LOGINジェイが城の正門を通り抜けた直後、その足がピタリと止まった。彼が軍用のマントを脱ぐ暇すらなく、まるでずっと待ち構えていたかのように三人の人物が立ちはだかっていたのだ。イラルドが一歩前に進み出た。その眼差しはひどく強張っている。「閣下と奥様は、いかがなられましたか?」続いてオデットが、微塵も容赦のない声で言葉を継ぐ。その顎は怒りで硬直していた。「あの売女はどうなったの?」二人の少し後ろに立つサイラーが、不安げな表情でジェイを見つめる。「全部、うまくいったんだよね?」ジェイは少しの間押し黙り、やがて短く息を吐き出した。長旅と、たった一日で消化するにはあまりにも多すぎる出来事の連続で削り取られた残りの体力を、どうにか掻き集めるかのように。やがて彼が口を開く。「全て順調です。閣下も奥様も、ご無事です」顔を上げ、極めて平坦な声のまま言葉を続ける。「そして、皆様が危惧しておられたあの女は……死にました」広々とした廊下を、水を打ったような静寂が包み込む。イラルドが静かに目を閉じ、オデットは無意識のうちに深い安堵の溜息を吐き出した。サイラーに至っては、肩の荷が下りた反動でよろけそうになっている。やっとの思いで聞き届けられた祈りのように、サイラーが微かな声で呟く。「よかった……」ジェイは無表情のまま彼らを観察していた。その安堵が単にディリアンとセレーネの無事に対するものだけではなく、長きにわたる脅威がついに完全に消滅したことに対する安堵であることを、彼は正確に理解している。短い間の後、ジェイが再び口を開いた。「若君とお嬢様がお加減を崩されていると伺いました。お顔を拝見してもよろしいでしょうか?」オデットが肩をすくめる。その声には珍しく躊躇いが滲んでいた。「どうかしらね」ジェイが彼女へと顔を向ける。「なぜ、そのように仰るのですか?」今度はイラルドが、幾分声を潜めて答える。「お嬢様は今、あなたのことをあまり快く思っておられないようなのです」その言葉が宙に浮いた。ジェイは押し黙り、その眼差しが一瞬だけ硬直する――だがそれは怒りではなく、より深く、より静まり返った何らかの感情だった。過剰な感情を交えることなく、彼は断固として告げる。「ご様子を確認したく存じます」イラルドは答えない。
テントを静寂が包み込んでいる。ランタンの炎が揺らめき、重なり合った二人の影がテントの布地に落ちる。言葉はもう必要なかった。ただ互いの吐息が近づき、距離が縮まり、もはや口に出すまでもない決意だけがそこにある。二人の距離が、ひどく近くなる。長く抑え込まれていた焦燥感に包まれ、呪いと距離、そして恐怖によって隔てられていた壁が、一つまた一つと崩れ去っていく。過去の幻影が絡みつくこともなく、二人の吐息の間に悪魔の声が潜むこともない。ただディリアンとセレーネだけがいる。呪いも、障壁も何もない。ディリアンは慎重にセレーネを抱き寄せた。まるでこの全てが現実であり、目の前の女が確かに存在し、温かく、瞬きをした瞬間に消えてしまわないことを確かめるかのように。セレーネは彼に身を預け、ディリアンの前で自身の心の壁を完全に崩れ落ちるがままにさせた。大げさな言葉は紡がれない。その必要はなかった。彼らが言いたかったことは全て、過去に、戦場に、あの静まり返った湖に、そして今や葬り去られた呪いの中に置いてきたのだから。後に残されたのは、ただ互いの存在と、同じ律動を見つけ出した呼吸、そしてもはや恐れる必要のない静寂だけだった。……城の空気は、ひどく重苦しかった。ジェイはベッドの傍らに立ち、蒼白く脆い姿で横たわるヴィヴィエンヌを見下ろしている。その顔は彼の記憶にある最後の姿よりも遥かに痩せこけ、呼吸はほとんど聞き取れないほどに細い。意識を取り戻す気配はなく、ただジェイの胸を息苦しく圧迫する静寂だけがあった。ビョルンが少し離れた場所に立ち、腕を組みながら沈痛な面持ちを浮かべ、やがて重い口を開いた。「彼女は数日前から意識を失ったままです。あなたが戻られる前からずっと」ジェイは鋭く振り返り、冷ややかに問う。「それで、医者は何と言っている?なぜもっときちんと監視していなかった」ビョルンは微かにため息をつき、明らかに感情を押し殺して答え、さらに声を一段落として言葉を継ぐ。「医者は全て順調だと言っています。それほど心配する必要はないと。ですが……医者はこうも言っていました。彼女は流産したのだと」ジェイの視線が即座にビョルンを射抜き、その声は鋭く尖った。「流産だと?何の流産だ?あれが赤子ではないことなど、お前も知っているだろう。なぜ未だに流産
老神官は押し黙った。ディリアンは返答など待たなかった。踵を返し、その場から遠ざかり、テントの中へと姿を消す。未だ完成していない神聖な記号の只中に、老神官を一人残したまま。数秒の後、老神官は深くため息をついた。「全員、よく聞け!」周囲の神官や労働者たちに向かって、彼は声を張り上げた。「私が印をつけた全ての箇所に神聖な記号を刻み込め。一つたりとも見落とすな!」今や防壁の影にすっぽりと覆われつつある湖を見つめる。「この場所は、墓標となるのだ」低く、しかし断固たる声で彼は言葉を継ぐ。「モルウェンナという邪悪な魔女が、永遠にここに封印されたという証にな」一方、テントの中は張り詰めた空気のせいで、実際よりもひどく手狭に感じられた。セレーネは未だその場に立ち尽くし、その鋭い眼差しでディリアンを見据えている。爆発的な怒りはない。あるのはただ、限界まで引き絞られた弦のような、張り詰めた緊張感だけだ。ディリアンは僅かに眉をひそめた。「どうした?何かあったのか?」セレーネは長く息を吐き出し、込み上げてくる激しい言葉をどうにか呑み込もうとするかのように、少しだけ顔を背けた。「神官様には、もっと丁寧な口を利きなさいよ」やがて彼女は言う。「あの方は、これでも聖職者なのよ」ディリアンは小さく鼻を鳴らす。「俺だって、その気になれば聖職者になれる」セレーネが彼を鋭く睨みつけた。「あなた、神聖な祈りの言葉すら唱えられないじゃない」「唱えられる」ディリアンが即座に言い返す。「あの呪いのせいで、口に出せなかっただけだ」「言い訳ね」セレーネが短く切り捨てる。ディリアンは反論しなかった。ただ息を吐き出し、一歩近づいてくる。「セレーネ」先ほどよりも一段低く、ひどく親密な響きでその名を呼ぶ。セレーネが顔を上げる。「何?」ディリアンがさらにもう一歩踏み出した。二人の距離は今や、セレーネが彼の体温を感じ取れるほどに縮まっている。「随分と長い間……していなかったな」ゆっくりと彼は言う。「今日は、いいか?」セレーネの答えは、微塵の躊躇いもなかった。「駄目」ディリアンは押し黙る。相変わらずの平坦な顔つきでセレーネを見つめていたが、今度ばかりは明らかに、その表情に亀裂が走
セレーネは少しの間押し黙り、やがてゆっくりと頷いた。その瞳には未だ心配の色が残っていたが、今やそれは信頼と混ざり合っていた。ついに彼女は言う。「待つわ。あなたがここにいる限り」ディリアンが顔を伏せ、その額をセレーネの左のこめかみに押し当てた。「長くはかからない。これが終われば……家に帰ろう」微風が吹き抜け、水と湿った土の匂いを運んでくる。湖は静まり返り、モルウェンナの骸は身動き一つしない――大自然と、封印と、一滴の血も流さずに殺すという誓約によって、完全に縛り付けられているのだ。その夜、湖の周辺は静寂の中で過ぎていった。不気味な風鳴りもなく、不審な波紋が立つこともない。古い廃墟から湖を囲む丘陵に至るまで、全てがゆっくりと変化し始めていた。それからわずか数日のうちに、かつては開けた荒涼たる場所だったそこに、槌を打つ音、馬車の車輪の音、そして無数の労働者たちの足音が響き渡るようになった。高くそびえ立つ防壁が建設され始め、まるで巨大な顎が獲物を完全に閉じ込めるかのように湖を取り囲んでいく。石が一つ一つ精密に積み上げられ、通常の砦に必要とされる高さを遥かに超えてそびえ立っていた――それは外からの攻撃を防ぐためではなく、内側に封じた何かを、決して外へ逃がさないためのもののようだった。スヴェンが書類を携えて到着した。ジェイは戻らず城に留まっており、スヴェンにディリアンへの伝言を託していた。スヴェンが持参したのは皇帝の印章が押された数枚の文書であり、それはこの領地が今や完全にレヴェンティス公爵の所有物となったことを示す法的な証明だった。議論の余地はない。他者が所有権を主張する隙など、微塵も残されていなかった。湖の周囲に、巨大な要塞が築き上げられていく。それは大軍を駐屯させるための要塞ではなく、特殊な目的のために設計された要塞だった。水面を直接見下ろす監視塔、決して交差することのない巡回経路、そして地中深くに埋め込まれた封印室。その全てが、ただ一つの目的のためだけに存在している。モルウェンナの骸を、絶対にその場から動かさないためだ。ディリアンは、そのあらゆる細部にまで目を光らせていた。彼は何時間も立ち尽くし、建設作業を監視し続けた。まるで、ごく僅かな隙間すらも見逃すまいと恐れるように。自ら建築家たちと直接言葉を
ドクン。セレーネの心臓が、ディリアンにも聞こえているのではないかと確信するほど激しく跳ねた。その言葉はひどく単純で、微かな声で紡がれたものだったが、いかなる絶叫よりも絶対的な力で彼女を打ち据えた。体が瞬時に硬直する。ほんの一瞬、彼女はどうやって息を吸えばいいのかさえ忘れてしまった。彼女はディリアンを見つめた。その顔に勝利の喜びはなく、安堵の色も浮かんでいない。そこにあるのはただ脆い平静だけだ。彼らの目の前に広がるこの湖のように――水面は静まり返っているが、誰も触れたがらないほどの暗い深淵を隠し持っている。ディリアンは静かに漂う骸へと視線を移し、ほとんど聞き取れないほどの声で告げた。「俺の目の前で、お前が死ぬのを見た」セレーネは凍りつく。「お前が身を投げるのを、この目で見たんだ」ディリアンは言葉を継ぐ。「弱いからじゃない。ただ、あまりにも疲れ果てていたからだ」脇で、彼の手がゆっくりと強く握り込まれる。「そして、落ちていくその直前……お前は俺を見た。憎悪と、深い傷に満ちた眼差しで。必ず戻ってくると言った。復讐を誓い、俺がしたことの全てを後悔させてやると、そう呪ったんだ」その言葉は、古い傷口からゆっくりと刃を引き抜くかのように彼女を突き刺した。セレーネの瞳から、音もなく涙が零れ落ちる。ディリアンが振り返り、セレーネのその涙を目にした瞬間、胸の奥がきつく痛んだ。彼はゆっくりと手を伸ばし、一切の躊躇いもなく殺人を犯したばかりの者とは思えないほど、ひどく慎重な手つきでセレーネの頬に触れる。涙を拭うその指先は、小刻みに震えていた。「決して償うことのできない過ちがある」微かな声で、彼は言う。「どれほど後悔しようとも。どれほど犠牲を払おうとも」深い闇と、痛切なまでの真実味を帯びた瞳でセレーネを見据える。「お前が決して許すことのできない過ちがあり、決して消えることのない傷痕がある」セレーネは唇を噛みしめ、激しく肩を震わせる。「だが、聞いてくれ。俺はもう二度と、あんな真似はしない。絶対にだ」ディリアンの声が、硬く張り詰めた。一歩、距離を詰める。「そして、お前を死なせはしない。今も、この先も永遠にな」セレーネの心の壁が、完全に崩れ去った。堰を切ったように涙が溢れ出し、セレーネ
ディリアンが目を覚ましたのは、五日目のことだった。意識はゆっくりと浮上してきた。重く冷たい水の底から引き上げられたかのように、頭の芯が鈍く脈打っている。まぶたが微かに震えて開かれると、柔らかな光が視界に滑り込んだ。薪が燃える匂い、乾いた布、そして薬草の香りが鼻腔をかすめる。最初に視界に飛び込んできたのは、セレーネの姿だった。彼女は急造のベッドの傍らに座っていた。髪は乱れ、その顔には未だ完全に抜けきっていない疲労の色が色濃く残っている。彼女の後ろには、ラミア、アイレ、ルナ、ジェイ、シグたちの姿があった。ほぼ全員が揃っており、今やこのテントはひどく手狭に感じられる。ディリアンは何度か瞬きをし、目の前の現実を把握しようと努めた。「お前たち……」喉が渇ききっており、声は掠れていた。「どうして、全員ここにいる?」セレーネは安堵の溜息を吐き出した――押し殺していた感情が入り混じった溜息だった。「あなたの後を追ってきたのよ」彼女は答える。「心配だったから」ディリアンは少しの間彼女を見つめ、やがて口の端を微かに動かした。「心配だったのか」平坦な声で彼は言う。「それとも、単に嫉妬しただけか?」セレーネの顔が即座に朱に染まる。「黙りなさい」躊躇いなく彼女は怒鳴りつけた。「あなたがモルウェンナと二人きりで勝手に出て行った時、私達がどれほど生きた心地がしなかったか分かっているの?振り返りもせずに行ってしまったじゃない、ディリアン。まるで、二度と戻らないつもりだったみたいに」ディリアンは押し黙った。彼はゆっくりと手を持ち上げる。体は未だ衰弱していたが、その瞳に宿る決意は少しも揺らいではいなかった。セレーネの手を取り、冷たく、しかし力強い指先でそれを握り締める。「あいつを殺すつもりだったからな」低く、しかしはっきりとした声で彼は告げる。「あいつの望みを拒絶したせいで、俺の計画を失敗させるわけにはいかなかった」セレーネは呆然とした。ディリアンは彼女を真っ直ぐに見据え、少しだけうつむく。「心配をかけて、すまなかった」そして彼はテントの中を見回し、安堵、怒り、恐怖、そして敬意の入り混じった眼差しで自身を見つめる全ての顔へと視線を向けた。「お前たちにも、謝罪する」彼は言葉を継ぐ。
外では、馬の蹄の音が次第に遠ざかっていった。一方、部屋の中では、セレーネが背筋を伸ばして立っていた。まるで、自分の心の壁に決意を打ち付けたかのように。今日から、この結婚は、もはや牢獄ではなく、戦場だ。セレーネは冷たいベッドの上に身を投げ出した。唇が震え、声はかすかな囁きになる。「わたくし、何か悪いことをしたのでしょうか」彼女は五年間、公爵レヴェンティスの妻として生きてきた。五年間、完璧な公爵夫人であろうと努力し続けた。怠けたことなど一度もない。学び、管理、準備、すべてを尽くした。夫の食事から領地の仕事まで、すべてを整えた。ただ一つ、認めてもらいた
セレーネの口からその言葉が出た瞬間、ディリアンの表情は一変した。医師や侍女たちの前で、彼の威厳を踏みにじる、屈辱の言葉。部屋は一瞬で静まり返る。医師は包帯を巻く手を止め、侍女たちは息を呑み、時計の秒針さえも緊張に縛られたかのように感じられた。ディリアンは妻を睨みつけた。普段は冷え切ったその顔が、羞恥と怒りで赤く染まっている。「お前、今、何を言った?」一瞬、言葉に詰まり、次の瞬間には嘲りへと変わる。セレーネは背筋を伸ばし、彼を正面から見据えた。声は静かだが、揺るぎはない。「離婚しましょう」その言葉は、平手打ちのように場を打った。その場にいた全員が息
「奥様!」「奥様ぁー!」叫び声が下から響いた。人々の視線が一斉に、城で最も高い塔へと向けられる。そこには、血に染まった白いドレスを身にまとい、一人の女性の姿があった。セレーネ・モロー・レヴェンティス。レヴェンティス公爵夫人。いつもは穏やかで従順な彼女が、今この城で最も危険な場所に立っている。背後では近衛兵たちが息を殺し、一歩の誤りが彼女を本当に飛び降りてしまうことを恐れ、慎重に距離を保っていた。嗚咽が、はっきりと、胸を裂くように夜気を震わせる。セレーネは痛みに顔を歪め、腹部を強く押さえていた。五度目の流産。今回は、彼女は真実を知っていた。それは病
オデットの怒声が、部屋に重く残ったまま、ディリアンは動けずにいた。あの声には逆らえない。幼い頃から、ずっとそうだった。「どうして、こんな馬鹿息子を産んでしまったのかしら!」そう吐き捨てると、オデットは背を向けて去っていった。残されたのは、ディリアンと祖母だけ。祖母は小さく息をつく。「この件に関してはね、わたしも、あなたの母と同じ意見だ」その声は穏やかで、芯が強かった。「あなたは、やってはいけないことをした」「お祖母さん」祖母はディリアンをじっと見つめた。ディリアンは低い声で言った。「人の気持ちは、無理に縛れるものじゃありません」祖母は、ふっと