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第355話

Author: レイシ大好き
紗雪と知り合ってまだ数年しか経っていない。

京弥が選ぶのは、どう考えても兄との関係の方だ。

そう考えると、伊澄の気分はどんどん晴れやかになっていった。

彼女はそのまま兄に電話をかけた。

ずっと京弥の電話に出なかった伊吹だったが、妹からの電話にはすぐに出た。

もしこの様子を京弥が見ていたら、間違いなく怒りで気が狂いそうになっていただろう。

あれほど連絡がつかなかったのに、妹の電話には即座に応じた。

これはもう陰謀としか思えなかった。

明らかに、この兄妹が意図的にやっていることだ。

だが、今のところ京弥はそのことをまったく知らない。

この兄妹が何を企んでいるのかも、彼にはわかっていなかった。

もし可能なら、京弥は紗雪と二人きりの平穏な生活を望んでいた。

他の誰にも邪魔されずに。

一方、伊吹は最初、妹の電話に出るつもりはなかった。

だが、彼女が鳴り城に一人でいることを考えると、もし万が一のことがあった場合、自分は言い逃れできない。

実家の人間は、妹が勝手に帰国したことすらまだ知らないのだ。

そうした様々な要素を考慮した末に、伊吹はやむを得ず、妹の電話に応じた。

「どうした?伊澄?何かあったのか?」

だが、伊澄は兄の口調にどこか苛立ちがあるのを感じ取ってしまった。

今日受けた屈辱を思い出し、気分が沈み、兄に対しての口調も自然と刺々しくなる。

「なにそれ?私にもううんざりなの?」

伊吹は、わがままな妹に眉をひそめながら言った。

「そんなこと言ってないだろ。お前が電話してきたんだ。何か用があるなら早く言え」

彼はもう一日中仕事で疲れていた。

妹のわがままに付き合う余裕なんてなかった。

ここ最近、京弥から何度も電話がかかってきていたが、彼は一切出ていなかった。

正直なところ、内心では少し怯えていた。

あの男の性格はよく知っている。

何もなければ、あんなにしつこく連絡してくるはずがない。

妹が何か面倒を起こしたんじゃないか。

そう思うと、伊吹はイライラして仕方なかった。

もしそうなら、自分が迷惑を被ることになるのは目に見えていた。

京弥のあの顔を思い浮かべただけで、正直なところ、彼の心にも恐れが走る。

この数年であの男の実力は目に見えて上がっているし、簡単に敵に回せるような相手じゃない。

伊澄は兄との関係が良好とは
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