LOGIN「今日は超良い天気だし、こういう時の朝食なんて最高だな」
恭弥さんはそう言いながら腕を上に伸ばした後、よいしょっとチェアから立ち上がった。
「……?」
「そろそろご飯を作ろう、お腹空いただろ?」
(あ、そうだった……! まだ食べてなかった……)
彼の淹れたコーヒーをじっくり堪能したくて、つい食べることを忘れるところだった。
それくらい、彼とのコーヒータイムが落ち着く。
「うん、すいた……」
「てか、ごはんのこと……忘れそうだっただろ? ちゃんと俺が作るから」
やっぱりお見通しだった。
今日の朝食は、彼が振る舞ってくれる。
自分以外の作る手料理を味わえるのが、久しぶりだから楽しみだ。
(焚き火台の火を用意してからごはんかな?)
そう思っていたらもう既に火がついている。
オマケに火力の調整は出来上がっていた、網も用意してあった。
あとは焼くのみだから、スキレットを彼に渡す。
(恭弥さん……やる気満々だ)
まずはベーコンから焼いていく。
厚切りでも、あらかじめ四等分に切られている。
それをそのままスキレットの中へ……。
(はぁぁ……!)
ベーコンの脂とお肉の表面から、ジューっとじっくり熱が伝わっていく。
その音と同時にリズムを刻むようなパチパチした音が、食欲を掻き立ててくれる。
私はそれを見て思わず、ヨダレが垂れそうにもなる。
表と裏の焼き目が付いたら、ベーコンを二枚ずつそれぞれのお皿に移し盛り付けていた。
(ベーコンから出た固体の脂が液体の油に変わって旨味も流れ出ている……)
きっとそれを利用して、目玉焼きを作るのだろう。
今度は足りない油分をオリーブオイルで少し追加で加える。
二人分だから、一人一つ食べる計算で卵を二つ割り入れた。
白身のジワッと透明から白色へ焼けていく音、黄身がぷっくりと膨らみが出ている。
これが、卵の新鮮さを表している証拠なんだろう。
——ジューッ……。
水を入れたら、取手つきの蓋をして蒸し焼きにする。
私はちょっと前にキッチンで作ったサラダとテーブルロールをセッティングする。
もちろん、パンの相方であるバターやジャムも忘れていない。
(パンは取りやすい位置にして、サラダは……)
サラダにはそれぞれ好みのドレッシングをあらかじめ掛かっている。
彼の分は、素材を味わいたい要望でハーブソルトにオリーブオイルとシンプルな組み合わせ。
一方、私はサッパリとした黒酢玉ねぎのドレッシングを選んだ。
その傍ら、彼の横顔をチラッと見る。
(……すごい真剣な顔だ)
焚き火の火を見ながら、蓋を開けるタイミングを狙って焼いているのだろう。
しばらくすると目玉焼きが出来上がった。
ひっついている白身を半分に取り分け、ベーコンと同じ皿に添えて盛り付けている。
少し奥の方にオレンジが入る黄身の表面のツヤと鮮やかな白身が美味しそうだ。
「よぉし、出来たぁ! んじゃ、頂こうか」
「うん」
恭弥さんは満面の笑みで誘う。
「「いただきます」」
手を合わせ、久しぶりに二人で朝ごはんをいただく。
まずはサラダを少し食べ、熱々の内に厚切りベーコンを……。
(あつっ! ふぅー……。んっ! はわぁ……肉汁のジューシーさが堪らない)
私は普段から薄切りのものしか使わなかったから、新鮮な感じだった。
薄切りでもカリカリ感が出たりと良さがある。
けど厚切りにも良さがあるんだなぁと、今回の料理で学んだ。
「んー! 美味い! いい感じの焼き加減に出来てる。
恭弥さんもベーコンの美味しさに、笑みが零れている。
「空、美味しい?」
「うん、美味ひい」
彼に聞かれ私は肉の熱気と戦いつつ、頬張りながらコクコクと頷く。
そして目玉焼きの黄身を割ってみると、トロリとちょうどいい加減の半熟が出ている。
白身の外の周りの少しパリッとした焼き跡もなかなか良い。
時にテーブルロールのパンをちぎり、バターやジャムをつけて食べる。
(なんだろう……彼といる時の空間も幸せだなぁ……)
こうやって人と食事すること自体も久しぶりだからなのか、ホッとしている自分。
それと同時に少し口角がニヤッと、ニヤけそうな笑みをしている自分もいた。
「ん? 空、どうした?」
恭弥さんは私の顔を少しマジマジと見ている。
「な、なんでもない……ことではない、けど……」
「けど、なぁに?」
「というか、こういう時間が久しぶりすぎて……」
私は、少し恥ずかしながら言った。
恭弥さんは、ほぉっとした少し驚きな顔をした。
多少の照れもありつつ、すぐに微笑みを返す。
「そうだな……。さっき、コーヒーの時も言ったけどさ」
「うん?」
「夫婦二人でご飯が食べられる時間って、本来なら当たり前の風景なんかもしれないけどさ。俺らには仕事の面でどうしても機会が少ないから、そう感じるのかもね」
少し寂しくもあるような返事だけど、彼は切り返しにこうも答えた。
「まぁでも……回数が少ない分だからこそ、二人で色んな時を過ごすことの有難味を知ることも出来るんじゃないんかな」
「うん、そうかもしれないね」
私はそっと彼の意見に肯定する。
「けど、俺は……」
「?」
「空が心の中から喜んでいるところを見ているだけでも、幸せだけどな」
恭弥さんは、満面の笑みを交わしながら言った。
「うん」
(私もそう言ってくれたり、あなたの傍にいてくれるだけでも幸せだよ……)
口にするのは恥ずかしくてできないけれど、私の心の中がそう言っている。
◇ ◆ ◇
食べ終えた二人は、二度目のコーヒータイムの時間を過ごしながら、今後、短いながらの三日間の休日の予定を話し合った。
「さて、今回の三連休は、何しようか?」
「うん、どこへ行こうかなぁ?」
「あっ、そうだ! 最終日なんだけどさ」
私と恭弥さんは、ワクワクしながら予定を考えていた。
外へお出掛けするにも悩むかなぁと思ったら、意外とそうでもなかった。
最終日は私の分の食糧などのお買い物も含めて、彼があるお店に用事があるから一緒に行こうと言う。
本当は一週間の予定だった。
けれど、どうやら仕事の都合上で三日間が限度だったみたい。
(短い期間になっちゃったけど、せっかく彼と過ごすのなら楽しく有意義のあるお休みの日にしたい……)
私は心の中でそう思えた。
今日も温かなコーヒーと朝ごはん、ごちそうさまでした。
——そして、温かみのある幸せな時間と空間にありがとう。
——冬を迎える前のひとり鍋に、乾杯!(まずは、主役の豆腐をすくってと……)豆腐一つをお玉で鍋からすくい、箸で水菜とネギを取り出す。温まっているとはいえど、口の中へ入れるときの豆腐の中は熱い。それに私は猫舌だから、熱い状態ですぐに食べるのが少し苦手だ。ひと口で食べられるサイズを箸で割り、フーフーと少し冷ましながら口の中へ運ぶ。「ハフッ、ハフッ! 熱っ!」(やっぱり、まだ中はちょっと熱いのが……。けど、美味しい)絹豆腐は湯豆腐にすると、より柔らかな感じのイメージある。けれど、コシが残っていて尚且つ滑らかさも持っている。ポン酢に含まれる柚子の風味と酸味、昆布のホッとする優しい出汁が豆腐本来の味を横に添える感じだ。(この出汁が手助けをしてくれるから、豆腐がより感じられるのかなぁ)けれど時にポン酢のタレは豆腐の中へ染み込み、味変するかのような変化も起きる。不思議な作用だなぁと、感心してしまう。豆腐をひと口食べ終えたら、熱燗が入った徳利をおちょこに入れ移し、チビっと味わう。(う~ん、良い感じのまろやかさ!)口当たりがお酒の尖りっ気もクセもない。ほんのり甘みが広がっている。それなのに、後味はスッキリさせてくれるものだ。(湯煎して温めたのは正解だね)ストーブも大活躍してくれて、本当に一石二鳥だ。(豆腐も良いけど、野菜も煮えているから食べてみようっと!)私は先にポン酢に浸かっている水菜から取って
もう既に昼間も寒くなって、パーカーだけでは冷えが防ぎ切れない。風が吹くと耳まで凍えてしまいそうな気がした。こんなときこそ、イヤマフ付きのニット帽も被りたくなる。(この寒さじゃあ……それに合わせてウィンドブレーカーを羽織る出番の時期になったかぁ)薄い長袖の上に厚めのパーカー、その上に赤のウィンドブレーカー。作業用に履くズボンも、裏起毛が入ったヒートタイプの黒ズボンにした。今日は寒くないと良いなぁと思いつつ、いざ外へ出てみると……。(うっ! 寒っ! これは冷える……)強い風はまだ吹いてない。けれど、外の空気は想像通りひんやりと寒い。今日の天気予報では、雨が降らない薄暗い曇り空。これも冬の季節へ近づいた合図がしている気がする。周りに生い茂っている雑草の葉っぱも、ほぼベージュ色で纏う枯れ草だ。(玄関内に、カイロが置いてあったはずだけど……あ、あった!)玄関の靴箱の上にある箱からカイロを一つ取り出した。すぐにやって来る冬には欠かせないであろう。これさえあれば、多少の寒さがあっても我慢出来るし大丈夫だろうと思いたい。袋から中身を取り、シャカシャカと振ってウインドブレーカーのポケットにしまった。(さて、今からいつものテーブルやチェアを……)庭の収納庫から取り出し庭の真ん中へ設置する。その少し離れた場所に、焚き火用シートを敷いて焚き火台を置く。もちろん、今回も焚き火をするに決まっている。笠の開いた松ぼっくりや前回に残っている小さめの炭から新たに追加する大きめの炭を敷き詰めて……。それから、前に細かく割っておいた薪を山みたいに立てて並べていく。(一応、
——十一月の初旬頃。本格的に、冬が目の前になるという寒さの日。お昼はとっくに経って、もうまもなくおやつの時間まで過ぎようとしている。(あぁ、そろそろ暖房が欲しくなる時期がきたなぁ。ストーブを押入れから出したいものだ)日中の気温は今のところ、まだマイナスへ行くほどの温度になっていない。だが夜になれば、一気に下がって一桁台が多い。特に、来月後半になれば雪が降ってくるかもしれないと予報もちらほら出ている。寒さを凌ぐこたつのある温かい家に篭りたい気持ちが高まってくる頃だ。庭でこっそりに住んでいる虫や、山の中で暮らしている動物達もきっと同じ。これから訪れる寒さから凌ぐため、冬眠の準備をしているのだろう。(私も、そろそろ衣替えして冬用に着る厚い生地の服装を出さないといけないなぁ)そう思っているうちに、ふと気づいた。冬になれば、我が家の場所では雪が降ってしまう。雪の中でのキャンプを一度してみたい気持ちはある。だが今は、そこまで過ごすことができる装備や道具がない。ストーブと焚き火台だけあっても寒さが耐えられるのか?答えは当然「ノー」で、極寒の寒さには厳しいのである。(今日もきっと、寒いだろうなぁ……)だがこの時期こそ、どうしても食べたい物がある。それは……鍋料理である。鍋料理といえば寄せ鍋やキムチ鍋など定番の味。高級なものだと蟹やふぐ、あんこう鍋とか思い浮かぶかもしれない。そうは言っても、本当はそこまで予定していなかった。(食べたいものが急に浮かんできちゃったせいで、チャチャッと用意するのが難しい)その理由は、冷凍のお肉や魚を解凍してないからだ。今から解凍しても
(あ、そろそろ他の方へひっくり返そうかな)さつまいもを入れてから、二十分経った頃だった。焼き芋を均一に焼きたいため、火挟を持って焼いてる方面から転がすように返す。焼けるまでの時間まではまだまだといったところだ。炭が少なくなってきたので、薪や切炭を少し追加する。そうこうしていると、今度は雪絵さんからLIMEのメッセージが届いた。雪絵さん「い、芋……? どういうこと?」どうやら少し困惑気味だったので、ここは説明することにした。すると、すぐに返信が来た。雪絵さん「あぁ、そういうこと! 意味がわかったわ。 何を送ってきたのかと思ったら……今、焼き芋作ってるのね」私「うむ。焚き火台で作っているの」雪絵さん「へぇ~焚き火台で! それは面白そうだね。私も彼とやってみたいなぁ」(な、なぬ? 彼氏……だって⁉︎)雪絵さんがもう彼氏持ちになったということに、私は思わず驚いてしまった。この件は前回も説明したが、改めておさらいを……。同時に彼女から届いた今回の情報を共有しながら確認してみようと思う。(まさか、彼氏の話になるとは思わなかったけど)雪絵さんの彼は、私とも同い年で某アウトドアショップで働いている。彼女曰く、彼は販売リーダーという役職持ちの店員。オススメのキャンプ道具を取材した時が馴れ初めだという。その日をきっかけに数回訪れたり連絡先も交換したらしい。プライベートのことも話している内に意気投合し、ようやく交際に発展したのが昨年からだ。(告白はどっちだったかなぁ……あっ、これだ)探していると、先日送られてきたLI
お昼を過ぎ、もうすぐ午後二時になろうとしている。前回登場した雪絵さんの上司でもある、最上川副編集長から原稿を依頼された。仕事内容は本紹介の雑誌に掲載されるコラムだった。今、その原稿でどんな本を題材にするか考えながら勤しんでいる。(まさか、また副編集長から仕事が来るとは……)今回依頼されたコラムのテーマは「秋の夜長にオススメする本の紹介」である。確かに九月も終わったし、今は十月に入って半分ぐらい経とうとしている。その分、少しずつ日が短くなり夜の時間が長くなっていく。それに加え、だんだんと夜が冷えてくるだろう。日の入りも同じように早くなっていく。まるで、これから冬が訪れようとするときの合図を示している。(まずは、秋を重点に考えてみよう……。確か、なんとかの秋っていう……例えば、芸術の秋とか)今の時期に相応しい秋といったら、私の個人的な意見ではまだまだ食欲の秋。少し冷え込むくらいの気温が、私にとってのベストシーズンでもある。なぜなら私の癒しの一つ、大好きな焚き火ができるからだ。そう思うと小さな子供たちの歌う焚き火の歌が、外から聞こえてくる気がする。下校時にその曲を歌っている小学生の姿が浮かんでくるだろう。(焚き火……焚き火……。うーん、焚き火と言ったら……)——ハッ!私は、あるモノを思いついてしまった。そう、焚き火といえばもちろんアレが真っ先に思い浮かぶ。(アレは昨日買ったばかり。ならば、やるしかないでしょう!)この物語の読者の皆さんはその正体、わかったかな?正解はおやつやおかずにでもなれる、定番の食材「さつまいも」。今日のおやつタイムに食
ある程度ごはんの蒸らし時間も過ぎた。そろそろ開けてもいい頃合いだろうと、メスティンの蓋を開ける。あとは、保冷剤の入った小さめのクーラーボックスから、ラップでアルミ皿ごと包まれている生春巻きを取り出したら、全て出揃った。(よし、これで全部完成して揃った! 冷めない内に頂くとしよう)「いただきます」まずは前菜の生春巻きから頂こう。本来なら、お店や惣菜についているのはスイートチリソースをつけて食べることが多い。けれど、私の場合は違う。少し醤油の味が欲しい理由からポン酢を選んでいる。ポン酢でも種類があって迷うけど、ここは好みだと思う。ちなみに、私は柚子ポン酢をオススメしている。(一本目の真ん中の部分を取ろうかな)割箸で三等分に切った春巻きを掴み、ちょこっとだけきゅうりなどの野菜の方につけて口へ運ぶ。(ん! 野菜のシャキシャキとサッパリとしたポン酢の味に、少し塩気のあるスモークサーモンが良い塩梅だ!)もちろん、ライスペーパーのモチモチ感がある。もう一つと先程取った一本目の右端っこを取り、同じようにして食べる。端っこは、どうしても具材が少ない。その分、ライスペーパーのモチモチ感が一番分かりやすいだろう。さて、いよいよお待ちかねの、メインディッシュであるラムチョップ。ローズマリーの香りとラムのほんのりとした獣の匂いが漂っている。骨を右手に取り、左端も左手で添えて、フライドチキンを食べるような食べ方で一口かぶりついてみる。(おっ! これは、柔らかい……!)オリジナルスパイスがかかっただけでも、すごく美味しい!お好みでソースをつけてもアリだ
さて、話は調理の方に戻そう……。今回はスキレットで焼くため、塩胡椒と乾燥ハーブを塗して置いておく方法で行う。お肉を焼く工程には、しっかり下味をつけることが大事だ。私一人で食べる分量として、二本分だけ用意をする。(まずは白い脂の部分を……)火が回りやすくするために骨のついていない脂部分を、包丁で均等に軽く切り込みを入れる。その後、下味をつけるのだが……羊肉の食歴が初心者レベルの私。そんな人でも使える味付けスパイスを選んだの
「うぅ~……暑い……」そろそろ九月を迎え入れようする、ある残暑の日。午前十一時を回り、もう少しでお昼を迎える。私はいつものように、自宅内の仕事場で校正の作業をしていた。エアコンは効いているものの昼間に近づくにつれ、外からの暑さが更に増していく。(今年の夏も、やっぱり暑すぎる……)真夏も苦手だけど、残暑も同様……いやより苦手である。特に湿度の高い暑さやられが、私にとってジワリと身体から体力のダメ
急いで着替え終わった私は、外の収納庫へ向かった。メッシュタープや焚き火台、黒のアイアンテーブルやチェアを出していく。あとは玄関内の収納室からキャンプギアを必要な分だけ取り出し、外へ運びこむだけ。(料理は、シンブルバーナーの方が早いから出しておこう)今回は焚き火台で調理しないことに決めた。別で用意した調理器具は折り畳み式のガスバーナーにして、お湯を沸かす方法で取り組もうと思う。メッシュタープを立て終えた後は、いつもの配置でテーブルなど順番
——ある記念日の前日。私と恭弥さんは、今スーパーで食材を買いに行っている。なぜなら、夫婦にとって重要なイベントの準備をしている最中だ。それは……次の日に行う私達の結婚記念日。いつもならレストランで予約を取ったりしている。けれど、今年はちょっとした事情があった。 ◇ ◆ ◇ ——遡ることある日、私が晩御飯を食べている時間