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第67話

Author: 小林ララ子
その後の三日間は、病院で点滴を受けながら様子を見ていた。

明は日中は会社に行って、夜になると私のところに来てくれた。山周辺の観光スポットやグルメの情報を調べてくれて、「今度こそ、思いっきり楽しませてやるからな」なんて言ってくれた。

退院の日、本来なら迎えに来るはずだったんだけど、オーシャングループの山田社長に急に呼び出されて行くことになったらしい。私は内心でガッツポーズを決めながら、すぐに理奈に迎えを頼んだ。

理奈は会社から直行してきてくれた。完璧なフルメイクに、一見無造作に見せつつも実は一本一本計算されたヘアスタイル。パールのネックレスとイヤリングがクラシカルな黒のワンピースにぴったり合っていた。白いジャケットを腕にかけ、エルメスのバーキンを持った姿は、まさに第一線で戦うキャリアウーマンそのものだった。

実は理奈のあのキリッとした雰囲気、どう見ても投資銀行で働いていそうで、いつもニコニコしながら危機をうまく切り抜けるような広報のイメージとはちょっと違うんだよね。八方美人って感じもしないし。顔立ちはどこか冷たくて誇り高く、所作一つひとつに凛とした気品と艶っぽさがあって。ただ、その艶っぽさは言葉にできない種類のものだった。普通の男なら、簡単には近づけないだろうなと思う。

彼女の言葉の切れ味は他を圧倒していた。辛辣でありながら品位を失わず、それでいて言葉の一撃一撃が、聞く者の思考回路を麻痺させるほど鋭く突き刺さってくる。大学時代、ディベート部では「黒い薔薇」なんてあだ名がつけられていたくらいだ。

でも、理奈が本当にすごいのは、その家柄。

誰もが、彼女のことをせいぜい中流家庭の一人娘だと思っていた。頭の回転が早くて、地方から這い上がってきた努力家。必死に勉強して神浜の大学に入り、地元に残るために一生懸命働いて、十年かけてようやく人気エリアにマンションを買うような子。見た目も悪くないから、そこそこの中流層の男性と結婚できれば、それで十分幸せな人生、そんなふうに思われていた。

でも、実際は全然違った。理奈の父親は神浜でも有名なトップクラスの富豪で、資産は2兆円を超えるっていう。テレビではよくニュースに出てくるし、公式のイベントにはいつも政界の大物たちが付き添っている。

私だって最初は、まさか彼女がそんな人の娘だなんて夢にも思っていなかった。

それがわかった
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