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第61話

Author: レイシ大好き
俊介はすぐに笑みを浮かべた。

「つまり......」

加津也は彼に顎をしゃくり、目を細める。その様はまるで毒蛇のようだった。

「どうするか、いちいち教えなくても分かるだろ?」

「はい」

俊介は頷いた。

策を練り終えた加津也は俊介を追い払う。

今の彼にとって最優先なのは、椎名のプロジェクトを手に入れること。

どれだけ認めたくなくても、現実は変わらない。

最大の競争相手は二川グループだ。

だからこそ、二川グループがどんな提案を準備しているのかを知る必要がある。

「~♪」

スマホの着信音が鳴る。

加津也は電話を取り上げた。

友人からの電話だった。二川家の次女を紹介してやるというのだ。

「椎名のプロジェクトを取りたいんだろ?二川家の次女が関わってるって聞いたぞ。あの子は恋愛脳だから、お前みたいなプレイボーイならちょっと甘い言葉を囁けばすぐに落ちるんじゃないか?」

「ほう?わかった。話がまとまったら礼は弾む」

「でも女を口説くなら、それなりのプレゼントも用意しないとな?」

「フッ、もちろんだ」

加津也は、新しく買ったダイヤモンドのブレスレットに視線を落とした。

元々は初芽に贈るつもりだったが、考えを変えることにした。

まずは二川家の次女を籠絡し、椎名のプロジェクトを手に入れる。

そうすれば、晴れて初芽との結婚を家族に認めさせることができる。

京弥の強い勧めで、紗雪は一日中家で休むことになった。

今の彼女にできるのは、椎名の結果を待つことだけ。

自分の努力と京弥のアドバイスがあれば、成功の確率は80%以上はあるはずだ。

夕方、清那から電話がかかってきた。

パーティーに誘われたのだ。

紗雪はあまり乗り気ではなかったが、清那のしつこい誘いに根負けする。

彼女が鳴り城に戻ってからほとんど顔を出していないせいで、周囲の人々が彼女のことを忘れかけているというのだ。

新しい人脈を築くためにも、たまには顔を出した方がいい。

最終的に紗雪は行くことを決めた。

体調を考慮し、今夜の服装は暖かめにする。

ダークブラウンのタートルネックセーターに、深いブルーのデニムパンツ。

黒く艶やかな長い巻き髪は無造作に下ろしたまま。

彼女の整った顔立ちは、メイクなしでも十分に映える。

ただ、軽くリップクリームを塗った。

会場に到着し、清那
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