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第672話

Author: レイシ大好き
こんな目に遭っているのに、逆に自分を慰めようとするなんて。

そんな清那を前に、紗雪が心を痛めないわけがなかった。

三人のチンピラは、状況が不利だと悟るや否や、荷物をまとめて逃げ出そうとする。

それを見逃さず、幼い紗雪は即座に指差した。

「あの三人、逃がさないで!全員捕まえて警察に突き出して!」

「了解しました!」

号令と同時に、訓練されたボディーガードたちが一斉に動き出す。

その直後、清那はとうとう体力の限界を迎え、紗雪の腕の中で気を失った。

そばで見守っていた大人の紗雪は、二人が寄り添う姿に胸を締めつけられる思いだった。

あの瞬間の光景は、一生忘れられない。

清那の姿を目にした瞬間、世界そのものが崩れ落ちたように感じた。

清那は何も悪くないのに、どうして神様は、こんな仕打ちをするの?

あんなに優しくて、清らかな子なのに......

あのクズとも――

一人残らず、死んで当然だ。

紗雪は小さな自分を強く抱きしめ、涙をこらえながら言った。

「安心して......絶対に、このままじゃ終わらせないから」

その後、幼い紗雪はボディーガードに清那を病院へ運ばせ、自分は数人のボディーガードと共に警察署へ向かう。

病院へ搬送する際、清那の両親にも連絡を入れさせた。

これは彼らの娘のことだ。

知らせる義務がある。

それに、事態は一刻を争う。

真偽を確かめる間もなく動くべきだった。

松尾家の者が、少し戸惑いながら問いかける。

「お嬢様......本当にご一緒に、警察署まで行かれるのですか?」

「もちろん。私も、証人だから」

その「証人」という言葉を、紗雪は強く噛み締めるように吐き出した。

まさか、この時代になって、まだこんなことが起きるなんて。

三人のクズ、絶対に思い知らせてやる。

紗雪は幼い自分の背中を見つめながら、胸の奥でそっと安堵する。

あの時、逃げずにそばにいてくれてよかった。

そうでなければ、清那の心の傷はもっと深く、癒えることもなかっただろう。

ボディーガードたちが清那を病院へ運ぶその時、紗雪はふと足を止めた。

視線の先――

地面には、橘色の子猫の亡骸が横たわっている。

胸の奥が、ズキリと痛んだ。

数秒の沈黙ののち、紗雪は静かに言った。

「この子を、ちゃんと埋葬してあげて。終わったら写真を撮って...
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