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第4話

Author: 花曇り
予定していた結婚式まで、あと3日。

シャツを探そうとクローゼットを開けた亮が、ふと手を止めた。

「お前の服は?なんで半分も空いてるんだ?」

私はリビングで図面を描きながら、顔も上げずに答える。「クリーニングに出したの」

亮は特に気にする様子もなく、適当な上着を手に取って出かけようとしたが、玄関で思い出したように振り返った。

「ああ、そうだ。結婚式では美咲にもお前から話しかけてやってくれよ。帰国したばかりで知り合いも少ないんだから、こっちから気を遣ってやらないと。冷たくされたと思われたら困るだろ」

私はペンを置き、亮を静かに見据える。

「どうして私が彼女に気を遣わなきゃいけないの?」

亮は振り返り、露骨に不機嫌そうな顔をした。

「俺の友達なんだぞ。その言い方はないだろ」

「あなたが4年間も追いかけてた初恋の人でしょ?その人に、結婚式の主役である私が気を遣う?おかしいと思わない?」

亮は眉をひそめ、声を冷たくした。

「唯、またその話かよ。何度言えばわかるんだ?俺はもう美咲をそういう目で見てない。お前はお前、美咲は美咲だろ」

「じゃあ、彼女を結婚式に呼ばないで」

「もう招待状を送ったんだぞ。今さら断れるわけないだろ?」

彼は腕時計に目を落とす。

「こんなことで言い争ってる暇はないんだ。明後日には美咲の個展が始まるから、会場の準備も見に行かなきゃいけないし」

そう言って、亮は出ていった。

私はその場に座ったまま、廊下を遠ざかっていく足音を聞いていた。

美咲の個展の準備には誰よりも熱心なのに、私のウェディングドレスの試着には、一度も付き合ってくれなかった。

午後3時、インターホンが鳴った。

配達員が運び込んできたのは、大きなユリの花束が2つ。真っ白な花が満開になっていて、たちまちリビングいっぱいに強い香りが広がる。

私は思わず数歩後ずさった。すでに喉が締めつけられるような感覚がある。

花束に添えられたカードには、こう書かれていた。【個展の成功を祈ってる。成瀬亮】

そのカードを数秒ほど見つめているうちに、鼻の奥がむずむずし始め、肌には赤い発疹が浮かんできた。

私がユリの花にアレルギーがあることは、付き合い始めて1年目に伝えていた。

当時、同僚から花を贈られそうになったときも、亮が代わりに断ってくれたほどで、ちゃんと覚えていたはずだった。

それなのに今は、ユリの花束を2つも家に届けさせるなんて。

私はマスクをつけ、その花束を大きなゴミ袋に押し込むと、階下のゴミ捨て場まで運んで処分した。

部屋に戻った頃には、発疹が腕から首にまで広がり、ひどいかゆみと熱っぽさを感じていた。

抗アレルギー薬を飲み、ソファにもたれて薬が効くのを待つ。

赤みが少し引いたところで寝室へ向かうと、残していた荷物の整理を再開する。

クローゼットの中にあった私物はすでにほとんど運び出していたため、残っているのは最後の一部だけだった。

私はそれらを2つのスーツケースに詰め、タクシーを呼ぶ。

新しい住まいに荷物をすべて運び終えた頃には、夜9時になっていた。

借りたのは、家賃数万円のワンルーム。

ベッドとクローゼットがあるだけの部屋だったが、硬いベッドに横になると、不思議と気持ちが落ち着いた。

その時、亮から電話がかかってきた。

「家にいないなんて、どこにいるんだ?」

「友達の家にいるの。今夜は帰らないから」

数秒ほど沈黙した亮。

「今度は何なんだよ。あと3日で結婚式だっていうのに、家を飛び出してどうするつもりだ?」

「別に何もないよ。ただ、友達とゆっくりしたかっただけ」

「唯、いい加減に機嫌を直せよ。おとなしく帰ってきて、花嫁になる準備をしろ。同じことを何度も言わせるな」

その口調は、まるで私を花嫁にしてやることが、何よりの恩恵であるかのようだった。

「わかった」

私はそれだけ答えた。

電話を切るとラインを開き、亮のプロフィール画面から右上のメニューを選んだ。

ブロック。

続いて電話番号も着信拒否にし、ショートメッセージも受信できないようにした。亮が私に連絡できる手段は、ひとつ残らず消していく。

すべて終えると、スマホを枕元に置き、天井に取りつけられた黄ばんだ照明を見つめた。

彼が私を口説いていた頃、こんなことを言っていた。

「唯、これからは何があっても、お前一人に背負わせたりしないから」

その言葉も今となっては、あの2つのユリの花束と一緒にもうゴミ箱へ捨てた。

結婚式当日、雲上ブライダルホールには大勢の招待客が集まっていた。

オーダーメイドのスーツに身を包んだ亮は、美咲を連れて披露宴会場に姿を現す。

淡いピンクのワンピースを着た美咲は、まるで自分が主役であるかのように、亮の腕に寄り添っていた。

亮は会場を見渡したが、唯の姿が見当たらない。

控室のドアを開けてみても、中には誰もおらず、メイク用の照明さえついていなかった。

眉をひそめてスマホを取り出し、唯に電話をかけたものの、つながらなかった。

また唯が拗ねているだけだと思い、今度は拓真に電話をかけさせたが、やはり連絡は取れない。

さすがに人前で取り繕うのも難しくなり、亮はスタッフを呼び、招待客の対応をお願いすることにした。

そのとき、式場の支配人が書類を手に、足早に亮へ近づいてきた。

「成瀬様、ひとつ確認させていただきたいことがございます」

亮は苛立った様子で顔を向けた。

「何ですか?もうすぐ式が始まるんですが」

支配人が差し出したのは、キャンセル手続きの控えで、そこには、キャンセル日と返金の記録がはっきりと記されていた。

「成瀬様、実は今日の結婚式ですが、1週間前に神崎唯様からキャンセルのお申し出があり、すでに手続きが完了しております。頭金も返金済みでして……」

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