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第345話

Author: レイシ大好き
娘がここまで自分を気遣ってくれるのを見ると、それ以上何も言えなくなってしまう。

「大したことじゃないわ。あの人の身分についてはあまり詮索しないで。あなたは辰琉と仲良く過ごしていればそれでいいの」

美月はまたあのパーティーのことを思い出し、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。

この二人の娘、最近どうも思い通りにいかなくなってきている気がする。

むしろ、すでに予想を超え始めているのではないか。

美月があまり多くを語ろうとしないのを察すると、緒莉はそれ以上詰め寄ることなく察して、そっと書斎を後にした。

扉もしっかり閉めて、美月一人だけを残していく。

部屋を出た瞬間、それまで浮かべていた笑顔がすっと消えた。

思考を整理しながら、緒莉は心の中で推測する。

どうやら美月も京弥の本当の身分を知らないらしい。

ということは、あの男、出所不明の人物ということになる。

違う!

緒莉ははっとして上体を起こす。

そんな早まった判断をしてはいけない。

あの男から放たれる圧は確かに本物だったし、美月が恐れているように見えたのも演技ではなかった。

つまり、あの男は表面上の姿だけで判断できるような存在じゃない。

緒莉はベッドの端に腰掛け、次の一手をどう打つか、じっくりと考え始めた。

もし、彼をうまく利用できるとしたら......

そう思った瞬間、緒莉は京弥の顔を思い浮かべ、耳まで赤くなる。

正直なところ、あれほど整った顔立ちの男は、彼女も初めて見たのだ。

辰琉ですら、彼の前では比べ物にならない。

......

すぐに、緒莉が連絡していた人物から情報が届いた。

「これが最新のトップニュース広告です。もう買い取っておいた」

緒莉は内容を確認し、内心とても満足した。

「悪くないわね。よくやったわ」

そして、そのまま報酬の半分を振り込んだ。

最初は探偵の男も喜んでいたが、送金額を見た瞬間、顔色が変わった。

「話が違うだろ?倍額って話だったのに、なんで半分だけ?」

緒莉は落ち着いた様子で答えた。

「じゃあ聞くけど、今のこの結果で私が満足してると思う?」

「笑わせないで。さっさとサクラを雇って、このトップ記事を一番上まで上げなさい!」

「......ああ」

男はしぶしぶながらも、緒莉の指示に従って作業を続けた。

運営と操作の腕は確かで、たっ
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