだった。

その視線を受けた瞬間、彼の中に羞恥と怒りが混じった感情が湧き上がる。

辰琉も早々に酔仙を後にした。

主役たちが去ったことで、周囲の野次馬たちも次々に散っていった。

「金持ちって、本当にやることが違うね」

周囲からそんな声が漏れる。

「まさか現実に義兄と義妹のドロドロ劇を本当に存在するとは......」

「それも、現場をそのまま人前で晒すなんて、なかなか見れないわよ」

「さすがは上流階級......俺ら庶民の生活とは桁違い」

誰もが好き勝手にしゃべりながら、辰琉
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