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第614話

Author: レイシ大好き
清那は日向と、その足元に置かれたスーツケースに目をやり、首をかしげながら声をかけた。

「どういう意味?」

緒莉は思わず眉を跳ね上げる。

この男、今まで見たことがなかった。

見覚えもなければ、どこかで会った記憶もない。

まったくの他人のような顔。

清那の友達?

いや、違う。

二人の距離感を見ればわかる。

親しい様子もなく、言葉を交わすときも礼儀正しい距離を保っている。

緒莉の胸に、説明のつかないざわめきが広がった。

胸の奥がむず痒く、不快感の正体も掴めないまま。

ただ直感が告げていた。

この男......清那目当てじゃない。

紗雪のために来たのだ。

そう考えると、それ以外の可能性は見当たらなかった。

清那の交友関係を、緒莉はよく知っている。

彼女の世界に、こんな男がいるはずがない。

そんな緒莉の視線に気づいた辰琉が、横から低い声を投げた。

「緒莉......あの男、そんなにカッコいい?」

その声に、緒莉はビクリと肩を震わせる。

振り返ると、そこには笑っているようで笑っていない辰琉の顔。

そして、その声音には嫉妬が滲んでいた。

ああ、これは拗ねているな。

「ちょっと、何なのよそれ」

緒莉は呆れたように笑う。

ただ数秒、見ただけなのに。

そんなことでいちいち焼きもちを焼くのか、この男は。

これから先、何かするときは気をつけないと面倒だな。

しかし辰琉は、なおも拗ねたように言い返す。

「だって......緒莉は俺の嫁だぞ。俺がいるのに、なんで他の男なんか見てるんだよ」

その嫉妬深さに、緒莉の胸の奥に、妙な満足感が広がった。

自分に惹かれている証拠。

独占欲を刺激できる女である証。

もし嫉妬すらされなくなったら、それこそ終わりだ。

緒莉は辰琉の顎を指先でくすぐるように撫で、猫でもあやすような口調で囁いた。

「わかってるのくせに。私には、辰琉だけしかいないの」

「じゃあ、なんで見てたんだよ」

「初めて見る顔だったからよ。松尾の交友関係なんて、私が一番よく知ってるんだから。

見たこともない男がいたら、そりゃ気になるわよ」

そう言われ、辰琉の顔から少しずつ不機嫌さが薄れていった。

「そうか。そう言ってくれると安心した」

彼は緒莉の肩に頭を預ける。

「君を失うのが、怖いだけなんだ」

緒莉はそんな彼
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