今では、まるで生活に押しつぶされてしまったかのようだ。一日中、仕事と案件の打ち合わせばかり。その他のこと――娯楽すらも、ほとんどない。そう思うと、紗雪は胸が少し苦しくなった。こんなにも長い間、自分のことをあまりにも疎かにしてきたのだ。生活スタイルさえも、仕事によって変えられてしまった。本来なら、高校時代の彼女は理想を抱いた少女で、有名な建築デザイナーになることを夢見ていたはずだった。だが今の彼女は、ただの管理職に過ぎず、夢からはどんどん遠ざかっている。そう考えると、紗雪は切なさを覚える。高校時代の自分とは、本当に遠い存在になってしまったのだ。そこへ、一群の高校生たちが彼女の方へ歩いてくる。みな、若さあふれる笑顔を浮かべていた。紗雪も少し嬉しくなり、その中へと歩み寄っていく。彼女の視線は一人ひとりの顔を順に見渡していった。そして例外なく、彼女の体はその高校生たちの体をすり抜けていく。だが紗雪は驚くこともなく、ただ心の底から喜びを感じていた。こんなにも多くの人々に触れ、耳元でざわめく声を聞くと、自分が確かに存在していると実感できたのだ。命さえも、生き生きとしたものに思えた。そのとき。知った顔を見つけたからだろうか、紗雪の足がふと止まった。視線の先には、若い清那と、若い紗雪。その光景に、思わず熱い涙が込み上げてくる。あの出来事を経た後、再びこの二人を目にすることになるとは――胸の奥に、深い感慨が湧き上がる。自分はもう吹っ切れたと思っていた。だが今、こんなにも若い自分の顔を目にすると、やはり胸が締めつけられる。吹っ切れたと思っていたのは、結局は自分をだますための方便にすぎなかった。やはり、あのとき何が起こったのか知りたい。西山加津也――彼は、自分の記憶にある人とはあまりにも違っている。記憶の中の「お兄さん」とは、どこか噛み合わないのだ。それでも、長い年月の中で決定的な証拠は見つからなかった。当初は、絶対に間違えてはいないと思っていた。だが今、この奇妙な場所が、何度も自分を見知らぬ場所へ送り込む。しかも、そのたびに何らかの証拠を手にしてきたことを思えば、今回も何かが変わるに違いない。そうでなければ、なぜ何度も場所を変えてまで自分を送り込む
こうしていては、まったく割に合わない。紗雪はようやく悟った。ここを出たら、自分だけの生き方を持ち、何よりも自分の命と時間を大切にしなければならない、と。そう考えられるようになってから、彼女は未来にいっそう期待を寄せるようになった。一本しかない道を、真っすぐに歩いていく。歩みは先ほどよりもずっと力強かった。もう迷いも、ためらいもない。曖昧なまま生きるくらいなら、むしろ真実を知りたい。あのとき自分が経験したことが、いったい何だったのか確かめたい。紗雪は唇をきゅっと引き結び、前へと進んだ。その道を抜けたとき、ようやくここがどこなのかが分かった。これは、自分の高校じゃないか?目の前の光景に、紗雪は立ち尽くした。この場所を鮮明に覚えている理由は一つ。高校時代、彼女はそこで事故に遭ったのだ。そしてそのとき、自分を救ってくれた「お兄さん」に心を動かされ、胸の奥に感謝の種を静かに植えた。そう思い出した瞬間、胸が少し高鳴る。なぜ、急にここに現れたのだろう?ということは、これから真実を知ることになるのか?それなら、まもなく自分を救った人が誰なのかも分かるはず。紗雪の顔に、抑えきれない喜びと興奮が浮かんだ。ここで過ごす時間があまりにも長く、外の世界の様子をほとんど忘れかけていた。足取りは自然と速くなり、外の世界へと向かう。やがて道を抜けた瞬間、彼女は再び立ち尽くした。どうりで見覚えがあるはずだ。ここはやはり自分の高校で、周囲の建物の様子からして、事故が起きて間もない時期のようだ。その光景に、紗雪の目には涙がにじんだ。ついに真相を知るチャンスが巡ってきたのだろうか?今度こそ、この世界に感謝しなければならない。もしかすると、過去の出来事をやり直す機会が与えられたのかもしれない。心の奥で半信半疑ながらも、それが本当かどうかを考えていた。しかし、時間は彼女に考える余裕を与えなかった。何かをする間もなく、足元の地面が突然揺れ始めたのだ。一瞬、彼女は戸惑う。そういえば、事故のあったあの日は、こんなに穏やかな晴天ではなかったはず。つまり、何かがおかしい――だが、結局は考えすぎだった。顔を上げると、ただ高校が放課後を迎えただけだった。ほっと息をつく。
もう見えるようにはなったが、頭の中はまだ真っ白だった。ここは、どこ?紗雪はあたりを見回した。見覚えがあるような、見知らぬ場所。もしかすると、あまりにも長い時間が経ってしまったせいかもしれない。最初は、状況を理解することすらできなかった。体をしっかりと起こすと、もう先ほどのような力の抜けた感覚はなく、身体は完全に順応していた。拳を握りしめ、胸の奥に戸惑いと不安が渦巻く。ここは、やはり見知らぬ場所だ。加えて、先ほどあの通路で突然異変が起きたこともあり、紗雪は少なからず動揺していた。そして今、またこうして唐突にこの場所へと来てしまった。慎重にならずにはいられない。何事においても、用心第一――これは紗雪がずっと心に刻んでいる信条だ。周囲を見渡すと、進める道はただ一本。ほかには行けそうな場所はない。行き先は分からないが、今はこの場所のルールに従うしかなかった。ふと、脳裏にあの人の姿が浮かぶ――事故のとき、自分を救ってくれた「お兄さん」。まるで近所の兄のように、いつもそばにいてくれた人。もしかして、この場所で答えが見つかるのか?紗雪は少し胸を高鳴らせた。その人が加津也であってほしくはない。少なくとも、今の加津也は、自分の記憶の中にあるあのお兄さんには到底及ばない。誰とも比べられない、唯一無二の存在。これまでずっと、その人を探し続けてきた。たとえ加津也を見つけたとしても、あのとき抱いた感覚は何か違った。ただ、その時は恩を返すために、関係を続ける道を選んだ。けれど、今は違う。加津也と自分の記憶の中の「お兄さん」との間には、あまりにも大きな隔たりがある。だからこそ、いつか必ず、本物を探し直そうと思っていた。しかし、時間はあっという間に過ぎ、さらに美月の会社の経営を手伝う日々が続き、そのための時間はほとんどなくなってしまった。そう考えると、紗雪は少し惜しい気持ちになった。これほど長い間、自分の時間などほとんど持てなかった。心も体も、家の会社のことだけに注がれてきた。その他のことは、ほぼ何もなかった。自分が楽しむ時間さえ、ほとんどない。だからこそ、この件もずっと先延ばしになり、進展することもなかった。思えば、あれほど必死に頑張ってきたのに
今の彼女には、何が起きているのか全く分からなかった。頭の中では轟音が響き、何を考えているのかすら自分でも掴めない。このまま一生、ここに閉じ込められてしまうのだろうか。そんな不安が胸をよぎる。やらなければならないことはまだ山ほどある。ずっとここに囚われ続けるなんて、あり得ない。紗雪は、どうしても諦めきれなかった。思わずつぶやく。「なぜ......どうしてこんなことをするの?どうして私がここに来たの?どうして私にこんなものを見せるの?」頭が混乱し、もうこれ以上こんな経験はしたくないと感じる。彼女も馬鹿ではない。今の状況は、出口のない底なしの穴のようで、希望が見えない。かといって、このまま進み続けても、何が起こるのかまるで予想がつかない。紗雪は、これまでにないほどの無力感に沈んでいた。逃げ出したい。でも、出口がない。その時、突然、視界がぐらりと揺れ、天地がひっくり返るような感覚に襲われた。空まで回っているように見え、頭が真っ白になる。立ち上がろうとするが、足元がふらついて立てない。仕方なく壁に手をつくが、まるで効果はない。むしろ、めまいはひどくなるばかりだった。こんな状況になれば、動揺しないはずがない。これまでの体験では、こんなことは一度もなかったのだ。恐怖よりも、むしろ「これは一体何をしようとしているのか」という驚きが大きい。この前、次の「ステージ」に移る時も、こんな大げさなことはなかった。いつも、自然に次の出来事へと移っていた。紗雪がまだ戸惑っているうちに、突然、目の前が真っ暗になった。視界を失えば、人はつい余計な想像をしてしまう。もちろん、紗雪も例外ではない。胸がざわつき、不安が広がる。先ほどまでは、そこまで気にしていなかったのに、今は何かがおかしいと直感していた。漆黒の闇に包まれ、安心感など欠片もない。ましてや、この環境は彼女にとって未知の場所だ。加えて、周囲が真っ暗となれば、不安はさらに募る。彼女は大きく息を吸い込み、背中を壁にぴたりと押しつけ、目を閉じた。そして、やって来るであろう「未知」を静かに待つ。まるで、紗雪が本気で覚悟を決めたのを見計らったかのように、この世界はさらに速く回転を始めた。吐き気をこらえ、下
すでに好きな人がいて、自分の入り込めない世界があるのなら、もし無理やり踏み込めば、それはもう「略奪」になってしまう。家ではそれほど可愛がられてきたわけではないが、紗雪は分別のある娘だった。君子たるものは他人大切のものを奪わない――ましてや、互いに想い合っている相手同士ならなおさらだ。恋愛に「先着順」などない。だから紗雪は、ここで悩み続けるよりも、自ら身を引く道を選んだ。彼女は浮気相手ではないし、そんな存在になりたいとも思わない。加津也に、すでに彼だけの「本命」がいると知った今、ここに留まり続ける意味など、どこにあるだろうか。そう考え、紗雪の唇に苦笑が浮かんだ。思えば、加津也があのような態度を見せた時から、何かがおかしいと感じていた。彼女の記憶にある「お兄さん」は、いつも優しく心を汲み取ってくれる人だった。話し方も穏やかで、彼女に対してはとても辛抱強く接してくれた。だが、加津也は違った。多くの場面で命令口調で呼びつけ、少しも敬意を払わない。本当に彼が、あの時の「お兄さん」なのだろうか?記憶にいる人と加津也、本当に繋がりがあるのか?なぜだろう、どうにもそうは思えない。紗雪の胸は、不安で太鼓を打つようにざわついていた。もし同一人物なら、一度失望すれば、もう心配することもなくなる。そう思う自分がいる一方で、「いや、違っていてほしい」という自分もいた。何せ、記憶にある人との落差があまりにも大きいのだから。それでも、紗雪はあの年の真相を、もう一度探し出したかった。いくつもの「ステージ」を見てきた後でも、なぜ今回はずっとこの通路の中をぐるぐる回っているのか、彼女には分からなかった。出口も、今自分がどこにいるのかも分からない。そもそも「今」が何年なのかさえ曖昧だ。胸の奥に、迷いとためらいが芽生える。このまま縛られたままでいるのは嫌だと、彼女はもがき始めた。特に、すでに多くのことを知ってしまった今、「もしこの先、もっと心配になるような事実を知ってしまったら......?」という恐怖が頭をよぎる。それでも進むべきか?それとも、過去を探ること自体をやめるべきか?紗雪は後退しかけていた。ここを離れたい、この先へ進みたくない。だが周囲を見渡しても、出口は見当たらない
これほど多くの出来事が重なり、紗雪は思わず白目を剥きそうになった。加津也と初芽が一緒になるのは、むしろ良いことだ。そうすれば、他の人を巻き込んで害を与えることもなくなる。そう考えた瞬間、紗雪の精緻な顔に、ようやくわずかな笑みが浮かんだ。入ってからここまで、本当に一度も笑えなかったのだ。だが今は違う。この二人が互いに縛り合ってくれれば、他の誰も巻き添えを食らわずに済む。そう思うと、紗雪は少し嬉しささえ感じた。とはいえ、一人旅はやはりどこか物足りない。数多くの光景を目にし、心は何度も揺れ動いた。最後には、彼女は歩みを速め、高校時代の遭難事件の場面を早く見つけたくなった。あの頃のことを思うと、紗雪の胸は自然と高鳴った。そこは、ある意味で彼女の夢が始まった場所でもある。当時の紗雪は、学校の建築デザインを見て強い興味を抱いた。しかし、まさか事故があんなにも早く訪れるとは思わなかった。彼女はずっと、その時に寄り添ってくれた「お兄さん」を探していた。そしてようやく加津也を見つけ、そこでようやく探すのをやめたのだ。この出来事をどう捉えるべきか、彼女自身にも分からなかった。見つけた加津也は、想像していた「お兄さん」とは少し違っていた。けれど、その頃の彼はとにかく格好良かった。周囲は皆、それを普通のナンパだと思って深く考えなかった。だが、その時ただ一人紗雪だけが、自分がどれほど激しい心理戦を繰り広げていたか知っていた。あまりに興奮して、言葉が出ないほどだった。もし加津也がいなければ、あの事故で自分は確実に命を落としていただろう。その後、確かに彼は冷たくなり、時には酷いこともした。友人たちとの「真実か挑戦か」で負けた時、罰ゲームはいつも彼女の役目だった。そのせいで何度も風邪をひき、熱を出し、体は徐々に弱っていった。それでも当時の紗雪は、美月との賭けを思い出し、さらに彼が自分の命の恩人であることから、何度も何度も彼を甘やかした。どんなに酷いことをされても、紗雪は微笑んで受け入れた。彼女は知っていたし、信じてもいた。自分の恩人は、根っから善良な人だ。だから心配する必要などない。恩人のことは、自分が全身全霊で信じるべきなのだ、と。その姿を見れば分かる。どんなに