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第四話 ブレックファースト・ガーデンキャンプ(その二)

last update Last Updated: 2025-05-26 10:31:59

「あぁ、そうだった!」

「なぁに?」

彼からの抱擁の余韻があるものの、恭弥さんから話を切り出した。

というよりも、きっとある音を聞かれたからかもしれない……。

「空、まだ朝ごはん食べてないだろ?」

(あっ……! バレちゃった……恥ずかしぃ……)

時折、空腹の音が静かに鳴っている。

音を立てないように耐えようとしても、我慢が限界だった。

「うん……。まだ、食べて……ない」

「ハハッ、そっかぁ。俺もなんだが、この様子だと空も外で食べようと?」

「うん。これから食べようと思って、準備に取り掛かろうとしてたら……」

私は、彼に聞かれたことを正直に答える。

なるほどな、と彼も私が外へ出た理由を聞いて納得した。

「じゃあ、一緒に今から庭で朝ごはん食べよう」

「……!」

私は嬉しさから思わず、コクコクと短めに頷く。

「メニューは……どうしようか。冷蔵庫の中、何がある?」

「えーと……確か、卵と厚切りベーコンとか……」

「うんうん。パンはある?」

「パンは……あっ、テーブルロールならある」

ひとまず冷蔵庫の中にある食材を、頭の中でイメージしながら思い出している。

「それなら、今日の朝ごはんは洋食でベーコンと目玉焼きにしようか」

(恭弥さんの作る……朝ごはん!)

私は再び頷きつつ、彼の料理に期待している。

「材料と今日の調理に使う道具はともかく、キッチンでサラダを作ったもので先に用意して持ってきて欲しい」

「わかった」

彼の段取りの内容を聞いてから行動に移そうとする。

けれどキッチンへ戻る手前、彼に確認したいことがあった。

「ねぇ、バターとかジャムはいる?」

「あっ、いるいる! 俺、パンにバターを塗って食べたいし」

「うん。それも一緒に持ってくる」

「おぉ、よろしく。その間にテーブルとか道具を用意しておくな」

「はーい」

私はすぐキッチンへ戻り、準備へと取り掛かることにした。

表面上の顔は彼に見られないよう、高揚するのを抑えている。

本人の前で見られると、なんとなく恥ずかしくなっちゃうから。

けれど心の中の表情は瞳を輝かしつつ、嬉しさのあまりに浮き立って小躍りもしている。

(どうしよ……今日は恭弥さんと庭キャンプ……。よし、張り切って用意するぞ!)

そう思いながらも、彼の顔を浮かんではつい顔が緩んでしまう。

(あぁ、いけないいけない! 気を取り直して……)

首を横に振り、改めてキッチンで下ごしらえから……とサラダを準備する。

まずは、きゅうり一本から斜めに切っていく。

千切りにされているキャベツをそのままサラダ用のボウルに入れる。

既に水洗いしたミニトマトと先程斜めに切ったきゅうりをキャベツに添えるよう盛り付けて完成。

(うん、これで完璧……!)

次はテーブルロールは……どうやってオシャレに出来るかなぁ?と考えている。

(ん! そうだ!)

私は、百均で購入したパン用の白いカゴを思い出す。

それを棚から取り出した。

ホテルやレストランなどのオシャレな飲食店みたいに並べてみることに。

(おぉ~、それらしさは出ている気がする)

あとは、ベーコンと目玉焼きの材料だけだ。

厚切りのベーコンは四枚入りのもの。

卵は、卵専用のプラスチックケースに入れておけば割れずに持っていけるから大丈夫。

(そうだった、忘れないようにバターとジャムも持っていかないと)

私は、再び冷蔵庫の中を覗いてみる。

バターは既に切り分けられているものだから、このまま持っていくとする。

問題はジャムの味を決めることだ。

(今回は何をしようかな……? 今の時期だと、苺のジャムが良さそう)

食材ものはこれで完了。

次は玄関内の収納室から、必要な道具を取り出す作業を行う。

(スキレットで目玉焼きを焼くなら、専用の蓋も用意しておこう)

ベーコンを掴むものは、フライ返しにもなるトングがいいだろう。

目玉焼きの時はお皿へ寄せながら移すときに、フライ返しが必要になるからだ。

それから、朝食に欠かせないであろうコーヒー用の道具一式も揃ってバッチリ。

これで、恭弥さんとコーヒータイムが出来る。

(食器類は揃ったし、こんなとこかな?)

必要な物が全て揃ったところで、外の様子を遠くから眺める。

彼がテーブルや椅子などをキレイに庭へ設置してくれていた。

私もそろそろ少しづつ、家の中で用意した荷物を運び出していこう。

(今日は久しぶりに、彼と一緒に朝ごはんが食べられるから嬉しい!)

やはり今もそんな感じで止まらないまま、ウキウキと私の心の中で踊っている。

「OK! 準備完了ー!」

彼もテーブルなど大きな道具を揃え終わり、調理できる状態にして準備万端だった。

「さてと、ちょっと一服したいからコーヒーでも飲もうか」

そう言って恭弥さんはコーヒー一式を取り出す。

ステンレス製ポットに水を入れ、シングルバーナーでお湯を沸かしてくれた。

いつもなら、一人だからコッヘルで水を沸かしていた。

でも、今日は二人で飲むから量は増える。

その違いだけなのに何故か、ウズウズしてて心の中のワクワクが止まらない。

「ん? どした?」

恭弥さんは、私の方に振り向いた。

「あ、いや……なんでも、ないの」

(はっ、しまった! 私の気持ちが見られるのは……)

普段は無表情な私なのに心の中のデレが、顔に現れてしまいそうになる。

彼と一緒にいるだけで、どうしても落ち着かない。

「……もしかして、二人でご飯を食べるのが久しぶりだから?」

私の頭を撫でながら、恭弥さんは尋ねた。

「……うん」

私は、恥ずかしながら答える。

けれど恭弥さんから見たフィルターでは、私はどうやら猫みたいらしい。

彼に頭を触れられるだけできゅぅっと、心が締まるような緊張が収まらない。

「もう少しで沸くから、そろそろドリッパーで淹れる準備をしてくれる?」

「う、うん」

恭弥さんの指示で、ステンレス製マグカップ二つの上にそれぞれペーパーを敷いたドリッパーを用意する。

その中にコーヒーの粉を入れた。

「よし、お湯が沸いたから淹れるよ」

そう言って、彼はお湯をゆっくり注いでいった。

全て入れ終わった後、二人でひと口飲んでひと息。

「あぁ……二人で飲む朝のコーヒーは良いなぁ……」

恭弥さんは安堵つきつつ、穏やかに呟く。

私も同様に思い、コクリとゆっくり頷いた。

再度、私はフゥーッとひと息入れて飲んでいく。

(彼の淹れるコーヒー……美味しい)

今回のコーヒーは、目覚めの朝に合うスッキリしたものだった。

——爽やかな自然と共に飲む、コーヒーを味わいながらブレックファースト・タイムへ……。

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