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第425話

Author: レイシ大好き
しかし時間が経つにつれて、こんな日々もやはり駄目だと思えてきた。

ただただ虚しく、怠惰すぎる。

そこで初芽は、思いきってダンスとファイナンス講座に申し込み、毎日をそんなふうに充実させるようにした。

一方、加津也のほうは、別に初芽を放っておいているわけではなかった。

ただ、本当に時間が取れなかったのだ。

西山父は毎日決まった時間に彼を監視していて、まるで囚人でも見張っているかのようで、少しの自由すら与えてくれなかった。

今となっては、加津也もあの小さな部屋に戻るのが嫌になってきている。

あの場所には、陰謀と計算ばかりが渦巻いている。

西山父にとって、息子の幸福などまるで価値がなく、利用価値がなければ意味がないものなのだ。

そのことをはっきりと理解した今、加津也はますます初芽と一緒にいたいという気持ちを強めていた。

周りの人間はみんな彼の金目当てだった。

しかし、初芽だけは違った。

何年も真面目に、誠実に彼のそばにいてくれて、何一つとして欲を出したことがなかった。

けれど出自の違いというだけで、彼の両親は初芽のことを認めようとしなかった。

だが、彼らはもうとうの昔に将来を誓い合った仲だった。

一生を共にすると。

加津也は深く息を吸い、西山父に正面から話をしに行くことを決意する。

書斎で仕事をしていた西山父は、彼がやって来たのを見て少し驚いた様子だった。

「なんだ、急に」

金縁の眼鏡をかけた西山父は、厳格で恐ろしい雰囲気を放っていた。

ただ一瞥されただけで、加津也は少し怯えてしまった。

父親の圧倒的な存在感は今も健在で、年月が経ってもまったく変わっていない。

表情一つすら変わっていないように思えた。

加津也は拳を握りしめながら言った。

「父さん、今日は話したいことがあって来たんだ」

「言いたいことがあるなら、さっさと言え」

相変わらずの冷たい表情で、西山父は淡々と返す。

離れていた時間のあいだ、加津也は何度も初芽に電話をかけようと思った。

しかし叶わず、とうとう彼女は彼の番号をブロックしてしまった。

それにしても、こんな奇をてらった手段ばかり、いったい誰に教わったのか。

息子の姿を見ながら、西山父は思わず口にした。

「まあいい。年齢的にも仕方ない。今は若い者たちの時代だ」

そう言ってから、西山父はずばりと核心
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